“まずは実物を見ながら話をした方がいいわね”
あなた様はそう言うやどこかからか独立した木製扉を出現させた。
これは所謂収納スキルのようなものなのだろうか。マジックバッグのように取り出しの動作もいらず、好きな物を好きな場所に取り出せる収納スキルは異世界転生モノの定番にしてロマン。
そしてそんな収納スキルを収納の腕輪という形で忠実に再現なさった大賢者シルビア・マリーゴールド様は、本当に偉大なる魔法使いであったという事なのだろう。
領都に行ったら日頃のお礼も兼ねて、お土産にお酒でも購入して帰ろう。
“まず、この扉の素材からしておかしいから。総神聖樹の枝製って、あなたね、なに神具並みの扉を作ってるのよ。
解析に当たった担当官があまりの出来栄えに恍惚としてたじゃない。天界でも普通に最高級品として取り扱われる様な品よ?少しは自重しなさい。
それで問題はその性能なんだけど、<ホーム>”
“カチャリ”
開かれた扉、その向こうに見えるのは青い空と流れる雲、そして何処までも続く水平線。
“この扉の出入り口、任意で出現場所を変えられるようなのよ。今は島の上空五百メート程の位置に出現させてみたわ。
他にも森の中や海の上、海底なんかにも普通に移動させられるわね。
そして扉の向こうとこちらとは別空間って扱いなのか、例え海底に繋げても海水が溢れ出て来る事はなかったわ。
それでこの中の空間なんだけど、島の広さは直径百キロメートほど、そこそこの広さの無人島って言った感じかしら。
気候はそれこそ南海の海に浮かぶ孤島ってかんじね。温かく穏やかといった雰囲気よ。
空間全体の広さは島を中心に半径二千キロメート、上空は水面から五十キロメート、海底はかなり起伏に富んでいて、深いところで五千メート程あったらしいわ。それと海底に沈んだ遺跡のような建造物群が見つかってるわね、サンゴ礁豊かな岩礁地帯ってのもあったらしいし、ここってあなたの記憶の中にある南の海のロマンが具現化した様な場所みたいね。
というかここまで大規模な異空間世界を個人が作り上げたなんて話聞いた事がないから、女神様も驚いていらっしゃったわよ、スキルの可能性、人間種の可能性は素晴らしいって絶賛されてたって話よ?”
・・・あまりの話の内容に思考が付いて行けない。南海の孤島のある島空間を作った、それはいい。要するにダンジョンにおけるフィールド階層って事だから、世界的にも然程問題のある事じゃないだろう。
でも半径二千キロメートって?国がすっぽり入らない?
オーランド王国と隣のスロバニア王国を合わせたくらいあるよね?どっちも大国と呼ばれる国家よ、目茶苦茶広いのよ?
でも冷静に考えたら俺の影空間もヤバいくらいに広かったよな、グロリア辺境伯領全部とは行かないけど、半分くらいだったら行ける?
収納の腕輪さんに至ってはエイジアン大陸がすっぽり収納出来るって話だった様な。
よし、問題ないな、気にしないでおこう。
“それで今回問題になった人造キメラの資料についてね。モノがモノだけにあの城に関するアーカイブの閲覧許可が下りて詳しい調査が行われたわ。
なによ、勇者ブー太郎って、何でオークが勇者してるのよ、私お腹抱えて笑っちゃったじゃない。
それにあの聖剣、あの時聖剣召喚した聖霊剣グランゾートじゃない。
鍛冶神様に確認したら、「ノリと勢いで作った。使い手が現れてくれて超嬉しい」って大興奮なさってたわよ。剣神様と武神様を誘って、ブー太郎の活躍を見ながら酒を飲むってはしゃいでいたくらいなんだから。
でもあの総統と呼ばれたモノは駄目ね、あの存在って肉片の一つでも残っていたらそこから無限再生出来るっていうとんでも存在だったの。
例えばブー太郎があの総統を普通に切り刻んでいたら、その数だけ総統が増えていたって感じ?<百花繚乱>だったかしら?あの見事な剣舞。
あんな技でも使った日にはどれ程増殖していた事か、まさに世界破滅の危機と言っても過言じゃなかったって訳。
でもそれをブー太郎は食い止めた。聖霊剣グランゾートの力でその魂を、存在そのものを概念的に切り裂いた。
最終的にはケビンが<浄炎>の力で輪廻の輪に戻してくれたから良かったけど、天界から天使が派遣されるかもしれない案件だったことは確かね。
明確に世界の在り様を歪め、人という存在を滅亡に追いやる事象に関しては天使も干渉する。総統の存在はその逸脱した事象の一つと言えたわね。
本来であれば手の施しようの無くなった総統を周囲の土地ごと別空間に隔離するか、空間ごと消滅させるか。いずれにしても世界に大きな傷跡を残す事になりかねなかった事態、それを未然に防いでくれた事に天界を代表して感謝の言葉を伝えるわ、本当にありがとう”
勇者ブー太郎の大冒険、実は世界を揺るがす大問題だった様です。
やっべ、俺目茶苦茶遊んでたんですけど、悪の秘密結社の秘密基地最高とか思ってたんですけど、その延長上で南海の孤島なんか作っちゃったんですけど。
おれ、隔離処分とかされないっすよね?空間ごと消滅とか嫌なんですけど。
“あぁ、ビビる気持ちも分かるけど、その辺は大丈夫だから安心しなさい。ケビンの場合やる事は無茶苦茶だけど、その結果が広く人の可能性を広げる方向に向いているから問題なしって事になってるから。
ただ本当にやることが無茶苦茶すぎるから要監視対象者、特異点って扱いにはなってるけど。
今回の<自己領域>作製の件を受けて、ケビンは重要監視対象に格上げされたから。要するに世界各地の聖転進化を果たした魔物と同等の扱いね。
彼らの場合多くが聖域を作ってその中に引き籠っちゃうけど、偶に外に出て来たりするのよね。
彼らの影響力って本当に強いから、天界では重要監視対象として動きのあった場合常に監視下に置ける体制を取っているのよ。
でもケビンの場合はね、常にうろちょろしてるからずっと監視してないといけないし、結構大変なのよ?
まぁそんな事あなたに言ってもしょうがないんだけど。
監視担当者はあなたも間接的に知ってる“放浪の聖女”よ。何でもあなたの作ったオムレツが心に染みたんですって。
少しでも役に立てるのならって自分から志願したみたい。かわいそうに、なにも自ら業火に飛び込む事もないのに。
話が逸れたわね、でもそんな感じ。
で、人工キメラの研究成果は危険過ぎるって事になったのよ。人工キメラ関連設備は天界管理って事が決定したわ。
ケビンには申し訳ないんだけど、あの城から一部施設と資料を撤去させてもらったから了承して頂戴。今残ってるものは問題ないと判断されているものね、居住区の物は基本手は出してないけど、キメラ関連資料などが見つかったらまとめて提出してくれると助かるわ、あれは今の人族には過ぎた技術だもの。
その代わりと言っては何だけど女神様からの贈り物があるわ。
ケビンの作った自己領域にプランクトンや魚といった海洋環境を再現して下さったの。
女神様曰く、「折角の南の海、海の幸を堪能して頂戴」って事だったわよ。良かったわね”
ロマン(改造人間)がロマン(海の幸)になって帰ってまいりました。
最高かよ、流石女神様、太っ腹でいらっしゃる。
お魚さんはね~、考えていたんですよ。でも海の環境的にどうかなって思ってたんですよね~。
この場所って要は巨大な水槽だから、アクアリュウムだから。
プランクトンとかいないし、餌の管理も大変だし。
でもそこは女神様、海洋環境をプレゼントって、やる事の規模が違い過ぎるっしょ。
これはあれだね、船を作れってご神託だね。
みんなで船釣り、いいと思います。
“それじゃ扉とお饅頭は確かに渡したわよ?それと居酒屋ケビン、お休みが多いんだけど、出来れば週一で開いてくれない?
こうやって壺でカクテルを貰えるのもありがたいんだけど、やっぱりお摘みも欲しいのよ。
もういっそのことマルセル村の礼拝堂の脇に居酒屋を併設してくれない?
開店時間になったら行き来できるような召喚陣を設置してくれれば尚よし”
何か酒カス様がとんでもないご提案を。このケビンにマルセル村で居酒屋を開けと。そんなご神託聞いた事も無いんすけど?
「あの、あなた様、そろそろよろしいでしょうか?私も騎士としての任務中でして」
“そうね、こっちも本部長様の頼まれごとは終わったし、戻るとするわ。
でも居酒屋の件、本当にお願いね。他の子からも頼まれてたりするのよ”
そう言い神秘的な輝きと共に姿を消すあなた様。俺は急ぎ扉を収納の腕輪に仕舞い、祈りの姿勢を取る。
「うん、やはりこうやって教会の大聖堂で祈りを捧げると、何か神聖な空気に包まれている様な気がするね。
ケビン君の造ってくれた礼拝堂もとても神聖な場所で好きなんだけど、こうなんて言ったらいいんだろうか、まるで天使様が寄り添ってくださっていたかのような、見守られているっていう感じかな」
ホーンラビット伯爵閣下がお祈りを終えられ、そんな感想を述べられておられます。トーマスさんやジェイク君、エミリーちゃんも、そんなホーンラビット伯爵閣下様の御言葉に同調するかのように頷かれておられます。
・・・言えない。本当についさっきまで直ぐ側に天使様が居られたなどとは口が裂けても言えない。
マルセル村での様々な修行を経て、残留する魔力の揺らぎに敏感に反応出来るようになられたマルセル村の方々、天使様の気配を確り感じ取られておられる様です。(冷や汗)
「それじゃケビン君、女神様に旅の安全もお願い出来た事だし宿に戻ろうか。それと部屋に帰ったからって勝手に宿を抜け出してどこかに行ったりしない様に、これは命令だから」
「ハッ、ケビン・ワイルドウッド、肝に命じまして」
全く信用の無いケビン君は、トーマスさんに監視されながら宿のお部屋に戻る事に。
その後特に問題もなく就寝、翌朝街門の門兵様方に見送られ、ミルガルの街を後にするのでした。
―――――――――
ミルガルの街を離れて四日、その間魔物や盗賊の襲撃もなく、特に問題なく旅は続いていた。
「次、お名前と所属をお教え願いたい」
「私はホーンラビット伯爵家騎士ジェイク。ホーンラビット伯爵家はアルバート子爵家が陞爵するに際し家名を変更したものである。
この度はホーンラビット伯爵閣下が次女、エミリーお嬢様の授けの儀を受ける為に参ったものである。入街の許可をいただきたい」
グロリア辺境伯領領都グルセリア、その街門の貴族専用門で口上を述べるジェイク君。
立派だよ、君はこの旅で本当に成長したよ。これならどこに出しても恥ずかしくない一人前の騎士様だね、これからは口上の仕事は全てジェイク君に。
「騎士ケビン、何かよからぬ事を考えてはいないかな?
残念ながら彼らはこれから授けの儀を受ける身、更に言えば騎士ジェイクは既に四属性の魔法適性に目覚めているんだよ?
少なくとも魔導師か賢者、王都の中央学園行きは確定だね。
娘エミリーは伯爵令嬢と言う身分から同じく王都中央学園行き、彼らは来年からは学園生として多くを学ばなければならないんだよ。
という訳で騎士ケビンのお仕事はなくなりません。ホーンラビット伯爵家の騎士としてちゃんと騎士の仕事を果たしてください」
クッ、ホーンラビット伯爵閣下、まるで俺の心が読めるかのように先を潰しに来る。
「ん?俺は駄目だぞ?俺なんか本気で名目騎士の農兵だからな?
これでも元冒険者だから戦う事自体に否やはないが、お貴族様とのお付き合いなんか無理だから、“冒険者は自由の民”と言えば聞こえがいいが、要するに無学無才のゴロツキだから、犯罪抑止の為の受け皿だから。
銀級止まりの俺に期待されても困るから」
トーマスおじさん透かさず予防線を張って来るし。マルセル村の大人って手ごわい、って言うか俺が分かり易過ぎなのか?
「ご確認は完了いたしました。ホーンラビット伯爵様、ようこそ領都グルセリアへ。ホーンラビット伯爵様の御来訪、歓迎いたします」
馬車は進む、二騎の騎馬に引き連れられ、グルセリアの大通りをカタコト音を立てて。
「まずは本日逗留予定の宿、“小鳥の巣箱亭”へと向かいます。
それとは別に私が教会への先触れとグロリア辺境伯家居城への先触れに参りましょう。
私が戻ったのち全員でモルガン商会に向かう、このご予定でよろしいでしょうか、ホーンラビット伯爵閣下」
「そうだね、騎士ケビンは手間を掛けるが先触れの件、よろしく頼むよ。
それとその足でどこかに消えるのは勘弁してよね、モルガン商会に伺う予定を外す訳にはいかないから」
「ハハハハ、ホーンラビット伯爵閣下も御冗談が上手い、このケビンがそんな真似をする訳がないではありませんか。
それでは行ってまいります」
そう言い馬列を離れる俺氏、本当に信用の無い。逆に信用されている?悪い意味で。今も俺にジト目を向ける視線が、俺のハートがブレイクしちゃうぞ?
そんな訳でさっさと先触れの仕事を済ませ、暗殺者ギルドのマスターの所に顔出しに行ってきますか~。
王都の暗殺者ギルド幹部たち全然だったし、これはマスターに一言物申さねばなりません。
俺はこの後の予定を考えて、ロシナンテの足を速めるのでした。
本日一話目です。