“ハァ、ハァ、ハァ”
乱れる息を整え、障害物越しに目標を見据える。
奴はこれといった警戒もなく何時もの様に身体を揺さぶっている。
“バッバッバ”
離れた位置の障害物に隠れるジミーとエミリーにハンドサインを送る。
内容は“俺が先行する、ジミーがメイン、エミリーは周辺警戒と遊撃”
“ババッ”
すぐに返る了解のサイン、俺は飛び出し奴の注意を引き付ける。
「スキル<挑発>発動、“くたばれ水饅頭”、複合魔法剣、“火炎旋風斬”!」
“ドガン”
激しくぶつかる燃え盛る木刀と奴の触手、その隙を縫ってエミリーの詠唱が始まる。
「“大いなる神よ、我が手に集い<十発の砲弾を作りて>眼前の敵を討ち滅ぼせ、<弓矢の如き速さで>、ライトボール”」
“ドドドドドドドドドドッ”
それは彼女が新たに開発した条件詠唱、複数の条件を限定的に加える事でその威力を数倍にまで引き上げた高等技法。
「無魔法剣術二の型、“土石流”!」
“ドガドガドガドガドガドガドガドガ!”
新たなるジミーの剣術、魔法属性の性質を剣戟に纏わせることで生まれる超効果、激しい打ち込みは怒涛の如く押し寄せる土砂のごとく奴の防御を打ち砕く。
“ボヨ~ン、ボンボン”
「奴が動き出したぞ、衝撃に備えろ!正面から受けるな、受け流せ!」
「「了解!」」
自ら反撃を開始したデカスライム“大福”、それは俺たちの戦いが次のステージへと昇った合図でもあった。
「くそ~、やい、デカスライム、次は負けないからな!ズバンズバンのギッタンギッタンにしてやるから覚えてろよ!」
「「覚えてろよ!」」
ズタボロになり互いを支え合いながら引き上げていく子供たち。その様子を見送る大きなスライム大福は“今日も楽しかったな~、明日も遊ぼうね~”と、ポヨンポヨン跳ねながら答えるのでした。
「俺たちの戦い、どうでしたか?まだまだスライムにも勝てないひよっこですがこんな調子で冒険者に成れるのかって不安で。ぜひ他所から来た方のお話しを聞きたかったんです。
トーマスお父さんやボビー師匠は“問題ない、自信を持て”って言うんですけど、冒険者に成ったらもっと強い魔物と戦わないといけないんでしょう?グラスウルフとかオークとか。
“魔物恐い”って言うケビンお兄ちゃんの言葉じゃないけど、僕たちスライムやビッグワームにすら負けちゃいますから。どうかご意見をお聞かせください」
「「「よろしくお願いします」」」
いつもの様に基地(エミリーの家)に戻った俺たちは、癒し草を届けに来たグルゴさんに会ったので自分たちの悩みを打ち明けて意見を窺う事にした。
これはケビンお兄ちゃんに言われた言葉だが、「目上の人間は僕たち子供よりも多くの経験を積んでいる。その意見はとても貴重なんだ。同じ経験を積むよりも多くの人の意見を聞いた方が時間の節約にもなるしね」との事。
ある人が十年掛って手にした経験を同様に追随するよりも、そんな経験を持った人の話を聞いて教えを乞うた方が何倍も早く同じ領域に行ける、なるほど納得である。ケビンお兄ちゃんが村のお年寄りの所に足しげく通うのもそうした考えの下なんだろう。
こちらのグルゴさんは最近移住してきたばかりの所謂新住民、これまでにない新しい視点での意見が聞けるかもしれない。
俺たちは期待に胸を躍らせながらグルゴさんの言葉を待った。
「あ~、君たちは冒険者を目指しているんだったかな?であるのなら今度は人との関わり、冒険者の中での立ち回り、情報の収集の仕方といった、冒険者としての生き方について学んだ方がいいと思う。
君たちの夢を壊す様な事を言って申し訳ないが、冒険者とは決して人々の為に魔物に立ち向かう正義の集団なんかじゃない。魔物狩りを生業とする泥臭く欲深い人間の集まりだ。
私はこの年になるまで色んな町や村を見て来た、その経験から言わせてもらうが、この村程人情味の溢れた理知的な人々が住む村を見たことが無い。君たちのお父さん、お母さんを含め、この村に住む全ての人があり得ないほど心温かく、親切だ。
そして何よりも強い。この強さは武力と言う意味ばかりではない、他人を虐げない強さ、自分というものを持ち信念を持って生きているという強さ。こうした心の強さは中々持てるものじゃない。
ドレイク村長代理に聞いたよ。この村も以前は他所の村同様に冬の寒さや飢えに苦しんでいたのだと。そんな村の状況をドレイク村長代理や村の大人たち、そしてケビン君が協力して変えて行ったのだと。
君たちにとってはこの村の常識が全てだと思う。でもいざ外の世界に出た時、それは大きな枷になってしまうかもしれない。
ケビン君はよく村のお年寄りの話を聞いているのだろう?それは何もお年寄りの持つ技術やそれに伴う経験の話だけじゃない。彼らが体験した世の中の理不尽や世間の汚い部分についても聞いている筈なんだ。でなければあれほどの人物に育つはずがないからね」
グルゴさんはそこまで語ると俺たちの顔を見回し優しい声音で話を続けました。
「君たちの戦闘についてだったね。君たちは十二分に強い、強さだけで言えば銀級冒険者でも上位クラスに匹敵するだろう。
ただいかんせんこの村周辺ではそれほど多くの魔物との戦闘は経験出来ないし、森の奥の大森林は魔物の強さが桁違いに上がってしまうと聞く。それこそ金級冒険者がフル装備で挑むほどにね。
そんな場所で経験を積むなんてただの自殺行為、大人たちが全力で止めに掛るだろう。まぁその辺は焦らなくても君たちは既に十分強いという事は分かってもらえたかな?
それとスライムとビッグワームに負けちゃうって話だよね・・・」
グルゴさんが言葉を切る、その顔はこれまでの優し気なものではなく真剣な表情に変わる。俺たちはその雰囲気に押され誰ともなく生唾を飲んだ。
「何なんだいあのスライムとビッグワームは!伝説の魔物かなんかなのかい?
私はこれでもその昔とある貴族の下で騎士長を務めた事もあるが、あれ程の魔物には会ったことがない。確かに魔物討伐を主に行う冒険者ではないがそれなりの強さを誇っていたんだよ、その私が手加減されるって、ビッグワームに翻弄されるって、しかも剣技で負けるって。
私のこれまでは何だったんだい、いかにも強そうな雰囲気を醸し出していた自分って一体・・・」
あ、うん、緑とやり合ったのね。緑の奴阿保みたいに強いからな~。ボビー師匠と互角にやり合ってたからな~、剣で。
ケビンお兄ちゃん曰く、ビッグワームは振動で相手の位置を感知できるらしいから地面の中や地上だと無類の強さを発揮するらしい。その上あの二体は気配察知も出来るから上空の敵も探知可能、隙らしい隙が無いんだよね~。そっか~、やっちゃったのか~。
でもグルゴさん、大福はもーーーーっと強いっすよ、半端ないですから。
マルセル村の洗礼を受けた新住民に憐みの目を向ける子供たち。それと同時に自分たちが世間の常識とはかけ離れていると自覚し、今後の活動に不安を覚える彼らなのでありました。
―――――――――――――――――――
「おはようございます。お婆さん、どうですかこの村での暮らしは、もう慣れましたか?」
俺はいつもの様に畑に向かい、脇の作業小屋に住み着いたお婆さんに声を掛ける。
「あぁ、ケビン君かい、おはようさん。そうさね、快適に過ごさせてもらっているよ。良かったら中に寄っておいでなさいな」
そう言い俺を小屋へと誘う声のしゃがれた腰の曲がったお婆さんに、素直について行く俺氏。まぁ何かあまり他所に聞かれたくない話でもあるんだろうな。こんな村人の来そうにない場所でも警戒する姿勢は、大変良いと思います。
扉を開け中に入る。入ってすぐは土間になっていて簡単な竈が設置されており、正面は一段上がって床板が張られている。そしてその真ん中に囲炉裏が設置されており五徳が備え付けられている。
世界観!!ってツッコミをくらいそうですが、その辺はご愛敬って事で。
いいじゃん和風住居、田舎暮らしの基本よ?こんな所他所の人が来る事なんてめったにないんだからって好きに改装してたらこうなったって言いますかなんて言いますか、無論天井は藁ぶき屋根方式を採用、梁を渡してそこにヨシの束を二重に重ねて作成しております。
結構丈夫、雨漏りも今のところないですね。駄目だったら捏ねた粘土を上から塗りつけて<ブロック>の生活魔法を掛けようと思っていたけど必要ないみたいです。
しかも壁はレンガ・ヨシ束・レンガの三層構造、外気の熱を大幅遮断。夏は涼しく冬は温かな住まいを実現しております。
外観はいかにも手作りの小屋って感じ、村の皆さんは微笑ましいものを見る様な顔をなさっておられます。
「どうですこの“小屋”は。快適に過ごせるように作ってはありますが、一般的な住居とは構造が少し異なるので慣れないと不便だと思いますが」
そうである、この国の一般住宅は靴での生活が基本。家の中だろうがドカドカ上がり込むのが常識。その為床に座り込むと言った風習が理解出来ない。
まぁその点このお婆さんはバラック小屋生活、テント生活が日常だったから馴染みやすいとは思うんですけどね。でもお婆さんが持つあのテント然り、いろりを囲む風習然り、床での暮らし然り、どう考えてもエルフ族って草原の民なんだよな~。遊牧民のエルフって凄くしっくりくる。やっぱりこれって普人族のせいなんだろうか。
「えぇ、とても快適に過ごさせて頂いております。ケビン君のこの小屋の造りは、私の持つ生活様式に通じるものがあります。はじめはなぜケビン君がエルフの事を知っているのかと訝しみましたが、よくよく観察すれば全く違う文化から来ていると分かる。これはどちらかと言えば土着の農耕民族のそれ。ただ自然と共に生きると言う思想は共通しているのでしょうね」
そう言いニッコリ微笑むエルフ族の女性、この人俺の前だと隠さなくなったよな~。いや、子供だけどもさ、これでも次の冬には授けの儀を迎える男の子よ?少しくらい警戒してくれてもいいのよ?
でもそう言ったら何故か虚空を見詰めて“まぁケビン君ですしね、抵抗するだけ無駄ですから”ってなんか俺が極悪非道の無法者みたいに言うの止めてくれない!?
何度も言うけど俺は村人、ヘンリーさんちのケビン君よ?どこぞの街のギャングのボスじゃないのよ?
“アッハッハッハ、そうですよね。ギャングのボスなんてかわいい存在じゃありませんものね”って斜め下の反応をするエルフさん、もう嫌だこの人。
“ズズズズズズッ”
あ~、偽癒し草の煮出し茶が旨い。やっぱりお茶を飲むなら湯呑でしょう。カップで静かに頂くってのは性に合わない、煮出し茶は啜らないと、空気と一緒に“ズズズズズズッ”って言わせないと。
あ、アナさんは別にマネしなくてもいいですからね、これは俺だけの拘りなんで。この辺境の田舎なら誰も何も言いませんが、領都みたいな場所だったら行儀の悪い行為って見られちゃいますから。
アナさんって元はいい所の出なんでしょ?所作が確りしてますしね、そんな御方が無理に崩す必要ないですから。
えっと、アナさんっていうのはエルフ族の女性のお名前です。アナスタシア・エルファンドラ、“高貴なるエルフのアナスタシア”って意味らしいです。俗に言うハイエルフって奴ですね。
本当にもう嫌だ、胃痛がマッハよ、授けの儀の前のお子様が抱えていい秘密じゃないのよ?なぜ俺に開示するし、マジ勘弁して。
“いざとなった時に庇護して頂けたらと思いまして”ってなんて腹黒。この人俺の事を肉壁として完全にロックオンしてるじゃん!逃がす気ございませんって奴じゃん!
そんな感じで一蓮托生(強制)にされたかわいそうなケビン少年なのでありました。(T T)
本日一話目です。