転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第486話 辺境男爵、旅立ちの儀に向かう

“トントントントン、カンカンカンカン”

城内に響く木槌を振るう音。

 

「よし、完成~。あとは御神木様の樹脂が乾けばOKでしょう。

全く俺も迂闊だったよね、最初からこっちで作業すれば問題なかったんだっての。まぁ居酒屋ケビンの件もあったし、こっちでの作業は最初から必要だったんだけどね。

でもすごいよな~、管理者権限。ちょっとした建物や地形の改造程度だったら材料さえ用意しておけば簡単に出来ちゃうって言うね、まさに箱庭世界。

まぁ箱庭って言うにはデカ過ぎる気がしなくもないけどもさ。

 

でもここって俺が死んだ後どうなるんだろう?収納の腕輪は製作者が死のうがその性能に何の影響もないし、そのまま維持される?

今はいいけど、ちゃんと生き物もいる、引き継げる存在が必要?

う~ん、そこのところ考えておかないとな~」

 

俺はぶつくさ呟きながら道具と削り滓等を収納の腕輪に仕舞っていく。

ここは<自己領域>内の秘密基地の謁見の間、どこか大工仕事をするのに邪魔にならないところはないかなって思い出したのがここだったんですね~。

この謁見の間、空間拡張機能があるみたいでちょっとした戦闘に耐えられるくらいの広さが作れちゃうんです。で、<自己領域>作製時に影空間にあった城が取り込まれた事で、城の各機能も管理者権限の支配下に入っちゃったって言うか、何となく使い方が分かるって言うか。

お陰様で便利使いさせていただいております。

 

この<自己領域>の事ってケイトはまだ知らないんだよな~。ちゃんと話しておかないと、「アナさんだけ知ってるってどういう事?」とか言って笑顔で詰め寄られちゃうからな~、歌姫モードで。

 

でもまさか旅立ちの儀を迎えて直ぐに結婚なんて事になるとは、昔の俺が聞いたらお口ポカンなんだろうな。

ケイトは一度人格が完全に壊れちゃってたから刷り込み現象的な面が大きいと思うんだけど、アナさんはエルフの里での幸せもあっただろうに。

一度は完全に諦めていた帰郷、それが不意に叶った事で考える事も多かったと思うんだけど、月影の話じゃ全く未練なんてなかったみたいなんだよね。

 

全く二人ともこんな俺のどこがそんなにいいんだか。自分で言うのもなんだけど、俺って恋愛関係からっきしよ?

人の考えは読めても相手の気持ちを察するとか無理だから、どちらかと言えば自己中心的で独善的な方だし。

あと面倒臭がり、お布団様に包まれてキャタピラーになってる時が至福だし。

 

パトさんはな~、あれは完全に勢いで言っちゃったんだと思うんだよね。

正直な話、パトさんとは今ぐらいの距離感での付き合いが一番いいって言うか、気楽と言うか。

多少危なっかしいし、心配な面もあるけど、なんやかんや言って一番世の中を知ってるし?

アナさんやケイトと違って、何とか世間と折り合いを付けて頑張ってる女性って雰囲気なんだよね。

多分だけど俺と一緒で“燃えるような恋愛”って理解出来ないタイプ、どこか冷めた自分がいるって感じなんだと思う。

 

貴族としての教育がそう言った部分を作り上げたのか元々の性格かは分からないけど、本来なら隠れていたはずの本質が様々な経験で表に出て来ちゃったんだろうね。

そんでパトさん自身それを自覚しちゃってると。

そりゃお相手にも困るか、普通の男性との結婚じゃ苦痛以外の何ものでもないんだから。

 

で、俺と。

まぁ、俺も大概だしね、相性自体は悪くないと思うよ?でももう少しよく考えてって老婆心が働いちゃうんですよ、実際。

だって俺だもん。自己評価云々別にして、ヤバヤバ物件な自覚はあるしね。

 

マルセル村に帰って来てからホーンラビット伯爵閣下に帰村報告はしたけど、パトさんには会ってないんだよね。パトさん自身色々考えるところもあると思うし、一度冷静に考えをまとめた方がいいと思うんだよね。

パトさんはそれだけ怒涛の人生を生きて来たんだから、振り返ることも大切かと。

ホーンラビット伯爵閣下にそんな事を伝えたら「やっぱりケビン君はケビン君だね。パトリシアにはそれとなく伝えておくよ」と言われたのは何故なんでしょう。

お嬢様の幸せを考えるのは家臣の務めだというのに、解せん。

まぁ単に俺が臆病者だってだけなのかもしれないけどね。

 

その点ゲーム転生賢者様は凄いよね、何も考えてないと言うかなんと言うか、よくもまぁ幌馬車に乗って世界樹様の下にあるエルフの里なんかに行こうと思ったもんだ。世界樹様って目茶苦茶遠いのよ?

それとやっぱりエルフの偽集落に連れて行かれていたって言うね。

“森の大樹の里”、世界樹様の結界内に作られた巨大テーマパーク。帰って来てからジェイク君に世界樹様やエルフの里の話を聞かれたんだけど、ツリーハウスやら樹木を取り込んだような建物の話やら、まさに普人族が夢見るエルフ住居のお話がですね~。

透かさず戦士アリシアの解説が入る入る、俺なんか完全に聞き役に回っちゃったもんな。流石“エルフの里”のキャスト、ゲストの夢は壊しません。

というか俺もそっちに行きたかった。ザ・ファンタジーの“エルフの里”、堪りません。

 

でもこの“エルフの里”の偽世界樹様、実は完全な偽物って訳でもないんですね~。あとでアマネ様に眷属なんですかって確認したら、根っこを伸ばしてそこから枝を生やしたんだとか。

高さ千五百メート、幹の直径が三百メート程(アナさん情報)。そんな巨大樹木が大結界に入った先に聳えてたら誰だって世界樹だって思いますっての。実際の世界樹様はその遥か彼方の森なんですけどね、視界的に確認できないって言うね。

完璧に計算し尽くされたテーマパーク、しかも実際に多くのエルフ住民が暮らしているって言う本格派。コッソリ戦士アリシアに聞いたら、やっぱり“森の大樹の里”の事でございました。

「魔王様に隠し立ては出来ませんがどうかご内密に」って戦士アリシア、お前もか!!

その“分かっております、決して誰にもお話しいたしません”的な眼差しは止めろ、冤罪だ!!

 

なんやかんやで戦士アリシアも賢者ユージーンの特訓に合流、ジェイク君と一緒に修行の日々をですね。

フィリーちゃんとディアさんは賢者師弟とボビー師匠の特訓ですね、マルセル村の若者たちは皆青春の汗を輝かせているのでございます。

 

――――――

 

月日は流れる。

悲鳴が奇声に変わり、若者たちの挨拶が「はい!」と「分かりました」と「ありがとうございます」に変わる頃、俺の生活にも一つの節目が訪れる事となった。

 

「ホーンラビット伯爵閣下、それでは行ってまいります。今日中には帰って来ますので、後の事をよろしくお願いします。

ザルバさん、暫く影空間でお待ちください。別邸の方で月影がお相手致しますので」

それは旅立ちの挨拶、普通であれば往復で二十日は掛かる領都への旅。

まぁそこは飛んで行きますんで問題ないんですが。

 

「うん、しかしケビン君が“旅立ちの儀”を迎えると言われても何かいまさらと言った感覚しかないのは何故なんだろうね。

普通は旅立ちの儀を迎えてから社会に飛び立つものなんだろうけど、ケビン君は既に遠くの空を飛び回っていると言うかなんと言うか」

そう言いどこか遠くを眺めるホーンラビット伯爵。これから大事な成人の儀式を行おうという若者に向かってなんて言い草、それでもこのマルセル村を守るご領主様なのか、もっと領民を大事にしろ!!

 

「それは暗に成人前の若者をこき使っていた証左では?これは失礼、少々言葉が過ぎました。

って言うかドレイク村長、俺農民に戻りたいんですけど?コッコの本格飼育がですね」

「ケビン君、何度も言うけどそれ却下で。私も昔無理やりマルセル村村長一族の婿にされた事があるが、人間諦めたからこそ見えるものもある。

私だって何故か伯爵なんて意味の分からない事になってるんだ、ケビン君一人逃げるなんて許さないからね。

 

許されるなら私だって実家のブラウン男爵家に帰って、ビッグワーム農法で野菜を育てながらのんびり暮らしたいよ、全く。

でも私にはこのマルセル村がある、背負うべき重責は心得ているつもりだよ?

 

ケビン君は今日の旅立ちの儀を以って一人前の成人と認められる。それは単に制度的なものばかりではなく、人としての責任も問われるという事を自覚して欲しい。

特に事後報告で聖茶とクッキーの使用量が増えるという事態は避ける様に。

“報告・連絡・相談”だったかな?以前ケビン君が教えてくれた言葉だね。

確かに素晴らしい言葉だけど、ケビン君が“報告”をしてくれるのは物事が終わってからだし、“連絡”ってしないよね?“相談”する時はいつも事態がとんでもない状況になる時だけってどういうことなのかな?

 

秋には家庭を持つんだ、もう少し落ち着きを持って欲しいというのは私の我が儘なのかな?」

 

う~わ、ホーンラビット伯爵閣下、ここぞとばかりに言う言う。では私もお言葉に甘えまして。

 

「そうですね、確かにホーンラビット伯爵閣下の仰る様に、私は少々どころではなく落ち着きがなかった様でございます。

これまで様々な方々のご依頼にお応えしてとはいえ、些か常識外れの行動をしていた事は今更ながら自覚しております。

これからは家庭を持つ身、家族と家のものを大事にし、このマルセル村で地に足の付いた生活を送って行きたいと思います。

 

しかし、ありがたい事でございます。家庭を持つにあたり王都中央学園で講師の仕事をしろなどと言う浮世離れをした御命令に戸惑っていたことも事実、その様な事私に出来ようはずもありませんでしたのでどうしたものかと思っていたのですよ。

 

ホーンラビット伯爵閣下からの直々のお言葉に私も決心がつきました。ここはハッキリとお断り申し上げ、マルセル村に骨を埋める覚悟で耕作に励む「ケビンく~ん、そういうところだから~!!ああ言えばこう言う、本当に勘弁して」・・・。

いえ、ですが王都に行けば絶対問題を「ケビン君なら大丈夫、きっと上手い事乗り越えてくれるはず、私は確信しているから」・・・。

 

ですがそうなりますと各高位貴族家の御子息御息女様方の私生活の事や領都高位貴族並びに大商会と呼ばれる者たち、暗殺者ギルドと呼ばれる犯罪者組織の内情についてご報告とご相談に「はいそこまで、詳細な報告はいらないから、最終結果だけ知らせてくれればいいからね?私は何も知らない辺境の田舎者伯爵。ベルツシュタイン伯爵閣下とは違うから、諜報組織の総帥じゃないから」・・・。

 

しかし我がワイルドウッド男爵家には特殊使用人部隊“月光”なるものが

「はい、いってらっしゃい、気を付けてね。領都は何があるか分からないもんね、メルビン司祭様によろしくお伝えください」・・・。

畏まりました、行ってまいります」

 

チッ、上手い事王都行きを回避しようと思ったのに。

王都の屋敷はどうするつもりだったのか?そのままうまく使いますともさ。ぬいぐるみ工房モフモフマミーに仕入れに行く移動拠点は必要ですからね、使用人の振りをして通えばバレないバレない。

 

「あっ、それとパトリシアお嬢様の件ですが、旅立ちの儀が終わりマルセル村に戻る際に、ケイトも連れて帰ろうと思っています。

ケイトにはその事もあり学園に休みの届けを出して貰っていますので。

こうした事は女性同士の話し合いも必要でしょうから、ケイトとアナスタシア、それにパトリシアお嬢様の三人でよくよく言葉を交わされた方がよろしいかと。

では失礼いたします」

 

俺はそれだけを告げると、ホーンラビット伯爵閣下の下を後にするのでした。隣の部屋でこちらの話に聞き耳を立てているパトリシアお嬢様には気が付いていないというフリをして。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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