転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第441話 王都の偉い人、苦悩する

王都バルセン、オーランド王国の象徴にして経済の中心地。

そんな王都経済の中枢と呼ばれる重厚な建築物、王都商業ギルド・ギルド本部。

その中でも最も格式高いとされる会長執務室内で、とある人物たちによる商談が行われていた。

 

「いや〜、流石は王都商業ギルドの会長様、太っ腹でいらっしゃる。しかも肝が据わっていらっしゃる、オーランド王国王都商業ギルドは安泰ですな~」

「ハハハ、お褒めいただき恐縮でございます、ケビン・ワイルドウッド男爵閣下。

私共(わたくしども)もこの様な素晴らしい取引をしていただき、大変感謝しているのですよ。流石は救国の英雄、“聖者の行進”と謳われるそのご活躍は、ここ王都では知らぬ者などおりません」

 

互いに互いを褒めそやし、にこやかな笑顔を浮かべる狐と狸。

どうも、辺境のポンポコラクーン、ケビン・ワイルドウッド男爵です。

俺がなんでこの様な王都の大商人でもめったに入室を許されない経済の中心、王都商業ギルドの会長執務室にいるのかと言いますと、王城の王宮第二訓練場で行われておりました王家との直接取引が破談になったからですね。

俺の怒りの覇気(覇魔混合バージョン)に当てられて恐慌状態に陥った王宮関係者をよそに、王都商業ギルドの会長様と共に王城を抜け出して来たって訳です。

 

えっ、王都商業ギルドの会長さんって覇気に当てられて大丈夫だったのかですか?

いや~、こちらの会長様、中々凄いですよ?お話を聞いて貰わないといけないんで覇気はぶち上げるけど圧力は弱めるって言う気遣いのもと、周りの様子を見ながら調整を行ってはいたんですけどね。冒険者ギルドの総ギルド長が最大の警戒態勢で構えを取ってる中、獰猛な視線を送りながら微笑んでいるって言うね。

王都商業ギルドってどんだけ?国際取引を行う貿易商って皆こんななの?ワンチャンワイバーンのガーディンさんの前に立っても正気を保てるんじゃね?

いや~、マジで怖い。王都は魑魅魍魎の坩堝、蟲毒の壺って表現してたけど、その生き残りって最強の毒虫じゃん。俺なんか骨の髄までしゃぶりつくされちゃうわ、もう嫌。

 

「それにしてもよかったのですか?この買取価格は王城で拝見させていただきました王家の査定に多少の色を付けた程度のお値段となっておりますが?」

会長の疑問は(もっと)も。なんたって俺はその事に対してブチ切れて買取を蹴ったって事になっておりますからね。

 

「あぁ、あれですか。王家との交渉と商業ギルドとの交渉では話が全く変わって来るんですよ。

会長様は今回どういった経緯でホーンラビット伯爵家が大森林の素材を納品するに至ったかをご存じですか?」

「はい、概要は一通り。先の戦乱でのアルバート子爵家騎士団の活躍と北西部貴族連合・南西部貴族連合の躍進。今や三英雄の名を知らぬ者はいないでしょう。

王家としてはその原動力となったアルバート子爵家を放置する訳にはいかない。内に取り込む事が出来ないのならせめて爵位という形で縛り付けておかねばならない。

だが他貴族の手前褒賞を与えての大々的な陞爵とはいかない。であれば分かりやすく爵位だけを与えて対外的には自分たちの勢力の一翼といった形を取ればいい。

だが褒賞を与えない代わりの補填が必要だ、であれば大森林の素材を買い取ろう。陞爵し、ホーンラビット伯爵家となった辺境の貴族家には金が、王家には貴重な素材が手に入る。

互いに利益のある取引になる、そうなるはずであった」

 

「はい、その通りです。言葉を変えれば王家は大森林の素材取引でホーンラビット伯爵家を引き(とど)め、今後とも友好な関係を築き続けたいと思わせなければならなかった。

であれば利益度外視、そこまで行かずとも最低限の利益に留め、ホーンラビット伯爵家に王家の誠意を見せる必要があった。

彼らはそれを怠った。あまつさえ普段通りの感覚で王家に配慮せよと言わんばかりの査定金額を提示した。

 

これはただの取引ではない、あくまでホーンラビット伯爵家を優遇する為のものでなければならないのにも関わらずです。

彼らはただ大森林の素材を持ち込む取引先が出来たといった感覚しかなかったんです。

これは馬鹿としか言いようがない。

仮にホーンラビット伯爵家が冒険者ギルドなり商業ギルドなりの買取所を誘致してしまえば話は終わってしまう。

 

今回提示された素材買取ですが、我々ホーンラビット伯爵家騎士団の者が素材を持ち込んだ場合、買取価格の三割が税としてホーンラビット伯爵家に納められるとのお話でした。

この中抜きされた査定価格からさらに三割です。

冒険者ギルドであれば中抜き価格の中から半分を領主に、商業ギルドも似た様なものでしたか。

実際に大森林に入る者からしたらどちらが得かは一目瞭然でしょう?

 

それでも我々はホーンラビット伯爵領の領民であり臣下ですから三割の税はお支払いいたしますが、王家の中抜き四割は話が違います。

我々は別に大森林に素材採取に行く必要などないのですから、普通に王家とは距離を取るでしょうね。

偶に素材を取ってはグロリア辺境伯領領都にでも売りに行きますか?その方が余程利益になりますし。

王家は利益を求めてはいけないところで欲を出した、それだけの話です」

 

俺の話にハハハと乾いた笑みを浮かべる会長様。まぁ気持ちは分かります。

オーランド王国にとって王家とは絶対の権威、国内貴族は王家に対し絶対の忠誠の下、王家を立てねばならない。

これ迄はそれがオーランド王国の常識であった。

 

だが状況が変わった、グロリア辺境伯家が自治領宣言をし、ダイソン公国が独立を果たし、北西部貴族連合・南西部貴族連合・ダイソン公国の三勢力が同盟を結んだ今、王家の求心力は著しく低下したと言ってもいい。

下手をすれば南部貴族連合が誕生しオーランド王国を二分する事態に陥りかねない現在、王家の舵取りはこれまで以上に難しくなっていると言える。

その様な状況で全ての事態のキーパーソンと言えるホーンラビット伯爵家をないがしろにすることがどういう意味を持つのか。

 

「まぁそうは言いましても全ての事態はベルツシュタイン伯爵閣下の掌の上なんですがね。

あの方は本当に恐ろしい。おそらくはホーンラビット伯爵家の事は全て報告した上で先程私が述べた様なことも国王陛下を含めヘルザー宰相閣下や買取査定に当たるであろう部署の者たちに伝えていたはずです。その上で“眠れるドラゴンを起こすな”と忠告を行っていたのでしょう。

 

でもそれが決して正しく認識されない、今回のような事態が起きるであろうことも織り込んでいたはずです。

ホーンラビット伯爵家には金がない、これは事実。伯爵家とは名ばかりの辺境の農村ですよ?王都に屋敷を維持する事すら負担となるのがホーンラビット伯爵家の実情です。

 

ホーンラビット伯爵閣下は聡明です。今回王都で起きた婚約話の騒動、その事態の解決と再発防止という名目で王都に屋敷を構える事を回避なさった。相手に悟らせることなく本来の目的を果たす、ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下とはそう言う御方なのですよ。

 

失礼、話が逸れてしまいましたね。

ベルツシュタイン伯爵閣下はそうした背景から私が王都での素材買取を求める事も想定されていたはず。その為にわざわざホーンラビット伯爵領にて王家の素材買取の詳細までお話しされたのですから。

今回の一連の事態はベルツシュタイン伯爵閣下が王都を出発したその時から決定されていたのですよ。

多少の修正事項は買取素材としてワイバーンが登場した事くらいですかね」

 

そう言いニコリと微笑む俺に、納得と言った頷きを見せるベルナール・アパガード会長様。

この会長様もなんやかんやで上手く人の事を転がすんだろうな~、王都こえ~。

俺は内心冷や汗を流しつつ、今後ともよろしくと固い握手を交わすのでした。

 

――――――――――

 

飴色の艶のある長テーブル。壁に飾られた絵画には初代国王バルセリア・グラン・オーランドが行った建国宣言の模様が描かれている。

 

“コトッ”

メイドにより差し出された新しいお茶からは、心を落ち着けるカモネールの優しい香りが匂い立つ。

だがテーブルを囲む人々の表情は硬く、悲壮感に満ちていた。

 

“コンコンコン”

「失礼いたします。王都商業ギルド会長ベルナール・アパガード様が参りました」

「通せ」

 

扉の向こうから聞こえる待ち人登場の知らせに、低い声で入室許可を与える者。

 

「失礼いたします。王都商業ギルドベルナール・アパガード、国王陛下のお呼びにより参りました」

入室して来た者、王都商業ギルド会長ベルナール・アパガードは、列席する者たちの顔ぶれに緊張の色を強くする。

 

「ベルナール、此度はホーンラビット伯爵家騎士ケビン・ワイルドウッド男爵の相手、大儀であった。

彼の者はいかような者であったか、報告を頼む」

 

「はい、まずは国王陛下ならびにご列席の皆様方がお気になされているであろう事柄から。

彼の者、ケビン・ワイルドウッド男爵様は此度の件で王家と対立するつもりは無いとの事でありました。ただ、今後の取引に関しては慎重に行われた方がよろしいかと。

あの場でワイルドウッド男爵様が仰られた話の内容は脅しでも何でもなく純然たる事実。王家の対応いかんではいつでも実行に移される近しい未来。

その結果オーランド王国が二分化し、別国家が誕生しても何の不思議もない事を御心に御留め置きいただきたくぞんじます。

 

今やホーンラビット伯爵家の決断は、オーランド王国西部地域の意志。ホーンラビット伯爵家の発言力は、その武力と実績に裏打ちされ強力なものとなっております」

 

ベルナールの発言に再び眉間に皺を寄せる面々。

 

「陛下、何を悩む事がありますか!

あのケビン・ワイルドウッドなる者は明確に王家に脅しを掛けてきたのですぞ!?

その様なことが許される訳が無い、ここは全ての貴族に王家の威信を示す為にも、反逆者ケビン・ワイルドウッドを国家反逆罪とし処刑すべきです!」

 

王城の一室、重鎮たちが顔をそろえる会議室にて声を発した若者。

 

「ふむ、その方はブライアント第二王子殿下の側近の者であったか。ブライアント第二王子殿下、殿下も同様のお考えという事なのでしょうか?」

宰相ヘルザーの問い掛けに、第二王子ブライアント・ウル・オーランドは不機嫌といった感情を隠す事なく口を開く。

 

「確かに彼のケビンとやらは驚異的な存在ではあった。ワイバーンを討伐し、大森林を闊歩する。我がオーランド王国でも一角の強者と言ってもいいだろう。

だがそれだけだ。人というものは決して一人で生きて行けるものではない。家族が、友人が、住み暮らす地域の者が。その全てが敵に回った時まともでいられる者など存在しない。

王家を、オーランド王国を敵に回すという事はそうしたこと。

この国であ奴の生きる事の出来る土地は既にない。

嘗ての勇者たちがそうであったように、突出した実力を有する個人であろうとも、人の世で権力に逆らう事など不可能。

我々は示さねばならないのだ、オーランド王国の支配者が一体誰かという事を」

 

“毅然とした態度で王家の威信を示せ”、第二王子は国家の指導者としてその範を示す道を選んだのであった。

 

「はぁ~、皆様にお聞きします。ただいま第二王子殿下が仰られた事に賛同なされる方はおられますか?

まぁ念の為の問い掛けと思っていただければと」

声を発したのはハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵、王都諜報組織“影”の総帥である者。

 

“ガタガタガタガタ”

第二王子の発言に賛同するものが席を立つ。それは王宮第一・第二・第三騎士団の団長、王都中央貴族と呼ばれる者たち。

彼らの思いは一つ、ホーンラビット伯爵家騎士団より受けた屈辱に一矢報いたいというもの。

 

国王ゾルバ・グラン・オーランドはその者たちの顔ぶれを眺め、大きくため息を吐いた。

“我が国の貴族どもはここまで状況の判断が出来ないのか”と。

先のダイソン公国との戦乱、精霊砲や炸薬といったバルカン帝国の最新兵器が無かったとして、果たして我が国は無傷で戦乱を治める事が出来たのか?

この驕り高ぶった者たちに国の守りを頼まねばならぬほど、我が国は落ちぶれてしまっていたのかと。

 

「ヘルザー、どうやら我が国は終焉を迎えてしまっていた様であるな。この様に物事に鈍感な者達が国の重責を占めているとは。

王宮騎士団第一・第二・第三騎士団長並びに副団長、これまで国の守りとして王家に尽くしてくれた事、感謝に堪えない。

これからはゆるりと余生を送るがいい。

それと今この場で席を立った者たちは登城ご苦労だった、後は我々で話を進めるが故、それぞれの屋敷に帰り休むがいい。

誰ぞ城外へ送ってやれ」

 

「「「ハッ、国王陛下」」」

「「「「なっ、国王陛下、何卒ご再考を!!」」」」

 

言葉虚しく退室を命じられる高位貴族と元騎士団長達。

 

「国王陛下、何故です!?

彼らは国を憂い、王家に忠誠を示さんと立ち上がった者たち、それを・・・」

「ブライアント、お前の言わんとするところも分からんでもない。

確かにまともな王国国家、王国国王としては王家に牙むく発言をした者を放置する様な事はあってはならない。

たとえそれがこちらの落ち度であったとしてもそれを認めることは出来ない。

 

だが此度は話が違うのだよ。

お前は単身バルカン帝国帝城を落とせと言われたらどうする?

いや、我がオーランド王国王城でも構わんが」

 

何を言ってるのかが分からない、そういった表情で困惑を示すブライアント第二王子。

 

「半日、彼の者がそれを成すのに必要とする時はそれ以下か。

我々が相手にしているのは伝説のドラゴンと変わらぬ相手ということだ。

更に言えばソレよりも狡猾で思慮深い。彼の者がその気であればその支配体制を変えることなく全てを塗り替える事が可能なのだよ。

そうであろう?オルセナ・バルーセン公爵よ」

“ビクッ”

 

国王ゾルバに掛けられた声にビクリと身を震わせる者、ソレは王都中央貴族の長バルーセン公爵。だがその姿はとてもではないが魑魅魍魎蠢く王都中央貴族を纏める者の姿とは思えない。

 

「ブライアントよ、お前は若い。多くを学び多くを知る必要がある。

納得が行かないというのなら納得が行くまで行動するといい、その責任は我が持とう。

例えそれでオーランド王国が終わろうともソレは遅かれ早かれであったと言うこと。彼の者、ケビン・ワイルドウッド男爵は一度動き出したのなら誰にも止めることが出来ぬ故にな」

 

国王ゾルバはそう言うとブライアント第二王子に退室を命じる。

会議は続く、ホーンラビット伯爵家との関係改善の落とし所を求めて。

その場から弾かれたブライアント第二王子は、自分の何が間違っていたのかと一人自問自答を続けるのであった。




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