転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第446話 転生勇者、授けの儀に向かう (2)

“パッカパッカパッカパッカ”

地方都市エルセル、そこはグロリア辺境伯領北西部に位置する周辺農村部の要。人々はエルセルに集まり物を売り、エルセルで物を買ってそれぞれの集落に帰って行く。

ある意味地域の生命線とも呼べる場所、それがここエルセルと言う街。

 

嘗てこの街に巣食っていた巨悪は当時の領主マケドニアル・フォン・グロリア辺境伯の手により一掃され、一時は街としての勢いを落としたものの現在では周辺地域一治安の良い安全な街と呼ばれるに至っている。

そんなエルセルの街を影に日向に支える者、それがここエルセルの監督官ストール・ポイゾンであった。

 

「失礼します。俺、じゃなくて私はホーンラビット伯爵家騎士ジェイク。

ホーンラビット伯爵閣下の先触れとして参りました。

えっと、ホーンラビット伯爵閣下は元アルバート子爵閣下の事です。

王都で陞爵式を受け家名をホーンラビット家と改められました。

ストール・ポイゾン監督官様にお取り次ぎをお願いします」

 

エルセルの街の監督官屋敷を訪れたのは歳若の騎士であった。

その初々しい口上に、思わずクスリと笑みを漏らす門兵たち。

 

「相分かった、今家令に伝える故騎士ジェイク殿はその場で待たれよ。

おい、誰かバトラー執事に連絡を」

動き出す門番の姿に自身の役割を無事に勤められたとホッと胸を撫で下ろす騎士ジェイク。

 

“ケビンお兄ちゃん、これ目茶苦茶緊張するんですけど。何事も慣れだからって行き成りの無茶振りが過ぎるんだけど!!”

自身の指導官でもある先輩騎士ケビンの突然の指示に、内心悪態を吐くジェイク。そんな彼の姿を少し離れた場所から温かく見守るマルセル村の一行。

 

「トーマスさん、ジェイク君は背も高いし身体付きが確りしてるから騎士姿が似合いますね」

「そうか?やっぱりケビンから見てもうちの息子はそう見えるか?

俺もあいつは何時かはやる男だと思ってたんだよ。まさか騎士様になるとまでは思ってなかったけどな。

こう言うのはなんていうんだっけ?ビッグクローがワイバーンを生むだったっけ?

何にしても俺には過ぎた息子だよ」

 

「何言ってるんですか、そんなトーマスさんやマリアさんも同じ騎士じゃないですか。こう言うのはドラゴンの子はドラゴンって言うんですよ。

いよ、騎士一家!!」

「よせやい、それを言ったらヘンリーの所は男爵様一家じゃないか。

ご身分が違いますよ、男爵様?」

「「アハハハハハ」」

 

若者の成長は速い。見守ってきた我が子の成長した姿に喜ばない親はいない。

父親であるトーマスと村のお兄ちゃんであるケビンは、授けの儀を迎え世の中に大きく羽ばたこうとしているジェイクに優しい眼差しを向け、彼の未来がよりよいものである事を願うのでした。

 

―――――――

 

「これはこれはホーンラビット伯爵閣下、ようこそエルセルの街監督官屋敷へ。

このストール・ポイゾン、心から歓迎させて頂きます」

「これは丁寧な挨拶、感謝する。

此度は娘エミリーの授けの儀があって、グロリア辺境伯領領都グルセリアに向かう為立ち寄らせていただいた。

我がホーンラビット伯爵領とエルセルは立地を近しくしている故今後とも何かと交流があろう。これからも変わらぬ付き合いを頼む。

 

と言うかこうした挨拶はこの辺でよろしいのではないでしょうか?先ほどから配下の者の生暖かい視線がとてもつらいのですが。

監督官様もその口角を上げたお顔は楽しんでおられますよね?」

 

貴族然とした挨拶に苦痛を感じ、降参の意を示すホーンラビット伯爵閣下。その気持ちよく分かります。

俺も騎士様の口上は目茶苦茶緊張しましたんで。

 

「ククククッ、ドレイク閣下、これは慣れですぞ?以前は腹黒村長の演技を貫き通しておったではないですか、大丈夫です、ドレイク閣下ならやり遂げますとも。

ワイルドウッド男爵殿もそう思われるであろう?」

「はい、我らがホーンラビット伯爵閣下にはこれまで以上にホーンラビット伯爵領の領主として辣腕を振るって貰わねばなりません。

伯爵閣下の時と場合に合わせた言動には、日々学ばせていただいております」

そう言いスマートな返答を行い礼をするケビンお兄ちゃん。

改めて聞くけどケビンお兄ちゃんって僕たちと同じ辺境の村育ちだよね?何でそんなにあっさりとお貴族様の会話に馴染めるの?

俺はそんな疑問を持ちつつ隣のエミリーに視線を送る。エミリーは首を横に振り“分かんない”と言う意思を伝えて来る。

 

マルセル村の不思議ケビンお兄ちゃん、もしかしたら過去の大賢者様か何かの生まれ変わりなんだろうか?そうだったら全ての辻褄(つじつま)が合いそうなんだけど、シルビア師匠はよく分かんないって言ってたんだよな~。

本当に謎です。

 

「まぁまぁホーンラビット伯爵閣下、そう怒るな。これも貴族社会の習い、流石に私も伯爵閣下を呼び捨てに出来る程の権限は与えられていないのでな。これは私の為と思って許していただきたい。

詫びと言っては何だが良い酒が手に入りましてな、少し唇を潤しながら王都の土産話でも聞かせていただけるとありがたい」

 

ストール監督官様のお誘いに笑顔を見せるホーンラビット伯爵閣下。

どうやら今夜はトーマスお父さんも一緒に、色々と会話に花を咲かせるようです。

僕たちですか?メイドさんに案内されて別々の部屋で就寝ですが?

あの、エミリーは伯爵家のお嬢様ですから、同衾なんてあり得ないですから。お貴族様の世界の身分格差は厳しいんです、だからエミリーはそんな顔でこっちを見ない様に。(ケビンお兄ちゃん情報)

 

 

「ではホーンラビット伯爵閣下、グロリア辺境伯閣下によろしくお伝えください」

「はい、エルセルの街の運営は滞りなく行われているとお知らせさせていただきます」

 

翌早朝、監督官屋敷を出発した僕たちは、次の街ミルガルに向け馬車を進めます。

 

「ねぇエミリー、やっぱりお貴族様って凄いんだね。

門兵様方が敬礼して見送ってくれているし、街門でも並ぶ事なく入街出来るからたった一日でマルセル村からエルセルまで到着したし」

俺の言葉に本当にねといった顔を向けるエミリー。

 

「私、お母さんがお貴族様出身って事も知らなかったし、まさか自分がお貴族様になるとも思ってなかったからお嬢様って呼ばれてもお遊びの延長みたいな感覚しか持てないの。

でも少なくとも学園に入ったらそうした自覚は持たないと。

私の言動が延いてはドレイクお父さんやマルセル村の皆の評判を落とす事にもなりかねないし。

ジェイク君、お願い。私の事、守ってくれる?」

そう言いなんだか気弱な様子になるエミリー。普段明るいエミリーも、お姉ちゃんのパトリシアお嬢様から王都中央学園の様子を聞いたり貴族社会の話を聞いたりして不安になってるんだろう。

これまではまだまだ先の話の様な気がしていた学園入学、でも授けの儀を迎える事でそれが間近な現実へと変わって来る。

エミリーは伯爵家の御令嬢という立場から王都の中央学園へと通わなければならない、それはどれ程不安で心細い事だろう。

 

「大丈夫、俺に任せておけ。

ケビンお兄ちゃんに聞いたんだけど、王都中央学園はある程度の魔力量を示せば問題なく入れるんだって。過去には無詠唱を行う事でグルセリアの学園から王都中央学園に転校して行った生徒もいたらしいし、授かる職業が上級職と呼ばれる物じゃなかったらその辺を調整する事で入学できるようにするから。

何かケビンお兄ちゃんはグルセリアの教会の司祭様と親しいらしくって、その辺は融通が利くって言ってたし、エミリーは心配しなくて大丈夫だから」

 

俺は馬上で隣を並走するエミリーに力強く言葉を向ける。

そんな俺の言葉に表情を変え花の様な笑顔を見せるエミリー。

 

「ありがとう、ジェイク君。いつまでも頼りにしてるね」

「おう、任せとけ!!」

 

馬列は進む、一路領都グルセリアを目指して。

俺たちの大人への第一歩、授けの儀を受ける為に。

 

――――――

 

「おばちゃん、やってる?お腹空いちゃった、お任せで五人前お願い」

エルセルの街から二つほど行った村に一軒だけ開いた宿屋、その扉を開け元気に声を掛ける俺氏。

どうも、辺境の田舎男爵、ケビン・ワイルドウッドです。

 

いや~、どうもこうも無いですわ、エミリーちゃん、攻める攻める。

いつの間にあんな高等手段をと言わんばかりの猛攻、まさに青春ラブストーリーの1ページ。

ジェイク君、コロッと行っちゃってるし。トーマスおじさん、目を細めながら“俺にはあんな青春はなかったな~”とか言って、凄く眩しそうな物でも見る様な顔をしてるし。

 

でもお二人さん、これって全てエミリーちゃんの作戦だから、至極冷静に淡々と任務を熟す諜報員のそれだから。

こえーよ、マルセル村の女衆の英才教育、こんなん男だったらコロッと行っちゃうっての。

特にエミリーちゃんは積み上げ続けてきた歴史が違うからね、飴と鞭ならぬ、愛らしさと(こぶし)だから。

普通にDVだから、トラウマものだから。

でもそこはマルセル村の女衆の指導が効いているのか、はたまたジェイク君の勇者力が凄いのか破綻してないって言うね。

これって勇者病<真性>のM気体質がある種の修行って認識しちゃってるんだろうか。いや、ボビー師匠曰く、ジェイク君は勇者病<極み>らしいから、全てを飲み込む度量がある?

<仮性>患者の俺にはよく分からない感覚だけど、<真性>にしろ<極み>にしろ、世の中に影響を与える人たちって凄い。

 

一般に広く知られる勇者病患者ですが、冒険者ギルドで活躍する白金級や金級冒険者たちの多くがこの<真性>や<極み>に罹患していると言われています。

では<仮性>患者はどうなのか。はい、痛い人扱いですね。

以前お世話になったロナウド君がその代表例、侯爵家の家人はおろか領民からも痛い者を見る様な目で見られていたそうです。(アイリスさん情報)

つまり普段私に向けられている目と一緒って訳でございます。

 

黒歴史を刻みつつ世の中に羽ばたく<真性><極み>患者(例:鬼神ヘンリー、守護者シンディー)、片や世間の片隅に埋もれる<仮性>患者(例:ケビン君、ロナウド君)。

その差は歴然、ジェイク君には是非大きく羽ばたいて欲しいものです。

 

まぁそんな甘々でキュンとする青春を見せ付けられた俺とトーマスおじさんにはインターバルが必要って事で、少し早いですがいつもの村の宿屋の食堂に顔を出したって訳です。

 

「おや、ケビンの坊やじゃないかい。久し振りだねって随分立派になったって言うかどうしたんだいその格好、なんかどこぞの騎士様みたいな恰好なんかしちゃって」

「いや~ご無沙汰しちゃってすみません。女将さんも聞いてるとは思うんだけど、マルセル村一帯が独立した貴族領になったじゃないですか。

その関係でなんやかんやあって村の騎士をやってるんですよ。

あそこって地位ばかり上がっても村の内情は変わらないですからね、よそ様から騎士様を雇うほどの余裕はないって言うか、名目騎士?

俺たちなんて農業の傍ら騎士をやってる自警団みたいなもんですからね。

農兵ですよ、農兵」

 

俺の言葉に目を見開いて驚く女将さん。まぁ普通驚くわな、名目とは言え旅立ちの儀を迎える前の村人が準貴族である騎士になったなんて言われたら。

でもごめんなさい、俺、準貴族じゃなくって男爵っす。

驚かせるのも悪いんで黙っておきますが。

 

「はぁ~、世の中何が起きるのか分からないものだね~。

ついこないだまでは戦争があって、そのあおりでこの辺も物騒になってたし、ケビンの坊やも気を付けて行くんだよ。

騎士様なんて言ったら真っ先に戦わなくっちゃいけない立場なんだからね」

「ハハハハ、大丈夫ですよ、ウチには強い仲間がいますから。

ほら、何年か前に野営地で魔獣に襲われたって話をした事があったじゃないですか。あの時一緒に居た子供がこっちの二人ですよ。

もう成長がいいもんだからすっかり頼もしくなっちゃって、俺なんかより全然大きいんだもん、参った参った」

 

そう言い背中をバシバシ叩くと、照れ臭そうに女将さんに頭を下げるジェイク君。

 

「え~~!!あの時の坊やがこんなに立派になったのかい!?

とんだ男前じゃないか。それにあの女の子がこんなに綺麗になっちゃって。マルセル村はどんなおとぎ話なんだい。

あたしもビッグワーム干し肉を食べればその子みたいにキレイになれるのかね?」

女将さんの言葉に照れ臭そうに頬を赤らめるエミリーちゃん。

うん、二人とも初々しい。

 

「ハハハ、それはどうか分かりませんが、実はすごい商品がございまして」

俺は収納の腕輪からサッと聖水布と天使の贈り物(ローポーション軟膏)を取り出します。

 

「最近とみに美しくなられたエルセルとミルガルの教会シスター様方の秘密、ご興味ございませんか?」

“ゴクリッ”

どこかから聞こえる生唾を飲む音。

女性は幾つになっても美しくありたいもの。マルセル村の特産品でもある美容商品の数々、お買い上げ、ありがとうございます。

 




本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora
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