そこは世界樹にぽっかりと空いた小さな
洞窟との違いは周りが岩壁であるか樹木であるか。洞窟と違い冷え込むといった事がないというのも、その特徴だろう。
「すみません、お待たせしちゃって。それじゃ早速現場に向かいましょうか」
そう言い平気な顔で洞の中を進んで行く俺に、驚きの顔を向けるお二方。
“あの、確かケビンと言いましたか。あなたは何故そうも平然とこの洞の中を進めるのですか?
ドラゴンの
そう言い何か謎生物でも見る様な目を向ける世界樹様。
「あぁ、その辺は慣れと言いますか。魔力に対する様々な訓練を積んでいるうちに<魔力支配>という統合系スキルと呼ばれるものに目覚めまして、俺って結構こういった魔力異常環境でも平気なんですよ。
でもこれ、今考えたら<魔力支配>スキルに目覚める以前から出来ていたみたいでして、スキルが使えなくなってもおそらく問題ないかと。
やっぱり何事も努力と慣れですね」
““イヤイヤイヤ、そんな人族いないから。それって魔物の在り方だから””
再びお二方のツッコミが。どうやら
って言うかお二人のような高位存在にそんな認定されたら、またおかしな称号が付いちゃうじゃないですか!
称号制度要らね~、システムだからどうにもならないのは分かるけどもさ。
「そう言えばずっと気になっていたんですけど、世界樹様って大結界に覆われてそのお姿が見えないんですよね?
何でガーディンさんは、俺を連れて来てくれたワイバーンは何の問題もなくこの洞まで来れたんですか?
それに俺も遠くからそのお姿がはっきり見えていたんですが」
そう、聞いたお話じゃ大結界に守られていてお姿が見えないって事だったんですけど、ガッツリ見えてたんですよね。目茶苦茶デカいなおいとか思ってみてましたし。
“あぁ、それは世界樹の結界もそうだが、我らドラゴンには結界というもの自体が効かないからだな。
あのワイバーンは“フィヨルド山脈の”の血を受けた眷属、故に我らドラゴンに連なる者。これが血の薄まった者であればそうでもないが、直接血を受けた者であればその性質は受け継がれる。
それとケビンは<精霊化>とやらで精霊そのものになっていたであろう?
世界樹は精霊を生み出すいわば精霊の母、その世界樹の結界が子供であるはずの精霊を拒むはずもあるまい?
これは他の聖樹と呼ばれる者たちも同様であるはずだぞ?”
お答えくださったのは依頼人様、流石最強生物と種族を同じくする者、普通の者が知らないような深い知識をお持ちで。
“そうですね。エルフの者たちが私の場所を特定出来るのもそれが理由です。この世界樹にまつわる者は全て私の眷属、ただ血を分けてのものではなく祝福という形で力を分け与えた存在となります。
尤も私の与える祝福は多少魔力の扱いに長ける事と、他人種より長寿であるという事くらいなのですが。
エルフ族は元々草原と森の浅い地域に住む種族であったのです。
そんな彼らが他人種に追われ逃げ込んだ先、それが私の下であった。
私は長い時をこの地で過ごしてきました。ですがこの地の外の事は分からない。彼らとの出会いは私にとっても意義のある事であった。
彼らが目で見、耳で聞いた事を通じて世界を知る事が出来た。
それが私がエルフたちを保護する理由です”
うわ~、なんかとんでもない事を聞いてしまったっていうか、要は耳目じゃん。ベルツシュタイン伯爵閣下じゃないですか。
与えた祝福も他所に行って色々と見聞きしてくるために必要な力って事じゃないですか、長生きしてくれた方がありがたいってだけじゃないですか。
「えっと、それじゃハイエルフとエルフの違いっていうのは」
“与えた力の差ですね、ハイエルフは初期の者たちの末裔になります。与えた力が強い分寿命も長く魔力の扱いにも長けていますが、繁殖力に劣ります。
後から集まって来たエルフには、その点を考慮し祝福を与えました。
既に一万年以上前の事ですのでその事を知っている者はいませんが、ハイエルフもエルフも元の種族的に大差はないのです。ですがその力は身体に刻まれ、現在では明確な差となって表れているようですが”
「ついでにこれも聞いていいのかあれなんですが、エルフ族が普人族に狙われる最大の理由としてその容姿があげられるのですが、そうした事って世界樹様と何か関係があったりするんでしょうか?」
俺の質問に何故かしばらく考え込む世界樹様。これってかなり有名な話だから世界樹様が知らないって事は無いと思うんだけど。
“その点は正直よく分からないのです。私は所詮樹木ですから、人族の美的感覚はちょっと。
数万年の時の中で人族に好まれる容姿といったものは何となく理解しているつもりですが、何故それが好まれているのかを理解できているのかと聞かれれば難しいとしか言いようがない。
ですが私がエルフの容姿に干渉しているのかと聞かれれば、しているとも言えるししていないとも言える。
この世界では魔力が大きな力を発するというのはケビンも分かっている事と思います。そして魔力はその力を擁する存在にも大きな影響を与える。一代ではそこまででもありませんが、何代にも渡り魔力豊富な者が続けばその身体的能力も当然の様に向上する。
それはその外見、容姿にも及ぶという事。エルフは一万年の時を経て現在の様に変化して行ったのではないでしょうか”
出た、魔力万能説。でもお貴族様の子弟の成長が早かったり容姿が優れているのって、どう考えても魔量の多い者同士で婚姻を繰り返したことが原因だと思うんだよね~。魔力過多症患者もお貴族様の間の方が多くみられたって話だったし。
そうした意味では、後天的にしろ魔力ブーストを受け続けたエルフが容姿端麗になったって話も頷けるんですよね~。
なんか深い部分のエルフの秘密を知ってしまった俺氏、この秘密は“まどうのしょ”行き?
この話ってエルフに教えたら馬鹿にするなって殴られるんだろうな~。システム魔王のお話に続いてとんでもないことですわ、マジで。
“うむ、この場であるのだが”
依頼主様がそう仰られたのは大木の様な太さの木製剣山が生え揃ったような場所。木と木の間には確りと抜け殻滓がですね。
俺は見える範囲全体を指定し闇属性魔力を展開、垢すり場の掃除も三回目と慣れたもの、全体に確りと闇属性魔力を馴染ませたら一気に収納の腕輪に仕舞い込むのでした。
““イヤイヤイヤ、えっ、何今の濃厚な闇属性魔力、ケビンはやはり種族を偽った別の何か、堕天使!?””
このお二人、種族は違えど大変仲がよろしい様で。さっきから息がぴったりなんですけど?コンビ芸人なのかな?“ちょっと、ちょっとちょっと”のギャグなのかな?
「堕天使の訳ないじゃないですか、堕天使の魔力量って半端ないんですから。堕天する際に半径二十キロが吹き飛ぶらしいじゃないですか、俺そんな事出来ませんから」
俺の言葉に“いや、でもあの濃厚な闇属性魔力は”とかぶつくさ言うお二方。だってしょうがないじゃん、最強生物素材はそうでもしないとちゃんと指定できないんだから。
魔力を反発する素材を全指定収納するのって結構難しいのよ?
ですがご覧ください、まるで生まれ変わったかのようにきれいに何もなくなった垢すり場、もとい脱皮場。俺はついでとばかりに全体を範囲指定し、<清掃>スキルを発動するのでした。
“うむ、大変すばらしい。“マロニエの”の塒を見て来たからケビンの仕事がどれ程のものかという事は知っていたが、実際に自分の塒が生まれ変わるとなると感動もひとしおというもの。
これは何か礼を行わねばならんか。“マロニエの”の話では光物を渡したとの事であったが。
すまぬがケビンが自身で選んではくれぬか?人族の価値観は難しい故”
そう言い別の区画に案内して下さる依頼人。今回の清掃ではおなじみの“棘(アダマンタイト製)”は出て来なかったんですが、なんか禍々しいヤバそうなのが二振りほど。
こちらは廃棄物として処分させて頂きます。
向かった先には光物の小山が。特に分類分けされているって事はなく、適当に山になってるって感じですね。
“これらは今は滅んだ国々の品だな。大魔境と呼ばれるこの辺もその昔は幾つかの国が存在していてな、ただ女神の怒りを買ったとかで天使の群れにより滅ぼされてしまった。
世界樹よ、あれはいつの頃であったか?”
“そうですね、あれは既にエルフを眷属とした後でしたから、確か八千年ほど前ではなかったかと”
ブホッ、時間スパンがとんでもね~。こちらの依頼人もヤバいくらいに長生きでいらっしゃったのですね、もうついて行けない。
でも世界樹様の洞の中じゃ土属性魔力を使ったリフォームも出来ず、収納の腕輪から土砂を取り出し<破砕>、土属性魔力マシマシウォーターを掛けてよくよく練り込み基礎魔力で形を整えたら<ブロック>で固めて陶器製のコンテナボックスを複数作成。
世界樹様に頼んで棚を作って貰い、光物をコンテナボックスに仕舞って棚に設置する事といたしました。
依頼人もこれにはご満悦、“これはよい”と絶賛してくださいました。
折角なんで寝室の木組み(鳥の巣みたいな場所)も組み直ししてごみを排除、食事スペース脇のゴミ山も撤去させて頂きました。
うん、普通に掃除だわ、ごみ屋敷とは比べるべくもない。
何が“ドラゴンの習性なのよ~”なんだか、最強生物にしてもこちらの依頼人にしても、そこまで散らかってないじゃん。頭の中でゴミ屋敷の惨状を基準にしていた俺氏、ちょっと肩透かしと言うかなんというか。
“いや、本当に助かった。まさか寝床の組み直しまでしてくれるとは。
この場所はどうしてもゴミが溜まってしまうからな、これで快適な眠りが得られるというものだ。
しかし良かったのか?それこそ先程作ってくれた箱の一つでも持って行ってくれても良かったのだぞ?”
「いえいえ、こうしたものはあまり貰い過ぎてもいらぬ諍いを呼びますので、報酬分の金銭は確りといただきましたので十分でございます」
流石最強生物の御同輩、太っ腹でいらっしゃる。
“あの、ケビン。迷惑でなければ私のところの掃除もして貰えないでしょうか?”
依頼人のご自宅清掃が無事終了した俺に声を掛けて来たのは、大家さんである世界樹様でございました。
“現場を見ていただければお分かりになるかと”
そう仰る世界樹様に案内されるまま、俺は依頼人の背に乗り世界樹の枝が生い茂る上部へと移動するのでした。(ガーディンさんはご休憩です。不眠不休で飛んで来たのでゆっくりお休みになられております)
向かった先、そこは大木よりも太い枝がゴロゴロと転がる巨大な枝の上。
どれくらい巨大かと言えば、領都グルセリアの街がそのまま乗っかってもまだまだ余裕があると言えばお分かりいただけるだろう。
ここって普通に住めるよね?さっき湖みたいな場所が見えたんですけど?
“昔はこうした物も特に気にせず地上に落としていたのですが、今はエルフの者たちが街を作ってしまっていてやたらな事が出来ないのです。
かと言ってそのままという訳にもいかずこうして溜まる一方で。
枝落としをしないとなると風の流れが悪くなってしまいますから、そうした枝をこのドラゴンに運び出して貰っていたのですよ”
あ~、なるほど。要は共生関係にあったんですね。
世の中ではエルフが世界樹様の管理を行っているとか言われているけど、冷静に無理だもんね、客観的に見て寄生してるし。
まぁそれも“エルフは世界樹様の耳目だった”って話で納得出来ましたけど。
で、実際のお世話は洞に棲み付いてるドラゴンが行っていたと。自由に空を飛べるドラゴンならそれも可能ですしね。
「畏まりました、このケビンに全てお任せを。
というかこの際だからきれいさっぱり剪定も行いましょう。切り落とす枝に案内していただければ、先に魔力指定しちゃって落ちないように固定化できますんで。
<業務連絡:黒鴉>仕事だから戻って来てくれない?合体よろしく~」
俺の呼び掛けに自由飛行を楽しんでいた神鳥が方向を変え飛び込んで来る。
““ちょっ、危ない!!””
“ブワサッ”
俺の身体に向かって嘴から突っ込む神鳥に驚きの声を上げるお二人、そして・・・。
“ブワッ”
広げられた二枚の翼、白と黒の羽を持った
「では参ろうか、世界樹殿、ドラゴン殿。なに、我も飛べる故案内を頼む」
そう言いふわりと浮き上がるケビン。
その姿に““こいつ絶対普人族じゃない””と思う世界樹とドラゴンなのでありました。
本日一話目です。