オーランド王国王都バルセン、オーランド王国の中心地であり多くの人と物とが集まるオーランド王国の中枢である。
その地は春の訪れと共に齎されたとある慶事により喜びに包まれていた。
ダイソン公国の独立宣言、そこから始まった一年にも及ぶ戦乱はオーランド王国の物流を阻害し、王都経済に暗い影を落としていた。
バルカン帝国の侵攻、ダイソン公国の独立宣言の背後に控える大国家の軍事侵攻の恐怖は、ダイソン公国の予想を超える戦果の噂と共に王都民の心を蝕み続けて行った。
そんな王都民に齎された吉報、オーランド王国北西部アルバート子爵領で立ち上がった三英雄の活躍。
盗賊により荒れまくっていた各地域を平定し、人々を平和に導いた。ダイソン公国と北西部貴族連合・南西部貴族連合との間に不戦条約を結び、オーランド王国の戦乱終結の切っ掛けを作った。
オーランド王国国王ゾルバ・グラン・オーランド陛下の下に赴き、理を以って不戦条約の締結を取り付けた。
後に“一年戦争”と呼ばれるこの戦乱を終結させた三英雄の活躍は多くの吟遊詩人に謳われ、王都の劇場では連日舞台が上演される事となった。
“聖者の行進”、三英雄と彼らに従い事態の収拾に尽力したアルバート子爵家騎士団の活躍は、その働きと無血を主とした行動からそう呼ばれ、オーランド王国の歴史に大きく名を遺す事となった。
戦禍の冬は終わった、だが人々の心は完全に晴れる事は無かった。自分たちの戦いはまだ終わっていない、軍事国家バルカン帝国の脅威は直ぐ側にまで迫っているのだから。
その噂はスロバニア王国の商人から齎された。
バルカン帝国の侵攻軍が謎の集団により撃退されたという信じられないような噂。
その後齎された噂に王都の人々は涙した。
奇跡の夜、アスターナ男爵領の戦場で命を落とした十二万を超える将兵が愛する家族の下に姿を現し言葉を交わしたあの日、奇跡はそれだけで終わってはいなかったのだ。
彼らは向かった、愛する者たちと交わした言葉を胸に抱いて。
彼らは戦った、愛する者たちに残せる最後の思いを形にするために。
彼らは逝ってしまった、去り際に見せたあの優しい笑顔は、覚悟を決めた男の顔であった。
「我々オーランド王国国民は“英霊”により守られた。死して尚愛する者を思い、そして旅だった英霊に黙祷を捧げる」
国王ゾルバ・グラン・オーランドの宣言は、噂が真実であると国家として認めるものであった。
英霊に守られし国、オーランド王国。人々は悲しみを乗り越え一歩前へと歩み出す。それが英霊の望みであり、愛する者が残してくれた思いであるのだから。
え~、王都諜報組織“影”の情報操作、上手く行っている様でございます。王都の人々はいたって平和、と言うよりまるで戦勝祝いでもするかの様に街中が活気に満ち溢れております。
まぁ王都民にとって誰が勝ったとか負けたとかよりも、日常生活が安定するかしないかといった事の方が重要ですしね。
何かあの“奇跡の夜”以来国中の治安が回復傾向を見せてるって言うね、一体何があったんだか。
俺それ見てないんで、マジで分からないっす。
どうも、本来なら主君についてゆっくり移動しなくちゃいけないのに先行しなくちゃいけない用が出来てこっそり抜け出した男、ケビン・ネイチャーマン男爵(仮)です。
まだ迷ってるんですよ、家名。
今のところ第一候補がこの“ネイチャーマン”。なんかのんびりしてそうでよくない?スキル<自然人>から取ったんですけどね。
第二候補が“ワイルダー”。これも<自然人>からの発想なんだけど、“道に迷わせる”とか“途方に暮れさせる”って意味があった様な・・・。
第三候補が“ドラゴンワーム”。なんやかんやでビッグワームはお肉様の原点ですし。初心に帰るって意味でも、発展させるって意味でもいい家名かと。
これって一人で決めると怒られそうなんで、手紙に書いてアナさんとケイトには送ってあります。
スキル<出張>の便利な使い方ですね。ケイトにはブラッキー経由で、アナさんには団子経由で手紙を届けてもらいました。
返事はそれぞれに手紙を渡してもらえればこっちで召喚して受け取ることになってます。呼び出しのタイミングは<業務連絡>で分かるってのも便利ですよね。
で、これの応用でドレイク村長の決断と王都アルバート家への対応に関しても、マルセル村のアルバート子爵家仮本邸のミランダ夫人とデイマリア夫人に知らせてあります。
団子先生、少しは働けって話です。
何か嫌がってたんですけど、配達したらメイド様方においしいクッキーを頂いたみたいでご機嫌になっておりました。
まぁずんぐりむっくりした兎さんがお手紙を配達してきたらかわいいわな。しかも団子先生チョッキ着てるし。(残月の趣味です)
これってアレですか、懐中時計を作れって言うフラグですか?
魔道具でそれっぽいものないかな?王都で探してみよう。
そんで両奥様からのお返事ですが、「「ヤッテしまえ」」だったそうです。って言うか手紙から闇属性魔力を感じたんですけど?
その手紙、呪いのアイテムになってない?大丈夫?
出産間近な奥様方にする話ではなかった様でございます、めっちゃ胎教に悪そう。
「月影、残月、それで情報の方はどうなってるの?
何か分かった?」
王都の一角、食堂のテーブルでデミグラスソースの煮込みみたいな料理を口に運びながら話を聞く。
やっぱり人口の多い街の食堂は洗練されているって言うか、レベルが高いわ~。競争原理が活きてるわ~。
お姉さ~ん、パンのお代わりちょうだ~い!!
「はい、十三年前に先代アルバート家当主が暗殺者ギルドに依頼し、冒険者ユーゴ襲撃を画策した記録を入手いたしました。
実行犯は既に死亡していますが、当時の関係者が暗殺者ギルド幹部“伯爵”であることが分かっております」
「ご報告いたします。先代アルバート家当主が財務管理局局長ダレン・クラウディアの指示の下行っていた財務記録の改ざん、及び横領の記録がこちらになります。
ざっと調べただけでこれですから、詳しく調べればより多くの証拠が挙がるものと思われます」
あ~、あまりに予想通りで言葉も出ない。何やってるかな~、エミリーちゃんのお爺ちゃん。
これって普通にアウトじゃん、王都の中央貴族ドロドロじゃん。
「あ~、悪いんだけどその証拠をベルツシュタイン伯爵閣下のお屋敷に届けてくれる?この紹介状を持って行けば受け取ってくれるはずだから」
「「はい、ご主人様の思し召しのままに」」
「おまたせしました、パンのお代わりをお持ちしました。銅貨十五枚になります」
“コトッ”
給仕の女性がパンの乗った皿をテーブルに置き声を掛ける。
俺はテーブルに代金の銅貨十五枚を置くと、給仕に声を掛ける。
「そう言えばさ、なんか三英雄の事で有名になったアルバート子爵家ってのがあるじゃない?なんか噂話とか知らない?
俺暫く王都を離れていたからその情報に疎くてさ」
“カチャッ”
給仕の女性は新たにテーブルに置かれた銅貨五枚を懐に仕舞うと、「そうですね」と街の噂話を聞かせてくれるのでした。
――――――
「ホーンラビット子爵閣下、騎士ケビン、只今戻りました」
王都を目前とした街の宿屋、貴族宿泊ご用達といった豪華な造りのそこに、配下の者である騎士ケビンが音も無く姿を現した。
「ケビン君、せめて扉をノックしようか?行き成り声掛けされると心臓に悪いから。
それと今までどこに行っていたんだい?ベルツシュタイン伯爵閣下も気になさっておられたよ?主にケビン君がやり過ぎないかと言った事に関してだけども」
ホーンラビット子爵から返された言葉に、「俺を何だと思ってるんですか、大変心外です」と頬を膨らませるケビン。
そんな彼に“いや、これまでの行いを振り返ったらむしろ当然の反応じゃね?”と訝しみの視線を送るホーンラビット子爵。
「えっと、まぁいいです。多少の自覚はありますんで。
それでご報告したいことが幾つか」
ケビンは不満の言葉を飲み込むと、先行して王都で行った調査の内容を事細かに報告するのでした。
「・・・えっと、お茶の準備をしてもらってもいいかな?それとクッキーも貰おうか。
クッキーは近頃食べ過ぎだね、お腹周りに気を付けないとあっという間に以前の肥満体形に戻ってしまいそうだよ、アハハハハハ」
そう乾いた笑いを浮かべ、ケビンの提出した調査資料に目を通すホーンラビット子爵。その内容に頭を抱えたくなるものの、そこは聖茶とクッキーの力を借りてグッと我慢する。
「先代アルバート家当主様が行った数々の罪状は、王都中央貴族の間では割と普通に行われている行為といったもののようです。
彼らに罪の意識はなく、逆になぜ我々が裁かれなければならないといった考えが蔓延しているものかと。
この件に関しましてはこちらに戻ってからすぐにベルツシュタイン伯爵閣下に問い合わせ、王国法上普通に罪であることは確認しています。
これら犯罪行為の証拠は全てベルツシュタイン伯爵閣下に提出してありますので、事実確認は既に行われているものかと。
それとドレイク閣下の新しい奥様方ですが」
「そこだよそこ、なんで妻が五人も増えてるんだい。それに新しい屋敷の購入って、一体どれだけ話が膨らんでるんだい」
「いや~、流石は今や飛ぶ鳥も落とす勢いのアルバート家ですな、正直びっくりですよ。
パトリシアお嬢様とエミリーお嬢様はそれぞれ伯爵家に嫁に入る事が決定しているそうです。もっともお二人とも正妻ではなく第二婦人扱いですが。
お相手は三十を越えられてるらしいですよ?
それとロバート君ですね、公爵家からのありがたいお話がですね。もっともお相手はご親族の中から公爵家に養子に入られる女性との事らしいですが。
何にしてもおめでとうございます。これでアルバート家の将来は盤石ですな~。
予め調べておいて良かった良かった。
これ、パトリシアお嬢様やエミリーちゃんにバレたらただじゃすみませんでしたからね?
王都が血で染まるのは避けられませんから、そうなったら俺逃げますから。
切れた女性って怖いからな~、前にメアリーお母さんがブチ切れた時も怖かったな~、顔面が倍に膨れ上がったもんな~」
どこか遠くを見詰め黄昏るケビンに、「あぁ、ケビン君がグラスウルフの草原から帰って来た時の話ね。確かにあれは酷かったもんね~」と同じく黄昏るホーンラビット子爵。
「これ、一日でも早く対処した方がいいよね。
予定変更で、先に王都アルバート家の対処を行ってそれからグロリア辺境伯家王都屋敷に引き籠ろうか?
ギース、ケビン、悪いけど一芝居打ってくれる?哀れな元村長を追い出す役みたいな感じで。
それと王都アルバート家屋敷に派遣されてるグロリア辺境伯家の使用人たちにも協力して欲しいから、その辺の繋ぎをお願い出来るかな?」
主人からの提案に笑みを深くする騎士二名。
「「すべてはホーンラビット子爵様の思し召しのままに」」
男達は動き出す、全ては華麗な“ざまぁ展開”を迎える為に。
騎士ケビンは主人に一礼をすると、最後の仕込みの為に王都へと戻って行くのであった。
本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora