「バーミリオン~、マリアンヌ~、パパでちゅよ~。二人ともいい子にしてまちたか~♪
““ウ~~、ダァ~~~””
そうでちゅか~、いいこにちてまちたか~、偉いでちゅね~♪
ロバート~、ただいま~。はい、これ。王都のお土産だよ~。
グラスウルフのぬいぐるみだね、格好いいよねグラスウルフ。
このぬいぐるみはね、王都のぬいぐるみ工房モフモフマミーの商品なんだよ。
今度マルセル村にもお土産物のお店を開く事になってね、半年先にはなるけど、そこで取り扱う事になったんだよ。
今のところはラクーン種とウルフ種かな?後々ホーンラビットやフォレストビーのぬいぐるみも作って貰う予定だから、楽しみにしていてね」
ホーンラビット伯爵領ホーンラビット伯爵家仮本邸、そこでは王都より帰村したホーンラビット伯爵が、生まれたばかりのお子様や幼いご長男様に囲まれて相好を崩しておられます。
そんなご当主様の様子をやさしい笑顔で見詰められるご婦人様方。貴族家としては大変珍しい温かな団らんの一時に、使用人の執事様やメイド様方もとても朗らかに微笑まれております。
王都を出発し、あれから数日掛けて空を走って帰って来たのか?
そんなことする訳ないじゃん、サクッと飛んで帰ってきましたとも。
グロリア辺境伯家王都屋敷を出発して暫し、王都近郊の草原で影空間に潜り、中でホーンラビット伯爵閣下に新しく雇った従業員ベルガさん親子を紹介し、マルセル村への移住の許可を貰った俺氏。用は済んだとばかりに外に出るや上空三千メートル付近までジャンプ、黒鴉との合体の後精霊化し一気に飛んで帰って来たって訳です。
時間にしたら三十分くらいかな~、やっぱ便利だわ、精霊化による飛行。
そんな短時間で移動出来るんなら、王都屋敷なんか買わないで飛んで通勤すればいいんじゃないのか?
イヤイヤイヤ、一々王都の北街門から入って学園に向かうって、逆に不審がられちゃいますから。それだったらどこぞに屋敷を構えてそこまで飛んで行った方が全然まし、住んでいようがいまいがそこから通えばいいんですしね。
そんで村の健康広場に降り立ってから影空間のホーンラビット伯爵閣下に到着の旨をお伝えしたんですけどね、ロバート君のお土産が無いって言いだされまして。
仕方が無いので俺のモフモフコレクションをお譲りしたって訳です。
今回も確りと補充してまいりましたんで、俺のモフモフライフには微塵の揺るぎもありませんが。
そう言えばポーラ師匠、新作の構想に頭を悩まされていた様でございました。トゲトゲのスライムクッションのような物が陳列棚の端に置いてあったので「これは何か」と尋ねたところ、北方海洋に生息するウーニーとか言う魔物なのだとか。他にもナメーコという南海に生息する出来損ないのキャタピラーみたいなのとか、海洋シリーズに挑戦中だったんだとか。
ご自分で作られておきながら「可愛くな~い!!」と叫ぶあたり、陶芸家の苦悩じゃないですが、クリエーターの大変さを窺い知ることが出来ました。
「ホーンラビット伯爵閣下、私はこの辺で。土産物屋の建設に関しましては、後程ボイルさんの方にご相談に上がらせていただきたいと思います」
「あぁ、今回はケビン君に無理を言って悪かったね。あれの件は内密に頼むよ、対外的には大森林素材買取の関係で出向いている事にしておくから」
「あぁ、その件ですが、こちらも色々試してみたい事がありますので、当面は内密にお願いします。
ある程度目処が付きましたら改めてご報告に伺わせて頂きたいと思います」
俺はそう言葉を返すと一礼をしてその場を後にする。
ホーンラビット伯爵家仮本邸の前では、出迎えに顔を出された御婦人方とお嬢様方が“何の事?”といったお顔をなさっておられます。
まぁお話しになるとしても、エミリーお嬢様が王都中央学園に入学なされてからの事となるでしょう。
何と言っても影の護衛ですしね、下手に頼られても成長の妨げになりますから。
まずは母メアリーに帰村の報告、その後にアナさんですね。
私《わたくし》、ケビン・ワイルドウッド、調教済みなのでございます!!(ガクブル)
――――――――――
“シュ~~~~”
囲炉裏の五徳に掛けられた薬缶が音を立てる。
寒さ厳しい時期は天井に届かんばかりの白煙が立ち昇っていたものだが、こんな何気ない日常からも季節の移り変わりは感じ取れるものかと自然笑みを漏らす。
あの人が旅立ってからもうすぐ一月、つい先ごろ王都から戻って来たばかりだというのに、村の若者の授けの儀の為に領都に向かったと思ったらその足で王都に向かう。仕事とはいえ寂しくないと言えば嘘になる。
ふと視線を上げる、そこには棚の上に飾られているお人形。
あの人の事を想い、あの人に似せて作ったその人形を手に取り、優しく撫でる。
あの人は「俺ってこんなにちんちくりんなの?俺母メアリーの身長越したのよ?」と抗議していたが、メアリーお義母様も小柄なのだから、可愛らしい抵抗というものだろう。
“カタッ”
それはあの人が何時か作ってくれた筆、東方の島国に伝わる筆記用具の事をどうしてあの人が知っていたのかは分からないけど、思慮深く広い知識を持つあの人のこと、行商人か村のお年寄りの誰かから話を聞き形にしたのかもしれない。
私はその筆にインクを付け、おもむろに「はいそこまで~。アナさん、ケビン君人形は飾り物だからね、悪戯をしちゃいけないよ?
はい、インクは仕舞って筆もきれいにしようね。<清掃>」
“カタッ、ジョロジョロジョロジョロ”
五徳の上の薬缶を火から降ろし、湯呑に癒し草の煮出し茶を注ぎ入れる。
あの人が帰って来てくれた。途端喜びの気持ちが胸いっぱいに広がっていく。
“コトッ”
私はあの人の前に湯呑を差し出し、心からの笑顔を浮かべ言葉を掛けるのだった。
「おかえりなさい、ケビン君」
―――――――――
あぶね~~~、もう少しでアナさんから“レッサーラクーンの呪い”を掛けられるところだったわ。ギリギリのタイミング、マジでヤバかったわ。
もうね、笑顔なのに怖い怖い。アナさんってじっくり溜め込むタイプだから、反動が強烈だから。
今回は授けの儀が終わって帰って来る予定が急遽の王都出張だったからな~、そりゃ怒るよね、うん。
でもこれから話すのってそれどころじゃない話だからな~。ウグッ、お腹がシクシクして来た。
“ズズズズズズッ”
あ~、癒し草の煮出し茶が旨い。若葉の癒し草とはまた違ったどっしりとした味わいが、今の俺にはありがたい。
俺は覚悟を決め、アナさんに領都の授けの儀での出来事、王都での出来事を語って聞かせるのでした。
「そうですか。ジェイク君が<勇者>を、エミリーちゃんが<聖女>の職をそれぞれ授かったと。
でも今は社会情勢が危ういので王家との話し合いがもたれ、ケビン君が講師として赴任する事となったと。
お話は分かりました。それではいつ引っ越しを「イヤイヤイヤイヤ、ちょっと待とう、隠れ住む種族エルフの姫君アナスタシア・エルファンドラよ。
王都はいつどこにどんな目が光ってるのか分からないから、アナさんを連れて行く訳にはいかないから。これはケイトも同様だから、ご自身が追われる身だったって事を自覚して?」・・・・」
俺の言葉に口を噤むアナさん。これで納得してって身体から闇属性魔力が漏れ出てるから~!!アナさん、闇落ちし掛かってるから~!!
魔力の腕輪さん、吸って吸って!!
「アナさん、落ち着こう、話はまだ終わってないから。
えっと、俺、普通に王都まで通えるからね?通勤時間も大体棒パンが焼けるくらいの時間よ?
俺がマルセル村を離れる訳ないじゃん、ただまぁそれも色々問題があるんで誤魔化す為の工作はするんだけどね。
基本的にジェイク君とエミリーちゃんには内緒で、この事は二人の成長を妨げかねないからって意味もあるけど、どちらかといえば混乱を避ける為かな。
ジェイク君も<勇者>の職業を授かったって事は口外しないで、<剣豪>を授かったってことにする事が決まってるから。
エミリーちゃんは<聖女>だけど<聖女>の職業持ちはそれなりにいるからね、<勇者>とは扱いが違うし何と言っても伯爵令嬢だから、特に誤魔化す事はしないんだけどね。
それで俺は学園では生活魔法の講師“ビーン・ネイチャーマン”を名乗る事になってます。見た目は自己呪いか呪いのアイテムで老けさせて三十歳前後くらいの感じにする予定。
領都でそういうペンダントを手に入れてね、これを改造すれば行けるかと。詳しくはマルコお爺さんと相談かな?
自己呪いの方はご協力をお願いします。
後王都の拠点だね、さっきも言ったけどマルセル村から飛んで行くにしても居住先は必要だからね。
王都の噂に“商人街の悪夢”って呼ばれる呪われた屋敷があってね、そこを探して購入して来ました」
俺の言葉に「やっぱりケビン君はケビン君でした」とどこか呆れた表情になるアナさん。
よし、お怒りが収まった。
俺は最大の懸案事項が取り敢えずの決着を見た事にホッと胸を撫で下ろしつつ、王都で購入した屋敷と新しい従業員のことを思い起こすのでした。
―――――――――
そこは王都の商人街と呼ばれる高級住宅街の一角、周辺住民から“商人街の悪夢”と呼ばれる曰く付きの建物の中。
屋敷の敷地全体が濃厚な闇属性魔力に覆われたそこは、まるで黒い繭のように異質な存在感を醸し出すも、その屋敷の存在を恐れ誰も近付かない暗闇の住宅街では、その異変に気付く者は誰もいない。
“ここは一体。俺たちはあの少女に惹き付けられて・・・”
“クソッ、あの女、妙な真似をしやがって。手前ら、女だ、女を探せ!
奴隷商に売る前に、きっちり落とし前を付けさせるぞ!”
混乱する者、憤る者、怯える者、嘆く者。
屋敷の大広間に集まった者たちはまるで周囲が見えていないかのように、それぞれの集団でかたまり思い思いの言葉を口にする。
“コツンッ、コツンッ、コツンッ”
ナニカは忽然と現れた。それは突然、だが絶対。
その場に集まった者たちは本能的に気付く、このナニカに逆らってはいけないと。
「やぁ皆さん、いい夜だね。今の状況が分かっている人は、あまりいなさそうかな?
それにしても大勢いたんだね、盗賊に冒険者、一般市民に聖職者かな?
まぁあれは普通の者には対処出来なかっただろうからね。
もしかしたらこの屋敷に来る以前から結構溜め込んでいたのかな?じゃないとこれだけ大勢さんを縛り付けていた説明が付かないしね。
簡単に言えば君たちは魅了のペンダントの呪物に囚われていたって事かな。要は魂を吸い取られ続けていたって事だね。
本来であればたとえ解放され様ともそのまま消滅してしまっていたかもしれないんだけどね、一時的にこの暗黒結界で魂の欠損を補完しているってのが現状かな。
君たちにはいくつかの選択肢があるよ?
一つ、自らの死を受け入れ女神様の下に向かう事。
女神様は寛容だからね、たとえ現世でどのような罪を犯していようとも、俗世を捨て来世に向かおうとする者を温かく迎え入れてくれるはずさ。
一つ、僕の話を無視してこのまま屋敷を出て行く事。
まぁ信じる信じないは自由だからね、ただそのままさようならってのも心配だからとっておきのお酒を振る舞ってあげるよ。
今更君たちに害を与えようとは思わないさ、好きにすればいい。
一つ、この屋敷に残って働く事。
丁度屋敷の使用人が必要でね、死人の手でも借りたいって所だったんだよ」
ナニカはそう言うと、その場の人々の反応を待つのだった。
本日一話目です。