「でけ~、って言うか木じゃないじゃん、島だよ島、もしくは山?幹が断崖絶壁にしか見えないんですけど!?」
ガーディンさんの背に乗って移動すること一日半、目の前に聳える巨大要塞、隆起した土地に森が広がってると言われた方が納得してしまうような何か、そんな存在が遥か彼方から見えていたんですけどね。
実際に直ぐ側迄来ると大き過ぎてその全容が全く分からない。
アレですね、富士山は遠くからだと美しい山の形を見る事が出来るけど、麓からだとそこまできれいじゃない、なんか傾斜地に見えるって奴ですね。
“ガーディンさん、それじゃ早速依頼人の下に向かって貰えますか?
ご挨拶をしたら同行者をエルフの里まで送り届けて来ますんで”
“グガー”
辿り着いたエルフの聖地世界樹、そこは俺の想像を遥かに凌駕するとんでもない場所でございました。世界を支える樹木の言葉に偽りなし、只管巨大、只管高い。樹木の天辺が標高七千メートル付近を飛んでるガーディンさんの遥か彼方ってどんだけだよ、意味解んねーよ。
その辺を<業務連絡>で最強生物にお伺いしたらドラゴンたちが飛ぶ高さくらいとか言ってたから、おそらく一万メートルから一万五千メートルの間?
もうね、そこまで行くと想像の埒外ですわ。そんなの俺の自己領域よりも・・・そう言えば自己領域の高さって水面から五十キロあるとか言われてたわ、俺の自己領域の方が意味解んない存在だったわ。
よし、この事は考えない様にしよう。
“ブォーッ”
そしてガーディンさんが向かって行ったのは、世界樹の幹に空いた小さな
ごめん、あまりにも世界樹が巨大すぎて小さく見えているだけでした、目茶苦茶大きな洞でした。入り口が最強生物の巨大洞窟よりデカイ、1・5倍はあるんじゃないかな?
そんでもって遥か下方に建物群のようなものが見えるからあれがおそらくエルフの里と。
って言うかあそこもだだっ広いな。集落なんかじゃなくて最早国じゃん、飛行機の窓から見た地上の光景じゃん。
エルフって少数民族的なイメージがあったけど、確り都会文明を築いていたのね。でも賢者ユージーンはそんな話はしてなかった様な。
・・・あぁ、なるほど。偽装集落に連れて行かれたって事ですね。
そりゃそうだよな、こんな所を普人族に見せる訳にはいかないもん。
実はエルフは国単位で大量に存在しましたなんて話が広がったらどうなる事か、交易だの外交だのの名目で普人族が押し寄せて来るのは目に見えてますからね。
用意周到、その辺は戦士アリシアもうかつに話したりはしなかったのでしょう。
もしくは戦士アリシアが偽装集落出身とか?知らないものは語れませんしね。“森の大樹の里の戦士アリシア”、エルフ族の闇も深いな~。
俺がそんなことを考えている最中もガーディンさんはゆっくりと降下、バッサバッサという羽音と共に無事洞の中へと降り立つのでした。
「ごめんくださーい、清掃業者のケビンと申しまーす」
洞の中に響く訪問の挨拶。スキル<大声>が大変良い仕事をしてくれています。
何時だったかメルビン司祭様が「俗に言う外れスキルってのもその有効活用法が良く分かっていないだけで、女神様がお与えになって下さる職業やスキルに外れなんて物はないんだよ」って仰っていたけど、本当にその通りだなとつくづく思います。
そうそう、あれは授けの儀で領都グルセリアに向かう途中の幌馬車の上だったわ。あれから約二年半、俺もずいぶん遠くまで来たもんだよな~。
“ブワッサ、ブワッサ、ブワッサ、ズド~ン”
“おぉ、掃除屋殿、話は“マロニエの”より聞いている。あの途轍もない魔境を塒と呼べるようにしたばかりか使い勝手の良い住まいに変えた手腕、この目で見させていただいた。
濁った魔力渦巻いていた洞窟が、清浄な大地のようになっているのには正直驚いた。流石は“フィヨルド山脈の”の縁者、本日はよろしく頼む”
それはまさしく地上の覇者、全生物の頂点、ドラゴン。
人生三体目の最強生物との出会いに、一体どんな巡り会わせなんだかと苦笑いを浮かべる俺氏。
「では早速現場を拝見させて頂きたいと言いたいところなんですが、少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?
こちら世界樹にお伺いするにあたり村のエルフ族の者を帯同させて来たものですから、下の街に降ろしてこようかと。
それと先程からこちらを窺っている方がおられるようなんですが?」
俺がそう言い洞の奥を指差すと、その人物は音もなくスッと俺たちの前に姿を現すのでした。
“これは失礼、まさか私の存在に気付かれるとは。ここは私の身体の中、周囲との差など無かったと思うのですが”
そこに佇むのは一人のエルフ族の女性、しかしその気配は周囲の空間に溶けて消えてしまいそうなほど、自然とその場と一体化している。
「えっと、失礼ですが世界樹様でいらっしゃいますか?
はじめまして、清掃業者のケビンと申します。本日はこちらの依頼人のご自宅清掃作業に伺わせて頂きました。どうぞよろしくお願いします」
ドラゴンの塒に突如現れた世界樹様、ここは世界樹の洞、つまり大家さん。しかも大家さんの御神体だってんだから、何をされるのか気になるって言うのも納得です。
“はい、その話はこちらのドラゴンから聞いています。何でも脱皮場の目詰まりを解消してくれるんだとか。
あの場所は私の身体でも特に丈夫に作っている分、私自身どうする事も出来ない場所でした。魔力の関係で脱皮皮や鱗が腐ったりはしませんが、どうにも困っていたのです。
しかしその清掃にあなたのような力ある精霊が来て下さるとは思いもしませんでした。ワイバーンに乗ってあなたが近付いて来るのを感知した時は、一体どうした事かと思ったものです。
ですがこれまであなたほどの精霊の話を聞いた事がないという事が不思議で、こうして姿を現させて頂きました”
世界樹様の言葉に“はて、何の事?”と疑問符を浮かべる俺氏。
・・・あっ、そう言えばまだ<精霊化>を解いてなかったわ。
「失礼しました、これはスキルによるものでして、私は精霊ではありません。今解除いたします。黒鴉、精霊化解除、それと出てきていいぞ」
“ブウォッ”
俺の言葉と共に身体の中から強大な力が抜け出て行く。その力は大きな塊となり、一つの存在へと姿を変える。
““はぁ!?聖獣!?””
白き翼、全身から溢れる神聖な光、三本の足を持つ巨大な鴉は、その理知的な瞳を向け目を細める。
「黒鴉お疲れ~。あっ、世界樹様、黒鴉に世界樹様の結界内を飛行する許可をいただけないでしょうか?
こいつこんな見た目なんでやたらな場所を飛び回る事も出来なくって、ちょっとかわいそうな事をさせてたんですよ」
俺からの言葉に“えっ、あっ、えっ、えぇ。まぁ構いませんが”との御許可を下さる世界樹様。
「良かったな黒鴉、ここなら自由に飛び回れるぞ。でも結界から外に出るなよ?それはそれで大騒ぎになっちゃうし、あなた様から怒られるの俺なんだからな。
気が済んだら戻って来いよ、よし、行ってこい!!」
“ピョン、ピョン、ピョン、ブワサッ”
黒鴉は俺の言葉を聞くや洞の出口に向かい飛び跳ねながら移動し、その巨大な両の翼を大きく広げ、そして・・・
“カーーーーーーッ、バサバサバサバサバサッ”
大きく一鳴きするや翼を羽ばたかせ、大空高く飛び去って行くのでした。
「うん、黒鴉はしばらく放置って事で。
えっと改めまして、清掃業者で普人族のケビン・ワイルドウッドと申します。どうぞよろしくお願いします」
““イヤイヤイヤ、そんな普人族いないから、絶対種族偽ってるから””
何故かお二方から盛大なツッコミを食らう俺氏。でも普人族なのは本当よ?あまり信じて貰えないけど。
最近多方面から種族詐欺を疑われてセンチな気持ちになる、ケビン君なのでありました。(グスン)
――――――――――
それは穏やかな昼下がりの事であった。
「ねぇ、何か大きな魔物が飛んでない?世界樹様に向かって行ってるみたいなんだけど」
「はぁ?何言ってるんだよ、ここは世界樹様の大結界に守られたエルフの里だぞ?魔物の侵入なんて・・・ワイバーンだと!?
なんでだよ、ワイバーンが侵入出来る程世界樹様の結界は甘くなんて・・・。
んだよ、脅かすなよ、ドラゴンの塒に入って行ったって事はドラゴンの眷属かよ。
でもあのドラゴンも忌々しいよな、こともあろうに世界樹様のお身体である洞の中に塒を作るなんて」
上空を飛ぶ巨大なワイバーン、その様子を眺めていたエルフの男性は、何か悔し気に言葉を吐き捨てる。
「でもそれは仕方がないんじゃないの?世界樹様がその事をお認めになられているんだし。
それにあのドラゴンも世界樹様に害をなすというものでもないのでしょう?だったらもしもの備えにドラゴンを飼っているとでも思えばいいんじゃないのかしら。
事実数千年前には世界樹様の葉を狙った魔物の群れをドラゴンが焼き払ったって記述が残ってるんでしょう?
だったらそこまでイライラしなくても」
「馬鹿野郎、そんなものな、俺たちエルフの民がいれば何の問題もないんだよ!
俺たちが何のためにこの地に住んでると思ってるんだ、俺たちは世界樹様をお守りする為に存在しているんだぞ?
それを何でドラゴンなんかにデカい顔をされないといけないんだ!」
“ダンッ”
感情のままにテーブルを叩くエルフの男性。
森を慈しみ、森と共に生きるエルフ族。その中でもエルフの里に住む者は、自分たちが世界樹様をお守りしているという高い誇りを持っていた。
故に大切な御祭神でもある世界樹様の洞に棲み付く魔物の存在を、どこか疎ましく思う者も多く存在するのだった。
“カーーーーーーッ、バサバサバサバサバサッ”
その鳴き声は、突如エルフの里全体に響き渡った。人々は皆自身の手を止め、その鳴き声に釣られる様に上空に目を向ける。
それは美しい気品溢れる白、全身を神聖なる光に包まれた白き神鳥が大結界内の空を飛ぶ。
これは一体。人々は戸惑いながらも考える、これは何かの慶事の予兆なのではないのかと。
それは多くの人々が空を舞う神鳥に目を奪われていた時に、不意に現れた。
そこは公園、人々の憩いの場でもある噴水の前に突如姿を現した黒い壁。
周囲の者がその存在に気付き、驚きの声を上げる間もなく、変化は訪れる。
“ニュインッ”
その壁からすり抜けるように現れた三人の女性。
「えっ、ここは・・・まさか、エルフの里?」
戦士装備を付けた女性がボツリと呟く。
「そうですね。これほど多くのエルフの民が姿を偽らずに平然と生活出来るような場所は、他にはないでしょうから」
メイド服姿の褐色の女性がその声に応える。
「いずれにしても移動しましょう。旦那様は「仕事があるのでしばらく合流出来ない、ゆっくりと里を楽しんで欲しい」と仰っておりました。
どの様な御用かは分りませんが、主人の仕事が終わるのを待つのも妻の務め。“森の風の里”の者たちがその後どうしているのかという事も気になります、先ずは長老会の下に向かいましょう。
戦士アリシア、案内をお願い出来ますか?」
「あっ、いえっ、あっ、はい。分かりました。ただ私も余りエルフの里には詳しくなく、道を尋ねながらとなる事をお許しください」
女性たちは歩き出す、自らの目的を果たす為に。
公園に現れた黒い壁はいつの間にか姿を消し、そこにはいつもの穏やかな風が流れて行く。
「うん、大した騒ぎにならなくて良かったわ。って言うか黒鴉先生に対する注目でそれどころじゃないって感じ?
流石黒鴉先生、その溢れる気品でエルフ族の皆さんを魅了しまくっちゃってください。
ってそんな場合じゃないっての、おいらはおいらでお仕事お仕事、依頼人が待ってるぜ」
“シュピンッ”
誰かの呟きが風に消える。
失われたエルフの姫の帰郷、その知らせは神鳥に祝福された慶事として瞬く間に里中に広がって行くのだが、彼らはそんな未来を知る由もないのであった。
本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora