転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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本日一話目です。


第431話 諜報組織の偉い人、マルセル村の理不尽と対話する

「君たちマルセル村の者が出来れば村から出たくない引き籠り集団だという事は、ガーネットたちの報告から聞いているよ。

権力よりも現金、もっと言えば美味しいものが食べたいだっけ?

まさか一年にも及ぶ戦争を極上の甘味とコッコの卵の為に終結させただなんて、何処の誰も思わないだろうね。報告書を読んだ私自身なんども見直したくらいだからね。

だから君たちに王都で王家に仕えろだなんて馬鹿な事は言わないよ、この辺境の地で大人しくしていてください、お願いします。

 

でもね、やっぱり上の者たちは怖いんだよね、君たちの存在もそうだけど、君たちがもし他国に渡ってしまったらとか考えたらね。

仮に帝国の先兵としてアルバート子爵家の騎兵団が攻めて来たら確実に王国は負けるから、これは魔法師団にも確認済み、所属する賢者から大賢者と呼ばれる爺さん迄顔を青くしてたから。

 

だからね、アルバート子爵家騎士団の六名には男爵になって貰います。

名目は大森林の警備、森林警備隊だね。

それと今回の終戦に関わった村人たちは皆騎士扱いとする事、お給料はアルバート子爵家持ちでね。原資は大森林から何か適当に取って来てくれればそれを王家が買い取るって方向で。その為の人員も派遣するから安心して欲しいな、こちらの要求でアルバート子爵家が窮する事にでもなったらあとが怖いからね。

 

それで最後、アルバート子爵家はこの度の諸々の功績を持って伯爵家に陞爵です、おめでとうございます。

流石に伯爵の地位をこの場で渡すことは不可能だから、ドレイク・アルバート子爵には王宮での陞爵式に参加して貰うよ。分からない事は私が教えるから安心してね。

アルバート子爵家騎士団の男爵位叙爵はこの後にでもやろうか?

その為に私がこの地に来たんだしね」

 

そう言い楽しげに笑うベルツシュタイン卿。駄目だ、この人この状況を楽しんでやがる。

俺は最後の頼みの綱であるドレイク・アルバート子爵閣下に目を向け・・・惜しい人を亡くしてしまったようでございます。

 

「ベルツシュタイン伯爵閣下、一つご質問をよろしいでしょうか?」

俺は居住まいを正し目の前の愉快犯に向き直る。

 

「あぁ、別に構わないよ。それにそこまで畏まらなくとも構わないよ、何しろオーランド王国は君に敗北しているんだからね」

そう言いにこやかな笑みを向けるベルツシュタイン卿。これもこのお方の計算の内なのだろうと考えると、とてもではないが敵う気がしない。

 

「先程のお話に暗黒大陸の魔国の話が出て来なかった事が気になりまして。あれはちょうど一年ほど前くらいでしょうか、ここマルセル村の春祭り会場を訪れた魔王四天王を名乗る人物、そしてその人物との会談を行った私達。

耳目であるガーネットさんはその時の状況やその会談で何が話されたのかを克明に記録、王都の諜報組織“影”へと送っていたはず。であるのならそれに関して私が何を行ったのか、私がどういった存在であるのかといった情報も上がっていたと思うのですが?」

 

俺が思った疑問、それは王城での不戦条約締結の場に現れた闖入者に対する周囲の反応。

集められた貴族諸侯が恐れから身動きできないのは分かる、そうなるようにある程度の実力は見せたし威圧も行った。

修羅の方々が襲って来たことはお約束だろう。今回暴れる機会が無かったため、ストレスが溜まっていたのだろう。仕方が無いので少し長めに付き合う羽目にもなったし。

マケドニアル様や三英雄の反応は、当然の困惑。まぁ彼らにはあの姿が俺だとは知らせてないし?雰囲気変えてるしね。

でもなぜ国王が驚く?ランドール侯爵領戦役の話は聞いていただろうし、魔王軍四天王の話を聞いていればその会談の際に俺があの姿を取った事は分かってるはず。であればその線を結ぶことなど容易であっただろうに。

 

「あぁ、あの話ね。あれは私の所で止めたからヘルザー宰相も王家の者も知らないよ。

流石にあの当時暗黒大陸に魔国というモノがあるという話や、その魔国の王が魔王を名乗り魔王軍四天王なる者たちを従えてるなんて話を国王陛下の耳に入れる訳にはいかなかったからね。

 

ほら、君も覚えているだろう?ロベルト・エラブリタイン伯爵。

彼がマルセル村を訪れて多頭ヒドラと地這い龍を手に入れようとした動きの影に、やはり国王も一枚かんでいてね。

いや~、あれは痛快だったね、まさかあの傲慢が服を着ているような人物が清廉潔白な模範貴族みたいに生まれ変わるとは誰も予測出来なかったからね。

あっ、帰りに聖茶分けてくれる?最近色々あってあのお茶が手放せなくなってしまってね。でもお陰で胃痛が軽減されたよ、聖茶様々だね。

 

おっと失礼、話が逸れたね。

まぁそう言う状況でしかも国内がきな臭くなっていた、帝国も活発に動き始めている。ここに魔国と君の情報なんか上げてごらん、これ幸いと国王が馬鹿な命令を出す事は火を見るより明らかだったからね。

国内情勢の安定化の為に参戦せよなんてのは可愛い方で、魔王との繋がりのある貴族でないのなら働きを以て証明せよとか言って手駒にしようとしたり、グロリア辺境伯家をアルバート子爵家に(けしか)けたり?

魔王というのはそれだけ影響力のある言葉だからね、使い様は様々。難癖と言われればそれまでだろうけど、難癖で物事を推し進めるのは貴族社会の日常だからね。

 

結果その判断は正しかったと思ってるよ、あの時点で例の謁見の間に現れた者の正体を晒す事は、王都全てを南街門前の惨状に変えるのと同意義だった訳だしね。

 

ただ疑問があったんだけど、どうして君はあの時点で自身の正体を晒すような真似をしたのかな?

君の行動については色々調べたが、常に人の影に隠れ物事を進めようとしていたはずだ。

ただどうしても上手く行かずその存在が大きくなってしまっていた様ではあるけどね」

 

ベルツシュタイン卿の話に苦笑いを浮かべる俺氏。客観的に見てダメダメだったって訳ですね。

そっか~、調子に乗ってるつもりはなかったんだけどな~。

「無自覚系俺なにかやっちゃいました?」とはちょっと違った「追い込まれて抗ってたら結構やらかしてました」って奴ですね。そんでもって偉い人たちから“あいつ使えるから困ったときには話でも聞くか”って便利使いされた結果が“オーランド王国の敵”と、もうね、どんだけ?これって引き籠るしかないって感じ?

 

「あぁ、アレですか。あの時の私は複数の意味合いから力ある存在であることを示す必要がありましたんで。

ガーネットさんからの報告書を読んでいるのでしたら、当時の周辺国の状況とその時の私の考察はご存じだと思います。

当時のここアルバート子爵領の最大の懸念事項、それはバルカン帝国のヨークシャー森林国への侵攻でした。

グロリア辺境伯領は自治領になったばかりで未だ脆弱、隣国ヨークシャー森林国との関係強化は急務であった。

そんな中隣国が戦火に見舞われたら?グロリア辺境伯領の経済が大打撃を受ける事は明白、この辺境もただでは済まない。

この地の安寧の為にヨークシャー森林国が安定した国家であることは必要条件と言えるんです。

 

冷静に考えて甘木汁大樽六杯と苗木十株の報酬で一国家を救う人間がいると思いますか?その為の手段に用いたキラービー蜂蜜を使った治療薬の値段の方がどう考えても報酬より上なんですよ?

更に言えば大儀式魔法を用いての国全体の大浄化。

ほかに手段が無かったとはいえやり過ぎであるとしか言いようがない。

でもあの方法が誰にとっても一番平和だったんですよね。

 

でもそれだけじゃヨークシャー森林国は救えない。

バルカン帝国の軍事力は本当に強力であった。

そこに活きてくるのが魔王軍四天王“絶剣のゼノビア”に対して行った情報提供。相手は暗黒大陸の魔王軍です、こんな場所にその最高幹部である四天王が現れる時点で軍事的緊張はかなり高まっているだろうことが予想できる。

であるのなら、バルカン帝国の軍事力を労を掛ける事なく削る機会が転がっていると知らされたのなら。

ゼノビアさんが実直でありながらも物事に囚われることなく柔軟に対応する思考の持ち主という事は、剣の手合わせから分かっていましたので。

ただの子供の戯言ではなく姿を偽った実力者からの情報提供であれば、話の信憑性も増すし、裏取りもしようとなる。

結果ヨークシャー森林国は救われた。

暗黒大陸の魔物による大規模スタンピード、あれは見事でしたよ。おそらくですが帝国はあの騒動に暗黒大陸の勢力が関わっていただなんて思いもしなかったのではないですか?

オーランド王国王家ですらも。

 

それに王家に対してもある程度の圧力を掛ける必要があった。国際情勢の変化、今は辺境に構っている場合ではない、国家存亡の危機は目の前に迫っていたのだから。

その為に魔国の使者に話をするという体裁であれほど詳しくオーランド王国の置かれていた状況の危うさを説明したのですから。

警戒していたであろう力ある存在からの発言であれば王家も無視する訳にはいかないと期待しての行動でした。

 

全ては布石、必要な事であった。

一見関係のないような布石で最終的に誰にも気が付かれる事なく自身の目的を達成する、これはドレイク・アルバート子爵閣下の教えです。もっとも私はその足元にも及ばない、順調に足元を固めているつもりで今の様な事態に陥っているんですから。

俺はこのマルセル村でのんびり暮らしたいだけだったんですけどね」

 

ケビンはそう自嘲し乾いた笑みを浮かべた。だがその話を聞いていたハインリッヒ・ベルツシュタイン卿は自身の背中に流れる冷や汗が止まらない。

自身は先程目の前の青年ケビン・ドラゴンロードをどう評していたのか、“自分たちと同じ舞台で戦う事の出来る知恵者”などと言ってはいなかったか?

グロリア辺境伯家に提案し行われたランドール侯爵家との戦いにおけるアルバート男爵家の誕生とアルバート男爵家騎兵団の活躍、ヨークシャー森林国における疫病対策、ダイソン公国との不戦条約締結と三勢力同盟による中央貴族への抑止。

それら全てを画策し主導した人物。

王家が警戒し、要注意人物とすべき者。

 

そんな生易しい存在ではなかった。

状況を利用し数々の布石を打ち、最良の結果を引き寄せる。ヨークシャー森林国に侵攻した数万というバルカン帝国軍を全滅に追いやる為の布石。

目の前の青年は正しく謁見の間に現れたナニカであることを分からせられる。

この者にとって優先すべきはマルセル村でありそれ以外は些事、邪魔と判断されれば躊躇なく排除されてしまう、その程度のものであると。

 

「フゥ~、ベルツシュタイン伯爵閣下、私の様な者の質問にお答えいただきありがとうございました。自身がいかに未熟であったのかがよく分かりました。

 

月影、アルバート子爵閣下に“マシマシ聖茶”と“天使の微笑み”を。

十六夜、満月はこの場にいない者と協力してこの事を村中に連絡、健康広場に叙爵式の準備を。

<業務連絡:残月>

“残月、こちらの話の内容は俺の思考から読み取ってくれ。アルバート子爵家の陞爵とアルバート子爵家騎士団の叙爵式の件をミランダ奥様とデイマリア奥様に連絡、お二人と協力して叙爵式の準備を行ってくれ”

失礼、少々騒がしくした事をお詫びいたします」

 

俺の言葉にサッと行動を開始する月影たち使用人。

俺はお客人を前に失礼な態度を取った事を詫びる。

だがベルツシュタイン卿はそんな俺の言葉を気にする事も出来ず、「えっ、この使用人たちってどこから現れたの?まさかずっとこの部屋で控えてたの?お前たち耳目が警戒してたのってこの事だったの!?」と、只管目を白黒させるのでした。

 

―――――――――

 

「この場に集まってくれたマルセル村の皆さん、今は春の作付け準備という忙しい時期にも関わらず突然の招集、本当に申し訳ない。そしてありがとう。

皆さんも既に聞き及んでいる事とは思いますが、本日王都よりハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵閣下がお見えになり、王家より嬉しい知らせを届けてくださった。

それが私ドレイク・アルバート子爵の陞爵とアルバート子爵家騎士団の者たちの叙爵のお話です。

アルバート子爵家は王家より伯爵位を賜り、アルバート子爵家騎士団の皆さんは男爵となる事が決定しています。

また、先の祭りに参加された皆様はアルバート伯爵家の騎士として扱われる事となりますのでご了承ください」

 

アルバート子爵家仮本邸前健康広場、そこに急遽設えられた舞台上で村人に向け演説を行う領主ドレイク・アルバート子爵。

そのどこか達観した様な悟りを開いたような薄い笑顔は、決して言葉の通り喜びに溢れているもののように見ることは出来なかった。

村人たちは思った、“ドレイク村長、強く生きて”と。

 

そして村人たちが見守る中粛々と行われる男爵位叙爵式。

男爵と言う栄誉を賜ったアルバート子爵家騎士団の者たちは皆一様に嫌そうな表情を浮かべていた。

 

「のうケビンよ、これ断っちゃ駄目かの?儂は貴族などという面倒なものになりたくないんじゃが」

「諦めてください、俺だって嫌なんですから。

これって別に褒賞でも何でもないんで、ただ王家が首輪を付けたいってだけですから。

村で大人しくしてる分には問題ないですし、何かいちゃもんを付けてきたら爵位返上すればいいだけなんで。

返上相手は一応アルバート伯爵家なんで手続きは簡単ですから。

この後みんなして「絶対やめてね、それやられたら私の立場がなくなっちゃうから。うちには二人の妻と三人の子供、新たにもう二人生まれるの、お父さん頑張らないといけないの。

あとアルバート伯爵家にはお金が無いんで大森林で何か取って来てください。王家が買い取ってくれる事になりましたんで、売り上げの三割が税としてアルバート伯爵家に入りますんで」・・・」

 

げに強きは家族のために働くお父さん、家の為領民の為覚悟を持って頭を下げるアルバート子爵閣下の姿に、在りし日のサラリーマンたちの姿を重ね目頭の熱くなるケビンなのでありました。

 

因みにこの場にザルバさんはいません。ケイトを学園に送りに行ってます。何でも娘が嫁に行く前に最後の親子旅がしたかったとかなんとか。そんで帰村したら再び男爵って言うね(ザルバさんへの叙爵はアルバート子爵様が行います)、ザルバさんの人生もジェットコースターだな、おい。

 




本日一話目です。
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