転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第432話 辺境子爵、王都へ向かう

朝靄漂う村の健康広場、今朝も元気に朝の体操を行い普段であればそのまま解散となるところであった。

 

“ガチャガチャガチャ”

引き馬に引かれた二台の馬車が、アルバート子爵家仮本邸前に停車する。

 

「旦那様、このような晴れの日にご一緒出来ない事、誠に申し訳なく」

当主ドレイク・アルバート子爵の陞爵、それは貴族として大変名誉であり喜ばしい事。本来であれば第一夫人である自身が付き従い新たな伯爵家夫人として社交界にも顔を出さなければならない。

 

「ハハハ、気にしなくてもいいよ、今は一番大事な時期なんだ。

ミランダとデイマリアは無事な出産を迎える事だけを考えてくれればそれで十分。私にそれ以外の望みはないから。

だから二人してそんな申し訳ないと言った顔はしないで欲しいな。

それと社交界は気にしなくていいからね?こんな辺境の貧乏伯爵家が中央の貴族社会を気にしても無意味だから。

精々が北西部貴族連合や南西部貴族連合との付き合いくらいだから、中央の事はそちらの方々がどうにかしてくれるからいいんじゃないかな?

私たちはのんびり暮らせればそれでいい、そうだろう?」

 

そう言い優しく微笑むドレイク閣下に思わず抱き着くミランダ夫人とデイマリア夫人。そんなアルバート子爵家の方々の様子を眺めながら“流石一代で伯爵家にまで上り詰めた男、女性の扱いも完璧ですな”と感心の頷きを見せる俺氏。

 

おはようございます。辺境の男爵、ケビン・ドラゴンロードです。

(わたくし)、旅立ちの儀を前に家として独立を果たしてしまいました。そんでもって今度紋章を作らないといけなくなりまして。

父ヘンリーはシンプルに双剣の大剣を重ねたデザインにしたみたいなんですけど、うちはですね~。

はじめ緑と黄色と大福と団子で考えてたんですけど、そうしたら紬と白玉がですね~。団子を入れるくらいなら自分たちも混ぜてくれって声が方々からですね。

哀れ団子先生、同僚からは同期に見られているようでございます。

結局左右を向く二匹の地這い龍と真ん中にでんと大福スライムを添える形といたしました。

まぁ我がケビン建設の最強ですからね、ここは譲れません。

最強生物はいいのか?あの御方はお客様でございます。従業員だなどと畏れ多い。

 

それで今朝はご当主様旅立ちの御見送り、と行きたかったんですけどね、諸事情により私も王都に行く羽目に。

理由その一、鬼神ヘンリーと剣鬼ボビーは怖過ぎる。

王都で与えまくった恐怖の記憶、王宮騎士団の皆様方、未だ後遺症に苦しんでおられるとか。鬼神ヘンリーと剣鬼ボビーの話が出ると痙攣を起こす者も出るらしいです。

それとザルバさんですね、何故か王宮第二騎士団の上層部は執事ザルバの話を聞くとガタガタ震えて「復讐者が来る」と呟くんだそうです。いったい彼らに何があったんでしょうか?

 

理由その二、今は春の作付け準備やらホーンラビット牧場の世話が忙しい。

畑の整備は言うまでもなく、冬眠明けの兎さん方の角落しがですね。ラビット牧場の責任者であるグルゴさんが抜ける訳にはいかないんですよね。

消去法で(わたくし)ケビンとギースさんが護衛任務に就くはめにですね。

ギースさんの畑はトーマスさんとジェイク君が面倒を見てくれるそうです。

 

と言うかジェイク君、大きくない?この冬でまた一段と立派になってない?どう見ても旅立ちの儀を前にした青年なんですけど。

エミリーちゃんも少女と言うより淑女って感じだし、二人ともこれから授けの儀だよね?学園とか行った時大丈夫なの?

パトリシアお嬢様、どうなさいました?ジェイク君やエミリーちゃんみたいな学園生は沢山いる?幼い雰囲気の様な子の方が少ないって本当ですか!?

流石は高位貴族のご子息ご息女様の通われる王都中央学園出身者、見て来たものが違う。

グルセリアの領都学園は子供子供した連中のほうが多かったんだけどな~。

エミリーちゃんはこの度強制的に王都中央学園に通われる事が決定しちゃいましたしね、そうなるとジェイク君もそちらに通わざるを得ないでしょう。(エミリーちゃんのお願い:物理)

あれだけ修行したら剣士系スキルの未収得スキルは貯まりまくってるだろうし、四属性の魔法適性があるから賢者も行ける?

どちらにしろ有用職業は確定だろうし問題ないですね。

 

「ケビン君、そろそろ出発するよ」

アルバート子爵閣下、ご挨拶がお済になられた様です。

それじゃ行きま“ギュッ”

 

「・・・えっとアナさん、その掴んでいる腕を放してくださるとうれしいんですけど?」

「・・・・・」

 

「・・・アナスタシア、行って来る。無事に帰って来るから帰りを待っていて欲しい。メアリー母さんとミッシェルちゃんの事、頼んだよ」

「はい、あなた。行ってらっしゃいませ」

 

そう言い花のような笑顔を浮かべ離れていくアナさん。

うん、挨拶は大事ですね。ケビン、学習しました。

 

「「「「・・・・」」」」

「・・・メアリーお母様、お土産は甘味でよろしいでしょうか?

ミッシェルちゃんは新たなぬいぐるみですね。

そんで十六夜、なんでお前がしれっと参加する、さっさと仕事に戻らんか!新しい恋愛小説が欲しいですって言いながら目をウルウルさせるんじゃない!!

あっ、パトリシアお嬢様、行って参ります。後の事はよろしくお願いいたします」

 

「「「ケビン、いってらっしゃい」」」

(ご主人様のけちんぼ)

 

「十六夜、聞こえてるからな~!!」

 

馬車は走り出す、カタカタ音を立てて。

春の訪れを待つ枯草の草原の街道を、一路王都を目指して。

 

――――――――

「へ~、あのドレイク村長が伯爵閣下におなりあそばすって、何か雲上の話過ぎていまいち現実味が湧かないものですな」

「そうですよね~、でも爵位を頂くだけで他は何も変わらないんですよね。

あ、一つだけ。王都から買い取りの人が来るかもしれません。

大森林の素材を王家が買い取ってくれることになったんで。

どうせ金額の事で難癖付けて来るんでしょうけどね、その時は他所に売ればいい訳ですけどまた一騒動あるんだろうな~、嫌だ嫌だ」

 

俺はそう言い出された偽癒し草の煮出し茶で口を潤す。

 

「でもいいのかい?馬車は随分前にここゴルド村を通過してしまったんだが。ケビン君が訪ねて来た時は驚いたがね」

そう言い心配そうに窓の外を眺めるホルン村長。その先には綺麗に整備された街道と、すっかり建物が増えた街並みが広がっています。

 

「あぁ、今日はエルセルの監督官屋敷に向かう予定なので特に問題ないです。俺、こう見えても早馬より速く走れますんで。

それと、ドレイク村長が挨拶に寄れず申し訳なかったと言っていました。

王都から戻って来て落ち着いたら連絡を入れるとの事でした」

「ハハハハ、あの方は本当に変わらないな。普通子爵様が一介の村長の事など気にせんだろうに。

しかも今度は伯爵様におなりになられる、少しは威厳と言う物をだな」

 

何か苦笑いを浮かべながら心配事を口にするホルン村長、この方は本当に心が広い。嫉妬とか色眼鏡といったもので人を見ようとしない、真に優れた為政者という物なんだろう。

 

「それではまた寄らせてもらいますんで、皆様によろしくお伝えください」

「あぁ、気を付けて向かってくれ、王都は遠いからな。ドレイクアルバート伯爵様によろしく伝えて欲しい」

俺はホルン村長に別れを告げ、エルセルに向かい走り出す。ホルン村長の“速いな~”と言う声を背中に受けながら。

 

「ごめん、私はアルバート子爵家騎士ケビン・ドラゴンロード、アルバート子爵閣下の先触れとして参った。ストール・ポイゾン監督官様にアルバート子爵閣下、ベルツシュタイン伯爵閣下が訪ねて来る旨をお伝え願いたい」

エルセルの街監督官屋敷前、先触れとして子爵閣下伯爵閣下の訪れを知らせた俺の言葉に、屋敷門を守る兵士が慌てて動き出す。

 

「失礼、私は監督官屋敷の執事をしておりますバトラーと申します。アルバート子爵閣下の先触れ、お疲れ様でございます。

それで子爵様方は何時くらいにご到着の予定なのでしょうか?」

「ん?もうそろそろだな。あぁ、あそこの馬車がそうだ」

 

俺が指差す側からこちらに向かい走って来る二台の馬車。

御者台ではオーベルシュタインさんが驚きに目を見開き、ギースさんが何か言いたげな表情でジト目を向けています。

 

「ベルツシュタイン伯爵閣下、アルバート子爵閣下、ようこそエルセル監督官屋敷にお出で下さいました。

主人ストール・ポイゾン監督官も皆様のお越しを心より歓迎しております。どうぞごゆるりと御逗留ください」

そう言い慇懃に礼をして両者の訪れを迎え入れる執事バトラー。

 

「ケビン、いつの間にこっちに来てたんだ。ゴルド村で突然「ホルン村長に挨拶してきます、先に行っててください」とか言って飛び降りやがって。

こっちは一人寂しく御者をしてたんだぞ、めっちゃ暇だったんだからな」

「いや~申し訳ない。やっぱり王都に陞爵式を受けに向かうって言うのに挨拶無しってのもよろしくないじゃないですか、ゴルド村は一番のご近所さんな訳ですし。

ホルン村長、凄い驚かれてましたよ。後はエルセルの教会にも顔出ししておきたかったので先行させてもらったって感じですかね。俺、空中を走れますんで、早馬より速いっすよ?」

 

俺の言葉に「やっぱりケビンはケビンだよ」と文句を言うギースさん。ちゃんと先触れの仕事はやっておいたよ?馬車がエルセルの街に到着する前にシルバーから業務連絡貰ってるし。

 

「ケビン君、行きの行程ではあまりケビン君しない様に。

ケビン君のケビン君は不慣れな者には刺激が強過ぎるからね。

取り敢えず先触れお疲れ様、それとホルン村長の件助かったよ、帰って来てゆっくり時間が取れたらご挨拶に伺わないといけないね」

馬車から降り声を掛けてきたアルバート子爵。何か十歳くらい老けたようなお顔をなさっておられます。

まぁ仕方が無いですよね。

おれたちは赤みが増して来た空を見詰めてから監督官屋敷へと入って行くのでした。

 

 

「ドレイク子爵殿、この度は陞爵おめでとう。

こら、そんなに嫌そうな顔をするな。本来貴族にとって陞爵は誉以外の何物でもないんだぞ?これも周囲の者からの横槍をなるべく回避させようとする国王陛下のお心遣いに他ならないのだ、素直に喜んでおくのだな。

アルバート子爵家騎士団の活躍は既に国中に知れ渡っておる。王都の劇場では三英雄の物語が連日大盛況であるとの話が、私の耳にまで届いているくらいであるしな。

これは前回のランドール侯爵家とのいざこざとは比べようのない大事であるぞ?あの時ですら冒険者が押し掛けて大変であったというのに、何もしなかったらアルバート子爵家騎士団の者を引き抜こうとする者や縁談を直訴する貴族子弟の者が押し寄せて大変な騒ぎになっておるところだろうよ。

 

いや、既になっておるやもしれんな。

ドレイク殿、確か王都にアルバート子爵家の屋敷があると言ってなかったか?ミランダ夫人のご両親が暮らされているとかなんとか。

おそらくだが勝手に縁談話を決めておるやもしれんぞ。まぁいくら祖父母とはいえ当主であるお主の了解なしにそうした話を決めるのは越権行為、なんの効力もないのだがな。

お主も苦労するな~」

 

ストール監督官様の口撃、アルバート子爵閣下に重大なダメージ。アルバート子爵閣下は突っ伏した。

やはり百戦錬磨のストール・ポイゾン監督官様、我々よりも何枚も上手だったようでございます。

哀れアルバート子爵閣下、強く生きて。




本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora
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