転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第48話 森の賢者、御神木様を訪ねる

「そうそうアナさん、今日って予定大丈夫ですか?特に何も無かったら例の場所にご案内しようと思うんですが」

俺の提案に一瞬キョトンとした顔をするも、すぐに何の事か理解し「よろしいのですか?」と聞き返すアナさん。うん、今の時期がベストなんですよ。もう少し暖かくなるとホーンラビット達が冬眠から目覚めちゃいますから。

 

“森の悪魔”ホーンラビット、奴らに見つかるとかなり厄介。俺一人なら気が付かれる事もないんだけど、今回はアナさんと側近二人をご案内するって事になっている。まぁ負ける事はないんだろうけど、無駄な戦闘は避けれるのなら避けた方がいいって言うのが俺の考えだからね。

それにはアナさんたちも理解し賛成してくれたので無問題、その辺は迫害されし民、隠れ住む事は基本ですよね。

 

「お~い、緑~、黄色~、出掛けるよ~」

俺は麻袋に危険物(ポーションワーム肥料)を詰め込み背負子に括り付けます。

何ですガルさん?重くないのか?いつもの事なんで大して気になりませんよ?

 

側近のお二人ですが、グルゴさんとガルさんですね。愛称の様なものらしいんですが、詳しくは聞きません。辺境の村の“よそ者”なんて多かれ少なかれ訳アリですから、この村にそんな事を気にする人なんていませんし。

ですんで何故にカミングアウトしたし、アナスタシアさん。せめてアナお婆さんで通してくださいよ~、村長にも言えない秘密がまた増えちゃったじゃないですか。

 

「えっ、この秘密に匹敵する様な事があるのか?まぁ幾つか?知りたい様なら御教えしますが?」

「「「勘弁してください!」」」

・・・なんか失礼じゃない?皆さんが俺の事をどう思っているのか一度じっくり話し合いたいわ、全く。

それじゃ出発~。

何か釈然としないものを感じつつも、森に出掛けるケビン少年なのでありました。

 

 

”スーーーーーーッ“

「・・・なぁケビン君、森に入ってから緑と黄色の進む音が聞こえないんだが。それに気配が無いと言うか、目の前にいるはずなのに時々見失うんだが」

そう言い言葉を詰まらせるガルさん。

 

「まぁ驚きますよね。でも皆さん畑の小屋に住んでしばらく経ちますけど、あの場所に住んでいてこいつらの気配って感じた事あります?」

 

「「「言われてみればあまりないかも」」」

そうなんです、こいつら前に森にヒカリゴケを探しに来て以来、無音行動により一層磨きを掛けているんです。小屋の周りでは基本無音、村内を移動する時なんかは気配を消してると周りを驚かせちゃうんでしませんが、森に入ればこの通り、相当腕を上げられてます。

 

「これってビッグワームの種族特性らしいですよ、こいつ等みたいに更に磨きをかける様な個体はいないでしょうけどね、基本連中何も考えてませんから。

そうだよな~、こんなビッグワームだらけだったら怖すぎるわ。大福もそうだけど、こいつらが凶暴な肉食魔物じゃなくって本当に良かった、もしそうなら人間なんて簡単に滅ぼされちゃうもん。

 

あ、皆さんそんなに怯えなくても大丈夫ですよ、ビッグワームは人を襲いませんから。確かサンドワームでしたっけ?勇者物語に出てくる奴。あれとはまた別の存在なんじゃないんですかね、何たって向こうは商隊を丸呑みですからね?規模が違いますよ規模が。あっちは完全な天災じゃないですか、恐ろしい。砂漠、駄目、絶対ですって」

 

そんなおしゃべりをしながら進む事一時間少々、ご神木様の所に到着ですって皆さんどうしましたそんなに息を切らして?

「ハァーッ、ハァーッ、ケビン君足が速いね、森の木々の合間な上整地もされてないって言うのにスイスイと。追い付くだけでやっとだったよ」

 

「あ~、今まで隠れて暮らしてましたもんね、長時間の移動なんてあまりしてこなかったからじゃないんですか?要は慣れですよ慣れ、村の大人たちも森の中だと警戒移動が基本なんで皆さんとさほど変わらないと思いますけど、俺は気配を消しての無音移動なんでこんな感じですかね。

練習すれば誰だって出来ますから頑張ってみてくださいね、最初の目標はホーンラビットの脇を素通りする事ですかね、これが出来れば後は精進あるのみですから」

 

俺がそう言うとげんなりした顔をする一同。って言うか森の賢者、あんたまで一緒になってそんな顔をしてどうする、森での戦闘だったら他に追随を許さない種族だったんじゃなかったんかい!?

 

「イエイエ、私たちエルフはケビン君みたいに暗殺系スキルを持ってはいないので」

「ちょっと待てい、俺だって持っとらんわ。と言うかスキルの事なんかさっぱりですから、何度も言いますが授けの儀の前ですからね?」

 

流石に周りからやいのやいの言われるのでスキルを使うとはどう言った事なのかを自分なりに聞いて回った事がある。それによるとスキルを使う時やスキルを使っている時には、感覚的に“スキルを使ってます”と言った感じがあるらしい。

それとスキルにはパッシブ系スキルとアクティブ系スキルと言うものがあって、特に意識しなくてもずっと発動し続けるモノがパッシブ系、意識して発動しその場で効力を発揮したりその効果を持続させるものがアクティブ系と言うらしい。

 

それで暗殺系のスキル、気配遮断なんかはアクティブ系に当たるらしいんだけど、そう言った感覚って一切感じたことが無いんだよな~。ボビー師匠曰く、修練や冒険者暮らしの中で新しいスキルに目覚める事があるらしいんだけど、そう言った時も感覚で何となく分かるって言ってたし、やっぱり無いんだろう。

だからそんな疑わしい目で見ないでください。

 

「ほら、あちらが御神木様ですよ」

俺がそう言って指差す先には青々とした葉を湛えた立派な大樹が、こちらを歓迎するかのようにワサワサと枝を揺らしているのでした。

 

「えっ、これって聖樹様!?トレントって話しじゃ・・・でもこの清廉な気配は魔物のそれとは違う様な・・・」

アナさんが何かぶつぶつ言いながら固まってしまわれてますが、取り敢えず施肥作業からですね。

「グルゴさん、ガルさん、この麻袋の中の肥料を全体に撒いてくれますか?この辺の剥き出しの地面に満遍なく撒く感じでお願いします」

そうして俺たちがせっせと施肥を行っている最中も、何やら自分の世界に入り込むアナさんなのでした。

 

「はい、それじゃお二人ともこっちに来て下さい、ちょっと危ないですからね~」

俺は施肥が終わって下から大樹を眺めている二人を呼び寄せます。これから始まるのはもぐもぐタイム、巻き込まれたら大変ですから。

「御神木様~、もういいですよ~」

 

“ゴジョゴジョゴジョゴジョ”

「波打つ地面、蠢く根っこ、いつ見ても壮観ですな~。ってどうしました御三方?皆さんはトレント種を見たことが無いと?そうですよね~、なんてったって動く木ですもんね~、有り得ないでしょう。でもそこが魔物たる所以なんでしょうね、ビックリです。

あ、御神木様、紹介しますね、こちら新しく村の住民になったアナさんとグルゴさんとガルさんです。これからも時々来ると思いますんでよろしくお願いします」

 

“ワサワサワサ”

俺が声を掛けると枝が揺れ木の葉が数枚ひらひらと。

「これくれるんですか?いつも済みません。どうもありがとうございます」

 

「「「イヤイヤイヤ、何でトレントと意思の疎通が出来てるの?って言うかこんなトレント居ないから、こんなのエルダークラスだから!」」」

「え~っと魔物の分類とかその辺よく分からないんだけど、それって何か問題あったりする?俺にとっては動く木ってだけなんだけど?」

 

「ねぇ?」っと言って御神木様の方を振り返ると、同様に枝をワサワサさせて応える御神木様。俺たちよく分からないっす。

 

「そうそうご神木様、こないだ括り付けたしめ縄如何っすか?何か気が引き締まった感じがする?そりゃよかった。

やっぱり御神木様と言ったらしめ縄ですよ~。このギザギザの紙は何か?俺にもよく分からないんですけど、飾りみたいなもんなんじゃないんですか?邪魔なら外しますけど、このままでいいと、そうですか、ならよかった」

 

「「「だからなんで意思の疎通が取れるんですか、ケビン君はティマーの職でも授かってるんですか!?」」」

「へっ?何となく分かりません?適当ですってこんなの。“考えるな、感じろ!”って奴ですよ」

“グネグネグネ”

“ワサワサワサ”

 

「ほら、魔物同士も意思の疎通を取ってるじゃないですか、これって絶対言語じゃないと思うんですよね。何となくでやってるんじゃないんですかねってちょっと待て、お前ら俺の事“変な人間”とか言わなかったか!」

“ビクッ”

「黄色、お前か。待ちやがれ~!!」

 

大樹の周りをグルグルと追いかけっこをする巨大ビッグワームとケビン少年、枝をわさわさ揺らしながらそれを見守る緑豊かな大樹。森の中にポツンと開けた平和な空間、冬の空は何処までも高く澄み渡っている。

三人の新しい村人は、そんなほのぼのとした光景を口を半開きにしながら眺め続けるのでした。

 

――――――――――――――

 

“グツグツグツグツ”

囲炉裏の真ん中で温かそうな湯気を上げグツグツと煮られる具沢山のスープ。鍋の蓋を開けると盛大に蒸気が立ち昇り美味しそうな匂いが小屋全体に広がって行く。

 

竈ではグルゴビッチが棒パンを焼いている。棒状の器具に捏ねた小麦粉を細く長く巻き付け焼いただけのものだが、スープと一緒に食べると中々に美味しい。

“小麦粉の可能性は無限大”と言うのはケビン少年の言葉、彼はこの小屋で様々な料理を開発し、楽しんでいたと言う。母親に言うと呆れた顔をされると言うのが一番の理由らしい。

私もこの小屋に初めて来た日にキャタピラーの包焼きを出された時には、この少年は頭がおかしいと思ったものだ。恐る恐る食べてみて、あまりの美味しさに目を剥いたのは忘れられない思い出だ。

 

「さぁ、二人とも夕餉にしましょうか」

この二人との暮らしも随分になる。私がスルベ村とマルガス村の中間地点にあるよそ者地区に潜り込んだのが二十年前、あの当時は私以外はやせ細った老人が一人暮らしているだけだった。そんな彼もその二年後に他界、その後も数年おきに訪れるよそ者を受け入れ、あの地区を作り上げていった。

中には村との交流を通しそれぞれの村に受け入れられる者もいたし、私はその者達を温かく送り出した。彼らは村とよそ者地区との橋渡しとなり、必要な生活物資を手に入れる窓口になってくれた。

 

この二人がやって来たのはよそ者地区の暮らしがある程度軌道に乗った十二年前、傷付いたガブリエルを庇う様にして訪れたグルゴビッチ。この二人に何がありどう言う経緯でやって来たのかは分からないし、何を抱えているのかも知らない。よそ者地区では聞かないし知らないと言う事が互いの安全を守る為に必要な絶対的なルールだからだ。

私は彼らを迎え入れ、傷を癒し、生活を助けた。恩義を感じた彼らは積極的に地区の者の生活を助けた。

互いに助け合い、ひっそりと生きていく。それがよそ者の生き方だと教え導いた。

多くの秘密を抱えた者、多くの危険から逃げて来た者にとって、ひっそりと隠れ住む事は自らの安全を確保するために必要な事だったからだ。

この私自身が抱える特大の秘密を知った彼らはそのことを素直に受け入れてくれた。

 

この平和がいつまでも続けばいい、だがそれは長くは続かない希望だろう。望む心と現実はそんなに甘くないと囁く経験、かくして崩壊の時は一人の少年の訪れと共にやって来た。

 

それからの日々は驚きの連続であった。あり得ないほどの魔法の行使、有り得ない様な村の人々、そしてあり得ないほどの優しさと温かさ。心のどこかで悲観的な自分が叫ぶ、こんな事がある訳がない、お前は騙されているのだと。だがこの村での一連の出来事、ケビン君と過ごした日々はそんな私の猜疑心に凝り固まった心を粉々に打ち砕く。

 

椀に人数分のスープをよそい、囲炉裏を囲む様にそれぞれの席に着く。冬の森から帰ってきた身体に、温かなスープの優しい味が染みわたる。

 

「村に来た他の者達の様子はどうですか?」

人心地付いたところで二人に村の様子を聞いてみる。

 

「はい、お婆様が懸念されていた村人からの排斥や強制などは、今のところ一切見られません。彼らが共同で暮らしている家屋はケビン君の尽力で修繕が完了しており、皆が快適に暮らしていると報告しています。

ご心配されていたキャロルですが、現在村の裁縫師の下で仕事を貰っているとか。夫であるジェラルドはドレイク村長代理の手伝いに、ボイル、ジョン、ギースの三人は新たに畑の開墾作業を行っている様です。もっとも荒起こしと言った基本的な開墾作業は既にケビン君とビッグワーム達が済ませている場所なので、今はケビン君が掘ってくれた穴にレンガを敷き詰めてワームプールを作る作業と春の作付け用の畑の整地作業が主だと言っていましたが」

 

報告を聞き、表情がほころぶアナスタシア。共に村にやってきた仲間が無事に受け入れられると言う事、これ以上の喜びはないだろう。

 

「我々がやる事は基本このケビン農場の手伝いでしょうか、どちらかと言えば我々の方が心配されたくらいです。

ケビン君の実験農場は何が飛び出すか分からない、“勇者病”<仮性>のケビン君、村では知らない者はいないとの事ですから」

 

そう言い朗らかに笑うグルゴビッチ、つられる様に笑う私達。“勇者病”<仮性>のケビン少年、とんでもない勇者様がいたものです。

 

私は昼間いただいた“御神木様”の葉を取り出し眺める。その内包された魔力、鑑定のスキルが無い私でもはっきりと分かる、これがとんでもない代物だと言う事が。

数多くの魔物を従え交流を持つケビン君、彼の導きの下発展するマルセル村、我々は今後どうなってしまうのか。

 

“ズズズズズズッ”

身体に染み渡るビッグワームの肉入りスープ。今はただこの幸福を味わおう。

迫害されし流浪の民、エルフ族アナスタシア・エルファンドラ。

“願わくばこの地が我々にとって安住の地とならん事を。”

スープの入った椀を口に運びながら、彼女はそう祈らずにはいられないのでした。




本日二話目です。
お花見に行けません。
通勤途中の桜を眺めて満足する事にします。
いってらっしゃい。
by@aozora
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