転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第456話 辺境男爵、領都学園を案内する (2)

「これはこれはようこそグロリア辺境伯領領都学園にお越しくださいました、ホーンラビット伯爵家エミリー様、騎士ジェイク様。

先程グロリア辺境伯家の執事様からお伺いしたお話では、大変希少な職業を授かられたとか。王都の中央学園に向かわれるにあたり、学園という環境をご覧になられたいとの事であるとお伺いしております。

確かに同年代の多くの若者が集う学園は通常の生活では中々体験する事の出来ない出会いや学びの場、王都に赴かれる前にそうしたものに触れる、体験されるという事は非常に有意義なものであるかと。

 

またお二人は当学園の在校生であるケイト・フロンティア男爵令嬢とは非常に親しい間柄であるとか。ケイト嬢は我が校でも優れた生徒として有名な女子生徒なのですよ。

“コンコンコン”「失礼します。ケイト・フロンティア、学園長様の御呼びにより参りました」

おぉ、丁度参ったようです。入りなさい」

“ガチャッ”

 

けだるそうな顔をした一人の女子生徒が、学園長執務室の扉を開ける。

ここはグロリア辺境伯領領都学園、グロリア辺境伯居城を後にした我々エミリーお嬢様一行は、グロリア辺境伯家の執事様の案内の下領都学園の見学に訪れていたのである。

 

「あぁ、ケイト君、授業中申し訳なかったの。こちらはホーンラビット伯爵家御令嬢エミリー様とその騎士のジェイク様じゃ。

お二人はこの度授けの儀において大変希少な職業を授かられたとか、王都の中央学園に行かれる前に一度学園という学び舎を見学されたいというお話での。

ケイト君はこちらのお二人とは大変親しい間柄であるとか、学園の案内役をお願いしたいのじゃが頼めるかの?」

 

「ケイトお姉様、先の遠征以来ですね。私たち、このほど授けの儀において女神様より非常に希少とされる職業を給わり、王都の中央学園に入学する事が決定いたしましたの。

でも、ホーンラビット伯爵領には学園のような多くの若者の集う学び舎といったものはありませんし、不慣れな環境にどうしたらよいのか不安で。

授けの儀のご報告にグロリア辺境伯様の御城にお伺いしたところ、「それならば一度見学をするとよい」と仰っていただき、ご厚意に甘えさせていただく事に。

本日はよろしくお願いいたしますわ」

そう言いカーテシーを決めるエミリーお嬢様。

エミリーお嬢様、惜しい。お話の仕方はちゃんとお貴族様風でしたが、そのカーテシーはやり過ぎ。ご身分の関係上そこはニコリと微笑まれるくらいの方がいいですよ!

 

そしてケイトと言えば無言のまま軽く視線をこちらに向けて来ます。

<視線で会話>

『ねぇケビン、これ何の遊び?お貴族様ごっこ?』

“コクッ”

 

『それじゃ、私もお貴族様した方がいいの?』

“ブンブン”

 

『?普段通りでいいって事?』

“コクコクッ”

 

「ん、分かった。エミリー、ジェイク、授けの儀、おめでとう。

それじゃ案内する。学園長様、失礼いたします」

「うむ、ではケイト君や、後の事は頼んだぞ?」

 

ケイトの案内で学園長執務室を後にする俺たちエミリーお嬢様一行、執事様とは一旦のお別れです。

執事様は学園長様に今回の件の詳細を話せる範疇でお話しするんでしょう。どうせ来年には知れる事、情報の共有は信頼関係構築の基本ですから。

 

「ケイト、悪かったな、授業中だったんだろう?」

「ん、構わない。と言うかむしろ助かった、眠気との戦いで我が軍は劣勢に立たされていたから」

っておい、ケイトは授業中寝てるんかい。それでよく怒られずに済んでるな。

 

「?大丈夫、自己呪いで周囲からはちゃんと授業を聞いている様に見えてるはずだから」

“ブホッ”

ケイトさん、予想の斜め上に進化なさっている様でございます。

ってエミリーお嬢様、目を輝かせながら「ケイトさん、その自己呪いについて詳しく!!」とか聞かない。君は光属性特化でしょうが、頭に光属性魔力を集めれば集中力も上がって眠くならないから、ケイトは闇属性魔力特化だから。

 

「ん、ここが魔法訓練場。学園といえば魔法訓練、他人と自分を比較して世の中の常識を知ることは、マルセル人にとって重要な事」

「ん?ケイトさん、マルセル人って何?」

聞き慣れない単語に思わずツッコミを入れるジェイク君。

 

「ん?あぁ、これはベティーが言っていた。私もよく「マルセル人の常識で物事を測るな!!」って怒られる。

マルセル村の村人は世間との乖離が甚だしいらしい。世の中は難しい」

「「あぁ、“ケビンお兄ちゃんだから仕方がない”と一緒か」」

 

何故か納得の頷きを見せる聖女と勇者。そこで何で全員で俺の事を見るし、しかもため息って、失礼じゃね?

 

「よし、全員やめろ。魔法の練度、命中率、三学年になり目覚ましい進歩が見られるぞ。

今日からは更に上の高等技術を学んでいく。先ずは“待機”と呼ばれるものだな。これは魔法の発動を停止させた状態で再び魔法詠唱を行う事で、魔法を連射するといった技術だ。

先ずは手本を見せよう。

“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ”

“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ”

<ファイヤーボール>」

““バシューーーーッ、ド~~ン””

 

魔法訓練場に響く衝撃音、指導教諭の放った二連のファイヤーボールが正面の標的に当たり爆発する。

 

「「「「おぉ~~~~」」」」

生徒達はどよめきを上げ、大きな拍手で指導教諭の技術を褒め称える。

 

「これは王都中央学園の魔法教諭シルビーナ殿が開発された技術でな、

それまでの“魔法待機”は詠唱を途中で止め、いつでも魔法名だけで放てるようにするというものだったんだが、それを更に発展させ二発同時に撃てるようにしたものだ。

このシルビーナ殿はここ領都学園の生徒だったんだが、一年次の在学中に無詠唱に開眼し王都中央学園へ転校した才女だ。皆も我が校の先輩として目標にして欲しい。

ではこの“待機”の方法だが・・・」

 

「・・・ねぇケイト。確かザルバさんの話だと“魔法待機”って宮廷魔法使いでもごく一部の者しか出来ない技術とか言ってなかったっけ?」

俺は確かケイトが学園に入学する前にそんな話があった様なと思い出す。

 

「ん、さっき指導教諭が言っていた王都の魔法教諭が理論的に方法論を確立した。今なら練習次第で出来る様になる。

時代は常に進歩してる」

ケイトの話になる程と頷く俺氏。確かにザルバさんが学生をしていた頃と今とでは技術に違いがあっても不思議じゃない。

それにしてもこのグロリア辺境伯領の領都学園からの転校ってことは、元の保有魔力量はそれ程多くないって事?魔法理解と研鑽の賜物?

世の中には凄い人がいるもんだ。前にロイドの兄貴もそんな知り合いがいるって言ってたし、力技の俺とは訳が違うよね。

 

「ケビンお兄ちゃん、この授業って学園の三年生の授業なんだよね?

って事は今授業を受けている生徒さんって相当に優秀って事なんだよね」

「おっ、いいところに気が付いたね、ジェイク君。そう、これが一般的に優秀とされる生徒さんの実力だね。それで先ほど指導教諭が放った魔法が、彼らが目標とし手本としているもの。

王都の中央学園は血筋的に優秀なものが多いから、魔力量も多く、中には幼い頃から魔法指導を受けている者もいると思うよ?

でもそれでもね。

さっきケイトが言ってた“マルセル人”じゃないけど、これまでのジェイク君とエミリーちゃんが受けて来たボビー師匠の指導やシルビア師匠、イザベル師匠の魔法訓練は、この国の宮廷魔法使いの遥か上のものだから。自分たちの常識枠でとらえて他者を見下す事の無い様に。

 

例えば先程指導教諭が手本を示した“待機”の技術、あの技術を体系化し広く多くの者が使えるようにしたって事は、もの凄いことなんだよ?

アレって昔はそれこそ王宮魔法使いの一部の者しか出来ないとされた技術なんだからね。

自身の技術に驕る事なく多くの技術を学びそれがいかに素晴らしい事かを見いだせる事、世界に旅立って未知や冒険、感動を求める君たちにとってはとても重要な事だと思うよ?」

 

俺の言葉に口を噤み、その意味を考える二人。

本当にマルセル村の若者軍団って優秀。疑問を持つ事、自ら考える事。

考え、発見し、発展させる。

君たちの未来は希望の光に照らされているとお兄ちゃんは思います。(感動)

 

「あん?ゲッ、ケイト。何でお前がここにいるんだよ。お前違うクラスだろうが!!」

こちらの存在に気が付き声を発した男子生徒さん。お邪魔して申し訳ないってあの御方はツッコミ師匠じゃないですか。確かお名前は・・・。

 

「流石は“ツッコミのハリー”、違和感を感じ速攻でツッコミを入れて来るのは既に神の領域。我々凡人には遠く及ばぬその神業に、角無しホーンラビット肉の燻製を進呈」

「これはこれはいつもありがとう。最近はこの角無しホーンラビットの燻製がないと口元が寂しいって言うかさ~。

モルガン商会に買いに行っても人気商品らしくていつも品切れって言われちゃうんだよねってそうじゃねえだろうがよ!!

何で他所のクラスのケイトがここにいるのかって聞いてんだよ!!」

 

・・・感動。たかが角無しホーンラビット肉の燻製を貰っただけであそこまで話を膨らませてからのノリツッコミ。

まさに逸材、ヘルマン子爵様が羨ましい。

 

「ジェイク君、エミリーちゃん、あれが時代を作る英雄の姿だよ。

“ツッコミのハリー”、この荒んだ世界に革命を齎すお笑い界の勇者。

我々ボケが求めて止まない救世主だよ」

 

「そう、私が只今ご紹介いただきました“ツッコミのハリー”ことハリー・ファン。この世界に笑顔を齎すお笑い界のって違うわ!!

俺はヘルマン子爵家に仕える身なの!バーナード様の従者なの!!

ケイトにはいつも迷惑してるのってお前はケイトの想い人じゃねえか、相方の面倒はちゃんと見ろよな!!

 

それはそうと先だっては大変すばらしい品をいただきましてありがとうございました。我が家に持ち帰り両親に贈りましたところ、大変喜んでいただく事が出来ました。

あの蜂蜜きな粉飴の素材がジャイアントフォレストビーの蜂蜜だと説明したところ大変恐縮しよくよく礼の言葉を伝えて欲しいと申しておりました。

本日はこうしてお会いしお言葉を伝えられましたこと、女神様に感謝申し上げたい気持ちでございます」

 

「・・・何と素晴らしい。ジェイク君、エミリーちゃん、この切り替えが貴族、そして上位者に対する礼節を身に付けた者の姿。

ハリー・ファン殿、お顔をお上げください。こちらこそハリー殿のご家族に喜んでいただけたことは光栄の至り、ホーンラビット伯爵家に仕える者として感謝申し上げる。

今後とも我が領の男爵令嬢ケイト・フロンティアと仲良くしてもらえたら嬉しく思う。

これはケイトと仲良くしてくれている礼と授業を騒がしてしまった詫びの品、是非受け取って欲しい」

 

そう言い収納の腕輪から二つの革袋を取り出す俺氏。

 

「いえ、この様な、大変申し訳なく」

「ハハハ、その様に畏まらないでいただきたい。この品は我が家の者が作ったクッキーだよ。こちらが例の蜂蜜を使った物、こちらは隣国ヨークシャー森林国より取り寄せた甘木汁を使った物となる。

口に合うとよいのだが。

それとこれはクラスの皆に。授業が終わってからでも分けて欲しい。

いつだかの様にハリー殿に差し上げた品が狙われでもしたら申し訳ないからな」

そう言い俺は先程のものとは別に、大袋に入ったクッキーを差し出すのでした。

 

「おほんっ、そこの見学者の方、今は授業中でしてな。あまり騒がしくされると困るのですが?」

俺がハリー君とそんなやり取りをしてると、指導教諭から注意のお言葉が。

これは本当に申し訳ない。

 

「これはこれは指導教諭殿、お騒がせしてしまい誠に申し訳ない。

こちらのハリー殿とは以前お会いした事がありましてな、嬉しさのあまりはしゃいでしまいました。

その詫びと言っては何ですが一つ。

先程指導教諭殿が行われていました魔法技術、“待機”と言いましたか、あれは更に先がありまして、私はそれを“ストック”と呼んでいるのですが、この様に複数の魔法を待機させる事が出来るのですよ」

 

そう言い俺は上空に十個の(威力を極限に落とした)<ファイヤーボール>を展開する。

 

「コツは<魔力操作>と<魔力制御>、こればかりは何度も魔法を繰り返す事でしか身に付ける事が出来ない。

だが人には限界があり、いくら優秀とされる学園の生徒さんでも<ファイヤーボール>を三十発も打てばフラフラになってしまうでしょう。

そこで有用となるのが“生活魔法”です。

ご存じのように生活魔法は非常に魔力使用量が少ない、それこそ魔力適性の無い子供でも使う事が出来る程に。

逆に言えばこれ程効率よく“魔法を使う”という訓練に適した魔法は無いんですよ。

生徒のみなさんもぜひお試しください、魔法訓練に関しては努力は必ず結果として現れる。

<魔力操作>と<魔力制御>のスキルに目覚める事が出来ればこうした事も可能となる」

 

俺はその浮かべたファイヤーボールを頭上でくるくる回してから一列にして標的となる人型に当てて行くのでした。

よし、壊れてない。威力調整バッチリ!

俺は指導教諭に向かい深い謝罪の礼をすると、その場をってジェイク君にエミリーちゃん、どうしたってのさ。

 

「ケビンお兄ちゃんやり過ぎ、魔法の先生、お口開けたまま固まってるから。生徒の皆さん、目をまんまるにしてるから。ハリーさん、ツッコミできずに放心してるから。

って言うかケビンお兄ちゃん、無詠唱だったから」

 

「あっ」

俺は自身が犯してしまった失敗に頭を抱えつつ、ケイトに連れられ魔法訓練場を後にするのでした。

 




本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora
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