「それじゃ大森林深層のトカゲを・・・」
「ケビン君、ちょっと待とう。財務担当官、買取の予算の方はどうなってるのかな?」
俺が在庫処分、もとい棚卸、もとい不用品売り出し・・・貴重な素材の買取をお願いしていたんですが、何故かベルツシュタイン伯爵閣下からストップが掛かってしまいまして。
おや?どうなさったんでしょうか。
「あっ、うん。一応王国としての予算という物がね?
ほら、よく功績を挙げた者に対して爵位を与えるなんてことがあるでしょう?アレって本音で言えばお金が無いから地位で我慢してねって話だから、王国の予算ってそこまで好き勝手出来るほどの余裕はないから。
今回の話も一度王国で買い取って商会や各ギルドに買い取って貰おうっていう一種の経済政策だから」
うわ~、このお方、ぶっちゃけたよ。そこは格好付けて“ハハハハ、見事な素材だ。全て言い値で買い取ろう”くらい言ってくれないかな。
折角月影と残月が確り下調べして来てくれたんだけどな~。
「仕方が無いですね、それじゃ残りはそこの商業ギルドの偉い人と交渉って事で「だから~、間に王家を挟んでって言ってるの、交渉窓口を一本化しておいた方がホーンラビット伯爵家としても面倒が減っていいでしょ?
マルセル村に余計な商人が素材を寄越せって押し掛けたりしたら面倒じゃない?」・・・それは一理ありますね。
今ですら聖水布を寄越せとか角無しホーンラビット干し肉の取引をって商人でそれなりに大変だと言ってましたし」
大森林素材の取引先を王家に一本化する事はこちらにもメリットのある話、そのこと自体に否やはないけど、その件に関して王家に主導権を握らせるつもりは毛頭ないんだけどね。
「ではこうしましょう、大森林の素材に関しては王家主催のオークションに掛けるという事で。
丁度こちらに王都冒険者ギルドのお偉方もいらっしゃる。冒険者ギルドの基準では大森林浅層部の素材に関してはそのまま買取を行っているが中層部以降の素材に関してはオークションを行っている、そうでしたよね?」
俺の突然の投げ掛けに、いかにも冒険者然とした人物は一瞬たじろぐも、「あっ、あぁ。大森林中層部以降の素材は数も希少だからな。通常はオークションが主体となる」と言葉を返してくれるのでした。
「ただまぁこうした事を王家が行うとなるとどうしても文官と高位貴族との癒着といった話になる。これは組織の在り方、長年の慣習が根強く残る王国の性質上致し方が無い事。
あぁ、この発言は王国の在り方を批判してのものではありませんよ?我がホーンラビット伯爵家の前身であるアルバート子爵家の前当主がそうした問題を起こしていた事やそれに伴う調査によって判明した現状であり、事実を述べたまでの事。
その事を改善しようと奔走されている方々が大勢いらっしゃることも知っていますが、急性な改革は軋轢を生み事態をより悪化させるという事もまた事実。
私の様な部外者がとやかく言う話ではありませんので。
何が言いたいのかといえば、既にある、出来上がっている流れに乗ってしまえばいいのでは?という話です。
冒険者ギルドのお偉い方、お名前を存じ上げない無礼をお許しください、何分辺境の田舎者ですので。
一つお伺いしたいのですが、大森林の素材オークションを取り仕切るおつもりはございますか?
確か通常のオークションは出品者七割、ギルド側が三割。ギルドはその三割の売り上げの中から二割を国に納める形になるという話でしたか。
その部分を多少変更し出品者七割、ギルドが二割、王家が一割とすることでいかがでしょう?
これでしたら王家にも利益がありギルド側にも利益が生じる。
売り上げはそうですね、商業ギルドの口座に納めるという事で。
おそらくですがオークションに参加する者の多くが商業ギルドの関係者となる事は明白、であれば支払われる金銭を商業ギルドの口座間での移動とすることで、流通する資金が不足する事を防ぐ事が出来るのでは?
何度も言いますが我がホーンラビット伯爵家は辺境の田舎者です。そんな場所では必要とされる通貨もたかが知れている。
多くの利益が見込まれる大森林の素材取引で生じる支払いを流通硬貨で行った場合、経済的混乱が起こる可能性が生じる。
国の経済発展の観点から一地方に貨幣が集中する事は避けた方がいい。
だがこれが口座資金となれば話は変わる。
これは王国と商業ギルドとを信頼し、信用しているからこその提案なのです。
大森林の素材を通じオーランド王国と商業ギルド、冒険者ギルドの繋がりがより密接に、より強固になる事は、戦禍に見舞われ経済的負担を負った王国経済復興の大きな足掛かりになる、そうは思いませんか?」
俺が提案した畳み掛けるような王国経済復興案。これにはさしもの偉い人たちもお口ぽかんと言った様子。
「ふむ、悪くない。何より既に出来上がっている方式を少し改良するだけといった点が素晴らしい。
本来であれば大森林の素材を取り扱うという時点で荒唐無稽といった話なのだが、今回の提案はその大森林の素材をどう扱うのかと言った事が原点であり、その証拠も目の前に突き付けられている。
王都商業ギルド会長ベルナール・アパガード、王都冒険者ギルド総本部総ギルド長ガッサム・ドラゴニア。
只今の提案、どう考える?」
口を挟んできたのはどう見ても王国の偉い人。
周りの反応からすると国王陛下ではないようだけど、相当なご身分の御方とお見受けしましたぞ。
「ハッ、ヘルザー宰相閣下、王都冒険者ギルド総本部といたしましては異論はございません。大森林の素材を扱う事が出来る、その一点だけでも大変名誉な事。
更に言えば通常の業務の一環でありますオークションの利益といたしましても破格、これに乗らない手はありません」
「はい、ヘルザー宰相閣下、王都商業ギルドといたしましても貨幣流通の点まで考えられた提案は見事としか言い様がございません。
オークションにはスロバニア王国、ミゲール王国、リフテリア魔法王国といった周辺各国ばかりでなく、その噂を聞き付けた多くの国の商会からの参加が見込まれます。
そこで動くであろう膨大な資金が商業ギルドの口座間で取引される事は、オーランド王国王都商業ギルドが膨大な資金を有する事と同意義。
その事に気付けぬ様では商業ギルドの会長などやってはいけませんので」
そう言い獰猛な笑みを浮かべる王都の偉い人たち。
うん、こうなれば後は放置でも構わないね。利益の出る事に関して手を抜く事はしないでしょう。
後は王家の役人の中抜き問題かな?
「そうですか、これは心強いお言葉を頂きました、本当にありがとうございます。
そしてヘルザー宰相閣下におかれましてはこの場にご臨席いただけましたこと、大変ありがたく光栄に思います。
何分田舎者故、礼儀知らずな発言がございますこと、お許しいただければと思います」
「イヤイヤ、そこまで畏まる事は無い。
此度の一件は我らオーランド王国王家側から提案した事。その方達ホーンラビット伯爵家の者たちには負担を掛ける提案であったのだからな」
どうやらヘルザー宰相閣下は今回のホーンラビット家伯爵位陞爵と男爵位の叙爵、それと大量の騎士の雇用が無理筋で一方的に負担を強いているという自覚はあったようです。
さっきのベルツシュタイン伯爵の言葉じゃないけど、国家予算ってある程度の使い道が確定してますからね、新たに予算を寄越せって言われても結構キチキチなのかもしれないんだよね~。
どうせ阿呆なお金の使い方をしている連中とかがいるからなんだろうけどさ。
その点俺の提案は国に対する負担も少ない上に利益もある、これに乗らない手はないと言ったところだったんじゃないかな?
「御心使い、ありがとうございます。我々ホーンラビット伯爵家の者といたしましてもオーランド王国王家が後ろ盾となり、王家の責任の下大森林の素材取引を行ってもらえる事は大変ありがたいお話であると考えております。
王家の監視の下であれば、ホーンラビット伯爵領に派遣された買取担当者が素材を横流ししたり過少報告して懐に納めるなどといった事も起こらない事でしょう。
何せ王家のご意向に逆らう行為ですから。
仮にこうした事態が起きた場合でも王家の責任においてその補填は行われるものと信じておりますし、その事で下手に交渉などといった事は無く即日支払いが成されるものと確信しております。
まぁ問題が発生した場合はホーンラビット伯爵家にお任せください。
全力を以って行政改革並び貴族改革、王家の問題対応のお手伝いを「はい、ケビン君そこまで~。覇気が漏れてるから、皆さん立ってるのがやっとだから、このままだと“王都壊滅の日、再び”って事態に発展しちゃうからね」・・・大変失礼いたしました」
いけないいけない、少々お話に力が籠り過ぎてしまったようでございます。
でも皆さんご理解は頂けたようで、蒼い顔をなさって首を縦に振ってくださいました、良かった良かった。
「えっと、ベルツシュタイン伯爵閣下、それで素材の査定の方はどうなっていますでしょうか?」
「あぁ、先程終わったようでね。詳細はこちらになるよ」
手渡された用紙に書かれたのは、この場に出した素材の名称とその査定金額。
「ほう。冒険者ギルドギルド長様、こちらの査定金額をご覧になってどう思われますか?」
「ふむ、まぁ妥当であろうな。一回の取引金額でこれだけ稼ぐ事が出来れば十分ではないかな?」
冒険者ギルドギルド長は査定用紙をざっと眺めると、そう返事をして顔を向けて来た。
「そうですか、ありがとうございます。商業ギルド会長様はどう思われますか?」
俺は今度は商業ギルド会長に目をやり言葉を掛ける。
「そうですな、査定結果にどうこう言うつもりはありませんが、私であれば取引しないかと」
そう言い査定用紙を返して来る商業ギルド会長。
俺は両者に礼をし、ヘルザー宰相閣下に目を向ける。
「ヘルザー宰相閣下に申し上げます。
この度は大変有意義なお時間を頂きありがとうございました。
王都における中央貴族と地方貴族との確執、中央貴族の地方貴族に対する認識とその扱い、冒険者ギルドと王家との繋がり、商業ギルドの考え方。
短い時間ではありましたが多くの物事を学ぶ事が出来ました。
正直申し上げます。
“嘗めてんのか?”」
“ブワッ”
突如膨れ上がる膨大な覇気、それは魔力と交じり合い一つの現象を作り上げる。
“覇魔混合”、辺境の地において鬼神ヘンリーと剣鬼ボビーの二大巨頭が編み出した絶対奥義。
それは覇気、魔力、それぞれの力を数段階引き上げる究極の力。
「月影、残月、説明を」
「「はい、ご主人様」」
ホーンラビット伯爵家騎士ケビン・ワイルドウッド男爵の言葉に姿を現した二名の女性。
メイドと執事の格好をした彼女たちは、主人から渡された査定用紙を恭しく受け取ると、その説明を始める。
「この査定結果は冒険者ギルドの査定基準から比べても大幅に低く見積もられたものとなっております。
ギルド査定は冒険者ギルド側が三割の利益を抜いた残り七割の金額がギルド会員に提示されます。ギルドにより差し引かれた三割の金額のうち半額が税としてその地の領主に納められる事となっており、冒険者ギルドを有する地域の大きな収入源となっております。
そうした点を踏まえて今回提示された査定金額を見ますと、一見何の問題も無い様に見えなくもありません。
ザッと計算したところでも王家四割、ホーンラビット伯爵家側が六割と言ったところでしょうか」
メイド姿の者の言葉に、安堵を浮かべる王宮の者たち。
では目の前の騎士は一体何に対して怒りを露わにしているのか。
「お前たちはこの取引がどういう経緯で行われるに至ったのか正確に理解しているのか?
ハインリッヒ・ベルツシュタイン卿、貴様は言ったな、“オーランド王国は実質的にケビン・ドラゴンロード、君に敗北してるんだよ”と。
貴様らは自ら敗者と言いながらその下げた頭の先で舌を出す、そういう連中だという事なのか?
先程俺が行った提案、これは王家と王国経済を支える各ギルドを
貴様らは我らホーンラビット伯爵家に独立して欲しいとでも言うのか?
であれば仮想敵国がどこになるのか、それを理解してのものであるとの認識で構わないのだよな?」
騎士ケビン・ワイルドウッド男爵の発言、それは“俺はいつでも国を滅ぼせる”というもの。
そしてそれが口先だけで無いという事を、今この瞬間にも分からせられ続けている。
「それと冒険者ギルドギルド長、たかがメイドが気が付く事を普段から多くの魔物の買取を行っている貴様が分からない筈があるまい。
それは王家に対する忖度か?それともこの程度の事なら黙っていても気付かないとでも思ったか?
その点商業ギルド会長は優秀であったぞ?俺がわざわざ査定用紙の確認を頼んだことの違和感に気が付き、王家にもホーンラビット伯爵家に対しても顔を立てる落としどころでの返答を行った。
査定自体のおかしさに気付きながらもその事には触れず、私であったら取引は行わないとホーンラビット伯爵家にも配慮する。
判断をこちらに返した点も秀逸だ。
取引相手としては信頼出来るが全てを丸裸にされそうな怖さがある。
さて、この回答をこの場で聞く事は越権行為と言う物だろう、既に事態は政治の問題となった。
王家がより深い考えのもと行動してくれることを望む。我々も折角治めた戦乱を再び引き起こしたい訳ではないのでな。
今回この場で出した素材は全て引き上げさせていただこう、交渉不成立、これは取引の場においてはよくある事だからな。
ところで王都商業ギルド会長ベルナール・アパガード殿、王都商業ギルドでは素材の持ち込みと買取は受けておりますかな?
ちょっと大森林の素材がございまして、出来ればお取引をお願いしたいのですが」
俺の言葉に凄い悪い笑みを浮かべる商業ギルド会長。
いや~、やっぱり生き馬の目を抜くような王都で商業ギルドの会長にまで上り詰めるような人間はおっかないわ~。
俺は全ての素材を収納の腕輪に仕舞い込むと、商業ギルド会長と共にその場を後にするのでした。
残された王都の偉い人たちの事はいいのか?
そんなもん知らん!!
本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora