転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第483話 辺境男爵、嫁の両親にご挨拶する

“ケビン、本当にありがとう。これほど爽やかな気分になったのは生まれて初めてです、私は相当に無理をしていたのですね。

人族の言う今にも踊り出しそうな気分とはこういう事なのかと、心より実感しています”

 

テーブルの席に座りティーカップに注がれた光属性魔力マシマシマシ聖茶に口を付けながら、満面の笑みを浮かべた女性が感謝の言葉を口にする。

 

「ふむ、確かに足下に建物があるというのは考えものではあるな。幸いブー太郎のログハウスは少し離れた場所にあるから良いが、いずれ身体が大きくなった場合はそうした事も考えなければならないか」

 

隣の席に座る偉丈夫の男性が、女性の言葉に合の手を入れる。

 

“なるほど、お二人はそうした苦労がおありなのですね。

幸い私のところは近しい眷属である精霊しかいませんので、そうした問題は発生しないのですが。それに私が落とした枝は精霊たちが片付けてくれますので。

そうしたものを取っておいて人族に下賜すると、非常に喜ばれるのですよ。

アマネ様は例えばドラゴンを使って下界のエルフ族に枝を与えたりはしないのでしょうか?”

 

テーブルを共にする別の女性が、はじめに言葉を発した女性に質問を投げ掛ける。

 

ここは世界樹の枝の上、遥か下方を雲が流れる天上世界。

そんな場所でテーブルを囲み光属性魔力マシマシマシ聖茶を楽しむ三人の高位存在。

神聖樹の御神木様、聖霊樹のメイプリー様、世界樹のアマネ様。

なんか世界樹様が御神木様とメイプリー様に名前があるという事を羨ましがられてですね。存在値が大き過ぎるから名付けは難しいって言ったんですけど、それでも試して欲しいって言うもので、“世界を遍く照らす存在”と言う意味を込めて、“アマネ”と名付けさせていただきました。

いや~、スゲーの、魔力がごっそり持って行かれるんだもん。魔力の腕輪さんに貯めに貯めた魔力がすっからかん。久方ぶりに本当の意味での魔力枯渇を起こすところでした。

でもなんかアマネ様が元気になったって言うか、リフレッシュしたって言うか?名前を付けた瞬間ブルブルって身を震わせたかと思うと、枝葉がワサワサって震えたんですよね。

枝の上に載ってるこっちとしては地震かと思いました。

でも俺って<魔力超回復>とか持ってるし、<夜間自己再生>とかあるから一晩経てば元通りなんですけどね。

 

アマネ様からのご依頼に関しては無事終了、枝同士の隙間も確り空いて風の通りも素晴らしく良くなりました。

もうね、凄いの、樹齢何百年と言わんばかりの大樹ほどの太さの枝がわんさか。そんな枝を剪定していくって言うんだからそりゃ大変な作業でございましたともさ。

 

切り取り自体はアマネ様が行ってくれるからいいんですけど、固定作業が。少しでも油断すればエルフの街が大惨事ですからね、緊張するする。

しかもアマネ様って目茶苦茶デカいんだもん、島なんだもん。

固定して収納するって作業だけで、三日以上掛かっちゃいました。

 

で、それらの作業が終了したんでお疲れ様会をですね。どうせならって事で御神木様を<出張>で、メイプリー様を<召喚術>でお呼びしたって訳です。

そんな大技使ってる最中に名付けなんてしてよかったのか?良くないんだよ、ヤバかったんだよ!

安請け合いをしてはいけないと反省モードのケビン君なのでありました。

 

“しかしケビンは無茶苦茶であるな。聖霊樹と言えば西方の聖樹であろう?それを分体とは言え東方の端である世界樹の地に呼び出すとは。

その様な事が出来る存在などこれまで見た事も聞いた事もないぞ”

 

そう言い樽ジョッキに注いだ光属性魔力マシマシマシマシカクテル(キラービーバージョン)を口にする二メートルサイズのドラゴン様。

この御方、流石ゴミ屋敷ドラゴンのお友達なだけあって、縮小化の魔法をマスターなさっていた様でございます。

因みに縮小化の魔法を使えるドラゴンは他に最強生物とゴミ屋敷ドラゴンのお子様だけ、他のドラゴンには“わざわざ小さくなる意味が分からない”と不評な魔法なんだとか。

“大きい事はいい事だ”の魔物の世界では当然なご意見かと思います。(死活問題)

 

「でもこの作業をしていてずっと疑問だったんですけど、エルフたちってどうやってアマネ様の葉を手に入れていたんですか?こんな場所にまで登って来れるようなものでもないと思うんですが」

それは当然の疑問、標高七千メートルを超えるフリークライムって普通に死ねます。

俺みたいに飛べれば問題ないんだけど、俺が魔力障壁を足場にして上空に跳び上がるのを見たアナさんがお口ポカンとしてたくらいだし、それもない様な気がするんだよな~。

 

“あぁ、それはエルフの巫女から連絡を受けた私が直接手渡すか、ドラゴンに持って行ってもらっていました。

まだ周辺に国があった頃は他国との交易もありまして、世界樹の葉は主要輸出品目だったのですよ。その当時は私の枝を挿し木できないかと試行錯誤していたみたいですが、どうにも上手くは行かなかった様で今では“世界茶”という名称で高級茶葉として楽しんでいる様です。

長い歴史の中で普人族もエルフ族も変わって行ったという事なのでしょうか。この場を動く事の出来ない私は、そうした人々の様子を観察して過ごして来たのですが”

 

アマネ様の“人々の営みには出来るだけ干渉しない”という姿勢はメイプリー様にも通じるところがあります。メイプリー様の場合は挿し木が“甘木汁”になり、アマネ様は“世界茶の茶葉”になったという事なのでしょう。

 

「それでは私はエルフの里に行って少々買い物と共に来た者の御迎えを。

そうだ、アマネ様も<短期雇用契約>を結んでおきますか?そうすれば私のスキルありきではありますが、御神木様やメイプリー様と連絡を取り合う事も出来ますんで」

俺からの提案に“よろしいのですか?ぜひお願いします”と応えるアマネ様。まぁお互いに移動する事の難しい存在ですからね、お気持ちの分かり合える者同士の会話はさぞや楽しいものでしょう。

 

“そうです、ケビンには何かお礼の品を差し上げねばなりませんね。ですが私は光物などは持っていませんし、何を差し上げればよいのか・・・”

 

「あっ、それでしたら棒をください。あのドラゴンの擦り付けにも負けない丈夫な棒、あれと同じ様な丈夫な棒が欲しいんですよ。

ドラゴンが踏んでも壊れないステッキ、なんてロマン溢れる品なんでしょうか。

私、そういう無駄に高性能なものが大好きなんです」

 

俺の言葉に“はぁ?棒、ですか?”と疑問符を浮かべるアマネ様。

 

「うむ、アマネ殿、ケビンは昔からこういう男だ。確か以前はドラゴンが踏んでも壊れない目立たないリュックを作るとか言って奔走しておったくらいであるからな。

実際完成品を見せて貰った時には、開いた口が塞がらないと思ったものであったよ」

“そうですね、そのリュックを作るためだけにキャタピラーを精霊女王にしてしまったような人物ですからね。

やる事の規模と目指す結果が意味の分からない事になっている人なんですよ”

 

何故か二人して呆れた表情でこちらを見る御神木様とメイプリー様。

“ドラゴンが踏んでも壊れないシリーズ”は男のロマンじゃね?

“象が踏んでも壊れない筆箱”とか、“百人乗っても大丈夫な物置”とか。

人生にロマンって大事だと思います。

 

―――――――――

 

「皆様、少々よろしいでしょうか?」

その声は楽し気な夜会が行われるハイエルフ主催のパーティー会場に響き渡った。

その場に集まる人々はこのエルフの里でも高位とされる者たち、ハイエルフの重鎮である長老会メンバーや都市運営に携わる者など。

彼らは皆この後行われる事となっている新たなカップルの誕生を祝福する為に集まっていたのである。

 

ハイエルフとはエルフ族の中でも一握りの高位存在、それはただ権力があるというだけの違いではなく、生命として上位に位置するという事を本能的に察してしまう程の明確な差が存在する。

エルフの生は永い、一般的なエルフであっても二百五十年から三百年は生きると言われている。そして彼らの上位種であるハイエルフにいたっては五百年とも六百年とも。

それ程の永き時を生きる彼らハイエルフではあるが、一つの問題がある。それは繁殖力の低さ、その人生の中で育む命は一人から二人。それ故その絶対数は時を経るごとに減少し、ハイエルフ自体が希少な存在へとなっていった事は、致し方のない事なのであった。

 

そんな背景の中結ばれようとしている新しい希望、その事はエルフ社会にとっても喜ばしい出来事であり、失われたと思われていた姫の生還の知らせと共にハイエルフたちの中に瞬く間に広まって行ったのである。

 

「先ずはこの会場にお集まりの皆様に、私アナスタシア・エルファンドラの帰郷を心から祝福して下さった事へ感謝申し上げます。

ここ数日のパーティーですでにお顔を拝見された方々もおられますので今更ではありますが、私は“森の風の里”を襲った普人族の奴隷狩りにより故郷である“森の風の里”を追われました。

彼らがなぜあの里の場所を見つける事が出来たのか、今となっては知る術もありません。ですがあの時彼らの目的は明確に私の身柄であった。

これは後になって分かった事ですが、普人族の中ではハイエルフは国宝に匹敵する宝飾品類と同等の価値があるのだそうです。

エルフというだけで高額な取引が行われる奴隷商の世界で、さらに上の存在とされるハイエルフの情報を手に入れたとなれば、欲望の塊である彼らが動かない筈はなかったのでしょう。

 

ですがその事が逆に彼らの動きを鈍らせた、ハイエルフである私が囮になる事で彼らを引き付け、里の者を逃がす事が出来た。

里を取り仕切る者の家族としてその役目を全う出来た事は私の喜びであり、生き延びてくれた“森の風の里”の者たちには感謝しかありません。

 

そこから先は只管の逃亡生活でした。一応の偽装工作はしたものの彼らの目を欺けるかといえば難しいと言わざるを得ない。それ程に普人族の欲望に対する執着はすさまじい。

一人一人の力では私たちエルフ族に遠く及ばない彼らが何故今日の様な繁栄を遂げたのか、それは集団の力、自らの欲望を糧として広大な土地に広がって行く繁殖力に他ならない。

他者をどん欲に喰らい尽くす欲望こそ、彼らの力に他ならないのです。

 

私は逃げた、数十年の時を身を隠し己を偽り逃げ続けた。

そして辿り着いたのが西方の土地であった。

そこは多くの者が隠れ住む土地であった。普人族の欲望の牙は何も他種族にばかり向かう物ではありません。同じ普人族の者にも、心優しい穏やかなる者に対しても獰猛に苛烈に向けられる。

そんな者たちが肩を寄せ合いひっそりと隠れ住む場所、そんな場所において私は初めて安寧を得る事が出来た。

 

ですがそんな時も長くは続かなかった。土地の繫栄と開発、それはその場に住む民にとっては素晴らしい事ではあるものの、隠れ住む者にとっては秘密を暴かれる事に他ならない。

ですがそんな私たちに手を差し伸べる者がいた。その者はやはり追いやられた民の住まいし土地の者であった。

だがその土地の者たちは過酷な現状を工夫と努力で覆して行った努力の者たちであった。

 

私や私に従う者たちは救われた、生活を、笑顔を取り戻した。

私はその土地でアナと名乗り、村人の一員として生活し、人並みの愛を知った。

何気ない日常、私の作る料理を旨いと言って貰える事の喜びを知った。

 

お父様、お母様、私の事を心配してくれてありがとうございます。アナスタシアの事を愛してくれてありがとうございます。

アナスタシアは幸せです、こうして多くの人々が私の帰郷を喜んでくれるのですから。

でも安心してください、私は幸せに過ごしていました、そしてこれからも。

私アナスタシアは愛する者と過ごす彼の地へと戻ります。

皆様、本日は誠にありがとうございました」

 

静まり返るパーティー会場、困惑する人々。

この者は一体何を言っているのか?

確かに彼女はこのパーティーの主役であった、普人族の奴隷狩りから多くの者を救った英雄であった。その生存が知らされた時は多くの人々が喜び、捜索の者が向けられる事となった。

エルフの者にとって世界樹様と共にある事は喜び、永きに渡る逃亡生活を終えエルフの里に戻る事が出来た、その事以上の喜びなどあろうはずもない。

 

「アナスタシア、お前は何を言っているのだ!?

長老会の皆様、ご列席の皆様方、大変申し訳ありません。

娘は、アナスタシアは突然のありがたいお話に気が動転してしまっているのだと思います。

それもそのはず、アナスタシアは何十年もの時を隠れ住み怯えて過ごして来た、その事を考えず私共は事を性急に進めようとした。

娘の生還に気が動転していたのはむしろ私たちの方だったのかもしれません。

先ずはアナスタシアがエルフの里の生活に馴染むよう見守ることから「あの、一つよろしいでしょうか?」・・・」

 

その声はアナスタシアの発言を取り繕おうとする父親の言葉の途中に投げ掛けられた。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

その者は何時からそこにいたのか、薄蜂蜜色のローブを羽織った白い仮面を付けた小柄な者が、ざわめく人々の間から歩を進める。

だがそんないかにも怪しげな者を、誰も押し止める事が出来ない。

なぜならその者から発せられる神聖で高貴な気配が、その者が自分たちよりも遥かに上位の存在であることを知らしめるからであった。

 

「“初めまして、アナスタシアのお父様、お母様。そしてエルフの里の皆様方”」

その発せられた声音は、耳ばかりか魂に直接響き渡る。

 

“スッ”

落とされたフード、そこから現れたのはエルフ族では見る事のない漆黒の髪。

 

「“西方の地、フィヨルド山脈を擁する国から参りました”」

“カチャ”

 

「“アナスタシアの夫、マルセル村のソル、ケビン・ワイルドウッドと申します”」

取り外された仮面、そこから現れたのは、笑顔を浮かべた平凡な普人族顔なのでした。

 




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