「それでは皆様、ゆっくり目をお開けください。
これにて授けの儀、滞りなく執り行われました。皆様方におかれましては常に女神様を身近に感じ、日々を健やかに過ごされますようお祈り申し上げます。
本日はおめでとうございます」
メルビン司祭様はそう言うと、祈りの姿勢を取っている俺たちに床から立ち上がるように促します。
司祭様の祝詞を聞いていた時から思っていたんだけど、なんか身体がポカポカ温かいというか、心が癒されるというか。エミリーのスキル<祈り>を受けてる時みたいな感じが身体を包み込んでいる様な。
やっぱり司祭様ともなると凄いんだろうな~、何が凄いのかはよく分からないけど。
「エミリー様、ジェイク様、引き続き“鑑定の儀式”を執り行います。鑑定は別室で執り行いますのでご移動をお願いいたします。
なお、鑑定結果につきましてはご本人様のみにお知らせさせていただいておりますので、ホーンラビット伯爵様並びに護衛の皆様方はこちらの大聖堂でお待ちいただくかお部屋前の廊下にてお待ちいただければと思います」
シスター様のお声掛けにより別室移動となった俺たち。
まぁ<鑑定>なら自分でも出来るんだけど、何となくだけど表示されるステータス結果に振り回されそうな気がして、あんまり見ない様にしてたんだよね。
だって普通の子供は自身のステータスを逐一<鑑定>で見て欲しいスキルに合わせて鍛錬するなんて事はやらないしね。
ジミーやエミリーと同じ視線に立つ事で、この世界で生きているトーマスお父さんとマリアお母さんの息子のジェイクになれる気がしたんだよな~。
うん、青いね、若さだね、青春だね。若き青春の悩み、今の俺にあの頃の純粋な気持ちって残ってるのかな~。なんか全部エミリーの拳とケビンお兄ちゃんの理不尽に粉砕されちゃったような気がする。
今の俺がどこかで「ゲーム転生だ、俺はこの先の未来を知ってるんだ、スタートダッシュをかまして無敵チートだぜ、ヒャッホイ!!」なんてことをやってる転生者を見たら、微笑ましい気持ちになっちゃうんだろうな~。若いな~とか思って。(遠い目)
「ジェイク君はどんな職業を授かるんだろうね?楽しみだね。
王都の中央学園に行ったら、一緒に王都巡りをしようね♪」(ニッコリ)
なんか元気だな~。エミリーはすっかり俺が上級職を授かると思い込んでるみたいだけど、こればかりは鑑定して見ないと分かんないんだけどね。
ケビンお兄ちゃんに聞いたらエミリーは伯爵家の御令嬢だから詳細人物鑑定を受けるって事だったんだよな。王都中央学園に入る人間は全員詳細まで調べられるとかなんとか。
確かに王族やら公爵家やら侯爵家といったやんごとなき御家柄のご子息様方がいらっしゃる中央学園に素性のしれない人物を入学させる訳にはいかないもんね。
って事はロナウドも詳細人物鑑定を受けるのか、アイツ称号に“万軍を救いし英雄”とか載ってたりして。アスターナの戦場で精霊砲を吹き飛ばして撤退の手助けをしてたしね。
可哀想に、大騒ぎ確定じゃん。ロナウドって顔もいいし、ジミーと二人揃えば女性の黄色い悲鳴が飛ぶこと請け合い。
そして俺はその陰に埋没すると、・・・完璧だ。
頼むぞジミーとロナウド、主に俺の腹筋の為に。
「ではまずエミリー様からお願いします。ジェイク様はこちらの長椅子に腰をお掛けになってお待ちください」
シスター様に案内されて向かった先は立派な両開き扉の部屋の前。
おそらく普段は来賓室にでも使っているところを特別に開放しているって感じなのかな?
ホーンラビット伯爵様を来賓室に案内しないで大聖堂でお待たせするってのも変だしね、多分そういう事なんだろう。
待つこと暫し、この部屋って音漏れ防止の結界か何かが施されているのか一切音漏れがしないんだよね。でも中の魔力は感じ取れるから意外に中の様子が分かっちゃうって言うね。
エミリーの魔力は凪いでいるって言うか、いつもと変わらない平静を保っているんだけど、他の教会スタッフさんの魔力が揺らぐ揺らぐ。
なんか興奮する様な事でもあったんだろうか。
もしかしたらエミリーの職業が<無頼漢>とか<武王>だったりとか?
伯爵令嬢で<武王>、そりゃ騒ぎになるわ。上級職には違いないんだけどね、アレって確か剣術と格闘を高いレベルで育てないと変更出来ないんだよな~。
“ソードオブファンタジー”をやってた時は、パーティーメンバーの育成で苦労した記憶が。
でも今までジョブチェンジなんて話、一度も聞いた事がないんだよね。って事は職業って授けの儀の一発勝負?
そりゃ~お貴族様が別料金を払ってでも個別に授けの儀を行いたがる訳だわ、誰だって少しでもいい職業を授かりたい、授からせたいって思うもんだもん。教会への寄進金額も、凄い事になってるんだろうな~。
俺が部屋の前の長椅子に座って下らない事をつらつらと考えていると、“カチャリ”と扉の開く音がしてエミリーが退室して来ました。
エミリーは俺に対して満面の笑みを向けて、「次はジェイク君の番だね、頑張って」と小声で声援を向けて来ました。
俺が小声で「おう、先に戻ってホーンラビット伯爵閣下にご報告して来な」と答えると、エミリーはそのまま大聖堂の方へと足早に戻って行くのでした。
「それではジェイク様、お願いします」
廊下に立っていたシスター様が部屋の中に目配せをしてから俺の名前を呼びます。
俺はゆっくり席を立つと、鑑定の儀式を行う為に中へと入って行くのでした。
部屋の中は広く、中々に整っているというか、多分豪華なんだろう調度品が揃えてあります。あっ、アレって置時計。この世界に来てから時計って初めて見た。
教会とかで時の鐘とかを鳴らすのって時間の基準とかってどうしてるんだろうって思ってたけど、確り時計があったんですね。凄い高価で庶民では手が届かないとかそういう理由で普及してないんだろうな~。
徳川家康も献上品の時計を持ってたって言うし、ある所にはあるんだろうな、そういう品って。
「オホンッ、えっと、君がジェイク君かな?」
「はい、ホーンラビット伯爵家騎士ジェイクです。本日はよろしくお願いします」
「ん?騎士って事は、授けの儀を受けるのを待たずして家督を継いだとかそういう事なのかな?」
「いえ、先のダイソン公国とオーランド王国の紛争解決に尽力したという事で、あの作戦に参加した騎兵は全員騎士として取り立てる様にと王家から通達があったんだそうです。
その関係で初陣参加した私も騎士として取り立てられる事になりまして。
家名がないのはまだ決まっていないからですね、元々農民の息子ですので」
俺の言葉に「あぁ、そういう事ですか」と納得される教会関係の御方様。
「すみません、名乗りが遅れましたね。私は教会で<鑑定>を専門に行っています神官のナビブ・メカブと申します。
隣が教会と契約を交わしております書士のジフターナです」
「書士をしております、ジフターナと申します。
本日はよろしくお願いいたします」
揃って礼をする神官様と書士様。俺も礼を返して、直ぐに“鑑定の儀式”が始まりました。
まぁ“鑑定の儀式”と言っても神官様が俺の事を見ながら「<詳細鑑定>」と呟かれるだけなんですが。
でもその後で書士様が物凄い速さでペンを走らせているし、お二人のテーブルの上に並べられている道具って、鑑定結果を表示する魔道具か何かなんだろうか。
「えっ、嘘でしょう?聖女様に続いて勇者様って、こんなの勇者物語の一節じゃないですか・・・」
何やら神官様がぶつぶつと呟き、書士様がペンを持った姿のまま固まっていらっしゃるんですが。
でもごめんなさい、俺って耳がいいんで確り聞こえちゃってるんです。
そっか~、やっぱり俺は勇者だったんだ~。
“赤髪のジェイク”、運命からは逃れられないって事ね。
一時期は本気で俺の思い込みだと思ってたんだけどな~。ゲーム転生、でも現実になった事でゲームとは大きく姿を変えた世界。
制作陣が考えたストーリーやシナリオは、この世界に生きる人々の思惑や考え方次第で大きく変わってしまう。
HPやMPを見ることが出来なかったり普通の人間は自身のステータスも中々知る事が出来なかったりと、よりリアルに即した形で全てが改変されている。
“冒険商人アレン”が現れた時は目茶苦茶ビビったけど、ヨークシャー森林国に行かなくても精霊様と契約しちゃったし(ケビンお兄ちゃんが原因)、サブストーリーで展開されるはずの織絹さんの覚醒イベントもマルセル村で行われちゃったし(ケビンお兄ちゃんが原因)。
仮にここがゲームの世界だったとしても、魔王が大福に勝てるビジョンが浮かばない。
うん、完全に別の世界線だね。
よし、モブ勇者“辺境育ちのジェイク”で行こう。目立ってもいい事ないってのはケビンお兄ちゃんを見てれば明らかだし、何か言われたら「全ては剣鬼と謳われるボビー師匠のお陰です」って答えておこうっと。
「ん、うん。失礼しました。ジェイク様の職業が大変希少で素晴らしいものでしたので取り乱してしまいました。
先ずはこちらの鑑定書をご覧になって下さい」
そう言い神官様から差し出された鑑定書を受け取り、どれどれと目を通す。
<鑑定書>
名前 ジェイク
年齢 十二歳
種族 普人族
職業 勇者(堅牢)
スキル
鑑定 魔力支配 身体支配 聖剣術 収納 挑発 堅牢堅固 不撓不屈 自己回復
魔法適性
火 土 風 光
称号
スライムの王の弟子 理不尽の弟子 神々の同情
加護
・・・なんか最後にステータスを見た時より凄い事になってるんだけど。
大体<勇者(堅牢)>って何?えっと、身体を張って仲間を守るとか?
<物理攻撃耐性(極)>がなくなって、<堅牢堅固>ってのになってるし。只管硬いって奴?
称号って前はなかったよね?職業を得て反映されたとか?
でも<神々の同情>って。
そうか~、神様は俺の事を見守って下さっていたのか~。
<
「これほど多くの神々から加護を授かった御方様を私は鑑定した事がありません。先程鑑定させていただきましたエミリー様と言い、このような歴史的機会に立ち会えたこと、生涯の誉れといたしたいと思います」
そう言い何か信仰の対象でも見る様な目で俺の事を見詰める神官様と書士様。・・・違うんです、これって恐らくですけど、めっちゃ同情されているだけなんです。
俺の腹筋をみんなが守ってくれている、凄いありがたいっすけど、エミリーのステータスを見るのが怖い。
これってもしかしなくても“盾と矛”のお話ですよね?俺の存在って異世界版昔話の登場人物とか?
“昔々、辺境の片田舎に最強の拳を持った少女と、そんな少女の愛情(物理)を一身に受けた少年がおったそうな”とか語られちゃう奴?
多分だけど俺に勇者の適性なりなんなりが無かったら、俺、ヤバかったんじゃないの?
だって以前<根性>だったスキルが<
俺は立ち上がり最敬礼をされる神官様と書士様の見送りを受けながら、封筒に仕舞われた詳細鑑定の鑑定書と各ギルド提出用の一般の鑑定書を持って、ホーンラビット伯爵閣下たちのいる大聖堂へと足を向けるのでした。
そう言えば称号に<スライムの王の弟子>ってあったのは大福の事として、<理不尽の弟子>って。
そうか~、ケビンお兄ちゃんってステータス的にも理不尽って認められちゃってるのか~。
俺はどこか納得といった気持ちになりながら、シスター様の後に続いて廊下を戻って行くのでした。
本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora