転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第478話 辺境男爵、嫁の里帰りに同行する

マルセル村の朝は早い。空が白み始めた頃には起き出して、畑作業に動き出す。朝食を食べるのは一通り作物の世話が終わってから、“朝飯前”と言えないような仕事量を朝食前に熟す村人たちは、まさに農民の鑑と言ってもいいだろう。

 

そんな朝の作業を終え、朝食を食べてから家を出た俺氏。向かった先は村の健康広場、ホーンラビット伯爵閣下のご自宅前であった。

 

「おはようございます、昨夜はよくお休みになられましたか?」

声を掛けた相手は賢者パーティーの御三方、未だ昨日の疲れが残っているためか若干眠そうなご様子である。

 

「おはようございます、ケビンさん。昨日は色々とお世話になりました。

あの後パトリシア様に俺たちがオーランド王国を離れていた二年と三カ月の間にこの国で一体何が起きたのかを聞きました。

ケビンさんが仰っていた“俺が知る歴史とは相当に差異があるはずだ”という言葉の意味は、こういう事だったんですね。そして“悠長に世界樹に向かって旅立ったこと自体がおかしい”といった意味も。

 

こんな展開を俺は知らない、俺の知る歴史ではもっと先に起きるはずの出来事が前倒しで起きている。そしてそれは俺なんかが関わらなくとも確り解決している。

俺は自分が転生者である、これから先に起きる未来を知っていると調子に乗っていただけの愚か者だった。本当に情けない限りです。

それにケビンさんが仰ったようにエリクサーを求める事だけを考えて、そこから先の事など微塵も考えてはいなかった。人は善人ばかりではないという事を知ったつもりで、全く理解してはいなかった。

俺はどこかこの世界を馬鹿にしていたのかもしれない。所詮ゲーム、勝手知ったるゲーム世界。自分一人では何も出来ないというのに、上から目線で偉そうに」

 

そう言い情けなく下を向く賢者ユージーン。まぁ昨日は色々衝撃的な事がありましたからね~。ショックで反省しちゃうってのも分かりますけどね。

でも人間そうやすやすと変わらないんですね、これが。

どうせまた“ゲーム知識が~”とか言い出すに決まってますっての。

そんな賢者様にはマルセル式、大変すばらしい先生をご紹介いたしましょう。

噂をすれば何とやら、先生方のご登場です。

 

「いや、賢者ユージーン殿がそこまで思い悩む事はありません。人というものは一度こうだと思い込むと中々それを変えることは難しい。

賢者ユージーン殿は長い旅の中で多くの体験をしたかもしれませんが、それらが自身の想像を大きく上回る事などなかったのではないでしょうか?

 

そこで提案です。エリクサーが出来上がるまでの一月、よろしければマルセル村で修行なさっては如何ですか?

その相手は私の武術の師と弟弟子、そして我がマルセル村の最強がお引き受けいたしましょう」

 

そう言う俺の提案に、“えっ、修行ですか?”といった顔になる賢者様。

 

「押忍、おはようございます、兄弟子。白玉師匠と大福師匠をお連れしました」

そう言い頭を下げるのは、額に角のある鬼人族の青年白雲。

その隣にはホーンラビットの進化体である白玉と、謎スライムの大福先生のお姿がですね。

 

「えっ、なんでこんなところに暗殺者ギルド総帥の悪鬼白炎が!?」

何やら転生賢者様が混乱なさっておられます。どうやら白雲の顔をご存じの様で。って言うか白雲ってゲームに出てくるくらいの人物だったって事?別世界からキャラ認定されちゃうくらいの高スペックって奴じゃないですか、俺なんかとは生まれ持ったものが違うって事じゃないですか~。

って事はツッコミのハリー師匠も登場するって事!?

何そのゲーム、ちょっとやりたいんだけど!!

 

「兄弟子、そっちの男性が俺の事見てぶつくさ言ってるんだがなんなんだ?」

「あぁ悪い、俺と同じ勇者病って奴だから気にするな。かなりの重症患者でな、実際に世界樹まで行ってエリクサーの素材を全部集めて来たっていう猛者だ」

 

「はぁ!?マジかよ、凄過ぎだろう勇者病。兄弟子と言いこの男性と言い、極めた勇者病って奴は半端ねぇのな」

驚きのあまり口が半開きになる白雲。そうなのだよ、勇者病重症患者は結構ヤバイのだよ。

でも安心してくれたまえ、俺も賢者ユージーン殿もどちらかと言えば妄想系、戦いに身を置き多くの者を率いて何かを成そうとする<極み>とは違うから、裏でコソコソ暗躍するタイプだから。

 

「それでちょっとお願いがあってね。こちらの賢者ユージーン殿に一月ほど修行をつけてもらいたいんだよ。

言った通り既に世界を知っている一端の戦士だけど、応用力があるに越したことはないからね」

 

「あぁ、普通はパーティーを組んでそれぞれの役割に分かれて特化していくんだったか。前衛・後衛・回復だったか?

賢者って言うくらいだから魔法特化の火力担当ってところか。盾役の負担が多そうだな」

 

おぉ~、一見でそこまで分析出来るとは流石免許皆伝、俺も頑張らねば。

白は何やら白玉や大福と相談している様子、今後の修行内容について検討しているってところでしょう。

でも白の奴、いつの間にか大福たちと自然な会話が出来る様になってたんだよな〜。「尊敬する師匠方のお話が理解出来ない方がおかしいのでは?」って言われた時は、“あぁ、ブラックウルフの尻尾亭のご主人と一緒なのね”って思ったもんな〜。

 

「ケビンお兄ちゃ~ん、ジェイク君を連れて来たよ~」

元気に手を振って走って来たのはエミリーちゃん。その後ろではジェイク君が「ゲッ、厄介事!」とか呟いておられます。

ジェイク君、昨日の門番業務の時に賢者パーティーを警戒して関わり合いにならないようにした模様。それでいて俺に確り情報を送って来る辺り成長したよね。

“厄介事は上に丸投げ”はマルセル村村民の基本だもんね。

 

「ジェイク君、こちらは世界樹まで旅をしてエリクサーの素材を集めて来た賢者パーティーの方々です。いつかジェイク君たちがやろうとした事を実際に成し遂げた凄い方たちだね。

二人は学園を卒業したら冒険者として世界に旅立つんだろう?賢者様方のお話はその時の参考として凄く役に立つと思ってね。

 

賢者ユージーン殿、ご紹介します、この子はジェイク君。

授けの儀で<剣豪>の職を授かって来年から王都の中央学園に通う事になってるんですよ。

二人共卒業後は冒険者として世界に旅立つ事を夢みていて、良かったら時間を見つけて旅の話でも聞かせてあげてください」

 

「えっ、“赤髪のジェイク”!?主人公キャラが何で?

それに<剣豪>って、<勇者>じゃないってどういう事?俺が色々動いたからゲーム自体がおかしくなったのか?それじゃ魔王襲来イベントとかどうなっちゃうんだよ!!」

 

う~わ、ゲーム転生賢者様、ついに頭を抱えられちゃってやんの。そんで“赤髪のジェイク”とか言われたジェイク君、顔が引き攣ってるんですけど?

・・・えっ、マジ?ジェイク君もゲーム転生勇者様だったとか?

幼少の頃「ステータスオープン!!(キメ)」とかやってたのってそういう事だったの?

昨日の賢者ユージーンの話じゃ、確か“赤髪のジェイク”ってプレイヤーキャラとか言ってなかったっけ?まさに主人公様じゃん。

ジェイク君、よくこの歳まで歪まなかったな。俺だったら絶対ハッチャケてるわ、だってマジもんの主人公様だもん、しかも四属性持ちの鑑定スキル持ちよ?調子に乗るなって言われたって無理よ?

モテモテ人生確定・・・エミリーちゃんがいましたね。

そっか~、ジェイク君は調子に乗らなかったんじゃなくって、調子に乗れなかったのか~。(涙)

神々に同情されるレベルのジェイク君、君の未来に幸あれ。(敬礼)

 

「ケビンお兄ちゃん、何で慈愛の籠った目でこっちを見てるのさ。どうせまた変な妄想でも繰り広げてるんでしょう?やめてよね、本当に。

それとただ紹介したいってだけで俺を呼んだんじゃないんでしょう?」

ジェイク君から掛けられた声に現実に引き戻された俺氏。だって仕方がないじゃん、<仮性心>を擽る存在が二人も揃っちゃったんだもん。

ゲーム転生モブ賢者様とゲーム転生主人公勇者様(疑い)だよ?これだけで堅パン何枚でも食べれるわ。

 

「オホンッ、いや、ごめんごめん。それでこちらの賢者様、賢者ユージーン殿が白玉・大福・白雲の修行を受ける事になってね。

良かったらジェイク君にも参加して貰おうと思って。

ボビー師匠との打ち合いもいいんだけど、同じ相手とばかりじゃ技術の向上にはならないから。魔法使いとの対戦ってのも悪くないしね。

白、そういう事なんだけど大丈夫か?」

「あぁ、兄弟子。こっちは問題ないぞ。ジェイクの事なら良く知ってるからな、俺も偶には本気の模擬戦をしたいと思ってたところだしな」

 

「えっ、勘弁してくださいよ。白さんって無茶苦茶強いじゃないですか、俺なんかじゃ相手になりませんっての」

「何言ってやがる、あのボビー師匠がもろ手を挙げて褒めてたぞ?「弟子が好敵手になるというのも嬉しいものじゃの(ニチャ~)」とか言って」

 

白雲の言葉に目茶苦茶嫌そうな顔をするジェイク君。諦めろジェイク君、マルセル村の修羅は大なり小なりみんなそんなもんだ。俺なんかしょっちゅう狙われているんだからな。

 

「それとエミリーお嬢様と聖女マリアーヌ嬢なんですが、残月」

「はい、ご主人様」

それはいつの間にか俺の背後に控える女性執事、その姿に驚き固まる賢者パーティー。

 

「残月、お二人に聖女としての技術と接近戦の体捌きを。

エミリーお嬢様は既に問題ないだろうが、実戦を知る者の経験談は役に立つだろう。医療支援への移行を許可する、二人の事をよろしく頼む」

「了解しました。これより医療支援へ移行します」

 

“ブワッ”

残月の身体を包み込む白色の炎、その炎が消え去った時、そこには別の一面を見せた残月が現れる。

 

「エミリーちゃん、それとマリアーヌさん。これからしばらくの間指導を務めさせていただく残月です。短い間だけどよろしくお願いしますね」(ニコッ)

その全てを包み込む様な柔らかな雰囲気、これまでの凛としたどこか無機質な彼女とはまるで別人。純白のローブを羽織り長い髪を靡かせ、全身から神聖な気配を漂わせるその姿はまさしく<聖女>と呼ぶにふさわしい。

 

「「えっ、あっ、はい。よろしくお願いします」」

残月の存在感に圧倒されつつもきちんと返事が出来るお二人は立派だと思います。それに引き換え転生賢者と転生勇者のお二人、何呆気に取られてるのさ。特にジェイク君、ボディーががら空きだぞ?それはエミリーちゃんのツッコミ(拳)待ちなのかな?

賢者様、聖女様がハリセンを構えておられますよ?早く正気に戻った方がよろしいかと。

 

“スパーン、ドスッ”

 

「戦士アリシア嬢、昨日のお話、きちんとお考えいただけましたか?

世界樹に戻った(のち)どうするのか、どうしたいのか」

「・・・はい。私は賢者ユージーン、聖女マリアーヌと共に在ろうと思います。

まさかこれほど早く姫にお会いできるとは思ってもいませんでしたので、多少戸惑いましたが、これが私の本心。無論この顔は隠させてもらいますが」

そう言い口元を緩める戦士アリシア。彼女の旅は一応の決着を見た、でもここはまだ旅の折り返し地点。戦士アリシアの旅はまだまだ続いて行く、そういう事なのだろう。

 

“ズオンッ”

それは壁、地面から現れた真っ黒な壁に警戒の姿勢を取る戦士アリシア。

 

“ニュインッ”

だがそこから現れた者の姿に急ぎ膝を突き頭を垂れる。

 

「戦士アリシア、膝を上げなさい。あなたはこの西方の地へ私を迎えに来た使者、その命懸けの献身、私の心に届いています。

共にまいりましょう、我らが魂の故郷、世界樹様の下へ」

それは村娘姿のアナさんと、背後に控えるメイド月影。

アナさんは跪くアリシア嬢に手を差し伸べると、立ち上がるように促した。

 

「ケビン君、これは一体何の騒ぎなのかな?朝からとっても賑やかな様なのだが」

そこに顔を出したのは我らがホーンラビット伯爵閣下とパトリシアお嬢様。パトリシアお嬢様は暫く伯爵家の御令嬢に戻られるとの事、まぁお友達が遊びに来てるってのにカントリー娘はやれんわな。

その間のホーンラビットのお世話はお付きのメイド様方が引き継ぐとか、パトリシアお嬢様ってすでにお一人で何でもできますしね。

・・・お付きのメイドって一体。

 

「おはようございます、ホーンラビット伯爵閣下。

いえ、昨日の仕込みも終わりましたし、出来上がりに一月掛かるって話だったじゃないですか?

ですので先に戦士アリシアの用件を済ませちゃおうと思いまして。

月影、お二人を中に」

俺の言葉に戦士アリシアとアナさんを影空間へと案内するメイド月影。戦士アリシアは目茶苦茶ビビりながらも、アナさんに手を引かれ壁の中へと消えて行きました。アナさんって結構鬼畜。

 

「ん?ってことはまさかこれから?いや、でもケビン君なら可能なのかな?」

何やらこめかみに手を当てて考え込むホーンラビット伯爵閣下。

イヤイヤイヤ、流石に俺でも一度も行った事の無い様な場所には行けませんっての。それに世界樹は御神木様みたいに巨大な結界に覆われているって話ですし?(あなた様情報)

今回はちゃんと()()()に送っていただきますとも。

俺はおもむろに右手を上げると、空高く大きなライトボールを打ち上げる。

 

「いえ、流石に俺も行った事の無いところにはちょっと。それに世界樹は巨大な結界に覆われていて、その姿は世人には見えないそうですんで。

パトリシアお嬢様、昨日は色々とありましたんであのようなお話になりましたが、パトリシアお嬢様におかれましては今しばらくの熟慮が必要かと愚考いたします。

ですのでその参考になるかは分かりませんが、私の抱える秘密の一端をお見せいたしたく存じます」

俺はそう言うと人差し指を立て、空を指差します。

 

「えっ、ケビン、それは一体・・・」

“ゴウンッ”

 

「「「「・・・・・・・」」」」

それは飛び去る一体の厄災、天空の支配者“ワイバーン”。

だがその姿はあまりにも巨大、伝説のドラゴンと言われても誰しもが納得してしまうその威容に、その場の人々はただ言葉を失う。

 

「賢者ユージーン殿、聖女マリアーヌ嬢。世界は広い、あなた方にはもう一度この世界に生きる者としてその目で見て感じて欲しい。

折角生まれて来たのだ、もっと人生を楽しんで欲しい。

 

ジェイク君、エミリーちゃん、この世界は凄いよ~。頑張って力をつけないと苦労すると思うよ?

ジミーが帰って来たら色々と教わるといいよ、アイツってば向こうで無茶苦茶やってるみたいだし。龍人族に殴り合いで勝つって意味が分からん。

 

ではホーンラビット伯爵閣下、パトリシアお嬢様、ちょっと行ってきます。例の物が出来上がる前には帰ってきますんで、暫くの留守をお許しください」

 

“シュピンッ”

“ゴウンッ”

「「「「・・・・・・・」」」」

 

その言葉を最後にその場から姿を消したケビン、直後再びマルセル村上空を飛び去る巨大な厄災。

その場に残された者は、唯々呆然と空を眺める事しか出来ないのでした。

 




本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora
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