“いや~、ガーディンさん、わざわざお迎えに来ていただいてすみませんでした。ちょっとこっちも色々ドタバタしていたものですから”
“ガァーーー、グォッ”
俺からの言葉に“何、大した手間でもないし気にするな”と応えて下さるガーディンさん。デカイ、人物として大きい。
最強生物と言いガーディンさんと言い、長く生きる巨大生物はその見た目同様人物としての器もデカくなるって事なんだろうか。
そう言えばゴミ屋敷の御方もあまり気にされない御方だったというか、気にしなさ過ぎと言うか・・・。
うん、あれは違うな、ただずぼらなだけだわ。
ゴミ屋敷と言えばエッガード、なんかすっかりミッシェルちゃんの騎乗用魔物になってるんだよな~。移動時には常にエッガードに騎乗、流石に家の中では降りなさいって母メアリーに注意されてたくらいだし。
あまり歩かないってのも心配だし、その辺は後でエッガードと相談しておかないとな。
エッガードさん、ミッシェルちゃんとの交流のお陰かかなりはっきりとした思考が出来る様になりまして、今では他の従業員たち(魔物)とも色々と交流している模様。
庭先に触腕と<クリエートブロック>で小屋を作ってるのを見た時は、こいつは一体何を目指してるんだって思ったもんな~。
ミッシェルちゃんと一緒になって「秘密基地はロマン」って言って来た時は凄く納得したけどもさ。開閉式の屋根(俺作製)を開けて「しゅつげき~~」とかやってる姿を見た時は、思わず父ヘンリーと一緒に拍手しちゃったけどもさ。
それでなんで俺がガーディンさんと一緒に世界樹に向かっているかと言いますと、実は前々から最強生物経由で頼まれてたんですよ、世界樹のドラゴンの塒の清掃を。
ただこっちも色々せわしかったのと、向こう様もそれほど急ぎじゃないって言うんでズルズルと先延ばしに。
でも相手は最強生物のお仲間ですからね、時間感覚が人族とは違うって言うか、ちょっと寝過ごしたって言って百年単位で寝ちゃう方々ですから。
今回はそのお話に便乗させてもらったって感じですね。
アナさんの里帰り自体は前々から考えてたんで、秋祭りが終わって落ち着いたら行こうと思ってたんですけどね。ケイトの学園卒業前には済ませておこうかと。
後ケイトのお母さんのお墓参りですかね、これはザルバさんも一緒に連れて行こうと思ってました。
それが何でこうなったのか王都中央学園の講師って、本当意味解らんですわ。ですんで里帰りが前倒しになる事自体に否やはなかったって訳でございます。
“ガーディンさん、ちょっとお聞きしたいんですけど、ガーディンさんって背中に俺が乗ってる事で速度を落としてますよね?
普通に世界樹に向かう時だったら大体どれくらいの時間で到着するんですか?”
“ガッ、グギャッガ”
“はぁ!?一日半って目茶苦茶早くないですか?最強生物からは五日は掛かるって聞いていたんですけど?”
ガーディンさん、実は相当に気を使ってくれていた模様。本当にお世話になっております。
俺は収納の腕輪から黒鴉を取り出すと「黒鴉、合体だ~、そんでもって精霊化!!」と叫ぶのでした。
―――――――
そこは不可思議な場所であった。黒い地面に黒い空、時折思い出したかのように日の光が差し込むも、基本的に周囲は真っ黒な暗闇に包まれている、そんな場所。
「アナスタシア様、ここは一体・・・」
私は不安になりながらも、この異質な場所に私を導いた高貴なる御方に声を掛けました。
「あぁ、ここは私の夫、ケビン様の影空間ですね。戦士アリシアは勇者物語というものを読んだことはありますか?」
「はい、普人族の物の考え方を知るには良い資料でしたので。「ただ物語に沿って読むのではなく、様々な角度から考えを巡らせることで隠された真実を掴む事が出来る」、これは私に戦士としての在り方を教えて下さった師匠の言葉です」
「戦士アリシアはよい出会いがあったのですね。その勇者物語に登場する剣の勇者の話の中に影使いジルバというものが出て来たのを覚えていますか」
「はい、その者は影に潜み影を操る。様々な武器を己の影に仕舞い、様々な状況に対応する万能型の戦士であったとか。まさか・・・」
「そう、その影使いジルバが使っていた影魔法、それを遥かに凌駕するものがケビン様の影魔法であり、この影空間。
あなたは今ケビン様の影魔法の中にいるのです」
アナスタシア様の言葉に唯々言葉を失う私。この広大な世界がただ一個人の魔法空間?それはどれ程の魔力量があれば実現できるというのか。
「まぁこの様な場所で立ち話もないでしょう。月影」
「はい、アナスタシア奥様」
月影と呼ばれたメイドはこの暗闇続く世界を私達を先導して歩いて行く。まるでその先に何かが存在しているとでも言わんばかりに。
「アナスタシア奥様、只今お茶の準備をいたします」
そこは一軒の屋敷であった。周囲にはヒカリゴケが淡く光る岩が置かれ、幻想的な雰囲気を醸し出す。
屋敷の中は各所に光の魔道具が置かれ、まるで夜にどこかの貴族屋敷にでも招かれたかのようであった。
「まぁ、座って話でもしましょうか。それとこの姿は今更でしたね」
“フワッ”
解除されたアナスタシア様の<自己呪い>。
流れるような美しい銀糸、美の女神に愛されたとしか思えない面立ち、横に伸びた大きな耳が同族である事を教えてくれる。
“コトッ”
テーブルに置かれたティーカップからはほんのりと甘い香りが漂う。
「カモネールのお茶に少量の甘木汁を加えてございます」
そう言い給仕をしてくれる褐色の肌をしたメイド。
「えっ、あなた様はダークエルフでいらっしゃったのですか!?」
私は急ぎ席を立ち戦士の礼を取る。ダークエルフ、それはエルフ族の戦士である私にとって憧れの存在。
同じエルフ族にありながら、仲間を守るために自ら修羅の道に進んだ誇り高き一族。
「フフフ、嬉しいものですね、こうして今の若いエルフにも私たちダークエルフの話が伝わっているという事は。
私たちダークエルフは普人族にとって魔物と同等、冒険者ギルドにおける討伐対象でしたから、その数も極端に少ないのですよ。
今ではどれほどの同胞が生き残っている事か、百五十年前ですら数十名しかいないと言われていましたから。
ですがあなたのような若者がこうして自由な立場で生きている、それだけで私たちの戦いが無駄ではなかったという証になる。
本当にありがとう」
そう言い柔和に微笑まれる月影殿。その笑顔の裏にどれ程のご苦労がおありになった事か、私は再び大きく礼をするのでした。
「それで話と言うのは他でもありません。此度戦士アリシアが私を探しに来た経緯についてです。大魔境に存在した故郷‟森の風の里”が普人族の奴隷狩りに襲われたのは相当前の話、私はてっきりエルフの里では死んだものとして扱われていると思っていたのですが」
「はい、確かにアナスタシア様は当初死亡したものと考えられておりました。‟森の風の里”が普人族共に襲われた際、アナスタシア様は自らの姿を晒し奴らの気を引き付け続けて下さった。
その働きのお陰で、多くの同胞が奴らの魔の手から逃げおおせる事が出来た。
私の師が兵を率い連中の掃討に駆け付けた時は、既にほとんどの同胞が逃げ延び戦士たちが連中の足止めを行っていたところだったそうです。
その後の捕虜共の尋問でアナスタシア様が呪いの矢傷を負った事やグラスウルフの群れに襲われた事、その場に血まみれの衣服が散乱していた事などが知らされました。
“森の風の里”の者たちは悲しみに暮れながらも、アナスタシア様の墓前に花を捧げる事を欠かしませんでした。
事態が動いたのは十年ほど前です。エルフの里の者の中に<星見>の才能に目覚めた者が現れたのです。
その者の言葉が「大陸の遥か西方の地に光あり。光はいずれ消えていくだろう」と言うものでした。
その言葉に急ぎ長老会が開かれ、世界樹様の巫女によりお伺いがたてられたのです。
“西方の地、フィヨルド山脈を擁する国に彼の者あり”
ご神託に従い捜索が行われる事となり、私がその使命を授かる事となりました。
ですが捜索は遅々として進まず、私は囚われの身に。
そんな私を御救い下さったのが当時王都中央学園の学園生徒であった賢者ユージーンと聖女マリアーヌでした。私はお二人の庇護下にある事で普人族の悪意から守られ、無事に世界樹の下にあるエルフの里に帰り着く事が出来ました。
そんな私が再びオーランド王国を訪れたのは<星見>の者の言葉からでした。「強き光、互いに惹かれ合い新たな物語を紡ぐ」、その詳細は分かりませんが、<星見>の者の言葉では賢者ユージーンの旅に同行する事で道は開かれるだろうとの事でした。
そしてそれは成された、私はアナスタシア様とお会いする事が出来た。
これが私の知る全てです」
私の話を聞き終えると、どこか懐かしそうな表情で「十年前ですか、確かにあの頃は今にも死にそうな生活をしていたのかもしれませんね。あの頃の私は世を知ったつもりで何も分かってはいませんでしたから」と呟かれるアナスタシア様。
「話は分かりました。戦士アリシア、あなたの働きには改めて感謝申し上げます。これまで本当に大変でしたね、どうもありがとう。
でも大丈夫、戦士アリシアの献身は必ず報われます。それも予想すらしていなかった結末で。
私の夫、ケビン様はそうした御方ですから」
そう言いどこか遠くを見詰められるアナスタシア様。背後に控える月影様は、そんなアナスタシア様を優し気な瞳で見守られています。
「アナスタシア様、その、この様な事をお聞きしてもよろしいのか分からないのですが、私たちは一体何時までこの影空間の中にいるのでしょうか?
アナスタシア様のご正体を含め人には聞かせられない話ですので、この様な空間に来られたという事は分かりますが」
そんな私の疑問に「そう言えばいつまでこの別邸にいる事になっていましたっけ。月影、何か聞いてますか?」「はい、確か五日ほど掛かると仰られていましたが」と言った会話をするお二方。
「えっ、五日もこの影空間にいるんですか?それは一体どうして」
“ガチャリ”
「いや~、ごめんごめん。すっかり放置しちゃって本当に申し訳ない」
その声は不意に開いた扉から聞こえてきました。
顔を向けた先に佇んでいた者、それは私たちをこの不可思議な影空間に導いた張本人、影魔法使いケビン殿だったのでした。
―――――――――
「本当申し訳ない、ちょっと色々と調整がね」
そう言い頭を搔く俺氏。そんな俺の姿に驚いたグラスウルフと言った顔をするお三方。
「えっ、旦那様はお空を飛んでいるのではないのですか?どうやって影空間に?どこか雲の上で休憩なさっているとかそういう事でしょうか?」
俺の登場に何かとってもメルヘンな事を仰るアナさん。
雲の上で休憩か~、やろうと思えば出来なくもない?中空に結界を張ってそこを起点に影空間に潜ればいいんだし、結界に色を付ければ影だって作れるし?
うん、その発想はなかったわ、今度参考にさせて貰おう。
「うん、アナさん、いいご意見です。その発想は次回にでも採用させて頂きます。でも今回は違うんですね~、俺ってば世界樹の場所を知らないんで何度か行った事のある御方に連れて行ってもらっています。
それで今はちょっとお断りを入れてこっちに潜って来たって感じですかね、直ぐに向こうに戻るんですが」
俺の言葉によく分からないといった顔になるアナさんと初めから状況について行けてない戦士アリシア、そしてまさかと言った顔になる月影。
月影には最強生物の話はしてるからな~、実際に会いに行った事はないけど、その可能性に行き着くのは流石です。
アナさんにも話した事があるでしょうに、流石に常識外過ぎて分からなかった模様、もう少し頑張ろう。
「ちょっと知り合いのワイバーンにお願いしましてね、かなり特殊な個体なんで目茶苦茶速いんですわ、これが。
で、到着予想がかなり早まりまして、一日半ほどで到着する事になりましたのでお知らせに。
月影、そういう事なんで二人の事を頼む」
「畏まりました、魔王様」
「おい!何堂々と人の事魔王呼ばわりしちゃってるの、戦士アリシア嬢がビクッとしちゃってるじゃないの!!
違うからね、俺は魔王なんかじゃないから、本当だから。職業だって<田舎者>(辺境)だから、そこのところを間違えないでね?
俺討伐されたくないから」
月影、何故ここで魔王ネタをぶっこむし!戦士アリシアが困惑・・・なんか納得しちゃってる?「あぁ、だからこれ程の影空間を・・・」ってマジ止めて、本気で止めてよね!!
何故か身内に正面から刺されるケビン・ワイルドウッド十四歳なのでありました。
来週誕生日です、“旅立ちの儀”は来月の頭にでもケイトと一緒に領都グルセリアの教会で行う予定です。
本日一話目です。