転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第444話 辺境の伯爵、帰村する

「えっ、マジ?了解、すぐ戻る。

月影、残月、買い物は終わりだ。直ぐにマルセル村に帰るぞ。

月影はギースさんに連絡、グロリア辺境伯家王都屋敷に戻ってくれ。

俺は屋敷に戻り次第馬車とシルバー、ロシナンテを影空間に収納、その足でホーンラビット伯爵閣下に帰村する旨の報告を行う」

「「はい、ご主人様」」

 

夢の時間は終わった。

素晴らしきかな、ぬいぐるみワンダーランド。

 

「店主、私は必ず帰って来る!

その時に新たな出会いがあることを期待しているぞ」

「「「はい、またのご来店、お待ちしております!!」」」

 

王都の片隅に店舗を構えるぬいぐるみ工房モフモフマミー。四代目店主ポーラ・キムーラは思う、“太客来た!?”と。

初代店主マサミ・キムーラから伝えられる言葉、“モフモフは正義”。代々その言葉を信じ研鑽を怠る事は無かった。

だがポーラはただ可愛らしいだけのモフモフに満足することは出来なかった。彼女は悩んだ、様々な場所に足を運びインスピレーションを刺激する対象物を求めた。

お野菜シリーズ、働く魔物たちシリーズ、世界の従魔たち。

様々なヒット商品を出すも、彼女の中のモヤモヤは消える事が無かった。

 

それは偶然であった、知り合いの書店店主が手に入れたという古い魔物図鑑。だがそこに記されていたのは大魔境に生息するとされる古代魔物や南海の孤島に棲むとされる伝説の存在。

これだ!と思った。

昆虫系魔物シリーズ、これまで手掛けた事のないジャンルへの挑戦は、彼女の中に燻っていた<仮性心>を強烈に刺激する事となった。

 

“<仮性>は<仮性>を知る”

この出会いは必然。

理解者(あぶく銭を持った勇者病仮性重症患者)の支援を受けたクリエーター(仮性心溢れるぬいぐるみ職人)が今後どのような世界を創り出すのか。

天上の者たちは、人類の発展を静かに見守るのであった。

<称号:理不尽に認められし者>

<加護:裁縫神の加護>

進呈

(PS:海洋シリーズをお願いします。by裁縫神)

 

―――――――――

 

“コンコンコン”

「失礼します。ホーンラビット伯爵閣下、ワイルドウッド男爵様が至急ご報告したいお話があるとお見えになっておられますが、いかがいたしましょうか?」

 

グロリア辺境伯家王都屋敷、その来賓の間において会談を行っていたホーンラビット伯爵は訪ねてきた人物の“至急報告したい話”という部分に眉根を寄せる。

 

“スーーッ”

ホーンラビット伯爵はテーブルのティーカップを口に付け、軽く深呼吸をしてから執事バレリアにワイルドウッド男爵の入室を促す。

 

「失礼いたします。ホーンラビット伯爵閣下、ご会談中の所お邪魔いたしまして申し訳ございません。

ヘルザー宰相閣下、ベルツシュタイン伯爵閣下、先日は王城にて大森林の素材鑑定を行っていただき大変ありがとうございました。

残念ながら商談の合意には至りませんでしたが、今後ともホーンラビット伯爵家をよろしくお願いいたします」

 

そう言い頭を下げるケビン・ワイルドウッド男爵の登場に、妙な緊張感に包まれる室内。

 

「あっ、あぁ。王城では大変失礼した。本日はホーンラビット伯爵にその件についての詫びと今後の取引に関しての相談に参ったのだよ。

大森林の素材取引に関しては先だってワイルドウッド男爵が提案してくれた王家主催のオークション案で合意を見てね。

今後は王家からの担当官がホーンラビット伯爵領に素材を受け取りに行き、それらを王都にてオークションに掛ける事となった。

ワイルドウッド男爵にはその旨、納得していただきたいのだが」

 

王城での一件、その現場を間近で目撃していた宰相ヘルザーは、細心の注意を以って目の前の理不尽に声を掛ける。

 

「はい、私共ホーンラビット伯爵家騎士団の者はホーンラビット伯爵閣下の臣下、ホーンラビット伯爵閣下の取り交わした決定に否やはありません。

王家とホーンラビット伯爵家の間に友好が結ばれましたこと、誠におめでとうございます」

 

ケビン・ワイルドウッド男爵はそう言うと、室内にいる三者に対し慇懃に礼をするのであった。

 

「それはそうと、ケビンは私に何か話が有ったのではないかね?」

「はい、ですがこの場でお話ししてもよろしいのでしょうか?」

 

ケビンはホーンラビット伯爵の顔を覗き、判断を仰ぐ。

そんなケビンの様子に一抹の不安を覚えるホーンラビット伯爵。

宰相ヘルザーとベルツシュタイン伯爵は一体どのような事態が起きたのかと顔をこわばらせる。

コクリと首を縦に振るホーンラビット伯爵に、ケビンはその重い口を開くのだった。

 

「ホーンラビット伯爵閣下、実は先程マルセル村の私の配下から連絡がありまして・・・」

「「「マルセル村から連絡が・・・」」」

 

“ゴクリッ”

それは誰かが生唾を飲んだ音。緊張が高まる、やけに周りの音がよく聞こえる。

 

「ミランダ奥様、デイマリア奥様が揃って産気付いたと。

ホーンラビット伯爵閣下に急ぎお知らせして欲しいとの事でした」

 

「「ハァ~、いや、ホーンラビット伯爵殿、おめでとう」」

それは何の事は無い、ホーンラビット伯爵領からの目出度い知らせ。ホッと肩の力を抜き笑顔を見せるヘルザー宰相とベルツシュタイン伯爵。

だがそんな中で静かに席を立つ者が一人。

 

「ヘルザー宰相閣下、ベルツシュタイン伯爵閣下、本日は有意義な会談を行っていただき誠にありがとうございました。

今後ともホーンラビット伯爵家とのお付き合い、よろしくお願いいたします。

大変申し訳ありませんが我が領にて緊急事態が発生いたしましたので至急戻らねばなりません。

お越しいただいておりながら離席するご無礼をお許しください。

 

バレリアさん、王都屋敷代官殿に出立のご挨拶を行います。代官殿に連絡を。

では申し訳ありませんが失礼いたします、ケビン、参りますよ?」

 

「ハッ、ホーンラビット伯爵閣下。では皆様、失礼いたします」

 

そそくさとその場を後にするホーンラビット伯爵たちに呆気にとられるヘルザー宰相とベルツシュタイン伯爵。

 

「ベルツシュタイン卿、ホーンラビット伯爵殿の奥方殿は愛されておるのだな。私はあの様な貴族家当主は初めて見たぞ」

「ハハハ、そうですね。ホーンラビット伯爵家を通常の貴族の常識で見てはいけないと改めて思い知らされた思いです。

では我々からはお子様の誕生祝いでも送っておきますか、ホーンラビット伯爵殿は領地に戻られているでしょうから影の者にでも届けさせましょう」

 

王都に訪れた嵐が過ぎ去って行く。

嵐の訪れにより大きく搔き乱された王宮内の権力構造、王都の偉い人たちは残された仕事の大きさにゲンナリとしつつ、自らの使命を胸に動き出すのであった。

 

――――――――――

 

「グロリア代官殿、バレリア殿、使用人の方々、王都滞在中は本当にお世話になりました」

 

「いやいや、ホーンラビット伯爵殿は大変すばらしいお客人であったと執事バレリアから報告を受けている。これはメイドたちからも同様の報告が届いている。

我が家を訪れるお客人はどちらかと言えば王都に嘗められない様にと変に肩ひじを張って横柄な態度を取る者も多くてな。

その点ホーンラビット伯爵殿はこちらとしても歓迎のし甲斐のあるお客人であったよ。

また王都にいらした際はぜひ顔を出して欲しい、その際はゆっくり酒を飲み交わそうではないか」

 

そう言い笑顔で握手を交わす両者。そんな主人と客人の交流に自然微笑みを浮かべる使用人たち。

 

「それよりも馬車の準備はどうなっておるのか?誰ぞ、ホーンラビット伯爵殿の馬車を「あぁ、それは既に収納してしまいましたので。ホーンラビット伯爵様、よろしいでしょうか?」」

 

言葉を遮るように発言したホーンラビット伯爵家の騎士に、訝しみの視線を送るグロリア王都屋敷代官。

 

「グロリア代官殿、その御言葉、ありがたく受け取らせてもらいます。皆様方もお元気で。

ではケビン、行くとしようか」

「ハッ、ホーンラビット伯爵閣下、ギース殿、参ります」

 

“ズズズズズズッ”

ケビンの言葉を合図に彼の影が大きく広がり、その場に立つホーンラビット伯爵と騎士ギースの下に行きつくと、その姿を影の中へと沈めて行く。

 

「「「なっ!?」」」

驚愕に目を見開くグロリア辺境伯家王都屋敷の面々。

 

「では我々はここで失礼させていただきます。

滞在中は大変お世話になりありがとうございました」

 

“ドサッ”

それは突然現れた巨大な何か。

 

「これはほんのお礼と言いますか、大森林深層部で獲れる巨大トカゲですね。確かレッサードラゴンとか言ったかな?

調理法は焼いてヨシ、煮込んでヨシの便利な食材ですので、皆さんで楽しんでください。

本当にありがとうございました」

 

“シュピンッ”

一礼の後、突如姿を消す騎士ケビン。

だがそれが夢や幻ではないという事は、目の前に残された巨大な魔物の素材が物語る。

 

「バレリア、これ、どうすればよいと思う?」

「そうですね、冒険者ギルドに解体を依頼すればその噂が直ぐに立つでしょうし、ここは一度王家に献上し、可食部位を下賜(かし)していただくという事で話を付けてはいかがでしょうか?

幸いヘルザー宰相閣下とベルツシュタイン伯爵閣下が未だお帰りになられておりませんでしたので」

 

「ハハハハ、何とも都合のいい話であるな。これも全て計算の内であるとすれば、ホーンラビット伯爵殿は何とも恐ろしいお方であるな」

 

グロリア辺境伯家王都屋敷に広がる乾いた笑い、王都に訪れた嵐は、最後に大きな爪痕を残して去って行ったのであった。

 

――――――――――

 

「グウウッ、クウ~~~~~ッ」

「確りしな、赤ちゃんを無事に生む事が出来るのは母親であるアンタだけなんだ。

大体初産でもないんだから、しっかり頑張んな!

ヒ~ッヒ~ッフ~~~~~、ヒ~ッヒ~ッフ~~~~~。

ほら、一緒にやるんだよ!」

「「ヒ~ッヒ~ッフ~~~~~、ヒ~ッヒ~ッフ~~~~~」」

 

ホーンラビット伯爵領ホーンラビット伯爵家仮本邸、そこではお腹の大きくなった女性たちが出産を控え集団生活を行っていた。

そんな中屋敷当主夫人のミランダとデイマリアが産気付き、今にも出産という状態を迎えているのであった。

 

「デイマリア奥様、何もお力になれず申し訳ありません。

直ぐに旦那様が御戻りになられます、今しばらくのご辛抱でございます」

 

メイド長カミラは自身の大きなお腹を抱えながらも、出産の苦しみに唸るデイマリアに励ましの言葉を送る。

 

「あっ、セシルさん、こっちの方が先に生まれるかも」

「はぁ~、なんだってこの二人はこんなにも仲がいいのかね〜。

十六夜、聖水の準備は出来てるんだろうね?」

 

「はい、ご主人様からお預かりした聖水はこちらの甕に入っています。時間停止機能付きのマジックバッグに保存しておきましたので、効能に問題はありません」

「よし、ここからが正念場だよ、みんな気合いを入れな!」

「「「はい、セシルさん」」」

 

“ドタドタドタドタ、バタンッ”

「ミランダ、デイマリア、無事か!?」

そんな緊迫した出産現場に飛び込んで来た者、それは二人の夫にしてホーンラビット伯爵家の当主、ドレイク・ホーンラビット伯爵であった。

 

「入って来るな馬鹿もんが!!母体に負担が掛かるだろうが!

誰かそこの馬鹿を摘まみだしな!!」

室内に助産師セシルの怒声が響く。

 

「旦那様、あぁ、間に合ったのですね。すぐにでも元気な赤ちゃんを、ウーーーーーーッ!!」

「旦那様、扉の向こうでお待ちください。ここは女性の聖域ですので。ウッ、こちらも始まりました」

 

妻たちの言葉に動揺しオロオロするドレイク。

 

“ニュ~~~ン”

「えっ、なに?うわ~~~~、ミランダーーー、デイマリアーーー!!」

突然伸びる魔力の触腕がそんなホーンラビット伯爵を掴み上げると、叫び声を上げる伯爵を廊下の先へと引っ張って行く。

 

「いや~、セシルおばあさん、大変申し訳ない。影空間から出した途端走り出してしまったもので、ご迷惑をお掛けいたしました。

<清浄化><聖域結界><癒しの覇気>

これで無事な出産を迎えられると思いますよ?

では邪魔者はこれで」

“パタンッ”

 

閉ざされた扉、残されたのは清浄な空気に包まれた癒しの空間。

妊婦たちはこれまで感じていた痛みの一切がなくなり、まるでそれが自然であるかのように、ともすれば幸福感と快感に包まれながら新しい命を誕生させて行く。

産まれたばかりの命たちは大きな産声を上げ、自身の存在を主張する。

 

「えっとセシルさん、私これまでこんなに気持ちよく子供を産んだことなんてないんですけど、これって一体・・・」

「セシルさん、本当にありがとうございます。無事に丈夫な赤ちゃんを出産する事が出来ました」

困惑気味な声を上げるミランダと、無事に出産を終えられたことに感謝の意を示すデイマリア。

 

「「あの、セシルさん、私たちも生まれそうなんですけど」」

「だ~、ケビンの坊主は一体何をしたんだい。誰か、急いでベッドの部屋を用意しな、それとケビンを呼んでおいで、大至急だよ!!」

 

マルセル村にまた新しい命が誕生した、春の訪れはそんなマルセル村の人々を祝福するように、木々に若葉を芽吹かせるのであった。

 




本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora
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