転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

464 / 860
第464話 辺境男爵、色々と準備する

「それでは学園長様、来春よりよろしくお願いします。

私は新しく雇われた講師という事で、数合わせ的に偶々採用されたといった感じでよいかと。専門分野も生活魔法ですので、他の教諭の方々との軋轢も生まれにくいかと」

 

「ハハハ、まぁそうでしょう。我々の中には“生活魔法は魔法ではない”といった考え方が根強く染み付いていますから。

例の件で問題が起きないとも限りません、来春より三年間、よろしくお願いします」

 

王都学園での顔合わせは終わった。本来であれば学園内の施設見学等、あらかじめ知っておかなければならない事もあるのだろうが、今は新年度が始まったばかり。

新入学生たちの対処で教職員たちが忙しくしている中あまりお邪魔するのは悪いだろうと、今回は顔合わせだけとした。

どうせ入学準備やらなんやらで早めに王都には来ないといけないんだし、焦る事もないでしょう。

 

グロリア辺境伯閣下とホーンラビット伯爵閣下、それとヘルザー宰相閣下をはじめとした王都の偉い人たちとの会合は無事合意を見た模様。

基本的にはこれまでの上級職を授かった者たちに対する対応と同様とするものの、強引な社交パーティーへの誘いや勧誘は厳禁とする事となった。

ホーンラビット伯爵家出身の者は既にホーンラビット伯爵家並びにグロリア辺境伯家の庇護下にあるという扱いとなり、彼らを中央へ引っ張り込もうとする行為は西部三連合を敵に回す行為であるという事を各貴族家に周知し問題防止に努める事となったのである。

 

でも本年度は第五王女フレアリーズ様が、来年度は第四王子アルデンティア様が学園に通われる事となっている為か、多くの貴族家でそれに合わせたかのようにお子様をお作りになられていたみたいでしてね。

ご学友として親しくして頂ければお家も安泰?もうね、厄介事の臭いしかしないの。

 

学園側としてはそれもあってかなりピリピリしていたところに、今回のヘルザー宰相閣下の横槍。そりゃ学園長様堪ったもんじゃなかっただろうな~。

だって俺っち辺境の蛮族“ホーンラビット伯爵家騎士団”の騎士だもん、その在り方を審査するのは当たり前でしょう。学園長自らめっちゃ体張ってたけど。

王都南街門前の王宮騎士団壊滅の話は王都民なら知らない者はいないってくらい有名な話だからね、王都の舞台でしきりに三英雄を持ち上げるのも、王宮騎士団壊滅を誤魔化す為の情報操作なんだろうな~。

噂一つでお家崩壊まで追い込まれる王都貴族社会、本気でおっかないです。

 

「ご主人様、只今戻りました」

ここは貴族街にほど近い宿屋の一室、王都の情報収集も兼ね、満月、ベルガさん、ルインの三人にはこの宿に宿泊してもらっています。

 

「二人共、ご苦労様。それで良さげな品は見つかった?」

俺と別行動をとっていた満月とベルガさんには、王都で<仮性心>を擽る面白そうな商品があったら購入して来て欲しいと頼んでおきました。

 

「それが、この広い王都の全てを回れていないというのもあるのですが、やはりその手の商品はあまり表に出さない為か中々これといったものが。

幾つか気になった品は購入させて頂きましたが、お喜びいただけるかどうか。

 

それと一つ面白そうなお話が。ご主人様から街の噂話を集めて欲しいとのお言葉がございましたのでそれとなく聞き込みを行ったのですが・・・」

 

「・・・へぇ~、面白そう。今日は一日自由行動が許されてるし、早速向かってみる事にするよ。

二人は別邸で休んでおいて、購入した物はマルセル村に帰ってからゆっくり見させてもらうから。

ルインがお昼を作ってるから先にみんなでいただいておいて。俺と残月は屋台で適当に摘まむから。実は王都の屋台巡りってまだしてなかったんだよね、結構楽しみ♪」

 

俺の言葉に一礼をして影空間に沈んで行く満月とベルガさん。俺は残月に目配せをすると、宿を引き払い王都の喧騒に紛れて行くのでした。

 

―――――――――

 

そこは不気味な場所であった。王都の中心部から少し外れた住宅街、豪商や役人といった貴族籍はないが一流とされる人々の暮らす一般とは隔絶した区画にあって、何故か管理されていない古びた屋敷。

庭はそれなりに広く、立地的にも悪くはないため直ぐにでも買い手の付きそうな屋敷ではあるものの、人の気配は一切感じられない。

 

「いや~、旦那様はお目が高い。この場所は王都の中でも大変人気の住宅街でして、この様な空き物件がある事自体奇跡、旦那様は本当についていらっしゃる。

本来でしたら金貨千五百枚はくだらない物件でありますが、特別に金貨千二百枚でお譲りいたしましょう」

 

にこやかな笑みを浮かべ揉み手で物件紹介を行う不動産商会の営業担当者。

 

「う~ん、ですがやはり中に入って状態を見てみない事には。建て直しともなりますと相応に資金が掛かりますし、屋敷の中を案内していただけますか?」

 

女性執事を引き連れた男性は、この物件に興味を示し中を見たいと申し出る。不動産商会の営業担当者は、途端顔を引き攣らせ言葉を繋ぐ。

 

「ハハハハ、これは大変申し訳ない。旦那様にはお伝えしていませんでしたが、この建物は老朽化が進んでおりまして、建て替えが必要な物件だったのですよ。

ですのでそれを踏まえまして、土地代という事で金貨一千枚で如何でしょう。これは破格ですよ?」

 

「あ~、それは残念、でも金貨一千枚ですか。それでは庭先の状態や建物周りの状態を見せていただけますか?

流石にこの様な素晴らしい立地で今のような状態になる迄売れ残っているというのも少々気になりますし、多少土地の状態が悪くても改善可能であれば・・・」

「そ、そうですね。庭先の状態くらいでしたら・・・。

ではご案内させていただきます」

 

そう言いカバンから錠前の鍵を取り出し、門扉に掛かった立ち入り禁止の警告看板の括り付けられた鎖を取り外す営業担当者。

 

“ガチャ、ギギギギギギギ”

錆び付いた開閉音を響かせながらゆっくりと開く鉄門。

“ブワ~~~”

庭先から流れ出る背筋がゾクリとするような生暖かい空気。

 

「ヒーーーッ」

途端悲鳴を上げる営業担当者。

 

「それでは案内をお願いします」

男性からの掛け声に「わ、分かりました」と応え一歩前に進もうとするも、その一歩が踏み出せない。

まるで何か見えない者に足を掴まれている様な、そんな感覚が営業担当者をその場に縫い付ける。

 

“今度は何を奪いに来たのでしょうか”

耳元に聞こえる誰かの囁き、全身の毛が逆立つ様な恐怖が、営業担当者の背筋を駆け抜ける。

 

“旦那様方の命を奪い、金銭を奪い、私の純潔を奪い、命を奪い。

今度は一体何を奪いに来たのだ、この悪党がーーーー!!

憎い、憎い、憎い、憎い、殺す、殺す、殺す、殺す!!”

 

「ギャーーーーーーーーーーー!!」

途端転げる様にその場から逃げ出す営業担当者。

 

“ギギギギギギギギ、バタンッ”

ゆっくりと音を立て閉まる鉄門。その場に残された男性は、目の前で引き起こされた現象に何故か大きく口角を引き上げるのでした。

 

―――――――――――

 

「いや~、これはこれは当ドッカン不動産商会の者が大変申し訳ない事をいたしました。

お客様をご案内していながら一人先に帰って来てしまうなど不動産業者にあるまじき行為、あの者にはよくよく言い聞かせておきますので、何卒平にご容赦いただけましたら・・・」

「いえ、それはいいんです。目の前で突然叫ばれてどこかに行かれてしまわれたので、少々心配していたのですよ。

でも良かった、商会長様がおられるのでしたら共にあの物件に出向き案内の続きを「いえ、その、あれはちょっとした手違いでして、お客様にはより素晴らしい物件をご紹介させていただけましたらと存じます」」

男性の言葉に被せるかのように、慌てて声を上げる不動産業者。

 

「・・・解約料金貨百枚ですか。

随分アコギな商売をなさっておいでだったようですね」

 

王都不動産商会ドッカン商会の応接室に流れる静まり返った空気。

緊張に額から冷たい汗を滲ませるドッカン商会長。

そんな中、来賓用のソファーに腰掛けた男性は静かに言葉を続ける。

 

「それは一夜の出来事だった。順調な商売、仲睦まじい家族、気の利く使用人。絵に描いたような幸せな家庭。

それは盗賊か、それとも盗賊に見せ掛けた何者かの策謀か。

失われた命は返らない、だがその土地に残った思いは、恨みは、怨念は。

 

だがそんなものはこの王都ではよくある不幸の一つ、生きている人々には関係のないこと。土地は国により売却され、大手不動産商会に引き取られる事となった。

 

そして不幸は始まる。

購入者に襲い掛かる亡者の呪い、逃げ出す人々、土地は転々と売られ、その価値は下落する。

教会の強力な聖職者による浄化も行われたとか、結果は見ての通りですが。

現在の不動産価値は金貨四百枚もしないとか、誰も欲しがらない土地ですから致し方がないかと。

 

しかしそんな土地でも税金は掛かります。年間金貨二十枚、これは結構な出費です。

そこで考えたのが契約時に取り交わす解約手数料の話です。

解約料金貨百枚、一度契約を取り交わしてしまえば黙っていても解約金が入って来る。こちらは別に嘘は言っていないのだから誰はばかる事なく商売が出来る。

でもそんな事をしていればいずれ噂になり客離れを起こす事は必定、だったら相手を選べばいい、田舎から出て来た様な物知らずならば然して問題にもならないだろう」

 

男性の言葉に途端先程までの殊勝な態度を辞め、それがどうだとばかりにふんぞり返るドッカン商会長。

 

「随分と口が回るようだが、何が言いたい。私は何も悪い事はしていない、それはお客様も言っていたではないか。

冷やかしなら帰って貰おうか」

 

そう言い席を立とうとするドッカン商会長の態度に、男性は大きなため息を吐く。

 

「そうですか、よく分かりました。残月、そういう事だ、ベルナール・アパガード会長には申し訳ないが今回の取引はなかった事にするとお伝えしよう」

 

男性の言葉にピタリと動きを止めたドッカン商会長は、ギギギと擬音がするかのような歪な動きで、男性に顔を向ける。

 

「お、お客様、それは一体・・・」

「ん?あぁ、申し遅れた、私の名はケビン・ワイルドウッド、ホーンラビット伯爵家の騎士であり男爵位を給わった者だ。

ベルナール・アパガード会長にはつい先だって大森林の素材取引を行って貰っていたものでね。

王都ではこうした不動産取引が平然と行われているのだな、この事はアパガード会長にも報告させてもらうとしよう、よく勉強になったとね」

 

そう言い席を立つ男性に慌てて声を掛けるドッカン商会長。

 

「いえ、その、本当にこれは何と言ったらよいのか、(わたくし)共も決して故意に行っていた訳ではなくてですね、その・・・」

しどろもどろになるドッカン商会長に、ケビン・ワイルドウッド男爵はにこやかに微笑みながら声を掛ける。

 

「いや、これは失礼。私はあまりに適正価格から乖離した値段を提示された事や、あの物件の問題点を一切公表せずただ契約を結ぼうとする様なドッカン商会長殿の営業方針からつい勘違いしてしまったようだ。

ところであの物件は本来いくらで販売されるべきものであるのかお教え願っても?」

 

「いえ、あの、金貨七百、いえ、金貨三百五十枚でございます」

額からダラダラと汗を流し声高に答えるドッカン商会長。この王都で商業ギルド会長ベルナール・アパガードに目を付けられるという事は商会の終わりを意味する、その事をよくよく理解しているドッカン商会長にとって、目の前の男爵は死刑執行人に等しいのだ。

 

「そうですか、それだけの価値のある不動産物件が不良在庫となっていては、いくら真っ当な商売を志しているドッカン商会長であっても魔が差してしまう事もあるでしょう。

 

ではこうしましょう。その不良在庫をこのケビン・ワイルドウッドが金貨四百枚でお引き受けしましょう。差額の金貨五十枚はドッカン不動産商会の利益、それくらいの利益が無ければ多くの従業員を抱える不動産商会としてはやっていけないでしょうから。

 

なに、物は考えようなのですよ。

ドッカン商会長もご存じのようにホーンラビット伯爵家は先のダイソン公国との終戦騒動で一躍名の売れた家です。

その臣下であるワイルドウッド男爵家が王都に屋敷を構えるとなれば寄って来る者も多いでしょう。

貴族街に屋敷を構えないのもその為、かと言って下町に居を構える訳にも行かない。あの物件はそうした事情を抱える我が家にとっては大変都合がいいのですよ。

 

まぁ現在の状態のままとは行きませんから庭の手入れや屋敷の修繕は行いますが、王都の聖職者たちが祓えない程の怨霊です、我々とてどうする事も出来ないでしょう。だがそれがいい。

余計な有象無象を追い払うのにこれほど都合のよい人払いの手段があるでしょうか、なにも私があの屋敷に住む必要はないのですから」

 

そう言い悪そうな笑みを浮かべるワイルドウッド男爵に、とんでもない人物に目を付けられたと冷や汗の止まらないドッカン商会長。

取引は無事に終了した。これまでの最大の懸案であった不良物件は、金貨五十枚の利益を生み引き取られて行った。

ドッカン不動産の商会長執務室では商会長ハッパー・ドッカンがどっと疲れた表情を浮かべ、「これからは真っ当な商売を心掛けよう」と力なく呟くのであった。

 




本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。