転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第475話 賢者パーティー、マルセル村を訪れる (4)

その農場はマルセル村の外れに存在した。よく手入れの行き届いた美しい畑、畑脇に建てられた葦束を屋根とした大きめの小屋と、まるで貴族の別邸のような立派な建物。

塀で囲われた何かの飼育場からは、“クワックワックワ”という元気な動物の鳴き声が聞こえて来る。

 

““キュワ~、クワックワクワ~””

「緑に黄色、お疲れ~。そうだな~、そろそろ収穫物も貯まって来たし、ジェラルドさんの所に届けないといけないよな。

それで今年の小麦の出来はどうよ?」

 

““クワ~、キュワックワ~””

「ほう、それじゃ収穫の準備に入らないとね、その辺は緑と黄色に任せるわ。キャロルとマッシュにも協力してもらってほだかけと脱穀の方をお願い。

キャロル~、マッシュ~、ちょっとこっちに来てくれる?」

 

““キュイ?クワックワ””

「まだご飯じゃないっての。こちら見学者のユージーン殿とマリアーヌ嬢とアリシア嬢。

一応ご挨拶をと思ってね」

 

““キュキュ~、クワ、クワッキュ~””

「え~、こっちがキャロルでこっちがマッシュですね、どうぞよろしくお願いしますってどうなさいました?三人とも固まっちゃって」

 

実験農場に到着した俺は、畑作業を行っているファームドラゴンワームの緑と黄色、ドラゴニュートっぽいキャロルとマッシュを紹介し、肝心の「イヤイヤイヤ、えっ、何でドラゴンが畑仕事をしてるの?それにドラゴニュート?えっとここって村の中だよね?魔境とかじゃないよね?」・・・ついに賢者ユージーンが決壊した様でございます。

大賢者の話でも何とか耐えきってたんだけどな~、惜しい方を亡くした様でございます。

ガーネットさんが凄い優し気な眼差しで賢者パーティーの御三方を見ていらっしゃる。「そのお気持ち、物凄く分かります」って耳目ではあり得ない様な感想を漏らしておられるんですけど。あの時は大変だったな~って遠い目をなさってるんですけど。

 

「ご主人様、この様に大勢様で一体どうなさったのでしょうか?

それとこちらは」

「あぁ、月影、丁度良かった。ちょっとエリクサーを作製する事になってね、シルビアさんに聞いて必要な道具の準備を行って貰える?大概のものはあっちにあると思うから。

それと十六夜たちに言ってホーンラビット伯爵閣下をはじめとした皆さんにお茶の準備を」

 

俺の言葉に一礼をしその場を後にする月影。賢者ユージーンは「はぁ?メイドさん?何で畑にメイドさん?」と大混乱続行中のようです。

俺はそんな一同をよそに、小屋にいるであろう人物に声を掛けに行くのでした。

 

―――――――――

 

“クツクツクツクツクツ”

囲炉裏の五徳に掛けられた鍋が音を立てる。弱火でじっくりと煮込まれた根野菜は柔らかさを増し、後から投入したビッグワーム干し肉ハーブ風味から出る出汁(だし)をよく染み込ませる。

あの人は一汁一菜と言って汁物を必ず口にする。“旨い”と言って微笑んでくれる顔を思うと、料理を作る事自体が楽しくなってくる。

何気ない日常、何気ない幸せ、それがいかに掛けがえの無いものであるのか。私のこれまでの人生はその事を知るための旅だったのかもしれない。

ただ辛く苦しかった過去をこんな風に振り返れる日が来るなんて。

人生とは何が起こるのか分からない、あの人との出会いが全てを変えてくれた、その幸運を噛み締めながらおたまで鍋をかき混ぜる。

 

“ガラガラガラ”

「おっ、いい匂い。今夜は夏野菜のスープかな?香りを嗅ぐだけでお腹が空いて来ちゃうね」

不意に引き戸が開き聞こえてきた声に、自然笑顔になる。

 

「お帰りなさいあなた、今日は早かったのね」

「あぁ、ちょっと色々あってね。まだ用件は終わってないんだけど、少しアナさんにも関係しそうな厄介事がね」

あの人の口から洩れた不穏な言葉。私はお鍋に蓋をし囲炉裏の火を落とすと、身を正してあの人の言葉を聞く。

 

「アナさん、いや、アナスタシア・エルファンドラ。どうやらお迎えが来たみたいです」

聞こえてきた言葉、それは嘗てであれば夢にまで見た希望。

でもそれは・・・

 

「アナさん、大丈夫?顔色が凄い事になってるよ?

まぁこういった事は変に誤魔化すんじゃなくてきっちりさせておいた方がいいんじゃないかと思ってね。下手に隠し立てをして余計に問題をこじらせてもなんだし。

取り敢えず一度会って話をしてみようか?向こうも人生を懸けて命懸けでやって来たんだろうしさ。

しかしあの人も無謀だよね、いくらこの広い世界で行方不明のハイエルフを探す為とは言え、エルフである自身の姿を晒した状態で旅をして来るって。その道程は並大抵の苦労じゃ済まなかっただろうに。

“森の大樹の里の戦士アリシア”、その心意気は尊敬に値すると思うよ?

 

あ、別に別れようとかそんなことは考えてないから安心して、エルフの里には一度ご挨拶に行かないとと思ってたから。

ご両親が健在かどうかは分からないけど、森の風の里の関係者が生き残っているかもしれないしね。

嫁の実家じゃないけど、里帰りをさせてあげるってのは夫の甲斐性って奴じゃない?」

 

そう言いニカッと笑う愛しの人。この人はなんでいつも私の欲しい言葉を与えてくれるのか。

 

「そうですね、分かりました、お会いしましょう。

その方が私を探しているとは限りませんが、同胞が訪ねて来てくれたのに顔を出さないというのも失礼に当たりますからね」

 

そう言いニコリと微笑む私に、愛しの人は「そっか、何も行方不明のエルフはアナさんばかりじゃなかったんだわ。“失われし姫”とか言ってたからてっきりアナさんの事だと思い込んじゃったわ、失敗失敗。

アナスタシア、こんなどこか抜けてる夫だけどこれからもよろしく」と声を掛けてくれるのでした。

 

―――――――――

 

「皆さん、お待たせしました」

場所は変わって農場脇の従業員宿舎の客間、皆様はテーブルの椅子に腰掛け、お茶を飲みながら一休憩といったご様子。

接客は十六夜とルインさんですね。ルインさんはお洒落なスカーフを頭に巻かれております。

ケモ耳を隠しているのは何故なのか?フフフ、そんなもの“ポンポコ山のお店屋さん”の目玉だからに決まってるじゃないですか。

何事もインパクトって大事なんですよ、インパクトって。商品が揃っていないのに看板娘を前面に出す訳にはいきませんからね、勝負は秋のオープンを迎えてから、観光客(聖地巡礼)は減るかもしれませんが、獣人である事を隠して生きて来たルインさんにとっては丁度いいリハビリ期間かと。普通に村の生活雑貨屋さんとしても頑張ってもらうつもりですしね。

 

「えっと、シルビアさんがいないみたいなんですが、どうしたんですか?」

「あぁ、月影さんと一緒に必要な道具の準備に行ったよ。エリクサーの作製自体はそれほど難しくないらしくてね、道具もある程度その辺の台所用品で代用できるらしい。

まぁそれでも成分抽出の為に清潔な漉し布を用意したり、漏斗を用意したりって事は必要らしいんだけどね」

 

俺の言葉にお答えくださったのはホーンラビット伯爵閣下、そしてテーブルにはティーカップに注がれた若葉の香りのするお茶と緑色をしたクッキーが。

そうですか、とうとうお飲みになられたんですね。まぁ今日は結構頑張られたので良しとしておきましょう。いずれは聖茶に頼らずとも乗り越えられる様に、これからも修行を積んで行きましょう。

他の皆さんも目に理性の光が戻られた様で、俺にとっての日常って他の方々にとってはかなりの衝撃なんだな~と改めて感じさせていただいた出来事でございました。

 

「皆様、大分お疲れの様ですが今しばらくのお付き合いをお願いいたします。

先ずは賢者ユージーン殿の事について話を進めさせていただきます。

先程のお話では王都に呪いがばら撒かれその解決のためにエリクサーが必要であった、異世界の物語ではそうなっていたのだとか。ですがそれについてはまず問題はないかと。

これは呪いというものの性質なのですが、一人の術者が行える呪いの範囲とはそれ程広くはないんです。逆に広範囲に呪いを行き渡らせようとすれば呪いの効果は薄くなる。

これは呪いが闇属性魔法の一形態に過ぎないという事を理解出来ればすぐにでも気付く事が出来るのですが」

 

“コトッ”

テーブルに置かれたのは一本のポーション瓶、中には蜂蜜色の液体が満たされている。

 

「これは霊薬と呼ばれる部類のポーション、“天使の微笑み”といいます。

昨年ヨークシャー森林国を襲った呪病を解決した品、所謂呪い解術薬です。ここ迄の品でなくとも強力な聖水を作り出す事が出来れば広範囲に渡る様な呪いの解術は容易でしょう。

 

先程のお話で暗黒魔導士を倒す事で王都を襲った呪いは解術出来たが代わりに王妃様に強い呪いが付与されたといった事を仰られていましたが、それも呪いの特徴となります。

呪いとは術者の思い、執念や怨念、そうしたものが形となって現れたものが呪いの本質です。討伐され依り代である肉体を失った思いは力となって現れる。相手は大勢の人々を呪いによって苦しめた呪術師です、その力は相当なものであったのでしょう。

ですのでその為の備えとしてエリクサーを用意するといった考え方自体は、そこまで間違ってはいない。

ですがそのエリクサーをどうやって王妃様にお渡しすると?

いずれ王妃様が呪われますとでも馬鹿正直に告げる気だったんですか?

へたすればそのまま投獄、仮に王妃様が呪われるまで待ってエリクサーを献上しに行ったとしても第一容疑者にされるだけでしょう。

正しいと思った行いが必ずしも人々を幸せにするとは限らない、今回のような問題は解決の為の下準備が必要なのですよ。

 

先ず呪いとは一切関係なく、王家に献上するという形でエリクサーを持ち込みましょう。

エリクサーはそれ自体国宝に値する霊薬です、その献上を拒否する王家は有り得ない。その際に国王陛下と王妃殿下の健康と長寿をお祈りしてとでも付け加えれば下手な横槍も回避できることでしょう。

そしてエリクサーの入手先ですが、ローレライ大砂漠地帯の遺跡とでもしておいてください。実際その遺跡には“ドラゴンの涙”を手に入れる為に向かっている訳ですし、話に齟齬が起きる心配も低いかと。

なぜそのような場所に向かったかと聞かれた際は、エルフの女性を世界樹の下にあると言われる故郷に送り届ける際に偶然辿り着いたとでもしておいてください。

 

貴族の中には嘘を見抜くスキルや真贋といったスキルを持つ者、表情や話し方から真実を見抜くものが多く存在します。ですので会話のコツは嘘を言わない事、貴族の多くが歪曲的な会話をするのはそれが理由なんですよ。

例えばエリクサーをどこで手に入れたのかと聞かれたら直ぐに何処とは答えず、「ローレライ大砂漠地帯、失われた幻の遺跡、あの地に辿り着けなければエリクサーをお持ちする事は叶いませんでした」とでも言っておけばいいのです。

言われた相手は勝手に勘違いするし、ユージーン殿は一切嘘を言っていませんから。

 

それとエリクサー入手の依頼などがあったり遺跡に案内して欲しいなどといった話はすべて断って下さい。断り文句は「私にはエリクサーを手に入れる事は出来ない、あの幸運は二度と訪れる事はないでしょうから」で結構です。

だって実際無理でしょうからね、エルフはそこまで甘くないですし、“ドラゴンの涙”とやらがそこまで大量に手に入るとも思えない。それに大賢者シルビアが作ってくれないでしょうから。

あの人ってその辺シビアですからね、好奇心を刺激する様な事には積極的に参加しますが、自身を利用しようとする欲望には従いませんので」

 

俺の言葉を真剣な表情で聞く面々、やっぱり聖茶の力は偉大です、会議の場には常備したい一品ですね。

 

「エリクサーの諸注意としてはそんな所ですかね。ホーンラビット伯爵閣下、ガーネットさん、少々扱いが難しい問題ですがベルツシュタイン伯爵閣下へのお取り次ぎをお願いします。

完成したエリクサーは賢者ユージーン殿と聖女マリアーヌ嬢と一緒に、ガーネットさんが王都のベルツシュタイン伯爵邸に届けてください。

これまでの内情を全て知ってるのはガーネットさんになります、この事は文章には残さず直接ベルツシュタイン伯爵閣下にお伝えください。

扱いを間違えれば再びの戦乱となりますので」

 

俺の言葉に一礼をする王都諜報組織“影”の耳目ガーネット。ホーンラビット伯爵閣下、面倒事は王都の偉い人に丸投げですよ、書類作成をよろしくお願いします。

俺からの目配せに無言で頷くホーンラビット伯爵閣下。うん、分かってくれる上司って素敵です。

 

「次にエルフ族の戦士アリシア嬢の件ですが、アナさん、入って来てもらえます?」

 

“ガチャッ”

俺の呼び掛けに開かれる扉、客間に入って来たのはそばかす顔の地味目な村娘。

 

“ガバッ”

席を立ちあがり床に片膝を突くエルフの戦士。

 

「いと尊き姫君、漸くお会いする事が出来ました。長きに渡り御救いする事叶わず、誠に申し訳ありませんでした!」

そう言い深々と頭を下げるアリシア嬢。

 

「“森の大樹の里の戦士アリシア”よ、面を上げなさい。

先ずはどうしてこの地を訪れたのですか?むやみやたらに捜索を行っていた訳ではないのでしょう?」

「ハッ、それは大陸の西、フィヨルド山脈を擁する国に姫君がおられるとのご神託が世界樹様より齎されたからであります」

 

おぉ~、世界樹様からのご神託ですか、なんてパワーワード。

それならあの排他的で知られるエルフ族が普人族の賢者ユージーンに“世界樹の葉”を渡した事も納得ですわ。

だって御祭神様からのお言葉じゃ逆らえませんからね。

そして世界樹様という言葉に不安の色を濃くするアナさん。

まぁそうですわな、エルフにとって世界樹は絶対的存在、ヨークシャー森林国の者にとっての聖霊樹様と一緒ですからね。

俺はそんなアナさんの肩をポンと叩くと、安心させるかのようにニコリと微笑むのでした。

 




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