転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第487話 辺境男爵、旅立ちの儀に向かう (2)

“カンカンカンカン、トントン、カンカンカンカン”

金槌を振るう小気味良い音色が周囲に響く。腕の良い職人の仕事はその動作一つとっても無駄がなく、故に奏でるメロディーは人々の心にスッと入り込む。

ミルガルの街の片隅にひっそりと佇む刃物工房では、工房主のフレム・ゾイルがくず鉄の塊に命を吹き込む。

その手から生み出される数々の作品は、多くの調理人、解体職人を唸らせ、今やミルガルにフレム・ゾイルありと謳われる程の確固たる地位を築き上げるに至っていた。

 

「フレム、お客さんよ」

その声は妻セシルから掛けられたもの。普段作業中の作業場には決して顔を出さないセシルの行動に、顔を上げ訝しみの視線を送るフレム。

 

「私たちの恩人がいらしたのよ。何でもこれから旅立ちの儀を受けに領都に行かれるんですって」

「あぁ、そう言えば叙爵されて男爵様におなりになられていたんだったな。だったら態々年四回の教会の儀式に合わせる事もないのか。

いかんな、俺はどうも以前の感覚が抜けていなかったらしい」

 

ピシャリと額を叩き、自らの不明を恥じるフレム。フレムは作業場の棚の木箱をテーブルに置くと、蓋を開け中から布にくるまれた剣を取り出す。

 

「これが今の俺の全て、気に入ってもらえるとよいのだが」

フレムはそう呟くと再び蓋をし、木箱を持って作業場を後にするのだった。

 

「フレムさん、朝からすみません。作業中だったでしょうに邪魔をしてしまって」

客間で待っていたのは一人の青年。フレムは青年に向かい深々と礼をすると言葉を向ける。

 

「いえ、こちらこそ長い事お待たせしてしまい申し訳ない。ケビン殿がお使いになる武器としてどの様なものが良いのか試行錯誤を繰り返してはみたのですが、どれも何かしっくりとはせず、迷走ばかりして今に至るといった状態でして。

自らの未熟と正面から向き合わせていただいた仕事となりました」

 

“ゴトッ”

テーブルに置かれたのは横長の木箱。フレムはその蓋を開けると中から布にくるまれた剣を取り出し、それを依頼人の青年へと差し出す。

 

「これは・・・」

青年は受け取った剣を繁々と眺めながら、ボツリと呟く。

 

「はい。所謂(いわゆる)ショートソードと呼ばれる物、取り回しがし易く接近戦において威力を発揮する剣となります。

ケビン殿は常々村に引き籠りたい、ゴロゴロしていたいと仰っておりますが、いざとなればその身を挺し他者を守られる御方。

であるのならば、その武器は日頃から身につける事の出来る邪魔にならないものである事が好ましい。騎士となられ今や男爵様になられた御方が身につけるには、奇抜なものよりも全ての基本となるショートソードが相応しいとの結論に達しました」

 

“スーーッ”

鞘から引き抜かれた刀身、やや青み掛かったその剣は、無骨でありながらしっかりとその存在感を主張する。

 

「折れず、曲がらず。主人を支え主人を守り抜く。共に在り続ける事だけを追求した守りの剣。これまで私が作り続けて来たただ切る事を追求したものとは真逆の発想ですが、これこそがケビン殿の求めるケビン殿に相応しい剣と愚考した次第。

お預かりした魔鉄に魔物鉄を混ぜる事で高い魔力伝導率と柔軟性、頑強さを兼ね備えた剣に仕上げる事が出来ました」

 

それは誓い、主人を守り抜くと心に決めた剣の誇り。職人がその持てる技術と魂を注ぎ込み作り上げた守護の剣は、自らの使命を明確にし、力ある存在としてその意志を示す。

人はそれを“魔剣”と呼ぶ。

 

「フレムさん、素晴らしい剣を作り上げて下さり、心からの感謝を申し上げます。

それでこの剣の名前を聞かせて欲しいのですが」

 

「守護剣“セイバー”、あらゆる厄災から全てを守り抜く、ケビン殿の守りとなる事を願い付けさせていただきました」

フレムはそう言うと恭しく頭を下げる。

青年はその武骨なショートソードに向かい「これからよろしくな」と声を掛けると鞘に納め、腰の剣帯に括り付けるのでした。

 

 

「フレムさん、セシルさん、素晴らしい剣をどうもありがとうございました。

やはりフレムさんにお願いしてよかった。これからはこのセイバーと共に、ホーンラビット伯爵家の騎士として頑張っていきたいと思います。

 

それとこれは追加の依頼となりますが、我が主ホーンラビット伯爵閣下に献上する剣を一振り打ってはいただけないでしょうか?

以前ボビー師匠に自慢されて大変悔しがっていたんですよ、それ以来何か物欲しそうな視線をね?」

 

ゾイル工房の店舗前、青年は見送りに出たゾイル夫妻に、おどけた調子で追加注文の依頼をする。フレムはそんな青年の心遣いにふと笑みを漏らしながら、快諾の返事をする。

 

「本当ですか?それは良かった。ではこれは材料となる魔物鉄のインゴットと依頼料になります。インゴットが余る様でしたらそれでナイフでも作って貰えますかね、それと剣帯もお願いします」

そう言い次々と渡されるインゴット、そしてズッシリと重い皮袋。

 

「いや、ケビン殿、これは貰い過ぎでは!?それに材料持ち込みの仕事ですし」

「ハハハハ、何を言ってるんですか、相手はお貴族様、それも今や王都でも畏れられるホーンラビット伯爵閣下ですよ?

お貴族様は見栄っ張り、贔屓(ひいき)にしている工房でドンとお金を使うのも仕事の一環ですので、お気になさらずに。

完成しましたらマルセル村の村役場宛にご一報ください、俺が取りに来ますんで。

 

それとセシルさん、よかったらこれを。ちょっと妻の実家に里帰りしましてね、そこの名産品なんですよ。

仕事で疲れたフレムさんにでも振る舞ってあげてください。

それでは俺はここで」

 

青年はそう言うと軽く地面を蹴り、まるで空中に足場でもあるかのようにトントンとリズムカルに空高く昇って行くと、「<天翔ける>」領都グルセリアに向け宙を走り抜けていくのでした。

 

「えっ、嘘!?」

そんな青年の様子を口を開けたまま呆然と眺めていたフレムは、隣にいる妻セシルの声にハッと我に返り、顔を向ける。

 

「ど、どうしたセシル。それは・・・」

セシルが驚きの声を上げた原因、それは先程青年が渡していたお土産の品。

 

「これ、世界茶って言って世界樹様の枝を挿し木の要領で増やした木々から取れる特別な茶葉で作られたお茶なの。

これって世界樹様の結界に守られたエルフの里でしか手に入らないのよ。

それにこれ」

そう言いセシルが取り出したもの、それはどこかで見た事のある一枚の木の葉。

 

「セシル、それって・・・」

フレムの呟きに無言で頷くセシル。

 

「妻の実家に里帰りって、アナスタシア様の事だったのね。そう言えば今年の秋祭りにお披露目するってアナスタシア様が嬉しそうに仰ってたし・・・。

ハハハハ、ごめんフレム、流石に色々ついて行けないみたい。今日はお休みさせてもらってもいい?」

「そ、そうだな。今のところ急ぎの仕事もないし、今日は店を閉めてどこかに食べに行こうか?」

 

ゾイル夫妻は青年が走り去っていった空に目を向け乾いた笑いを浮かべてから、店の扉に“本日休業”の看板を掛けるのでした。

 

―――――――――

 

“カッポ、カッポ、カッポ”

引き馬に引かれた馬車が重厚な門の前で足を止める。門前に立つ門番が急ぎ駆け寄り、御者に用件を伺う。

 

「ここはグロリア辺境伯領領都学園である。貴殿らのご用件をお伺いしたい」

「任務ご苦労。私はホーンラビット伯爵家騎士ケビン・ワイルドウッド男爵。当学園に在籍しているケイト・フロンティア男爵令嬢の旅立ちの儀の為、迎えに参った次第。取り次ぎ願いたい」

 

騎士ケビンの口上に、事前に連絡を受けていた門番は控えの者を校舎へと呼びに走らせる。

待つこと暫し、門番と共に現れた女生徒に礼をし出迎えを行う騎士ケビン。

 

「ケイト、旅立ちの儀おめでとう。迎えに来たよ、一緒に教会へ向かおうか。車内でザルバさんがお待ちかねだよ?」

そう言いケビンが顔を向けた先には、馬車の扉を開け礼をするメイドの姿。

 

「ん。ケビン、何かあった?凄く機嫌が良さそう」

「ん?分かる?ほら、これ見て見て。大分前にミルガルのゾイル工房に注文してあった俺専用装備。散々悩んだ挙句出来上がったのがこのショートソードなんだって。

どうよ、格好いいでしょう?

この無骨でありながら力強い佇まい、ただ実用の為だけというよりも祈りにも近い思いの込もった逸品。このまま女神様に奉納されてもおかしくないくらいの素晴らしい品でしょう?

この柄の部分なんか滑り止めの為にってちょっとケイトさん、話の途中なんですけど~~」

 

興奮した様子で楽し気に自慢の剣の説明を始めるケビンに、“ケビンは相変わらずケビンね”と思いながら馬車に乗り込むケイト。その表情はどこか微笑まし気に笑っているのだった。

 

――――――――

 

「シスター、少々よろしいか?私はケビン・ワイルドウッド男爵、本日旅立ちの儀をお願いしている者だ。

それとこちらはザルバ・フロンティア男爵とその御令嬢であるケイト・フロンティア嬢。ケイト嬢も共に旅立ちの儀を受ける事になっている。

メルビン司祭様にお取り次ぎをお願い出来るだろうか?」

 

領都グルセリアの中心地にその威容を誇る大聖堂、グロリア辺境伯領の信仰を一身に集めるその場所は、荘厳にして神聖な雰囲気を醸し出す。

そんな大聖堂前に馬車を止めたケビンたち一行は、馬車の管理をメイドに任せ、教会シスターの案内の下、大聖堂の中へと入って行くのでした。

 

「これはようこそお越しくださいました、ザルバ・フロンティア男爵、ケビン・ワイルドウッド男爵、ケイト・フロンティア嬢。

本日の旅立ちの儀、心よりお喜び申し上げます。

 

と言うかもう言葉崩していい?何かケビン相手に改まった言葉を使ってると背中がムズムズして来るんだけど。

なんか後からとんでもない厄介事を押し付けられそうで嫌なんだけど?

ってか今夜どうよ、成人を迎えたって言うんなら堂々と飲みに行けるじゃん。いい店知ってるんだわ、無論ケビンの奢りで」

 

「ダ~、このポンコツ司祭、こんな大事な日に何ぶっ込んでくれてんのよ!行く訳ないでしょうが、そういうお店はボビー師匠と行ってください!!

あっ、ケイト、本当に行かないから、これってメルビン司祭様なりの冗談だから。そうですよね、司祭様?

だからその闇属性魔力を引っ込めようか、顔が笑顔なのに目が座ってるぞ?

 

あ~、シスター様方~、いつものお土産がございますので取りに来てくださ~い。本日は目出度い旅立ちの儀ですので、小壺入りの例の物を御一人様御一つずつお渡しいたしま~す。

シスターアマンダは、・・・産休ですか。それはおめでとうございます。

安定期まではあまり外に出歩かない方がいいですもんね、どなたかお届けいただけると助かります」

 

俺はそう言うと大聖堂の長椅子に収納の腕輪からキラービー蜂蜜入りの小壺を四十個ほど取り出します。

あ、どうも。人生の節目である旅立ちの儀に来たら、責任者であるメルビン司祭様のとんでも発言で窮地に立たされ、誤魔化しの為にシスター様方に森の恵みをお配りする男、ケビン・ワイルドウッドです。

って言うかマジ止めて、ケイトさんってそういう事に厳しいの。

“他所の女性と遊ぶくらいなら私の事を構って欲しいな”って瞳をウルウルさせながら上目使いで訴えつつ、脇腹を全力で捻り上げて来るような御方なの。危険がデンジャーなの!!

 

「ハハハハハ、悪い悪い。何かケビンにはやり込められてる印象しかなくてな、ついちょっかいを出したくなっちまった。

ケイトちゃん、大丈夫だよ?

ケビンは一見遊び慣れしている風に見えて、その手の遊びに大して魅力を感じない人間だから。

キャタピラーを頭に乗せて棒を振り回してる方が楽しいって奴だから。

要するにお子様なんだよね~、ケビン君?」

「う~わ、この爺さん性格悪。言ってることは認めるけども。

趣味嗜好は人それぞれ、妖艶な女性よりダンゴムシキング、高級酒より蒸し茶。いいじゃんね~、別に誰に迷惑が掛かる訳でなし。

それよりちゃんとお願いしますよ?俺はともかくザルバさんとケイトにとっては大切な節目なんですから」

 

「それは任せておいてよ。なんと王都から人物鑑定の専門家がいらしてるんですね~これが。

って言うかケビン、王都で相当やらかしたらしいじゃないか。王家が警戒してこの機会にとことん鑑定して来て欲しいって密命を出したらしいぞ?」

「ゲッ、マジっすか?心当たりしかないから仕方がないんですけど。

でもいいんすか、そんな機密を鑑定対象に教えちゃって。あとで怒られません?」

 

「いいのいいの、グロリア辺境伯領って自治領じゃん?

一応オーランド王国の一部だけど、別にこれくらいの事しても向こうさんは何も出来ないから。

それよりここからは真面目にやろうか。

ケビン・ワイルドウッド男爵殿、ケイト・フロンティア嬢、女神様像の前にお進みになり、膝を突き祈りを捧げてください」

 

う~わ、メルビン司祭様グロリア辺境伯領教会勢力のトップだからってやりたい放題じゃん。シスターアマンダ、早く復帰して~!!

俺は苦笑いを浮かべる教会関係者の皆さんの心労に心を痛めつつ、女神様像に向かいシスターアマンダのなるべく早い復職を祈らずにはいられないのでした。

 




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