爽やかな朝の目覚め、心の隅に燻り続けていた思い、“ジニー師匠に大福を紹介したい”という願いが叶った私、まるで心に翼が生えた様な心地でございます。
おはようございます、世界はこんなにも輝いていたんですね、辺境の男爵、ケビン・ワイルドウッドです。
ジニー師匠、流石でございました。
このケビン、合体までは思いが至りませんでした。俺はこの十五年一体何をやっていたんだ。
フォレス君とウッド君とビー君の見事な連携、まるで某アニメのジェット〇トリームアタックの様な整列からのトーテムポール。
「千と〇尋の神隠し」に出て来た髭面頭がやっていたあれですよ。
そこからぺこりとお辞儀って〇ーミン谷の〇ョロニョロですか?水族館にいるチンアナゴですか?ミーアキャットの警戒態勢ですか?
負けた、完全に負けました。
彼らが今後見せてくれるであろう新たなる世界、合体のロマン。
これからもジニー師匠の活躍から目が離せません。
凄い楽しかった。
ってな訳でお楽しみはここ迄、今日からは真面目に公務に励みたいと思います。
ラッセル村の先は草原地帯、そしてこの旅最大の難所、オークの森。
春先は多くの魔物が冬眠から目覚め、餌を求め彷徨う時期。当然のようにオークの森ではフォレストウルフやマッドボア、オークやワイルドベアなんかが徘徊するはず。
「という訳で本日の行程では魔物に対する警戒をこれまで以上に行ってください。草原のグラスウルフ然り、魔物の待ち伏せの危険性が大変高くなっています。
索敵や魔力探知は怠らない様に」
「「はい、ケビン先輩」」
警戒しつつ先頭を進むジェイク君とエミリーちゃん。我々ホーンラビット伯爵閣下一行は今日の目的地ミルガルを目指し、春の草原の街道に、軽快に馬を走らせるのでした。
“バッ”
先頭を行くジェイク君から全体停止の合図が出される。
ジェイク君とエミリーちゃんの視線は街道の前方を見据えている。
街道の真ん中には何やら蠢く物体、それはともすればロープに縛られた体躯の大きな男性にも見える。
「ケビンお兄ちゃん、俺、こんな光景前にも見た事があるんだけど」
「エミリーも。なんか凄い懐かしいと言うか呆れると言うか」
そんな二人の言葉に苦笑を漏らしつつ俺はとあるスキルを発動する。
「<出張:ブー太郎>」
地面に現れる光の六芒星、その魔法陣の中心に光の粒が集まり、一つの人型を作り上げる。
「ちょっとケビンさん、行き成り呼び出すのは止めてくださいよ。今は畑仕事が忙しい時期なんですから」
鍬を振り上げた姿勢で現れた偉丈夫は、周囲に見知った顔を見つけるや文句の言葉をぶつけて来る。
「あぁ、それは申し訳ない。目の前の光景についブー太郎を呼び出しちゃったんだよ」
そう言い街道を指差す俺に、鍬を下ろし視線を向けるブー太郎。
「あれってもしかしてお友達?」
“ブヒッ、フゴフゴ!?”
(石工のおっちゃん、なにやってんの!?)
人族の言葉も忘れ、叫び声を上げて縛られた芋虫に近付くブー太郎。どうやらお知り合いだったようです。
“ヴ~ヴ~ヴ~”
何やら呻きながら後退りする芋虫、口元を蔦のようなもので縛られているみたいです。
“フゴヒーフゴ、ブヒフゴ”(おっちゃん、俺だよ俺、木の実拾いだよ)
“ヴヴ?ヴーヴー”
“フゴッ、ブヒフゴ”
(何言ってるのか分からないよ、取り敢えず向こうに運ぶから)
ブー太郎は芋虫に一言二言語り掛けると、その巨体をヒョイと担ぎ上げ、そのままこちらに戻って来るのでした。
“ブハ~ッ、ブホヒー、フゴブヒ”
(ブハ~ッ、人族ばっかり、お願い殺さないで)
ブー太郎が口元の蔦を外した途端命乞いを始める芋虫オーク。そんなオークにブー太郎は優し気な笑みを向け語り掛けます。
‟フゴ、ブヒフゴブヒ。フゴゴブヒフゴ”
(おっちゃん、さっきも言ったけど俺木の実拾いだから。人族に拾われてから進化したんだよ)
流れる様な金髪を掻き分けてからそう告げるブー太郎に、お口ポカンとなる芋虫オーク。
“ブゴ、フゴッゴ”
(お前、本当に木の実拾いなのか?)
“フゴフゴヒー、ブゴフゴブヒ”
(だからさっきからそう言ってるじゃん、まぁ何があったのかは想像が付くけど)
芋虫オークを見詰め、呆れとも寂しさともつかない表情になるブー太郎。
「ケビンさん、すみません。こちら俺の古い知り合いで石工のおっちゃんって言います。申し訳ないんですけど、おっちゃんも御神木様の所で生活させていただいてもよろしいでしょうか?
ここで開放しても、いずれまた同じ目に遭いそうですんで」
「まぁ別に構わんけど、人手はあるに越した事がないしな。その代わり面倒はブー太郎が見ろよ?」
「はい、ありがとうございます」
“ブヒ、フゴブヒ?”
(なぁ木の実拾い、そいつがさっきお前が言っていた人族か?)
“ブヒ、フゴフゴブヒ”
(まぁそうだな、それと気を付けろよ、ケビンさんは俺たちの言葉が分かるからな)
ブー太郎の言葉にビクリと身を正す芋虫オーク。
「それじゃ御神木様の所に返すぞ、御神木様にはよくよくお願いしろよ?
<送還:ブー太郎>」
俺の言葉に再び地面に光の魔法陣が現れ、芋虫オークはブー太郎に抱えられたまま光の粒子となって姿を消すのでした。
「「・・・ケビンお兄ちゃん、何が何だか分からないんだけど?」」
「あぁ、ごめん。なんかさっきのオーク、ブー太郎の知り合いだったみたいでさ。ブー太郎が面倒を見るって言うから引き取ってもらった。
それとさっきからこっちの様子を窺ってるオークども、今なら見逃してやるけどどうする?」
“““ブゴ、フゴフギブゴ!!”””
“バカにするな、人族風情が!!”って別に馬鹿になんてしてないんだけど。そんでもって折角隠れてたのに自分達から姿を現すって、どう考えても馬鹿じゃん。
そんなお馬鹿さん達にはサクッと退場して貰いましょう。
「<影槍><収納>」
地面から伸びた影の槍が一瞬にしてオークたちの心臓を貫き、絶命したオークはそのまま影魔法経由で収納の腕輪に回収されてしまうのでした。
「はい、お騒がせしました。それじゃ引き続き警戒をお願いします」
春の森は命が溢れる、そしてその分危険性も高くなる。
ホーンラビット伯爵閣下一行はそんな森の営みに、気持ちも新たに細心の注意を以ってミルガルへと歩を進めるのでした。
「・・・ケビン君、なんか勝手にいい感じに話をまとめようとしてない?全然誤魔化せてないから。大体ケビン君はね・・・」
その後オークの森を抜けるまで、並走する馬車の中からホーンラビット伯爵のお説教を受ける羽目になったのは何故なんでしょう。解せん。
―――――――――
「ホーンラビット伯爵様、ミルガルの街へようこそお越しくださいました。領都までの旅路、お気を付けてお向かいください」
ミルガルの貴族専用門で入街の許可を受けた俺たちホーンラビット伯爵一行は、街門入って直ぐのゼノン精肉店にオーク肉を「オホンッ」・・・売りに行く事もなく、今宵の宿を取るために“ブラックウルフの尻尾亭”に「ンンッ」・・・向かうのではなくお貴族様御用達の高級宿に向かうのでした。
「失礼、私はホーンラビット伯爵家騎士ジェイクと言う。本日ホーンラビット伯爵閣下逗留の為の部屋を頼みたい。
あぁ、ホーンラビット伯爵閣下のお名前が聞きなれないのも仕方がない。
我が家は元アルバート子爵家だよ、伯爵閣下がこのほど陞爵なされてな、家名をホーンラビット家に改名なさったんだよ。
ご主人が知らないのも無理もない事、その様に恐縮する事はない。
それで部屋の用意をお願い出来るかな?」
ジェイク君、すっかり立派になられて。
ジェイク君から街門や宿での対応をどうしたらいいのかって相談されたんで、「グルゴさんが昔伯爵家の騎士団で騎士長をしていたから、グルゴさんになったつもりで対応したら?」ってアドバイスしたら騎士ジェイクが誕生しちゃいました。
うん、ジェイク君の中のグルゴさんってあんなイメージなのね。確りしつつもややウイットに富んだ会話も出来る騎士、いいと思います。
そして私《わたくし》、余計な事をするなと現在トーマスさんから監視されております。
なんか凄い信用ないんですけど?ちょっとゾイル工房に顔出しに・・・駄目ですか、大人しくしてろと、そうですか。
「あの、ホーンラビット伯爵閣下、せめてミルガルの教会にお祈りに行かせては下さいませんでしょうか。この街のシスター様方には聖水布の件やエルセルの教会の綱紀粛正の件でかなりお世話になっておりますので、ご挨拶に・・・」
「あぁ、そうですね。流石にここまで来て顔を出さないのも失礼に当たりますか。場所も然程離れていませんし、旅の安全を女神様にお願いしに行くのもいいかもしれません」
漸く許可が下りました。ジェイク君、エミリーちゃん、何でそこでジト目で私を見るんです?
ピタパン売りの屋台に直行するつもりじゃないのか?
バ、バ、バカを言ってはいけません。私がその様な事をするはずがないじゃないですか。
今はホーンラビット伯爵家の騎士としての護衛任務中ですよ?
観光に来てるんじゃないんですから。
「「「「ジ~~~~~~~~~~~」」」」
ケビン君の信用は地に落ちている様です。
ある意味信用されてるんでしょうね、悪い意味で。
「ごめん、我々はホーンラビット伯爵家の者だ。あぁ、聞きなれない事を恐縮する必要はない、アルバート子爵家が陞爵するにあたり家名を変更されてね、マルセル村のケビンと言えば思い出してくれるかな?
今ではこの通り伯爵家騎士をさせて貰っているよ。
確かあなたはシスターミッチェルではなかったかな?
我が家の妹がミッシェルといってね、名前が似ているからか憶えていたんだよ。
それでシスターアマンダは・・・メルビン司祭様と共に領都の教会に。
確かにメルビン司祭様はシスターアマンダを頼りにされていたからな、当然であったか。
ではこれはシスターミッチェルにお預けしてよろしいか?いつもの甘い口直しだが。
我々は領都に向かう途中でね、旅の安全を女神様にお願いしに参ったのだよ。聖堂を使わせていただいてもよろしいかな?」
俺は教会入り口に立たれていたシスター様にご挨拶すると、御心づけをお渡しし、聖堂の女神様像の前へと向かうのでした。
何故か後ろを歩くホーンラビット伯爵閣下たちに「やっぱりケビン君はケビン君だね」とか、「俺、ケビンお兄ちゃんみたいに流暢に騎士様会話なんて出来ないよ」とか、「ハハハ、これから俺もあれをやらないといけないのかよ、勘弁してくれ」とかの声が聞こえてきますが、いざとなったら結構出来るものよ?
ドレイク村長なんて辺境の村長から今や伯爵様よ?ヘルザー宰相閣下と対等にお話しするのよ?
「大丈夫、分からない事はドレイク村長におすがりすれば何とかなる!!」
振り返りざま俺が掛けた声に、「「「あぁ、その手があったか」」」と納得するお三方。ドレイク村長、村人の騎士様教育、よろしくお願いします。
「そこはケビン君が」じゃありません、ホーンラビット伯爵家の騎士なんだからご自分でどうにかしてください。
なんやかんや騒ぎながら女神様像の前に到着、全員で膝を突き、女神様に旅の無事をお祈りするのでした。
“ケビン、遅い!!最近村の礼拝堂にも来なかったでしょう、どういう事よ?”
さて、お祈りも済ませた事だし宿に帰って。
“ブブ~、残念でした。既にケビンはこっちと繋がってるんで時間感覚を変えさせていただきました、まる”
クッ、あなた様め、やってくれる。
“え~、いいのかな~。**#@様から扶桑国のお饅頭ってものをお預かり「大変申し訳ございませんでした。このケビン、突然あなた様の御言葉を給わり、少々動揺していた様にございます。平にご容赦いただけましたら幸いでございます」・・・そう、あなたって相変わらず好きな物の為なら全力なのね。
まあいいわ、それとこないだ預かった例の自己領域の扉、調査が終わったから返還するわ。
ちょっとその説明もあるからそっちに行くわね”
下されたご神託、大聖堂の女神様像の前に眩いばかりの光が収束する。
“バサッ”
大きく広げられた純白の翼、ゆっくりと降下するいと尊き御方様。
“ザッ”
矮小なる地上人は、目の前に降臨なされた高貴なる御方に頭を垂れ、感動に打ち震え涙する“あっ、そう言うのいいから。それよりもカクテル頂戴、前に貰った分、もう飲み切っちゃったのよ”・・・。
天上より舞い降りた高位存在は、すっかり擦れてしまったようでございます。
俺はそんな激務に翻弄される天上のOL(総合職)の実態に、涙せずにはいられないのでした。
“ドンッ”
「こちら今月の分の光属性魔力マシマシマシカクテル(ジャイアントフォレストビー甘木汁蜂蜜バージョン)でございます」
俺が収納の腕輪からご注文の品を取り出すと、大変すばらしい笑顔でお受け取りになるあなた様。それでいいのか中級天使!
俺は神々しさの欠片も無くなった常連客から本部長様のお土産(お饅頭)をいただくと、例の扉についての説明を受けるのでした。
本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora