転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第45話 村人転生者、マルガス村にビッグワーム農法を伝える

 夕や~け小焼け~の 赤と~ん~ぼ~

負われ~て見たの~は~ いつの~日~か~

(音楽著作権フリーの童謡集より)

 

俺はその辺で拾った小枝をブンブン振り回し、懐かしの歌を口ずさみながら一人マルガス村を目指す。時刻は夕暮れ、あの自称スラム地区で目茶苦茶時間が掛かっちゃいました。本当はチョロッと覗いてケイト君みたいなお困り住民がいたら救出してもいいかな?くらいの軽い気持ちだったんすけどね。幸いマルセル村にはあと一軒お宅が余ってますし。

それがビックリ仰天エルフ族が隠れ住む居住区って、あの統制、しっかり隠里じゃないですか、嫌だ~。

 

あんな場所にやって来るのは訳アリの“よそ者”ばかりだし、掌握もさほど難しくなかったんだろうな~。

排他的な辺境の村人たち、困ったところに優しく手を差し伸べるスラム住民、どちらに就くか、結果は火を見るよりも明らか。そして互いに信用と信頼を築き上げてからのカミングアウト、もうそこからは逃げられないし逃げる気もない、だってそここそが彼らにとっての安住の地なのだから。

 

上手い、やり方が上手過ぎる、もう洗脳のプロと言ってもいい。宗教団体を起こしたらいい教祖様に成れそう。ま、あそこの元お婆さんはそこまで強い支配は望んでなかったみたいですが。要は隠れ蓑が欲しかっただけなんでしょうね、付かず離れずくらいの関係が理想だったんじゃないかな?依存されても面倒だしね。

でも逃げ込んだ訳アリ程度の知恵じゃあの辺が限界だったんだろうな、上手く立ち回れるくらいの老獪さがあったんなら逃げ出したりする必要も無かった筈だしね。

 

嫌われ者の訳アリをあの地区が積極的に引き受けてくれていたからこそ、スルベ村とマルガス村はヨーク村程“よそ者”排斥の空気がなかったんだろうな。

自分達よりもみすぼらしい連中がボロ屋敷で細々と暮らしていると言う光景は、貧しい村人にとっては自尊心を高める一助になっていたんだろうし、マルガス村の村長の話ではそれなりに交流があったらしいから、“汚いけど役に立つ連中”くらいの認識だった筈だしね。

隠れ住む彼らと厄介払い出来た村人達、お互いにWin-Winの関係だったんでしょう。

 

お、どうでもいい考察をしていたらマルガス村に到着です。本当に近いなマルガス村、これなら二村含めて一つの村で良くない?

 

「これが確執ってやつか」

ドレイク村長代理の言っていた“理屈じゃない”と言う言葉の意味を噛み締める、ケビン少年なのでありました。

 

 

「こんにちは、僕はマルセル村のケビンと言います。村長代理のドレイクさんが来ているはずなんですけど、何処にいるのか知りませんか?」

俺は何か満足そうな顔をした村人に話を聞いてみた。

 

「ん?何だい坊や、今マルセル村って言ったかい?マルセル村のケビン・・・あぁ、君がドレイク村長が言っていた後から来る筈の少年か。何か“よそ者”の所に寄っていたんだってね、一人で大丈夫だったのかい?怪我とかしてないかい?変な事をされたんなら直ぐに大人に言うんだよ?」

 

何か凄い心配されてしまった。でも普通に考えたらこれが当たり前の反応だよな、俺の行動の方がよっぽどおかしいし、それを容認しちゃうドレイク村長代理もおかしい。

 

・・・まぁちょっとませてるだけって事で。周りに子供が少ない辺境の寒村、大人の影響を受け捲っても仕方がないよね。“神童も大人になったらただの人”、よくあるよくある。

“お前の何処が子供だ!”だって?マルセル村では立派に子供よ?他って殲滅姫エミリーちゃんと斬鬼ジミー、転生勇者ジェイク君よ?それに比べて“穴堀り職人ケビン君、穴を掘って高笑い。”、誰が見たって俺の方が子供じゃん。

 

「ドレイク村長さんならセージ村長の所にいるよ。案内してあげるからついておいで」

どうやらドレイク村長代理のプレゼンは大成功だった様です。先の展望に希望の光りが差したからか、村人がとても親切。これも心の余裕の現れなんでしょう。流石元商人、いい仕事(丸め込み)するな~。

 

「セージ村長、マルセル村のケビン君をお連れしました」

セージ村長宅はこれ迄の村長の御屋敷と変わらず村の中では一番立派だけどそこそこと言った感じ。周辺五箇村が皆似た感じって事は、“村長の家はこんな感じ”って言うテンプレ的共通認識でもあるのだろうか?誰が見ても村長の家って分かる様にとか?それって標識とか表札でよくね?外観迄揃える方が大変だと思うんだけど、その辺は文化なのかね~。

一見無駄に思える事にもそこに至るまでの様々な理由なり背景なりがあったりする。それが歴史であり文化、村長宅テンプレ問題の背景にもそんな忘れられた物語が合ったり無かったり?

 

「あぁ、それは流行ったからだよ」

セージ村長宅に到着し、ドレイク村長代理に合流した俺が何気に聞いた質問にさらっと答える出来る大人。流行りですか、それはなんとも。

 

何でも今から百五十年ほど前にドラゴンを怒らせた貴族がいたらしい。当時の貴族は多くの冒険者を集めドラゴンをどうにかしよう(討伐)としたが、怒りは収まる処か更に悪化、状況は国家存亡の危機にまで拡大したのだとか。

その時この事態を収めた一人の勇者がいた、それが昔話に吟われる“剣の勇者様”なんだそうだ。彼は怒れるドラゴンに単身戦いを挑み、三日三晩の激闘を繰り広げた末にドラゴンに認められ和解、国家の危機は救われた。

 

そんな彼が何故か拘っていたのが村長の家の外観。気に入った外観の村長宅には長く逗留し、様々な技術や知識を伝授したのだとか。それは決して豪華な屋敷ではなく、然りとてみすぼらしくもない場にあったモノ。“何事も調和、如何にもな村長の家は冒険の基本”と言うのが“剣の勇者様”の口癖だったらしい。

 

・・・それって絶対転生勇者じゃん、転生勇者なにやってるし!

しかも何処に拘ってるのよ、誰も傷つけないけどもさ、たまにいるふくよかな村長ってお前の影響じゃないだろうな!俺はてっきり富の象徴としての肥満だと思っていたけど、もしかしてただの流行りだったとか?うわ~、スゲー恥ずかしい。

予想だにもしない所から現れた転生勇者(疑い)の攻撃に、悶々とするケビン少年。そんな彼を眺めながら“やっぱり<仮性>、勇者の話によく反応するな~”と、にこやかな笑みを浮かべるドレイク村長代理なのでした。

 

 

「皆さんおはようございます。これより昨日お話し致しましたビッグワーム農法の実演講習を始めたいと思います」

場所はマルガス村セージ村長所有の畑、ここに第一号基となるワームプールを建設しようと言うのである。

 

ま、講習会なんでさわりだけ教えて後は皆さんで作って頂くんですけどね。それとこれは前回学んだ事なんですが、レンガ作りに男性も女性も関係ないって事に気が付きまして。

昨日講習を行ったスルベ村なんですか、前日のビッグワームの肉入りスープのお陰か村人全員が参加なさって下さいまして。皆さんにレンガ作りをお教えしたんですけどね、これ、女性でも何の問題もなく作れるんですよね。試しに村の奥さま方に何個か作って頂きましたんで。

“だったら最初から村人全員に参加して貰って、全員でレンガを作った方が効率がよくね?”って事で、ここマルガス村では全員参加でレンガ作りを教える事になりました。

 

「まずは盥などに掘り出した土を入れ生活魔法の<ウォーター>で出した魔法水を混ぜます。この際魔力を多く込めることを考えながら詠唱を行う事でより丈夫な粘土を作る事が出来ます」

こちらのやっている事は毎度同じなんですが、やっぱり驚かれますよね。この国の、特に村人と呼ばれる人達って、よく言えば素朴、悪く言えば考えなし。環境に適応して生存する事が全て、それ以上の創意工夫を行うって言う発想自体が無いからな~。

それが悪いとは言いませんけどね、ゆっくりのんびり暮らせるのならそれに越した事はない。でも不満もそのままってのはね、それをより弱い者を見付ける事で発散しようって発想が人間らしいと言うか醜いと言うか情けないと言うか。

“旨い肉が食べたい”、その欲望のままにここまで来た私には理解出来んとです。

 

「ドレイク村長、期待していて欲しい。我がマルガス村は変わる、変わってみせる。このビッグワーム農法を足掛かりに発展し、必ずや農業重要地区入りを果たすと約束しよう」

講習会修了後、固い握手を交わすセージ村長とドレイク村長代理。二人の目にはこの試みが成功すると言う確信にも似た思いが宿っていた。

マルガス村の村人達に見送られ一路マルセル村に向け荷馬車を走らせる俺たち、でもこの後一つ面倒事が待ってるんだよな~。

 

「ケビン君、昨日言っていたよそ者地区の人達は本当にマルセル村に来ると言うのかい?」

疑うと言うよりも信じられないと言った感じで話し掛けるドレイク村長代理。それはそうだ、こう言ってはなんだが俺はただの村の子供、そんな子供が少し話をしただけで一地区の人々の生き方を変えられる筈もない。

“人の生き方と言うものはそんなに簡単には変わらない”

長く行商人を営み村長として多くの者を見て来たドレイク村長代理だからこそ、その思いは強い筈だ。

 

「「・・・・」」

だからこそこの光景に言葉が出なかったのだろう。

目の前に立ち並ぶ人々、黒いローブを纏った腰の曲がった老婆を筆頭に、小奇麗な衣服に身を包んだ壮年の男性や若い夫婦。まぁいいんだけどね、もう隠す気ないみたいだし、でもあんたら昨日までボロボロの格好で“いかにもスラムの住民です”って風を装ってたじゃん、もう少し頑張ろうよ。

 

「えっとケビン君?」

ドレイク村長代理がこちらを見ずに声を掛ける。そうなるよな~、視線を外せないよな~。それは警戒からではなく只管(ひたすら)の困惑、こんな潰れそうなバラック小屋から場違いなくらい小奇麗な住民が現れたら誰だってそうなると思います。

 

「ケビン君や、そちらがお話しに聞いたドレイク村長代理殿かね?はじめてお目に掛る、私はこの地区の代表を務める年寄りでな、昨日ケビン君に今後のこの村の発展の話を聞かせて貰ったんじゃよ。

 

私らははみ出し者のよそ者じゃ、そんな者達がこれから発展を遂げるであろうこの村に居座る事は、互いの為にもよくないであろうと言う事もな。そこでわしらは話し合いの末、ケビン君の提案に甘えさせていただく事にしたのじゃ。

ドレイク村長代理殿には多くの迷惑をお掛けする事になるとは思うが、曲げてお願い申し上げる」

お婆さんがそう口上を述べると、住民全員が深く頭を下げるのであった。

うん、凄く統制が執れている。これなら問題ないんじゃないのかな?彼らの中にある明確な決意、それはお婆さんと共に生きる事。それさえ害さなければいい村人になると思いますよ?

 

「って何引き攣ってるんです、ドレイク村長代理?」

「あ、うん、なんて言うか出来過ぎていると言うか、絶対スラムの住民じゃないよね?ケビン君、昨日はここまでの話ししてくれなかったよね。

私の元商人の勘が告げるんだよ。ケビン君、何か隠し事していない?それも特大の。今だったら怒らないから言ってごらん?」

 

「お、流石はドレイク村長代理、鋭い。でも宜しいので?知らなかったらその方がいいって事もあると思うんですよね。ほら、セージ村長やマルス村長って幸せそうじゃないですか~。今ならまだ間に合いますよ?」

 

「アハハハ、私は彼らほど楽観的には生きられないんだよ、これは性分だから仕方がないかな。知らないで何かが起きてしまう事の怖さは身に染みて知っているつもりだからね。清濁併せ呑む、いざとなったら知らぬ存ぜぬでやり過ごさせてもらうよ。」

やっぱりドレイク村長代理は格好いいや、その警戒心と逃げ足の良さ、俺の理想そのものです。辺境の村人はそうでないといけませんよね?

 

「お婆さんや、ドレイク村長代理の許可が下りました、やっちゃってください」

俺はお婆さんに“先生、お願いします!”と言った勢いでカミングアウトをお願いするのだった。

 

「ケビン君がそう言うのなら致し方が無いね~。それでは改めてご挨拶いたします」

お婆さんはその丸まった背中をスクッと伸ばし、凛とした美しい立ち姿を見せる。

先程まで杖を突いていた皺皺の手は瑞々しい艶やかなものに変わり、顔の周りの薄汚れた雰囲気はなりを潜める。

“バサッ”

被されていたフードが取り除かれる。現れたのは日の光に煌めく美しい銀糸、その流れる髪の合間から覗く尖った大きな耳。

 

「改めましてご挨拶をいたします。私はこの地区の代表を務める者、訳あって名乗る事が出来ない事をお詫びいたします」

そう言い頭を下げる美しい女性。あ、ドレイク村長代理がフリーズした。

その後俺はお婆さんの格好に戻って貰った代表と元スラム住人総勢八名を引き連れ、一路マルセル村へと移動を開始するのでした。

 

ドレイク村長代理はどうしたのかって?未だに回復していませんが何か?

だって話し掛けても“あぁ”とか“うん”しか言わないんだもん。ゴルド村に辿り着くころには回復するんじゃない?

因みに流石は迫害されし民、元スラムの連中は野外宿泊用のテントを持参なされております。これが魔術パワーマシマシの優れものだそうで、ゴルド村に着いたらそちらで宿泊するから大丈夫なんだそうです。これってドレイク村長代理に話せないよな~、また固まっちゃうんだろうな~。

 

荷馬車に揺られ焦点の定まらない目をしたドレイク村長代理、スルベ村での挨拶はこのケビンにお任せください。

心労に倒れる村長代理の代役を固く決意する、ケビン少年なのでありました。

お前のせいだろう?さて何の事でしょう。




本日一話目です。
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