転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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本日一話目です。


第437話 辺境子爵、王都屋敷を訪れる

「次、ご身分とお名前をお願いします」

 

多くの人々が列を作る王都の北の玄関口、王都北街門。

そこは多くの商人、冒険者、旅人ばかりでなく、北方各地から王都を訪れる貴族階級の者たちも多く集う場所。

その為他の街ではほとんど見る事が出来ない貴族の馬車が列を作るという光景も、ここ王都では日常の一コマとして目撃される事となっていた。

 

「次、ご身分とお名前をお願いします」

「ハッ、我々はアルバート子爵家騎士団の者、こちらの馬車にはドレイク・アルバート子爵閣下がお乗りになっておられる。

この度王城よりの召喚があった為参った次第、通行の許可を頂きたい」

 

御者台から掛けられた騎士の声に、街門を守る兵士の顔に緊張が走る。

アルバート子爵家騎士団、それは王宮第一・第二・第三騎士団を壊滅させた者たちの名称、王都騎士にとって最も恐るべき騎士団の者たち。

 

「で、では確認を行わせていただきます。馬車の内部を拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」

貴族の馬車は基本的に車内の確認が行われない。これは貴族という身分の者を疑う行為そのものが不敬であるといった考えに基づくものである。

だがここ王都はそうはいかない。王家の住まう場所、王城のある王都に出入りする貴族は王家に敬意を払わなければならない。

馬車の内部を検分させる行為も、王家に対し謀反の意思はありませんという臣下としてのパフォーマンスの一種となるのだ。

 

“カチャリ”

馬車の扉が内側から開かれ、壮年の男性が顔を出す。

 

「お勤めご苦労。私がアルバート子爵家当主ドレイク・アルバート子爵だ。

特に何もないがこれも務め、存分に検分を行ってくれたまえ」

門兵はその柔和な声音にホッと胸を撫で下ろす。

残虐非道な蛮族の主、辺境の魔獣を従えし者、ドレイク・アルバート子爵がどういった人物であるのか。その実態が王都の人間に分かる事もなく、そうした噂話だけが先行しそれがあたかも事実であるかのように語られるのが王都という場所なのであった。

 

「はい、問題ございません。ようこそ王都バルセンへ、どうぞお通りください」

馬車は走る、カタコト音を立てて。王都貴族街にあるアルバート家王都屋敷に向かって。

 

「だれかある。私はケビン・ドラゴンロード、アルバート子爵家騎士団に所属する騎士である。

ご当主ドレイク・アルバート子爵をお連れした。家人の者に連絡をお願いしたい」

 

そこはこじんまりとした屋敷であった。貴族街の外れ、男爵・子爵といった低位貴族と呼ばれる者たちが屋敷を構える場所の一角にアルバート家屋敷は居を構えていた。

 

「ようこそお出でくださいました、旦那様。私は王都アルバート子爵家屋敷の執事を務めております、バレリアと申します。

旦那様のお越しを心よりお喜び申し上げます」

そう言い慇懃に礼をする執事バレリア。整列したメイドたちも共に礼をし主人の訪問を歓迎する。

 

「おぉ、よくぞ参った、婿殿よ。どうかな王都屋敷に来た感想は、辺境の地との違いに戸惑ったのではないのかな?」

そう言い鷹揚な態度で玄関先に顔を見せた者。

 

「これは初めてお目に掛かります。ドレイク・アルバートでございます。お義父様、お義母様にはこれまでご挨拶に伺う事も出来ず、誠に申し訳ございませんでした」

そう言い頭を下げるドレイク・アルバート子爵の態度に、満足そうな笑みを向ける先代当主たち。

 

「ハハハ、なになに、婿殿には辺境の地よりの長旅、さぞやお疲れであろう。まずは身体を休められてはいかがかな?

バレリア、婿殿を客間にご案内しなさい」

「畏まりました、アルバート様」

 

執事バレリアに声を掛けそのまま屋敷内に下がって行く先代様夫妻。

・・・えっと、これはツッコミ待ちなのかな?

 

「バレリアさん、お芝居の途中声を掛けてしまって申し訳ないけど、先代様方ってバカなの?」

「はい。あれでも初めの内は大人しくしていたんですが、グロリア辺境伯家が自治領宣言をした辺りから“自分たちは騙された”だの“やはり辺境の田舎者はこれだから駄目だ。世の中の道理も分からぬ蛮族が”だなどと仰るようになりまして。

この戦争が始まってからは酷いものでした。“オーランド王国の貴族としての矜持はどこへ行ったのだ”とかなんとか。

そこへ来てのこの掌返し、しかも自らが主人といったあの態度。

正直申しましょう、馬鹿なんです」

 

堪らず言葉を掛けた俺の問い掛けに、柔和な笑みを浮かべ言葉を返すバレリア執事。目が全然笑っておられません。

これよっぽど溜まってるんだろうな~、メイド様方の目が怖い怖い。

俺は収納の腕輪からキラービー蜂蜜の入った小瓶を取り出すと、「辺境産のキラービー蜂蜜でございます。どうぞお納めください」と言い皆様にお渡しするのでした。

あ、ホーンラビット子爵閣下がものすごい申し訳なさそうな顔をなさってる。その気持ち、凄く分かります。

俺たちはそれぞれ乾いた笑いを浮かべながら、屋敷の中へと入って行くのでした。

 

――――――――

 

「ハハハハ、婿殿、よくぞ王都に参られた。アルバート子爵領は遠いからな、私たちが行く訳にもいかなかったのだよ」

 

“オーランド王国の最果て”、辺境の地マルセル村。ここ王都でその名はある意味有名だ。“貴族令嬢の幽閉地”、最近では“蛮族の住み暮らす場所”であったか。

幾ら借金の為とは言えあの様な土地の者と親族にならなければならないとは、屈辱以外の何物でもなかったことを覚えている。

北西部貴族の雄、グロリア辺境伯。そのお声掛けでなければこのような話を受けるつもりはなかったのだ。

 

借金の返済の肩代わりばかりでなくグロリア辺境伯家王都屋敷での仕事の斡旋。執事やメイドの手配までもグロリア辺境伯家が行ってくれるとあれば断るべくもない。辺境の地は不肖の娘に任せ我々は王都で悠々自適な暮らしを行う、そのはずであった。

 

ランドール侯爵家とグロリア辺境伯家の衝突に端を発したグロリア辺境伯領の自治領宣言、逆賊ダイソン侯爵家の討伐に参戦表明すらしない臆病者のアルバート子爵家。

我々は騙されたのだ、馬鹿な娘はとんでもない男を送ってよこしたのだ!!

 

ハハハハ、やってくれたよ。アルバート子爵家騎士団の活躍により平定された戦乱。アルバート子爵家に第二夫人として入った者の連れ子であるパトリシア・アルバートは今や三英雄の一人として王都中でもてはやされている。

これは好機、有力貴族の方々からも縁談の話が舞い込む今を逃して、アルバート子爵家の栄華はあり得ない。

遂に私の時代がやって来たのだ、アルバート子爵家は私の指導の下飛躍の時を迎えるのだ。

 

“コンコンコン”

「失礼します。ドレイク・アルバート子爵閣下をご案内してまいりました」

「うむ、入ってくれたまえ」

 

その男はひ弱といった印象を受けるような優男であった。

不肖の娘を騙し貴族籍を奪い取った男がどの様な者であるのかと思ったが、なんの事は無い、この者はグロリア辺境伯家の言葉の通り農地改革の褒賞として貴族籍を望まれただけの者であった。

この度の終戦劇も裏でグロリア辺境伯家先代当主マケドニアル・グロリア卿が暗躍していたとか。

アルバート子爵家はそのいい手駒にされていたという事なのだろう。

 

「お義父様、お義母様、改めてご挨拶申し上げます。

ドレイク・アルバートでございます。

お義父様とお義母様には王都アルバート子爵家屋敷の管理を行っていただき誠にありがたく、日々感謝しておりました。

私は田舎の村長であった者故王都での振る舞いなど全く分かりません。

お二人にはそうした事もご指導いただければと思っていたのですよ」

 

ふむ、なんのなんの、自分の事がよく分かった者ではないか。

ここはアルバート子爵家の長として私が直々に教え込んで行かなければならないか?

 

「ハハハ、何もそこまで硬くなることはない。

王都の事、貴族としての振る舞い。王都中央貴族である私が直々に教えて進ぜようではないか。

まずは我が家の現状だ。今我が家には多くの高位貴族家から縁談の話が舞い込んでいる。

これは好機、我がアルバート子爵家が一段上の貴族家として飛躍する足掛かりとなろう。

まずはパトリシアであったか、ありがたいことにベイレン伯爵家から第二夫人の話が来ておる。それとエミリーだな、こいつはナバル伯爵家からのお話だ。あ奴の出自を考えればこれ以上のお話などあり得ないであろう。

そしてロバートだ、ありがたくもバルーセン公爵家からの嫁入りの話だ。これで我が家は盤石、我がアルバート子爵家は更なる栄華を迎えるのだよ」

 

私の言葉に驚き固まる田舎者、辺境の引き籠りには到底想像もつかない世界の話であろうから致し方が無いか?

 

「あの、それは一体どういう?」

「ん?分からんか?アルバート子爵家の飛躍の話だよ。

そうそう婿殿にも縁談の話が来ている。少しでも我が家との縁を結びたいのであろうな、健気なものではないか。

だが流石に貴族家の者を辺境に連れ去る訳にはいかんであろう?

その者たちには王都の屋敷に住み暮らしてもらおうと思っている。

そうそう、新しく屋敷を購入する為に不動産商会に来て貰わねばな。なに、細かい事は私に任せておきたまえ」

 

私の言葉に下を向き震える田舎者。話の大きさに恐れ戦いているといったところか。

やはり田舎者の村長には中央での政治は難しいのだろう。まぁグロリア辺境伯家にいいようにされている程度の男では、致し方がないのかもしれんが。

 

「申し訳ありません。一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「うむ、なんだね?何でも聞いて欲しいな、婿殿」

 

「はい、それではお聞きいたします。お義父様は何の権限があってその様なお話を?現在アルバート家の当主は私ドレイク・アルバートであるはずなのですが?」

 

・・・はぁ?この男は何を馬鹿な事を聞いてくるのだ?

この田舎者はそのような常識も分からない程の愚か者であったという事なのか?

本当に情けない、致し方が無いが説明してやるか。

 

「婿殿、いや、ドレイク。貴様は一体何を勘違いしている?

貴様は一体何者だ?たかが辺境の村長、それが貴様であろうが。

我がアルバート子爵家の正統はロバートであって貴様ではない、財産の相続権もないただの中継ぎ、貴様は名目上の当主に過ぎんのだよ。

分かりやすく教えてやろう、貴様にはアルバート子爵家における決定権はないのだ。精々アルバート子爵家の為に尽くすのだな、平民が」

 

フフフ、なんだこいつは。まるで分っていなかったのか?

こんな簡単な事も分からずに今まで当主面をしていたと言うのか?

目の前では田舎者が絶望と言った顔をして呆然としている。その後ろに立つ騎士どもの方がまだ状況を分かっているのか、田舎者を蔑みの目で見下ろしている。

ハハハハハ、何とも愉快だな、常識知らずの田舎者。

 

「ハハッ、そうですか。これが貴族という物だったのですか。

何という横暴、こんな事が許される、これが貴族と平民との身分の差」

「当然であろう?貴様ら平民はどうあがこうとも貴族にはなれない。貴様は貴族になった気になっていたようではあるがな、真の貴族とは受け継がれた者。

例え貴族家の出身であっても平民落ちした者が這い上がれるほど安いものではないのだよ。

精々自分の立場を弁え大人しくしているのだな。そうすれば我がアルバート子爵家の末席に加えておいてやらん事もないぞ?」

 

「クククッ、ハハハ、無理だ、こんな世界、とてもではないがやって行けない。

土台私が貴族などという身分にあること自体、間違いだったんだ。

いや、そうじゃない、貴族ですらなかったんでしたね。名目上の貴族、貴族もどき、それが私の正体」

「なんだ、今頃分かったのか?クックックックッ、一つ勉強になった様でよかったではないか」

 

「お返しします・・・」

「ん?何か言ったか婿殿?」

 

「お返しいたします、アルバート家の当主の座を。

私はアルバート家の血を引く者でもなんでもない、そんな私が当主だなどと、その時点で間違っていたんだ・・・」

 

はぁ?何を言い出すんだこの平民は?当主の座を返す?それがどういう意味か分かって行ってるのか?

 

「おやおや婿殿、自分が何を言っているか分かっているのかな?

我がアルバート子爵家の当主の座を降りてしまえば、貴様には何も残っていやしないのだぞ?」

「はい・・・。私は当主の座を返上し、アルバートの名をお返しいたします。所詮辺境の村長にはこの名は重すぎた。

覚悟を決めればすっきりしたものです」

 

そう言い弱々しく微笑む田舎者。分相応、その一点に気が付くだけましといったところか。

 

「フフフッ、そうか。婿殿の覚悟、しかと受けとめましたぞ」

「アルバート様、そうした事でしたらこちらの書類を。

私どもも名義上とは言え平民に仕えるという事に思わぬ所が無かった訳ではありませんでしたので」

 

執事のバレリアが差し出して来たもの、それは王家に提出する当主交代の書類。つまりこの書類に署名した瞬間、アルバート子爵家当主はこの私という事になる。

そう、全ては正しい形に戻るのだ。

 

「では現当主ドレイク・アルバート様、こちらにご署名を。

はい、ありがとうございます。

アルバート様、後はこちらにご署名いただければアルバート家の当主はアルバート様の手に戻ります。

正当な人物、正当な血筋が当主となるのです」

 

差し出された書類、渡された羽根ペン。

“ハハハハ、これが政治というものなのだよ、婿殿?”

目の前で項垂れる田舎者を前に、私は栄光に向け歩み出すのであった。

 




本日一話目です。
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