「む?ケビンよ、どうしたんじゃ急に。それにそんなに大勢を引き連れて」
自宅前で片付けものをしていた老人がその手を止め、現れた者たちに声を掛ける。
騎士ケビンがホーンラビット伯爵他数名と賢者パーティーを引き連れてやって来た場所、そこはマルセル村の外れ、ボビー師匠の訓練場であった。
「こんにちはボビー師匠。こちらは先程マルセル村を訪れた賢者様と聖女様とエルフ様ですね」
「いや、それは見た目で分かるというか、そちらのエルフ族の女性はええのかの?いくら辺境マルセル村とは言うても、エルフの者がいると知れたら騒ぎになるのではないのかの?」
ボビー師匠はそう言い、心配そうな眼差しをエルフ女性に向けます。
俺は呆れの表情を向けてから、ボビー師匠に言葉を返しました。
「まぁ何かしらの事情があるんじゃないんですか?彼女、一度は犯罪組織に囚われの身になっていたにも拘らず未だにあの姿ですから。
致し方のない事なのか、果たさなければならない使命でもあるのか。ただ誇り高いってだけかもしれないですけど、流石にそれはないでしょう。
共に旅をして来たお二人もエルフ族絡みの厄介事は何度も経験して来ている筈、それでもなおその容姿を晒しているという事は相当な思いがあると見ていいし、その事を仲間である賢者様と聖女様はご存じの筈。
であるのならこちらがとやかく言う事でもないでしょう」
俺の言葉に「なるほどの、あのエルフ殿も戦っておるということなのじゃの」と腕組みをし頷きで応えるボビー師匠。
そんな俺たちのやり取りに背後で動揺する賢者パーティーと“えっ、そうだったの?”といった反応を示す伯爵閣下御一同。
「イヤイヤイヤ、普通にこれぐらい分かるでしょうが、だって行動がおかし過ぎじゃないですか。
相手は隠れ住む迫害されし民エルフ族ですよ?自らを隠す技術において他に追随を許さない方々なんですよ?
そんな種族の者が堂々と顔を晒して旅をする、そんなの何らかの目的があるとしか思えないじゃないですか。
しかもその事を許容するパーティーメンバー、普通に有り得ないですから。おそらくは彼女の目的達成に協力するという条件で世界樹の葉を譲り受けたとか?
エルフ族が排他的なのは有名ですからね、世界樹に他種族を近付けたって事自体が信じられない事態、であるのならそこに何らかの取引が行われたと考えるのが自然。
エルフ族を取り巻く厄介事を考えれば正当な取引ではないかと」
俺の解説に口を開けたまま唖然とする賢者パーティー。そしてホーンラビット伯爵閣下、何故にそこで「やっぱりケビン君はケビン君だよ」と言葉を加えるし。
パトリシアお嬢様、何故にドヤ顔?「これが我が騎士ケビンの実力です!!」って確かにパトリシアお嬢様担当ではあるけどもさ。
「まぁええわい、ケビンがケビンする事は今に始まった事ではないからの。
して今日は何の用があってここに来たんじゃ?」
そう言いさっさと要件を話せと催促するご老人。
お年寄りはせっかちだよな~、そのうちボビー師匠も「アレ持ってこいアレ!えぇいまどろっこしい」とか言い始めるんだろうか。歳を取ると言葉が出なくなるって言うしな~。
「あぁ、そうでした。ちょっとシルビアさんに用がありまして。
お二人共御在宅ですかね」
「うむ、シルビーであったら家でフィリーと魔力操作の訓練を行っておるはずじゃぞ?何でも細密操作とか言ったかの?儂ではよく理解出来んような事をやっておったわい。
ちょっとまっておれ、儂が呼んで来よう」
そう言い家の中に入って行くボビー師匠。
ほうほう、シルビーですか。これはこれは。
ついにボビー師匠にも春がやって来たって事でしょうかな?すでにお相手はお亡くなりになっておりますが。
まぁボビー師匠も自身を老い先短い老人って言ってるくらいですし、別にその程度の些細な事は気にも留めないでしょう。後の人生を共に過ごすのにこれほどのお相手もいないでしょうしね、だってすでに先立たれちゃってるんですから。
「あらケビン、あなたから訪ねて来るなんて珍しいじゃない。それにそんなに大勢を引き連れて。何か困りごとでもあったのかしら?」
俺が一人顔をニヤ付かせていると、話題の中心賢者シルビア師匠がボビー師匠のご自宅からやってまいりました。
「これはこれはシルビーさん、随分とマルセル村にはなじまれた様で。
というかボビー師匠との仲が順調に育まれているみたいですな~。
あの偏屈を靡かせる、いよ、魔性の女シルビー、格好いいぞ!」
「ばっ、阿呆な事言わないでよ、恥ずかしいじゃない。
まぁ、でも今の生活は楽しいわよ?娘がいて弟子がいて、話し相手になってくれる人がいて。
こんな穏やかな生活があの頃出来ていればって思うくらいには幸せを感じているしね。
でもボビーは今や時の人なのよ?私なんかが・・・」
「いや、そんなこと気にしなくてもいいんじゃないんですか?
大体ボビー師匠が世に出たいような人物であったなら初めからマルセル村にいる訳がないじゃないですか。
ボビー師匠も今の生活を楽しんでいると思いますよ?」
「そ、そうなのかしら?私がこのまま居ついちゃっても」
「どうぞどうぞ、というかこちらからお願いしたいくらいです。
これからもボビー師匠の事、よろしくお願いします」
俺はそう言い頭を下げる。ボビー師匠にもシルビア師匠にも世話になりっぱなしだからな~。お互いゆっくりと歩み寄ってくれればよいのではないでしょうか。
「そうじゃないそうじゃない、今日はそれとは違う話があったんですよ。
ご紹介しますね、こちら旅の賢者ユージーン殿に聖女マリアーヌ嬢、そしてエルフ族のアリシア嬢。
なんかシルビアさんに用があるみたいなんで連れて来ました」
そう言い賢者パーティーの三人を紹介する俺に困惑といった表情を見せる賢者パーティーの御三方。
「あの、ケビンさん、こちらの方は一体?ちょっと状況が理解出来ないんですが」
「えっ、だから会いたいんじゃなかったんですか?
こちら‟秘密の花園”の主シルビーさん、大賢者シルビア・マリーゴールド様そのひとですが?
いや~、よかったですね~。わざわざ大森林に行かなくても用件が済んで。
シルビアさん、こちらの三人、なんかエリクサーを作って欲しいみたいなんですよ。それでわざわざ世界樹まで行って“世界樹の葉”を手に入れて来て、尚且つローレライ大砂漠地帯の遺跡から“ドラゴンの涙”も手に入れて来たんですって。
まさか本当にエリクサーの材料を入手できるような人物が現れるとは思いもしなかったんでビックリしちゃいましたよ。
って言うかなんで遺跡に“ドラゴンの涙”があるんですか、意味が分からない」
「「「「はぁ~!?えっ、はぁ~!?」」」」
俺の言葉に大混乱に陥る一同。そんな中シルビアさんだけが「えっ、嘘、あの嫌がらせのようなレシピの材料を集められたの?」と一人驚愕しているのでした。
「あの、ケビン様、大賢者シルビア・マリーゴールド様は既にお亡くなりになっているのではなかったのですか?
先程の話ではご遺体はお弟子様に
困惑の中、言葉を発したのは聖女様。賢者様と行動を共にする中でこうした対応力が鍛えられたんでしょう。
そう言えば前にケイトが王都の中央学園では聖女様がハリセンを振り回しているとかなんとか言っていた様な。聖女様、おいたわしや。
「はい、確かにそう言いましたよ?大賢者シルビア・マリーゴールド様は三百年前にお亡くなりになられております。そして長い年月墓所でお眠りになられていた。
先程の私の話、おかしいとは思いませんでしたか?詳し過ぎると。墓所には誰も訪れた事はないなどと断定的に語るあたり、何を証拠にと思いはしませんでしたか?
証拠はありませんが証言でしたら。ご本人から聞きましたんで」
「えっ、ケビン君、シルビアさんとイザベルさんが賢者だって事は聞いていたけど、亡くなってるって一体」
「あぁ、ホーンラビット伯爵閣下にはお話ししていませんでしたね。
先程私がお話しした大賢者シルビア・マリーゴールド様、勇者様と共に旅立たれた賢者イザベル様のお話はすべてご本人からお聞きした事、そしてお住まいは大森林中層部の結界に覆われた花園の墓所。
つまりお二人とも故人という訳です。
ただ魔物のレイスとは違い成仏していないだけの霊体とでも言いましょうか、英霊って奴ですね」
「ケビン、少しいいですか?私は何度かお二人とお話をした事があるのですが、全くそう言った事は気付かなかったのですが。
握手も普通に出来ましたし、食べ物や飲み物を口にしているところも見ているのですが」
頑張って状況を理解しようとしているパトリシアお嬢様、“ケビンだから仕方がない”と言って流さない辺り、ご立派です。
「それは幻影魔法の応用ですね。お二人共自身の肉体を幻影魔法を使って再現なさっておられるんですよ。魔力の繊細な運用により幻影をほぼ実体化させるばかりか、その感覚器官ですら再現し切っている。
視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚といった五感の再現に成功し、生者との境目を克服した存在。過去多くの魔導師がリッチと呼ばれる存在に身を落としてでも追い求めてやまなかった境地に、全く違う手法で辿り着いた超越者、それが大賢者シルビア・マリーゴールド様と賢者イザベル様なのです。
もし仮に賢者ユージーン殿が“秘密の花園”に辿り着く事が出来たとしても過去の英霊を呼び出すことは難しかったと思いますよ?
だってマルセル村で普通に生活してるんですから、墓所に眠ってなんかいないんですから。
賢者ユージーン、あなたの知る物語でこの様な展開はありましたか?
おそらくですが、賢者様方がオーランド王国を旅立たれてからの二年と三か月は、賢者ユージーンの知る歴史とは相当に差異があるはずですよ?
何故ならその事を知っていたのなら悠長に世界樹に旅立たれたという事自体おかしな話となってしまいますからね?
詳しくはそうですね、今夜にでもパトリシアお嬢様からお聞きすればよろしいかと。お互い積もるお話もあるでしょうから、とても有意義な時間となるかと。
シルビアさん、そういう訳なんですけど、エリクサーの作製の方お願い出来ますかね、俺も手伝いますんで」
俺の言葉に唖然とする一同とジト目を向けるシルビアさん。
「ケビン、あなた実はエリクサーを作る所が見たいってだけでしょう?」
「あ、分かっちゃいました?だってエリクサーですよ?勇者病<仮性>にとって聖剣とエリクサーはご褒美以外の何ものでもないじゃないですか。
しかも作製現場を見る事が出来る機会が来るなんてどんな幸運ですか、俺死んじゃうんですか?
もうね、全面協力いたしますとも。
ところで賢者ユージーン殿、出来上がったエリクサーってどうするつもりだったんですか?何か目的があっての事みたいな話し振りだったんですが」
俺からの質問に一瞬ビクッとする賢者様。そんなに怯えなくてもいいんだよ?取って食おうって訳じゃないんだし。
「いや、その、さっきの話の続きになるんだけど、ゲームの展開で王都が暗黒魔導士に呪いを掛けられるって話があって、王都の呪い自体は暗黒魔導士を倒す事で解決できるんだけど、その呪いが王妃様に襲い掛かるってものがあるんだよ。
王妃様が侵された呪いを解術する手段がエリクサーを手に入れるって事になっていてね、だったら事件が起きる前にエリクサーを手に入れてしまえばいいのではって考えたんだ。
でもどうやら俺の考えは相当に浅はかだった様だけどね」
「う~ん、そうですね。その際に発生する状況の変化や自身が置かれるだろう立場といったものに考えが及んでいない辺りは、浅はかと言わざるを得ないかと。
先程も言いましたが、その行動力と勇気は誇っていいと思いますよ?ですがこの世の中は、人の欲と言うものはそんな高潔な思いを容易く踏みにじる。
そう言った人の心の醜さは、エルフ族であるアリシア嬢の方が良くご存じかと。
そうそう、アリシア嬢にもお聞きしたい事があったんです」
俺は姿勢を正すとアリシア嬢に向き直り、右の拳を左胸に当て、親指と小指を突き立てる。
「私は森の風の里の者の縁者、マルセル村のソル、ケビン・ワイルドウッド。彷徨える同胞にお聞きしたい、いかような理由で自身の身を危険に晒すのか」
俺の言葉に先程までの呆けた姿勢を改め、右の拳を左胸に当て親指と小指を立てるアリシア嬢。
「同胞の縁者よ、私は森の大樹の里の戦士アリシア。我が望みは失われし姫の捜索、是非に御助力を給わりたい」
そう言い礼をするアリシア嬢。
・・・あ~、うん。俺、その件に心当たりがあるわ~。
俺は怒涛の如く押し寄せる厄介事に頭を抱えつつ、「あ~、うん、こんな所じゃなんですんで場所を変えませんか?」とこの場の者全員にケビンの実験農場へと移動するよう促すのでした。
本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora