「まぁ、うん。急に功績を積んだ家ではよく聞く話ではあるが、貴族として情けない話ではあるな。
人の振り見てではないが、自身の戒めにしたい様な行為と言ったところか」
“コトッ”
テーブルに差し出されたティーカップから漂うカモネールの香り。
グロリア辺境伯家のメイド様方は大変気が利くというか、そのお心遣い、痛み入ります。
王都アルバート子爵家屋敷におられるミランダ夫人のご両親、ハッチャケておられました。
各家からのパーティーのお誘いにお出掛けする事は勿論、その会場で向けられるアルバート子爵家の孫たちの縁談話にまるで自分たちに決定権がある様なお返事をですね。
何でパトリシアお嬢様の縁談話に口を挟めると思っちゃったかな~、グロリア辺境伯家を敵に回したいのかな?
大体エミリーちゃんの実のお父さんを亡き者にしちゃったのってお二人ですよね?それがどうして愛されてる祖父母って事になるのかな?
ミランダ夫人、未だに恨みは忘れてませんからね?
「失礼します。アルバート子爵閣下、発言を宜しいでしょうか?」
「ん、あぁ、騎士ケビンか。発言を許す」
「ハッ、ありがとうございます。
タスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下、お久し振りでございます。
アルバート子爵家旗下騎士ケビン・ドラゴンロードと申します。
まずはこの度アルバート子爵閣下より男爵位を給わりましたことをご報告させて頂きます」
俺の言葉に一瞬顔を引き攣らせるタスマニア辺境伯閣下。まぁあの件はね~、結構な失態話になったって聞いてますからね~。
デイマリア夫人からも確りやり込められたとか、自業自得ですな。
「うむ、久方ぶりであるな。今の口上を聞くに、やはり貴殿は一角の者であったという事なのであろう。本当に惜しい人材であった事よ。
して、貴殿の事であるから何か策があるという事なのかな?」
「いえ、策と言う程のものでもないのですが一つお聞きしたい事が。
婿入りし貴族家当主となったものが功績を上げ陞爵した場合、受け継いだ貴族籍を前当主にお返しし自身の家を建てる事が可能であるのかどうか、王国法上その辺がどうなっているのかが知りたかったものですから。
ドレイク・アルバート子爵閣下はブラウン男爵家の出身ではありますが貴族籍を継ぐ事は出来ませんでした。この場合扱いは元貴族、平民と同等となります。
ミランダ夫人と結婚された状態でもこれは変わらなかった、ブラウン家は辺境マルセル村の村長代理の家柄であった。
ですがそこで起きたのが先のランドール侯爵領戦役です。グロリア辺境伯家としては王家の手前大規模な遠征は行えない、だが少数でも圧倒的な戦力を加えれば?
しかしそれでは戦力の拡大として王家に警戒される、ならば寄り子の貴族家が保有する戦力であれば?
様々な条件の中苦肉の策として生まれたのがアルバート男爵家でありアルバート男爵領でした。
全ては辺境マルセル村に隠遁する“下町の剣聖ボビー”と“笑うオーガヘンリー”を対外的に問題の無い形で戦地に送り出す為の策であった。
その功績が認められドレイク・アルバート男爵閣下は子爵位を給わる事となった。
これがここ迄の経緯です」
俺はその場の者たちに目を向ける。流石各組織のトップたち、話について来れていないといった者はいない様です。
「現在の状態でアルバート子爵閣下が王都に向かったとします。当然アルバート子爵家王都屋敷には立ち寄らねばなりません、そこには前当主が今か今かと待ち構えています。
“貴族家にとっては爵位が全て、自分たちは平民に落ちた者を貴族にしてやったのだから入り婿が自分たちに従うのは当然だ”
彼らの主張はこうしたものでしょう。
ですがその様な戯言をアルバート子爵家騎士団の者が、マルセル村の者が聞くとでも?
マルセル村の者たちは貴族の柵や王都の軋轢から命からがら逃げ延びた者が大半です。彼らにとって貴族の価値観など塵ほどの価値もない。
そんな者たちに貴族の考えを押し付けようとしたとき何が起こるのか。
まぁ何も起こらないんですが。正確には何も起こさせない、はじめから何もなかった事にされてしまう。
マルセル村にやって来た多くの盗賊たちがそうであったように、マルセル村のテイム魔物を寄越すように要求した王都貴族の使者のように。
私達はそれでも構わないのですが、少々面倒かなと。
ですのではじめからアルバート子爵家と別の家になってしまえば何の問題も無いのかと愚考した次第でございます。
そうなればグロリア辺境伯家としても王都アルバート子爵家と関わる必要もなくなる。互いの関係性が明確になってよいのではないかと思うのですが」
俺の言葉に大きく息を吐く一同。
・・・あれ?俺ってそこまでおかしなことを言ってないよね?
このままでは騒動になりそうだからその元を断ちませんかってだけの話だよね?
「あぁ、うん。ケビン君はやっぱりケビン君だよね。
何処を如何したらそういう発想が出来るのかな?それって馬車の中で話していた“アルバート子爵家当主の座を返上して全ての責任を押し付けよう、ついでにアルバート子爵家の借財も引き受けてもらってしまおう”って話の発展形だよね」
「はぁ!?君たちはそんな話をしてたのかい?
やめてね、本当に止めてね。伯爵位への陞爵式にその先代当主とやらが現れたら国王陛下固まっちゃうからね?
その場でその先代当主が調子に乗って「アルバート伯爵家騎士団に全てお任せを」とか言った日には大変よ?
“王都最後の日、再び”なんて嫌だからね」
驚いたように口を挟むベルツシュタイン伯爵閣下。
うん、その予想は正しい。鬼神ヘンリーと剣鬼ボビー辺りは「「アルバート伯爵閣下の御命令でございます」」とか言いながら王都を壊滅しかねないもんな~。
謁見の間に先代のアルバート子爵家当主を転がして、そこに「文句があるなら伯爵閣下にどうぞ」とか張り紙をしたり?
「ハハハハ、これがアルバート子爵家か。父マケドニアルが言っていたよ、「マルセル村とはある程度の距離を保ち良き隣人たれ」とね。
この様な者たちに首輪を掛けねばならんとは、国の面子の為とはいえ王家も大変だな。
先程の話であるが、可能かどうかという事であれば可能である。
我がグロリア辺境伯家はランドール侯爵家との諍いを最小限の犠牲で納めたドレイク・アルバートという人物に子爵位を与えたのであって、アルバート子爵家の先代とは無関係であるからな。
マルセル村を領地として与えた経緯も聞いている、その事に関して異論はない。
アルバート家には当主の座と男爵位を返上すれば問題ないであろう。
王都屋敷に関してグロリア辺境伯から送っている使用人は引き上げさせていただこう。
どうもかなり横暴な振る舞いを行っている様であるのでな」
そう言い肩を竦めるタスマニア辺境伯閣下。それに対し本当に申し訳ないといった態度のアルバート子爵閣下。
「ふむ、王家としても問題はないかな。むしろ変にゴタゴタされるよりよほどいいしね。
それと王都屋敷とかってどうしようかね。伯爵家ともなると何もなしって訳にも行かないんじゃないかな?」
「いえ、流石にそれは。それに変に王都に屋敷があれば今回のような事態になりかねません。
王国法によれば貴族は王都に居を構えなければならないといった事ではなかった筈。ただ慣例に従い屋敷を持つといった事はしますが、我が家は小さいので管理し切れるはずもありません。
国王陛下のお望み通り辺境に引き籠らせて頂きたく存じます」
アルバート子爵閣下の言葉に「そうだよね~、中央は面倒だから」と苦笑いで返すベルツシュタイン伯爵閣下。
「それじゃそんな形で話を進めちゃおうか。アルバート子爵には新しい家名と紋章を考えて貰わないといけないんだけど、どうする?」
「でしたら家名は“ホーンラビット”で。ドレイク・ホーンラビット、私にぴったりの家名かと。我がホーンラビット家特産品、角無しホーンラビットのよい宣伝にもなりますから」
ブホッ、マジか。ドレイク・ホーンラビット、目茶苦茶格好いいじゃないですか。
だったらうちはケビン・キャタピラー?う~ん、なんか語感が悪い。
もう少し考えよう。
アルバート子爵閣下の開き直ったかのような発言にどっと盛り上がる来賓の間。ドレイク・アルバート改め、ドレイク・ホーンラビット子爵閣下の決断はグロリア辺境伯家の優秀な文官たちにより各書類に纏められ、ベルツシュタイン伯爵閣下の手により王城に提出される事となりました。
「その日の内に認可書類を届けるから」とはベルツシュタイン伯爵閣下のお言葉。私達ホーンラビット子爵家一行はグロリア辺境伯家の王都屋敷にお世話になり、王城からの連絡を受ける事となりました。
これにて王都での問題その一はひとまず終了、ドレイク・ホーンラビット子爵閣下が暴走して俺に全てを押し付ける前に解決策が見つかって良かった良かった。
俺は問題の解決に尽力して下さったタスマニア辺境伯閣下とベルツシュタイン伯爵閣下、それにホーンラビット子爵閣下の栄誉を称え、壺に入った光属性魔力水と小壺に入ったジャイアントフォレストビー蜂蜜をお出しし、「お酒の割り材としてお使いください」と差し出すのでした。
――――――――
「「「う~ん、頭が~」」」
どうやら御三方、昨夜はガッツリ深酒をなさった様でございます。
何をやってるんですか何を、これから王都に向け移動するんですよ?
「すまないねケビン君、ちょっと飲み過ぎたみたいでね。
色々と溜まっていたんだよ、私達も。
それで例のアレが欲しいのだが、譲ってはくれないだろうか?」
酒は飲んでも飲まれるな、どうしようもない大人は何処に行ってもいる様です。そしてそうした者は調薬師ケビンのよい顧客となり得る。
毎度あり、銀貨二枚でございます。
ホーンラビット子爵は俺から小瓶を受け取ると、「ツケにしといて」と言って中身をクイッと飲み干すのでした。
「ホーンラビット子爵殿、今のは一体」
「あぁ、これはケビン君の作った酔い覚まし薬、所謂生活薬というものですね。私の妻ミランダは元々マルセル村の調薬師をしていまして、その一番弟子がケビン君なんですよ。
ベルツシュタイン伯爵閣下はポーションのレシピというものをご存じでしょうか?これまで調薬系のスキルがないと作製する事が出来ないとされていたポーションを誰でも作る事が出来るようにした画期的なレシピなんですが」
「あぁ、その話は聞いた事がある。確かグルセリアの薬師ギルドで発表されて各国で検証が行われたとか。発表者は調薬師ミランダだったか。
まさか」
「そうですね、薬師ギルドにレシピを提出したのは妻ミランダです。
ですがそのレシピを開発したのはこのケビン君なんですよ。
レシピには共同開発者としてケビン君の名も載っていますし、レシピ閲覧費用もケビン君の薬師ギルドの口座に振り込まれる事になっています。
ケビン君は調薬師としても一流なんですよ。
特にこの酔い覚まし薬が素晴らしい、二日酔いの苦しみから解放してくれる妙薬。ここグルセリアでも絶大な人気を誇っているとモルガン商会の行商人ギースが言っていましたので」
ホーンラビット子爵大絶賛、だったらそんなに飲まなきゃいいのにね。
それでも飲まずにはいられないのが人の性。昨日の水割りが美味し過ぎたのがいけない?そう言われましても。
「え~、昨日お出しした割り材はジャイアントフォレストビーの蜂蜜と聖水ですね。これをお酒で割って飲むと絶品らしいですよ。
これってミルガルのシスター様方の隠れた楽しみなんですよね、蜂蜜は私が提供させてもらっております。
教会との友好関係って素晴らしいですよね」
袖の下って大切ですよね。俺の発言に何故かドン引きな偉い方々。
「「ホーンラビット子爵、辛い事があったら相談に乗るぞ?」」
お酒の席で育まれる友情、ドレイク村長にもよいお友達が出来た様でございます。
酔い覚まし薬が二つ欲しいと、銀貨四枚です。毎度あり~♪
本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora