「えっ、はぁ?どう言う事?
何でパトリシア様が辺境の地に?確かロバート様と婚姻されてジョルジュ伯爵家を継がれるって話じゃ・・・」
混乱し思考を巡らせる賢者ユージーン。
「お久しぶりでございます、パトリシア様。ご壮健の様で何よりでございます」
「お久しぶりでございます、聖女マリアーヌ。無事に旅から戻られたのですね、さぞや大変な旅であった事でしょう。
大したおもてなしも出来ませんが、よろしければゆっくりとなさって行ってください。
ドレイクお義父様、こちらの方々は私の王都中央学園時代の友人となります。我が家に御逗留いただきたく思うのですが、よろしいでしょうか?」
そんな賢者とは別に社交に努める聖女マリアーヌ。
「失礼。賢者ユージーン殿にお伺いしたいのですが、王都中央学園の卒業記念パーティーにはご参加なさらなかったのでしょうか?」
「えっ、あ、あぁ。王都中央学園を卒業した後は直ぐに王都を離れてしまったから。下手に卒業記念パーティーに参加していたら出発がいつになるのか分からなかったし、皆が社交に集中しているあの日なら王都を抜け出すには丁度良かったから。
親しい友人には事前に旅に出る事を伝えてあったしね」
ユージーンの言葉になるほどと納得する俺氏。要するに完全な浦島太郎さんな訳ですね。
決死の旅を終えて帰ってみれば祖国がなくなるところだったっていうね、いや~、怖い怖い。
今の反応を見るにまだその事には気が付いてないみたいですけどね。
「え~、先程の答え合わせですが、私《わたくし》ケビン、ローランド・ランドール様とも面識がございまして。色々とお話をした際に王都中央学園の事や賢者ユージーン殿の事も少々。
その際に王都の犯罪組織から助け出したエルフ女性を故郷に帰す為に旅立たれたといったお話も。賢者ユージーン殿は「世界樹の葉を求めるついで」とうそぶかれていたといった事をお伺いしていたのですよ」
俺の言葉になるほどといった表情になるお三方と、なぜかジト目になるパトリシアお嬢様。
あとでお話がございますって何?その、笑顔がもの凄く怖いんですけど?背後で巨大なホーンラビットがシャドーボクシングをしてるんですが!?
「オホン、話を戻します。賢者ユージーン殿と聖女マリアーヌ嬢の事はそうした事情で知っていたと言う訳です。
そしてエリクサーの件ですが、世界樹の葉がエリクサーの原材料という話はあまりにも有名です。そしてこの地には遥か昔に大賢者と呼ばれた者が隠遁していたという伝説が残っている。
その事からお三方の行動がエリクサーを求めてのものであろうことは容易に想像が出来る。
ですがここで一つ問題が。賢者ユージーン殿が当たり前のように仰られた言葉、“秘密の花園”という名称です。
先程聖女マリアーヌ嬢は王都中央図書館の文献で見つけたと仰いましたが、まずそれがあり得ないのですよ。
それはあなた方があの場所に辿り着けないという事に関係してくるのですがね?」
俺の言葉に再び沈黙に包まれる執務室内、俺はそんな彼らを見回してから言葉を続ける。
「実力的にお三方が大森林に入ること自体は問題ないでしょう。理由は単純、お三方が世界樹に辿り着き帰ってこれるほどの実力者だからです。
世界樹のある東方の地は大魔境と呼ばれる広大な森林地帯の中と言われています。そこは魔力濃度が濃く、大森林浅層部から中層部のような状態が国単位の広さで続いているとか。
その様な場所から無事に帰って来れるのなら大森林で生き延びる方法も熟知しているのでしょう。何よりそちらのエルフ女性が付いているのです、森の賢者エルフ族、その指示に従えば何も問題ないかと。
ですがその後は?どうやってあの場所に辿り着くと?お三方はあの場所についてどれ程知っていると?
まぁ知っているのでしょうね、方法は分かりませんがあの地を“秘密の花園”と呼ぶくらいですから。
では私はこれで、ホーンラビット伯爵閣下、お力になれず申し訳ありま“ガシッ”・・・」
俺が一礼をし執務室を出て行こうとするとその手を掴む御方がですね。
パトリシアお嬢様、こちらを見る目が怖いんですけど?にっこりとした微笑みが攻撃色に染まってるんですけど!!
「ハァ~。これはあまり知られていない事ですので、この場限りの話という事でお願いします。
今から三百年前、オーランド王国に大賢者と呼ばれる偉大なる魔法使いがおりました。その功績は大きく、王国でも尊敬を集めていたとか。
ですがそれを喜ばない者がいるというのも世の常、確かに大賢者は素晴らしい魔法使いであったがそれで人間関係の構築が上手く行くとは限らない。
出る釘は叩かれるの言葉のごとく、大賢者は社会から弾かれ大森林に隠遁するに至った。
長い隠遁生活の中で、大賢者は一人の孤児を拾った。それは人としての寂しさから出た行動だったのかもしれない。
孤児は魔法の弟子として、娘として。大賢者の心は孤児との交流で癒されていく。
だがそんな生活もいつかは終わりが来る。
それは大賢者の下を訪れた時の勇者との出会い、大賢者の弟子は勇者と共に旅立って行った。
大賢者はそんな娘の幸せを願いながら、大森林に隠された隠遁の地で一人生涯を閉じる事となった。
勇者と共に旅に出た大賢者の弟子は、様々な冒険の末再び大森林を訪れる。だがそこに愛する家族の姿はなく、悲しみに暮れた大賢者の弟子はその亡骸を埋葬し、墓所を作り上げた。
そこは愛する家族との思い出の地、隠遁した大賢者との聖地を、娘は持てる力の全てを使い閉じ込めた。
それは親子の愛が作り上げた楽園、三百年を超えた現代に残る封印の地、それが“秘密の花園”。
でもおかしいんですよ、あの地が現在の様な状態になったのは三百年の月日が経ったからこそ、墓所が建てられた当時は大賢者の住んでいた家も生活環境もそのままに残されていた。
そして封印された墓所に訪れる事が出来た者はその後現れなかった。
聖女マリアーヌ、あなたはどのような文献で墓所の様子を知ったのですか?因みに勇者に従った大賢者の弟子の記録は王家の手により完全に消去されて残っていない筈ですよ?勇者物語にも彼女の名前は残されていませんでしたから」
俺の話に言葉を失う聖女マリアーヌ。
まぁここまでの話をされるとは思っていなかったのか、誰も何も言ってこない。
俺は一礼をし執務室を“ガシッ”・・・。
パトリシアお嬢様は一体何のご用があるのでしょうか?
「ハハハ、相変わらずケビン君はケビン君って事なのかな?
まぁこんな話をよそで話したところで何を言ってるのかって顔をされるだけなんで話したりはしないけどね。
ところで先程からケビン君はこちらの三人がその“秘密の花園”に辿り着く事が出来ない様な口振りだけど、それはどう言った理由からなのかな?
この三人は大森林でも十分に活動できるって話だっただろう?」
疑問を口にしたのはホーンラビット伯爵閣下。まぁそうですよね、でもそのヒントは既に話したんですけどね。
「先程の話の中でも言いましたが、あの地は封印されているんですよ。だから大森林にあって楽園と呼べる状態が維持されている、普通の方法では近寄る事も出来ない。
そんな場所に賢者様ご一行はどうやって向かうつもりだったのか。
何か特殊な魔道具でも持っているのか、あの地の封印と魔道具、どちらが勝つのでしょうか?
そしてあの地に辿り着いたからと言ってどうするのか、あの地は正しく墓所、大賢者の墓と花園しかありません。
そんな場所で何をどうするというのでしょうか?
あ、失礼、今はキラービーの巣箱が置かれています。そのキラービーたちは私が飼育しているので攻撃しないでくださいね、彼らには人に手を出さないように言ってありますんで」
俺の言葉に“こいつは何をやってるんだ!?”といった顔になる執務室の面々。
え~、いいじゃん、大森林の中でキラービーの飼育をしたって。人里には出て来ないんだし!!
「あの、俺の話を聞いて貰えないでしょうか!」
混乱した執務室の中で声を上げたのは、何か思い悩んだような顔をしていた賢者ユージーンでした。
「これは、その、とても信じてもらえない様な話だと思うんですが・・・」
そう言い語り出した賢者ユージーンの独白、それは普通の者が聞けば荒唐無稽と相手にもしない様な話。
でもその事を理解できる人間、在りし日の記憶を持つ俺にとっては“うっそ~ん、マジ勘弁して”と思わざるを得ない様な話なのでした。
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「とても信じてもらえない様な話だと思うんですが、俺には前世の記憶があるんです。
ただその記憶はこの世界とは違う別の世界、異世界とでも言った方がいいのか、山の様に高い建物が建ち、石畳よりも平らな道が延々と続き、その道を早馬よりも早い鉄の車が走る、そんな世界の記憶なんです。
その世界で俺はあるゲームを楽しんでいました。あっ、ゲームというのは何て言ったらいいのかな、勇者物語を題材にした遊戯の様なものと思ってください。
その題名は“ソードオブファンタジー”、俺はこの遊戯が好きで夢中になって遊んでいました。
俺がこの世界に生まれ変わった存在だと気が付いたのは子供の頃でした。剣に魔法、街の外を徘徊する魔物、そんなものは前の世界では体験する事の出来ないものだった。
俺は親に頼んで初級魔法であるボール魔法の詠唱呪文を教えて貰い目標とした樹木に対し撃ち出した。
飛んでいくファイヤーボール、音を立てて抉れる樹木。
初めて魔法を使った時の感動は今でも忘れない。
俺は夢中になって魔法に取り組みました、火・風・水・光、結局四属性のボール魔法を撃ち終わったところで魔力枯渇で倒れてしまったんですが。
うちは父親が魔法使いで両親ともに凄く喜んでくれて、その後は魔法について様々な事を教えて貰いました。
父親曰く「お前には生まれ持った才能がある、授けの儀を終えたら王都の中央学園に行く事になるだろうから、今から色々と勉強しておく必要がある」とのことでした。
そして魔法以外にも地理や歴史などを学んでいくうちに気が付いてしまったんです。ここは前世で遊んだ遊戯の世界、“ソードオブファンタジー”の世界だと。
プレイヤーキャラクター“赤髪のジェイク”が登場するオーランド王国、首都の名前はバルセン。
最初はただの疑いでしかなかった世界観、授けの儀で<賢者>の職を授かり王都中央学園の寮に入って王都の街並みに触れて。
先程騎士ケビンさんが仰っていた、「どうやって“秘密の花園”に向かうつもりだったのか」という言葉の答えがそれです。
ゲーム内に登場するアイテム、“道標の羅針盤”。王都の古道具屋の片隅でホコリをかぶっている魔道具、店主も使い道が分からないと捨て値で購入できる品です。
俺たちはこの羅針盤の導きに従い数々の困難を乗り越えて来た。
“秘密の花園”についてはゲーム内知識です。
大森林中層部にひっそりと存在する隠された楽園、その墓所の前で大賢者の英霊に聖女が祈りを捧げる事で大賢者が顕現する。
聖女がいない場合はお酒を捧げると出て来てくれるはずです。
エリクサーに必要な材料は“世界樹の葉”と“ドラゴンの涙”、“ドラゴンの涙”はローレライ連合王国にあるローレライ大砂漠地帯にある幻の神殿で手に入れる事が出来る。
全ての事象がこの世界がゲームの世界という事を、俺が前世で親しんだ物語の世界という事を裏付けている。
であるのならその物語で語られていた出来事が起こる可能性は非常に高い、それが小さな出来事、個人で解決できるものならいい。とてもじゃないが個人ではどうする事も出来ない事が起ころうとしていたら、俺が世界樹の葉を求めたのはそれが理由です」
・・・うわ~、このお方、勇者病<仮性>の<極み>だったのね。病状のベクトルが俺とは違う方向で振り切れちゃってますこと。
でもスゲーわ、ゲーム転生、完全にラノベの主人公様じゃないですか、そりゃテンションも上がるし色々努力もしようというもの。しかも四属性の魔法適性持ち、完全に勝ち組じゃないですか、パーティーメンバーが聖女様にエルフ女性って、優勝じゃないですか。
この二人、こんな主人公様の妄想じみた話に付き合ってるって事でしょう?愛ですな、愛。
あっ、ホーンラビット伯爵閣下が物凄く優しい目をしていらっしゃる。そして何故その目を俺に向ける、俺に!
俺はここまで主人公主人公してないから、村人と旅人を一緒にしないでいただきたい!
「お話は分かりました。賢者ユージーン、あなたが人知れず苦悩を抱えていらっしゃったことは想像に難くない。
人には言えない、言っても信じてもらえない様な秘密を抱え、それでも何かをしようと一歩を踏み出す事はとても難しい。
そしてそんな思いを抱える仲間に共に寄り添う事は、本人以上に大変であったのかもしれない。
賢者ユージーン殿、聖女マリアーヌ嬢、エルフ族のアリシア嬢。
あなた方のこれまでの旅路に敬意を。
ですが一言、“この世界で生きる人々を嘗めるな”
この女神様がお創りになった世界が、高々異世界の物語で語り尽くせるほど単純なものだなどと思わない事だ。
確かにその物語はこの世界の一面を切り取って作り上げられたものだったのかもしれない、だがいつまでもそれがただ一つの真実だとでも?
賢者ユージーンはその物語に登場してはいなかったのだろう?
世界とは常に変化する、多くの者が出会い影響し合うだけでも社会が変化するように、この世界に存在する人の数だけ真実が存在するように。
今からその真実の一端を御見せしよう」
俺は三人の来訪者にそう告げると、この部屋にいる者全員に場所を移動する事を提案するのでした。
本日一話目です。