転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第485話 転生勇者、転生賢者を目撃する

時はケビンお兄ちゃんが世界樹へ向けマルセル村を出発した日に遡る。

それはよく晴れた日の早朝であった。俺はいつもの様にトーマスお父さんと日の出前の畑仕事を行い、家に帰ってからマリアお母さんが作ってくれた朝食を食べていた。

 

最近妹のチェリーが兄離れをし始めたのか、前の様に甘えてくれなくなった事が寂しくはあるものの、これも妹の成長の証とグッと我慢し、我慢し、我慢・・・チェリ〜、お兄ちゃんは悲しいよ〜。

なんで前みたいに「お兄ちゃん、おはよう~♪」(ムギュ)ってしてくれないんだい?ロバート君が中々落ちないとかルビアナが強敵だとか、何でそこでミッシェルが~とか。

このところマリアお母さんと作戦会議ばかりしていて全然遊んでくれないじゃないか。

お兄ちゃんは来年になったら王都に行っちゃうんだよ?もっと兄妹の交流をね?

何故そこでそんな残念な者を見るような目を向けるんだい?お兄ちゃん泣いちゃうよ?

などと戯れながら楽しい食卓を囲んでいたんですけどね。

 

「マリアお義母様おはようございます。チェリーちゃんもおはよう、いつもロバートと仲良くしてくれてありがとう。ミランダお母様もチェリーちゃんはとてもいい子と褒めていたわ。

何事も事を急いでは良い結果は得られない、大切なのは何が重要なのかの見極めよ?

チェリーちゃんはまだ若い。周りの状況を、一歩引いて全体を見ることを忘れないで。

 

ジェイク君、ケビンお兄ちゃんがジェイク君を呼んで来てって。

何か大事なお話があるんですって」

 

それはエミリーの呼び掛け、ケビンお兄ちゃんがエミリーを使いに出すって事は、既に何らかの事態が起きているかこれから起きようとしているのか。いずれにしろ出向かないという選択肢は有り得ない。

 

「マリアお母さん、トーマスお父さん、俺、ちょっと行って来るよ。

エミリー、知らせてくれてありがとう。

チェリー、お兄ちゃんちょっと出かけて来るけど、いい子にしてるんだよ?」

「うん、お兄ちゃんいってらっしゃい。それでお母さん、今日なんだけど・・・」

 

チェリーの成長が(いちじる)し過ぎて、兄として辛い。トーマスお父さん、男って辛いものなんですね。

俺は肩をポンと叩いてくれたトーマスお父さんにコクリと頷きで応えると、エミリーと共にケビンお兄ちゃんの下へと向かうのでした。

 

「ゲッ、厄介事!」

そこは村の健康広場、エミリーの住むホーンラビット伯爵家仮本邸の目の前でした。

 

「ジェイク君、こちらは世界樹まで旅をしてエリクサーの素材を集めて来た賢者パーティーの方々です。いつかジェイク君たちがやろうとした事を実際に成し遂げた凄い方たちだね。

二人は学園を卒業したら冒険者として世界に旅立つんだろう?賢者様方のお話はその時の参考として凄く役に立つと思ってね」

 

ケビンお兄ちゃんと一緒にいたのは、昨日門番業務の時に会った賢者と聖女とエルフの三人組。

エルフ族の女性を連れているってだけでも相当なのに、エリクサーの材料を求めて世界樹まで行って全部集めて来たってどれだけ?厄介事の数え役満ですか?ロイヤルストレートフラッシュが揃っちゃったんですか?

 

「えっ、“赤髪のジェイク”!?主人公キャラが何で?

それに<剣豪>って、<勇者>じゃないってどういう事?俺が色々動いたからゲーム自体がおかしくなったのか?それじゃ魔王襲来イベントとかどうなっちゃうんだよ!!」

 

ブホッ、この人異世界転生者じゃん、それも“ソードオブファンタジー”をガッツリやってるパターンの。

俺の事を“赤髪のジェイク”って、一番警戒しなきゃいけない種類の人間じゃないですか、嫌だ〜。

そう言えば世界樹の葉を手に入れる為にエルフの里に向かうには、犯罪者組織に捕まってるエルフ女性を助け出すのがキーポイントだったような。

それを知らずに世界樹に向かっても、エルフの門番に無理難題を押し付けられるんだったっけ?しかも世界樹の葉を貰えないんじゃなかったかな。もう、その辺はよく覚えてないや。

後なんだっけかな〜、そうそう、“ドラゴンの涙”だよ。ローレライ大砂漠地帯のどこかに遺跡があって、そこで手に入るって流れだったんだよ。

他にも何かのアイテムが必要だったはずなんだけど、その辺は全く分からん。そんな事いつまでも覚えてないっての。

 

でもエリクサーの材料集めをして来たって事は、王都の暗黒魔導士対策って事?王妃様の呪いを解くのにエリクサーが必要とかってイベントだったはずだけど、現実問題どうやって王妃様にエリクサーを献上するつもりなんだろう?

勇者は王様に直接依頼されての旅だからいいけど、普通は王家の方々となんて会えないと思うんだけど。

 

厄介臭たっぷりの転生賢者様との出会い、その後この転生賢者様と共に白雲さんと白玉と大福による特訓に参加する事になったり、聖女モードになった残月さんに見とれてエミリーに腹パンされたりと色々あったんだけど。

 

“ゴウンッ”

世界樹に向け旅立つ様な事をケビンお兄ちゃんが話していたかと思うと、突然大きな黒い影がマルセル村上空を通過してって、なんだありゃー!?

 

それは空を飛ぶ厄災、大きな翼をもつ超常の化け物、ワイバーン。

だがその巨体は俺がこれまで想像していたどの魔物よりも大きく・・・。

 

「賢者ユージーン殿、聖女マリアーヌ嬢。世界は広い、あなた方にはもう一度この世界に生きる者としてその目で見て感じて欲しい。

折角生まれて来たのだ、もっと人生を楽しんで欲しい。

 

ジェイク君、エミリーちゃん、この世界は凄いよ~。頑張って力をつけないと苦労すると思うよ?

ジミーが帰って来たら色々と教わるといいよ、アイツってば向こうで無茶苦茶やってるみたいだし。龍人族に殴り合いで勝つって意味が分からん。

 

ではホーンラビット伯爵閣下、パトリシアお嬢様、ちょっと行ってきます。例の物が出来上がる前には帰ってきますんで、暫くの留守をお許しください」

 

その言葉を最後にその場から姿を消したケビンお兄ちゃん、そしてそれに続くように再び上空を低空飛行する巨大ワイバーン。

そんなこの世のものとは思えない光景に、只々唖然とする俺たち。

 

「それじゃジェイクと賢者ユージーン殿、これからはユージーンと呼ばせてもらうが、二人は一緒に草原に向かうぞ。

先ずは軽くこれまでの戦闘を見せてもらいたいからな、ジェイクはいいとして賢者であるユージーンがどういった戦いを行っていたのかが分からんと指導のしようもない。

無論魔法ありの戦闘だから安心してくれ、相手は俺が務めよう。行き成り白玉師匠や大福師匠と戦えだなんて鬼畜な事は言わんさ」

 

そんな中、目の前で起こった事などまるで当たり前の出来事のように淡々と話を進める白雲さん。

 

「えっ、いや、だって。白さん、なんでそんなに冷静なんですか!?白さんも見たでしょう、ケビンお兄ちゃんが化け物みたいなワイバーンと共にどこかに消えちゃったところ。

あんなの伝説のドラゴンと何も変わらないじゃないですか、なんなんですかあれは!!」

堪らず叫び出す俺の声に、正気に戻り恐怖に震える周囲の人たち。

 

「いや、なんなんですかも何も、ワイバーンだろう?

まぁあれほど巨大で力のある個体は他にいないと思いたいがな、今の俺じゃ手も足も出そうにない。

白玉師匠なら・・・難しいですか、そうですよね。

大福師匠は“ポヨンポヨン♪”・・・聞くまでもありませんでしたね、失礼しました。

まぁフィヨルド山脈に行けばああした脅威もいるって事だ。

そしてあれが最強って訳でもないしな。

 

いいかジェイク、心して聞け。おそらくお前が旅立ちの儀を迎える年になったら、兄弟子からある“お使い”を頼まれるだろう。

それは旅立ちの儀を迎えたジェイクに与えられる試練、その試練を無事に乗り越える事で、ジェイクは一人前の戦士として認められる。

 

ジェイク、さっき兄弟子が言った言葉を忘れるな。“世界は凄い”、それは俺たちの想像等及ばない程にな。

俺でも未だに震えがくる程の脅威は確かに存在する。ヨークシャー森林国でのとんでもない儀式やら、アスターナの戦場で精霊砲の直撃を受けたお前ならその言葉の意味が分かるだろう?

世界に旅立つと豪語したんだ、あれしきの事で取り乱すな。

 

ユージーン、いつまで呆けている!戦場では出来る事をやらぬ者は死ぬぞ、自らの考えの及ばぬ事をいちいち考えるな、そんな暇があったら手足を動かせ!

 

残月さん、そちらの二人はお任せします。こちらは暫くポーションで対応しますんで、そちらの進捗具合によって声を掛けてください」

 

「そうですね、その時はよろしくお願いします。

マリアーヌ、エミリー、私たちも参りましょうか。場所はそうですね、村門脇の闘技場でいいでしょう、あそこは活きのいい若者が多く集まりますから」

そう言いにこやかな笑みを浮かべ、未だ放心状態の聖女マリアーヌと「ケビンお兄ちゃんだから仕方が無い。ケビンお兄ちゃんだから・・・やっぱり無理」と呟くエミリーを連れて行く残月さん。

 

お屋敷前では「ハハハハ、あれがケビン様、しかもその秘密の一端って。私は何も分かっていなかった、そう言う事なの?」とどこか遠くを見詰めるパトリシアお嬢様と、「パトリシア、焦らなくてもいい。こんなことはケビン君と一緒にいればたまにある事だから。要は慣れだから」とご自身の胃を抑えつつ慰めの言葉を掛けるドレイク村長。

・・・そっか~、ドレイク村長、しょっちゅうこんな目に遭ってるのか~。

なんか白雲さんが同情の眼差しを向けてるし。

 

そして肝心のゲーム転生賢者様は・・・。

「うわ~~~!?な、な、な、なんなんだよあれは!?

あんな化け物“ソードオブファンタジー”には出て来なかったじゃないか!

それを何で人が使役してるんだよ、使役出来るんだよ、意味が分からないよ!?

あれがワイバーン?それじゃドラゴンなんていったらどうなっちゃうんだよ、ドラゴン襲来イベントはドラゴンと戦って認められないといけないんだぞ?

そんなの認められる前に死んじゃうわ、調子に乗ってしゃしゃり出た瞬間に瞬殺確定じゃんか!!」

 

・・・惜しい方を亡くしたようでございます。

う~ん、壊れちゃったか~。白雲さんがヘッドロックを掛けて連れて行っちゃった。

回復を待つのが面倒になっちゃったんだろうな~。

どうせこれからボコボコになるまで現実を教え込むから問題ないんですか、そうですか。

その後ユージーンさんは白雲さんの宣言通り全ての攻撃魔法を白雲さんの拳で防がれたばかりか範囲攻撃魔法すらも無傷でやり過ごされ、接近戦でボコられては無理やり回復させられ再び戦わされるという地獄を日が落ちるまで味わわされるのでした。

その間俺はどうしていたのか?

大福と白玉にぼろぼろにされてましたが何か?

お二方とも超ノリノリなんだもん、“キュキュキュイ~♪”“ポヨンポヨンポヨンポヨン♪”って、めっちゃ喜んでるんですけど?

それってもしかしなくても、“歯ごたえ最高~”とか“た~のし~♪”とかって意味ですよね!!

 

こうして転生賢者様のマルセル村での一月の修行(ワカラセともいう)が、幕を開けるのでした。(俺は完全な巻き込まれ)

 

 

あれから八日・・・。

 

「アッハッハッハッ、<ファイヤーランス×50>」

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド”

撃ち出される大量のファイヤーランス、それは点にして面。目の前の敵を決して逃さぬ絶対の包囲網。

 

「残念、それって魔力の無駄使いだからね?<炎腕×50>、武器は丁重にお返しいたします」

“シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ、ズドーーーーン”

だがそれは全て火属性魔力の触腕により受け止められ、逆に最大の攻撃として返される。

 

「そこまで。勝者ジェイク」

炎に包まれボロボロになった対戦者は救護班による早急な処置により直ぐに復活、再び戦場に立ち上がる。

 

うん、ユージーンさん、強くなったよな~、精神的に。

一時期目が逝っちゃってバーサーカーモードに入っちゃったけど、これ幸いとばかりに白雲さんにボコボコにされてたもんな~。

白雲さんの「漸く一皮むけ始めたか」って呟きが超怖いんですけど?その直ぐ後で「これってジェイクにはいらない処置だから安心していいぞ?ジェイクにはエミリーがついてるからな」って言って物凄く慈愛のこもった瞳を向けられたのって、どういう意味だったの?

 

「おっ、やってるね~。賢者ユージーン、いい目をするようになったじゃない。若干だけど<魔力纏い>も出来かけてない?

これって才能?それとも白の指導がいいから?

いずれにしても自力で辿り着きそうじゃない、良きかな良きかな」

不意に掛けられた気の抜けた声。

 

「えっ、ケビンお兄ちゃん?世界樹に旅立ったんじゃなかったの?何かあって途中で引き返したとか?」

そこにいた人物は八日前に厄災に乗って旅立ったマルセル村の理不尽。

 

「いや~、遠かったよ、世界樹。流石東方の果て、あんな場所に歩いて向かうって無理があるわ~。

しかも目茶苦茶大きい上にそれを上回る大結界って。あの結界、グロリア辺境伯領を包むくらい大きかったんじゃないかな?とにかく意味が分からない規模だったから。

いずれにしても戦士アリシアの件はこれで終了かな。白、賢者ユージーンがある程度仕上がったらパーティーとしての連携も見てやってくれるか?

そうだな、大福チャレンジでもさせればいいと思うぞ?先ずはジェイク君たちの戦いの様子を見せてからチャレンジさせるって方向で」

 

ケビンお兄ちゃんの言葉に「そうだな、連携は大切だしな」と応える白雲さん。

草原の向こうには杖を両手で構え白玉に戦いを挑むユージーンさんの姿。

理不尽の帰還は、賢者パーティーに更なる試練を齎そうとしているのでした。

 




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