転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第463話 辺境男爵、王都中央学園に臨む (2)

「店主、いるかな?」

王都の片隅に店舗を構えるぬいぐるみ工房モフモフマミー、工房で作業を行っていた四代目店主ポーラ・キムーラは店舗側から聞こえるいかにも貴族といった風の呼び掛けに、警戒心を高めつつにこやかな笑顔で顔を出す。

 

「いらっしゃいませ、ぬいぐるみ工房モフモフマミーへようこそ。私が店主のポーラ・キムーラでございます」

「うむ、店主、先日ぶりだな。

ちと王都で所用が生じた故再び訪ねさせていただいた、わざわざ時間を取らせたことを詫びよう」

 

それはいつぞやの“貴族買い”を楽しまれた太客、ポーラ・キムーラは再びの稼ぎ時に高まる期待を抑えつつ、にこやかに言葉を紡ぐ。

 

「お久し振りでございます、ワイルドウッド男爵様。それで本日はどの様な商品をお探しでしょうか?」

「うむ、実は相談というか、店主に作って欲しいものがあってな。

ルイン」

 

その者は男爵様の背後に控える一人のメイドであった。頭部にスカーフを巻いた彼女は男爵様の言葉に一歩前へ歩み出ると、慇懃に礼をするのだった。

 

「こればかりは説明するよりも見て貰った方が早いだろう。ルイン」

「はい、ご主人様」

メイドはそう言うや頭のスカーフを取り外す。

“パサッ”

現れたのはやや丸みを帯びた可愛らしい獣耳。

“ビシビシビシ~~~~~!!”

ポーラの全身に走る衝撃、これまでにない興奮と感動が、心と身体を駆け巡る。

 

「うむ、可愛らしいものだろう。彼女は見ての様に獣耳を持つ所謂亜人種と呼ばれる者の血を引く者だ。

私は専門家ではないため詳しくは分からないが、耳の形状から狸目、ラクーン種の獣人ではないかと思われる。

これは天啓、この者との出会いは神の啓示。我がホーンラビット伯爵領マルセル村は“ポンポコ山のラクーン”という話の舞台となった村でな、彼女のような者は我が村に相応しいのだよ。

 

そこで私は思ったのだよ、この獣耳を再現したら多くの者に喜ばれるのではないのかとね。

女性の髪留めに“カチューシャ”という装身具がある。そこにこの可愛らしい獣耳を付けたら。

先ずはラクーン耳、その後ウルフ耳フォックス耳と種類を増やしていけば」

 

男爵様の言葉に身体の疼きが止まらないポーラ、この御方は何という素晴らしい提案を。

 

「だがそれだけでは足らない。店主殿はこのルインを見て何かが足らないとは思わないかね?」

 

突然の男爵様の質問に混乱するポーラ。今はケモミミカチューシャの事で頭が一杯になり、男爵様の言われる事まで頭が回らない。

男爵様はおもむろに陳列棚の中から世界の従魔シリーズ、グラスウルフのぬいぐるみを掴み上げるとそれを軽く横に振る。

 

「はっ、まさか!?」

「そう、店主も気が付いたようだな。彼女、ルインには尻尾がないのだよ。

獣耳のメイド、揺れる尻尾。店主殿はどう思うかね?」

 

雷に打たれる、人は強い衝撃を受けたときそう心の内を表現する事がある。ぬいぐるみ工房モフモフマミー四代目店主ポーラ・キムーラは今まさに天命を受けた、獣耳と獣尻尾、そのセットを作らねばならないと。

 

“ガチャ”

手渡されたそれは皮袋、ずっしりと重いそれに目を見開くポーラ。

 

「金貨五十枚、我がマルセル村の土産物として販売を行いたい、その金は商品開発とその後の生産の為に使って欲しい。

我が村としてはラクーン種とウルフ種を考えている。

他にも“ポンポコ山のラクーン”に因んだラクーンのぬいぐるみであるな。

この依頼、頼めるかな?」

 

それは依頼、ロマンの分かる男爵様からの仕事の発注。

 

「はい!ぬいぐるみ工房モフモフマミー四代目店主ポーラ・キムーラ、身命を賭してワイルドウッド男爵様の御期待に添いたいと存じます」

「うむ、では任せる。期間はどれくらい必要かな?店主殿の納得の行く作品として貰いたいのだが」

 

ポーラは暫し考えを巡らせると「一月いただければ」と答えるのであった。

 

「ふむ、ではこうしよう。これらの商品に関しては全ての裁量を店主殿に一任する。店主殿の技量と発想のすばらしさは他の作品を見れば明らかである故な。

この店で販売する商品と考えるとして、ラクーン種とウルフ種のものを百組、販売価格と卸価格を検討したうえで生産していただきたい。

それとラクーン種とウルフ種のぬいぐるみだな、小と中をそれぞれ百体、大を二十体ずつ。足りない資金は後に用意しよう。

あくまで土産物屋の販売という事を忘れないでいただきたい。

期限はそうだな、半年でどうだろうか?質の良いモノづくりに焦りは禁物であるからな。

 

ぬいぐるみ造りは職人の技とセンスの塊、ただ真似をして作ればいいという単純なものではない。

これからも末永い取引をお願いしたい」

 

ワイルドウッド男爵様から差し出された右手。ポーラはその手を握り返し、“この仕事、必ず成功させて見せる”と硬く心に誓うのであった。

 

―――――――――

 

王都のぬいぐるみ工房モフモフマミーでの商談を終えた俺氏、その足で本来の目的地である王都学園、通称“王都中央学園”に向かい移動中であります。

領都にある学園が領都学園なら王都の学園は王都学園でいいじゃないかって思うでしょ?

実は王都には他に二つの学園がございましてね、魔法系職業を授かった者が通う“魔法学園”と武術系職業を授かった者が通う“武術学園”ってのがあってですね。

国中から上級職と呼ばれる有益な職業を授かった者と伯爵家以上の高位貴族子弟の通う学園を“中央学園”、王都の魔法・武術のそれぞれの学園を“二大学園”、各領地の領都学園を“地方学園”などと呼んで区分したりしてるんですね~。

まぁどこの世界でもそうですが首都の学校は偉いってなもんで、各地から高い入学金を払って王都の二大学園に通われる方々が大勢いらっしゃるのでございます。

 

ん?誤魔化すな?お前はさっきまで何をやってたのか?

いえ、ですからマルセル村に新たに作るお土産物屋“ポンポコ山のお店屋さん”の商品仕入れの商談ですが何か?

 

お前は王都学園の講師になるんじゃないのか?

そうだよ、その話本決まりになっちゃったんだよ、これからご挨拶に行くんだよ!!

もうね、やってられないんだよ、ストレスMAXなんだよ、現実逃避に走ったっていいじゃないか!!

 

因みにベルガさんは満月と一緒に王都のお店回りですね。

あの極貧生活の中であれだけ確かな商品を取り揃えてくれたベルガさん、王都ではどんな発見をしてくれるんでしょうね、楽しみでなりません。

 

そこは広大な敷地を持つ施設であった。高い塀に囲まれた緑生い茂る学び舎、へたな大学よりも余程広いんじゃないんだろうか。

全国から集まった上級職持ちや高位貴族の子弟が寮生活をするっていうんだから警備は厳重、しかも敷地内にダンジョンまで完備、そりゃ広大にもなるか。

 

「ここは王都学園である。いかようなご用向きでお尋ねか?」

固く閉ざされた正門、その前に立つ門番はいかにも精強な守りといった雰囲気を醸し出す。

 

「私はホーンラビット伯爵家騎士ケビン・ワイルドウッド男爵。来年入学予定のホーンラビット伯爵家息女エミリー嬢と騎士ジェイクの件で学園長殿にお話がありお伺いした。

既にヘルザー宰相閣下から訪問の旨は伝えられているものと思う。

こちらがヘルザー宰相閣下よりお預かりした書状となる」

 

そう言い胸元から取り出した書状を門番に手渡す。

門番は書状にざっと目を通すと、別の門番に目配せをし通用門の入り口を開けさせる。

 

「お話の方はすでにお伺いしております。てっきり馬車で来られるものと思っていたものですから、警戒し誰何してしまった事をお詫びいたします」

「いや、頭を上げられよ。貴殿は職務を全うしたのみ、ゆっくり王都の街並みを見たいと無理を言ったこちらが悪いのだ。

何せ我がホーンラビット伯爵領はオーランド王国最果ての地、王都の様な素晴らしい街並みなど見る機会がないものですからな。

それと供回りの者は連れて行っても良いのかな?」

 

「はい、御一人様であれば問題ございません。どうぞお通り下さい」

俺は門番に礼をし、残月と共に王都学園の門を潜るのでした。

ルインは休憩、別邸で食事の準備ですね。本日のメニューはマッドボアの煮込みとの事でした。

 

“コンコンコン”

「失礼します。ワイルドウッド男爵様をお連れいたしました」

「うむ、入って貰ってくれ」

 

開かれた扉、執務室の中では壮年の男性が何やら書き物仕事の最中の様であった。

 

「すまない、あと少しで終わるんだ。お茶でも飲みながら少し待っていてもらえるかな?」

男性はそう言うと書類を捲り作業を続ける。

隣の部屋に五人、壁の仕掛けに二人、部屋の隅に二人、これはスキルか何かで姿と気配を消してるのかな?

そこだけポッカリ空間が出来て違和感の凄い事。

 

カリカリと室内に響く筆を走らせる音、ソファーに座った俺は残月に癒し草の若葉のお茶を出して貰い、このゆったりとした時間を楽しむ。

 

「あぁ、お待たせしてすまなかったね。私は学園長のシュテル・バウマン、侯爵家の出ではあるが爵位は継いでいなくてね。職務上名誉伯爵という事になっている。

それで君がヘルザー宰相閣下から話のあった辺境の蛮族、ホーンラビット伯爵家のケビン・ワイルドウッド男爵かな?」

 

待つ事大分、書類仕事を終えソファーの向かいに座った学園長様がお声をお掛けくださいます。俺はそんな学園長様の様子に、“宮仕えも大変だな~”と思いながら言葉を返します。

 

「はい、お初にお目に掛ります。ホーンラビット伯爵家騎士ケビン・ワイルドウッドと申します。爵位は男爵位を拝命しております。

この度は突然のお話、さぞや混乱なさった事と思われます。私も寝耳に水の事であり、いまだ些か動揺しているところでございます。

それと単刀直入にお伺いいたします。

私は合格という事でよろしいのでしょうか?」

 

俺の言葉に一瞬表情が固まるも、何の事だいと言わんばかりの笑顔を向ける学園長様。

 

「扉の向こう、お隣の部屋に五人、壁の仕掛けに二人、それと部屋の隅にそれぞれ一人ずつ。これは私が暴れ出しても直ぐに取り押さえられる様にと待機していた方々では?

ホーンラビット伯爵家が王都において辺境の蛮族と噂されていることは事実、その事は生徒の者たちの耳にも入っている事でしょう。

新しく講師となる者の人柄を知るのも学園という場所で生徒たちを守る学園長の務め、その為ワザと相手が怒り出す様な状況を作り観察する。

表情には極力出さないようになさっておいででしたが、鼓動がかなり早くなられておりましたよ?

それと爵位によって相手を見下すのかどうかといった点も調査項目に入っていたのですか?爵位を継いでいないと聞いた途端態度を変える貴族家の方もおられますからね」

 

俺の言葉に“ハァ~ッ”と大きくため息をつかれる学園長。

まぁ王家を脅して終戦させたとか王城で覇気をぶちかまして素材取引を蹴ったとか、碌でもない噂の元ネタは確りあるもんな~。

ホーンラビット伯爵家、王都では相当に恐れられてるんだろうな~。

 

「ハハハ、ケビン・ワイルドウッド男爵殿、大変失礼な真似をした事をお詫びしよう。ただこの学園は特殊な場所でね、入学予定にある者には全て事前審査が行われるのだよ。

学園には王族の方々をはじめ公爵家、辺境伯家、侯爵家、伯爵家といった国家の上澄みとされる高位貴族家の方々が御通いになる。その為それ以外の者たちの審査は厳重にならざるを得ない。

それは教職員も同様でね、申し訳ないがワイルドウッド男爵殿の人となりを試させていただいたという訳だ。

 

流石は王家に正面から意見した男、ヘルザー宰相閣下をして「細心の注意をもって接する様に」と言わしめただけの事はある。

こちらはてっきり性格的に危険人物なのかと思っていたが、とんでもない。

危険なのはその冷静な観察力と智謀であったという事なのですか、いやはやヘルザー宰相閣下もとんでもない仕事をお申し付けになる」

 

「学園長様は今回の件の詳細は既にお聞きになっておられますか?」

「えぇ、なんでもホーンラビット伯爵家のエミリー嬢が<聖女>を、配下の騎士ジェイク殿が<勇者>の職を授かられたとか。この微妙な力関係の時期に間の悪い事と御同情申し上げたほどですよ。

おっと、これはお二人を侮辱しての事ではないと明言させて頂きます」

 

 

慌てて言葉を加える学園長に「ハハハ、お気になさらずに。そう思っているのはこちらも同じですので」と返事をする俺氏。

 

「ですがなぜ生活魔法の講師なのですか?ワイルドウッド男爵殿であれば武術教官でも務まると思いますが」

学園長様の言葉に隣の部屋の気配が強まる。あぁ、隣の部屋にいるのは武術指導教諭たちなんですね。

 

「う~ん、そうですね。簡単に言えば差があり過ぎるからでしょうか」

“ブォッ”

一気に広がる覇気、その奔流に飲まれバタバタと倒れる室内に隠れていた四人の護衛たち、そして・・・

 

「お隣の部屋の方々、ちゃんと意識があるようですね。この調整が意外に難しいんですが。学園長様には少々怖い思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。一応他の方々と違い少々驚く程度に調整させて頂きましたのでお許しください。

でもこの様な事を講義とは言え高貴なる方々のご子息様ご息女様相手に行う訳にも行かないかと。

 

それと生活魔法は趣味ですね、長年の研究の成果を発表するよい機会かと。

講義に使う教本は講師が用意してよいとか、既に原稿は書き上がっているんですよ、後はこれに修正を加えて製本しようかと。

懇意にしているモルガン商会に作製を依頼して出来上がり次第お持ちするように手配しておきますので、ご購入の件、よろしくお願いします。

「生活魔法と応用」、著者 : ケビン・ワイルドボーイ。

今回は隠れた護衛任務ですからね、講師ビーン・ネイチャーマンの件と合わせてよろしくお願いします」

 

俺は目の前で引き攣り笑顔を浮かべる学園長様をよそに、ティーカップに口を付け、癒し草の若葉茶を楽しむのでした。

 




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