その日、王都貴族街に三匹の修羅が現れた。
「ごめん、私はホーンラビット伯爵家騎士ケビン・ワイルドウッド。バルーセン公爵家当主オルセナ・バルーセン公爵閣下に祝いの品の返礼に参った!!」
その口上は送られた祝いに対する礼といったもの。
「わ、分かり申した。ですが何故祝いの返礼に参った貴殿らがその様に激しい覇気と殺気を向けられているのか!?
それではまるで我がバルーセン公爵家に敵意を持っていると言わんばかりではないか、貴殿らは一体どういうおつもりか!」
恐怖に身を震わせるも、毅然とした態度でその真意を問う門兵。
「敵意、その様なものはありませんとも。
ただ我々のあずかり知らぬ所で勝手に縁談話を進め、然もそれが事実であるかのように振舞うバルーセン公爵閣下に少々お聞きしたい事があるだけでございます。
私、ドレイク・ホーンラビットを抜きにして我が家の方針を決めようとなさるバルーセン公爵家は、我が家を乗っ取るおつもりか?
それはすなわち宣戦の布告と捉えても良いのかとね?」
“ゴフッ”
屋敷門前に佇む三人の男達から吹き上がる膨大な覇気、それは王都バルーセン公爵屋敷をすっぽりと覆い尽くし、屋敷内の人々を恐怖に陥れる。
「あっ、あっ、あっ、あっ」
その場に尻餅を突いた状態で、恐怖に打ち震える門兵。
「では失礼してお伺いさせていただきますね。ケビン、ギース、参りましょう」
男達は歩を進める。自分たちをないがしろにした者たちに、何を敵に回したのかを思い知らせるために。
愚かなる中央貴族の常識が、ただの戯言だと証明するために。
―――――――
いや~、大変だった。
どうも、マルセル村のアナさんと領都のケイトの意見の取り纏めを行い漸く家名が決定した男、ケビン・ワイルドウッドです。
ネイチャーマン、却下されてしまいました。ケビンはそんな感じじゃないってどう言う事?俺、知的な紳士だよね?
くそ、この家名はどこかで偽名として使ってやる。
そんでもってワイルダーを少々改変した形で決まったのがワイルドウッドですね。この辺はアナさんの感性なんですけど、ケイトもそれがいいと納得なさったんで決定といたしました。
今後ともワイルドウッド家をよろしくお願いいたします。
そんでもって王都貴族街ですよ、阿呆なアルバート男爵様のやらかしの後始末ですよ。
アルバート子爵家王都屋敷で執事をなさっていたバレリアさんにお伺いして、主要な迷惑系お貴族様をピックアップしたんですけどね。
パトリシアお嬢様を第二夫人にしようとしていたベイレン伯爵家、エミリーちゃんを第二夫人にしようとしていたナバル伯爵家。って言うかここのご当主たちってお二人とも三十代中程よ?
パトリシアお嬢様が相手ならギリギリ理解出来なくもないけど、エミリーちゃんまだ授けの儀も迎えてないのよ?
もしかして趣味?幼い子が好きだとか?
でもエミリーちゃん、見た目は淑女なんだけどな~。
この世界って何かみんな成長速いんだよね、平民だったらそうでもないんだけど、お貴族様辺りだと授けの儀を迎える年齢なのにどう見ても成人の見た目って言うね。
これもあれかな、魔力の関係?
お貴族様って基本魔力量が多いしね。魔力による成長補正、あると思います。
・・・何故俺には補正が働かん!!
もしかして補正ありでこれなのか?俺はすでに限界なのか?
気付いてしまった悲しい事実、だって僕ちん今年成人なんだもん。
ギリギリ青年と見られる様になった事を成長と思おう。
こないだ測ったら母メアリーと同じ背丈だったし!(どや顔)
これでおいらも大人の仲間入りなのさ。
まぁお貴族様の間では年の差婚は普通なんだけどね、貴族の婚姻は家同士の政治、愛情云々ではなく互いの家の関係を深める為の一手段。
在りし日の記憶にある戦国武将の婚姻なんかは、実家の都合で離婚させられてよその家に嫁がされるなんてこともざら。
幼少期に嫁いで出産適齢期になるまで大事に育てられるなんてこともあったようですよ。
って事はエミリーちゃんも・・・ないな。この国の貴族、頭おかしいから。
他にドレイク村長の側室(名目だけ)に入ろうとしたお家と、ロバート君にお嫁さんを送り込もうとしたバルーセン公爵様にですね。
なんやかんやで八軒ほどご挨拶にですね。他にも贈り物をくださった貴族家はあったんですが、そうしたお宅には後程礼状を添えて返礼品を送る事になっております。
ホーンラビット伯爵閣下の初仕事は礼状書きと返礼品の選定ですな。グロリア辺境伯様がお部屋を貸してくださっていますんで、バレリアさんに協力して貰って頑張って下さい。
でもそうなると何かと物入りになるのが都会の悲しさでして、マルセル村の様に木札が使えない分、信用商売の出来ない田舎者に王都は厳しいのでございます。
「てな訳で、すみませんが買取をお願いしようと思いまして」
俺の言葉に額に手を当てるハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵閣下。あっれ~、おかしいな~。男爵位を貰ったときに大森林の素材を王家が購入してくれるって話だったんだけどな~。
「あ~、うん、ホーンラビット伯爵家がやらかすって事はある程度予想出来ていた事ではあるんだけどね。なんで貴族街を恐怖に陥れるのかな?
君たちは王都の治安を混乱させたいのかな?
王家に恨みでもあるのかな?国王陛下に謁見する?」
・・・なんか王都の偉い人がドレイク村長みたいな事を仰られているんですが。“国王陛下に謁見する?”ってなんてパワーワード?
超権力の使用、やっぱり王都は怖い所でございます。
「イエイエイエ、これは必要な事態、当主の了承も得ずに勝手に婚約話を決めたアルバート男爵、そんな阿呆を唆して既成事実を作り出そうとした高位貴族たち。
“貴族は嘗められたらお終い”ですか?本当に王都は恐ろしい。
我々は大人しく辺境に引き籠っているのが分相応と教えられた思いでございます。
皆様我々のお話を素直に聞いてくださいまして、問題は無事に解決いたしました事をご報告いたします」
「・・・ちなみにどうやって説得したのか聞いてもいいかな?
報告にあった貴族たちは皆癖の強い者たちばかりだったと思うのだが」
何故か恐る恐ると言った表情で説明を求めるベルツシュタイン伯爵閣下。
「え~、まずは皆さまの魔力を抜いて魔力枯渇状態にいたしまして、そこに濃厚な魔力水にキラービー蜂蜜を溶かしたものを飲ませるとあら不思議、何故か辛そうな表情で意識を取り戻すのでございます。
目を覚まされたお方様に「お話があるのですがよろしいでしょうか?」とお言葉をお掛けするという事を相手様が「頼むから話を聞かせて欲しい」と言うまで繰り返しただけですがってどうなさいました?
別に身体に傷を付けたり拷問したりなどいたしておりませんよ?
これはここだけの話にして欲しいのですが、私共のやったことは学園の教本でもある「魔法の書」の序文にもあります魔法使いの心得の応用でございます。
“魔力枯渇を恐れるな、我が強大な魔力を身に付け今日大魔法使いと呼ばれる様になったのは、全て若かりし頃に無謀にも魔力枯渇を繰り返しながら魔法の習得に努め、繊細な魔法の運用を身に付けたからである。努力は決して裏切らない、全ては結果として返って来る”でしたか?
魔力枯渇と魔力回復の繰り返し、これは賢者と呼ばれる方々に聞いて貰えればどういうものか分かると思いますが、魔力増幅訓練の一環ですよ?
私も子供の頃は無茶をしましたからね~、いや~、懐かしい」
俺の言葉に何故かドン引きと言った表情になるベルツシュタイン伯爵閣下、解せん。
「何きょとんとして“僕何も分からない”と言った顔をしてるのかな?それって目茶苦茶辛い地獄の特訓の話だよね?
うちの魔法使いたちが思い出しただけでガタガタ震えだすアレだよね?
ケビン君は人の情と言う物が無いのかな?あっ、ごめん、無かったんだよね。君の擬態があまりに素晴らし過ぎて普通の人間と混同してしまったよ、本当に申し訳ない」
そう言い謝罪の態度を見せるベルツシュタイン伯爵閣下。
・・・酷くね?俺っちただの田舎者よ?職業だって田舎者よ?
何故か(辺境)とか付いてるけど所謂外れスキルなんだからね?
そんな事とっくの昔にどこぞより鑑定してるでしょうに。
「まぁいいですけどね。
それより素材の買取ですよ、大森林の素材を買取してくれるんですよね?なんだったら商業ギルドか冒険者ギルドにでも持ち込みます?王家でも正確な市場価格といったものは分からないでしょうし。
因みにオークション価格は既に調査済みですから、皆さんが結託して安値を付けたら帝国に持ち込んじゃいますからね?
あそこの国ってお金だけは一杯あるんですよね~、羨ましい限りです」
俺の言葉に顔を引き攣らせるベルツシュタイン伯爵閣下。普通なら一笑に伏せちゃうような世迷言も、俺なら出来るって事を知ってるからな~。
理解ある商談相手ってワカラセの手間が省けてとても助かります。
「わ、分かった。だからそれだけはやめてくれないかな?それがバレた時、各ギルドに何を言われるのか分からないからね。
それで何をどれだけ売ろうって言うのかな?」
「う~ん、収納の魔道具に入ってる素材を適当に。
これ、収納の腕輪って言うんですけどね、嘗て大賢者シルビア・マリーゴールド様が作り出したと言われる逸品です。
うちの村に賢者様が隠遁してる話はご存じだと思うんですけど、そのうちのお一人に頂いた品なんですよ。
賢者様は自らをシルビアと名乗り魔法の道に邁進されているお方、やはり大賢者の品を集めていたんじゃないんでしょうかね」
「ブフォ、相変わらず君はとんでもないものを出してくる。
それって我が国の宝物庫にも所蔵されている品だから、むやみに来歴を言いふらさない様に。普通に騒ぎになるからね。
まぁいいでしょう、持ち込まれる品物の参考にもなるし、今回は王宮の鑑定士も交えて査定を行いましょう」
いや~、話の分かる上司は助かります。
俺はベルツシュタイン伯爵閣下の計らいで、急遽王城内にある王宮第二訓練場にて素材の鑑定と査定を行ってもらう事になったのでした。
―――――――――
オーランド王国王城内王宮第二訓練場。
そこには騎士・魔導士・賢者・文官・冒険者・商人等、実に多種多様な多くの人々が集まり、これからはじまる一大イベントに興味津々といった視線を向けるのだった。
「・・・ベルツシュタイン伯爵閣下?」
「いや、本当、ごめんて。事が事だけに国王陛下とヘルザー宰相閣下には告げない訳にはいかないし、王宮鑑定士の手配やら場所の確保やらで情報が漏れたと言いますか、基本そこまで秘密にしてなかったのもあるんだけどね?
でもな~、ここまでの騒ぎになるとは。
それだけホーンラビット伯爵家が注目されているって事で」
そう言い良い笑顔を向けるベルツシュタイン伯爵閣下。
絶対わざとだわ。
あれだけの騒ぎで痛い目に遭ってるってのに、この国の偉い人たちって何なの?普通は拒絶かある程度の距離を置くってものじゃないの?
陽キャなの?パリピなの?ギャルなの?
ライン交換したらズッ友なの?もう俺には分からないっす。都会怖い、改めてその恐ろしさが身に染みる。キャタピラーのぬいぐるみを抱えてお布団様でキャタピラーになりたいっす。
「ではベルツシュタイン卿、辺境ホーンラビット伯爵領から持ち込まれる大森林の素材とやらを見せてもらおうか」
何か上から目線で声を掛けてくる比較的若い方。ベルツシュタイン伯爵閣下の事を知っていながらあの態度、王族か?
う~、嫌だわ~、帰りたいわ~。
俺は無難に浅層の素材から取り出す事としたのでした。
「なんだ、大森林の素材が持ち込まれると聞いたからどの様なモノかと思ったら、キラービーやブラックウルフ、フォレストスネークとどれもありきたりなものではないか。
わざわざ足を運ぶまでもなかったな」
第二王子ブライアント・ウル・オーランドは、側近の者に声を掛け鼻白む。
ダイソン公国とのいさかいを終結させた奇跡の騎士団、オーランド王国の最強とも謳われるアルバート子爵家騎士団の登場は、国境線沿いの遠征から帰って暇を持て余していた彼にとっていい刺激となっていたのである。
だが折角足を運んだ大森林の素材の買取もこの程度の魔物では。
“ドカッ”
それは大きな角を持つ馬ほどの大きさのある獣。
「ホーンタイガーだと!?」
過去白金級冒険者がオークションに出品し話題となった大森林を代表する魔物の登場に、その場に集まった人々から声が上がる。
老人は王家に長年仕える賢者であった。
賢者とは好奇心の塊である。王家に仕える事で自由に魔法の研究が出来る今の環境は、老人にとって得難い職場と言ってもよかった。
“王家に大森林からの素材が持ち込まれる”、その知らせは老人の好奇心を刺激するのに十分な知らせであった。
老人は高鳴る興奮と期待を隠す事もせず、会場となる王宮第二訓練場へと足を運ぶのだった。
“ドンッ”
それは大きな丸太、美しい切断面を見せる未加工な材木。
「ブラックウッド、だと!?」
その材木は大森林中層領域で見つける事が出来ると言われている丈夫な材木素材。魔力伝達力が非常に優れており、その枝で作られた魔法杖は最高級品として取引されている。その素材であるブラックウッドが原木のまま丸ごとだと!?
老人の興奮が最高潮となるのは致し方のない事なのであった。
「えっとここまでが大森林中層部までの素材ですかね。それじゃ深層部の素材を・・・」
「ケビン君、ちょっと待とう。既に鑑定士が一杯一杯になってるから。予算がまずい事になってるからね?」
ベルツシュタイン伯爵閣下の言葉に動きを止めるケビン。
王宮第二訓練場には山と積まれた大森林中層部までの素材と、それを鑑定・査定し、唸りを上げる鑑定士の方々の姿。
「因みに今回の目玉商品としては何を持って来ていたのかな?」
「あぁ、大したもんじゃないですよ。お出ししますね」
“ドンッ”
その場に出現する巨体。それは天空を舞う厄災。人々を恐怖のどん底に叩き落とす天災の象徴。
「ワ、ワイバーンだと!?それもあれほど巨大な・・・」
その場にいる誰しもが言葉を失う。それは冒険者の頂点、白金級冒険者が命を賭けて討伐する空の魔物、人類の一握りしか対応出来ないとされる絶対的脅威。
「へっ?イヤイヤイヤ、フィヨルド山脈じゃ小振りの方ですよ?
平均的なワイバーンでこれの倍くらいかな?最大な奴だとこれの六倍はありますね。
うん、あれは駄目だわ。王都なんか簡単に壊滅させられちゃいますって。魔境の魔物は怖いですよ~」
ケビンの言葉に絶句する一同。その言葉の意味は自身が魔境に出入りしているという事、そして生きて素材を持ち帰って来ているという事。
それは単に高級素材を持ち帰れるというものではない、それだけの実力を有しているという力の証明。
「さて、査定結果が楽しみですね。王家はこれらの品にいくらの値段を付けてくれるんでしょうね~」
獰猛な目が人々を見据える。査定されているのは果たして誰なのか。
目の前で口角を上げる狂人の発言に、王宮の財務部門担当の文官は、“何て約束をしてくれたんだ!!”とゾルバ国王陛下に恨み言を言いたい気持ちをグッと堪えるのでした。
本日一話目です。