厳かな雰囲気に包まれた領都教会大聖堂。大聖堂に佇む女神様像の前では、二人の若者が膝を突き祈りを捧げる。
「“我らを見守る偉大なる女神様、本日あなた様の子が巣立ちの時を迎えました。願わくば彼の者の人生を見守り、より良いものに導かん事を”」
老司祭はそんな若者たちに優しく微笑みかけ、高らかに祝詞を上げる。
旅立ちの儀、それは子供から大人へと変わる儀式。これからは社会の一員として、一人の人間として。
多くの責任を負う一人前の人物としての旅立ち。
人生の節目、若者たちは先達の大人たちに見守られながら、人生の荒野へと旅立っていくのだ。
・・・あの~、俺はいつまで祈りを捧げていればいいんでしょうか?
やっぱり旅立ちの儀ですし、神聖な成人の儀式って事でおふざけなしで皆さんが静かになさっているのは分かりますけど、こんな物音一つしない状況で放置プレーって言うのはですね・・・。
「ケビン、顔を上げなさい」
それは美しい天上の調べ、聞く者全てに幸福感を与える奇跡の声音。
俺はゆっくりと顔を上げると、女神様像に目を向ける。
「あぁ、これは何という奇跡。まさか旅立ちの儀と言う節目に天上の御方様の
このケビン、この奇跡を終生忘れることなく、女神様を信仰し人生をつつましやかに過ごしていきたいと「あ、もうそう言うのいいから。って言うか心の底から感動に打ち震えてるんじゃない!何でケビンはそんなに器用なの。
絶対そんな事は思っていない筈なのに、天上人に清らかなる信仰を捧げるって、そんな事出来るのあんただけだから!
この理不尽の権化め」・・・」
何故か行き成り信仰の対象から信仰心を全否定されてしまいました。
どうも、公式から背信者扱いを受ける不名誉な男、ケビン・ワイルドウッドです。
って言うか何故いるし!いくら教会だからって今回お呼び立ても何もしてないんすけど?流石の俺もそこまで無茶はしないんすけど?
「だ~か~ら~、あんたは口で話しなさい、口で!心が読めるんだからいいじゃんって顔をしない!!あんたは本心と心の内を真逆に出来る変態でしょうが!
それでなんで私がこの場所にいるのかって、本当に心当たりがないの?」
あなた様からのご指摘に暫し考え込む俺氏。
「あぁ、居酒屋ケビンの件ですね。一応準備は進んでるんですけどね、こっちも色々バタついてまして、オープンは秋過ぎになりますのでよろしくお願いします。
それとそれ専用の設備を用意したんで、折角だから持って行ってください」
俺はそう言うと収納の腕輪からお城で作り上げたある品を取り出すのでした。
「え~、まだオープンしないの?本当に頼むわよマスターって何取り出しちゃってるのよ、それってあなたが作った<自己領域>の扉じゃない。
えっ、あなたまた自己領域空間を作っちゃったの!?いくら女神様がお認めになっているからってそんなにバカスカ「違います違います、これは<勝手口>です」・・・はぁ?どういうこと?」
「いや~、あれほど広大な空間じゃないですか?そこへ続く出入り口が一つだけって凄く不便だなって思いまして、スキルの可能性の追求をですね。
<自己領域>を作る時の要領で予め作製した扉に向かって俺の自己領域空間に繋ぐ事が出来るように力を注ぎ入れたんですよ。
あなた様は精霊女王や精霊王が作る<精霊の庭>ってのをご存じですかね?俺のスキル<自己領域>の基になったスキルで作られた空間なんですけど、あれって<精霊の鍵>ってものを使って任意の指定場所から扉を開く事が出来るんですよ。
この扉はその精霊の鍵で作られる任意の扉を再現したものですね。
下位互換なんで扉の準備や扉自体の素材選定が必要だったんですが、たまたま大量に高級材木が手に入りまして。
作製時に管理者権限で接続場所を指定してありますんで、メイン扉の様にどこにでも繋げる事が出来る訳じゃありませんが、居酒屋ケビンへの出入り口となっております」
俺の言葉に頭を抱えられるあなた様。散々せっつかれた居酒屋の建築とその設置場所へのアクセスポイントを用意したって言うのに、何を悩まれているんでしょうか?
「ケビン!!あなたこの扉“世界樹の枝”で作ったでしょう!!
って言うかそれよ、それ!
前に言ったわよね、高位存在に名付けするなって、魔力を大量消費する危険な行為だって!!」
「いえ、特に禁止された覚えは、存在値が離れていると大量の魔力を消費するとはお聞きしましたが。
今回は凄かったですよ、魔力の腕輪さんに貯めに貯め込んだ魔力がほぼ空になるくらいの魔力消費、正直ビビりました。
流石は世界を支えていると言われる大樹、この世で一番有名な樹木はその存在値も桁外れでしたよ」
「だから何でそんな事が出来ちゃうのよ~!!無理だから、天界の補助神様方だって無理だから。そんな事が出来るのは女神様以外にあり得ないって言われてる行為だから。
世界樹って存在はそれ程にこの世界に強く根差しているのよ、存在値だけで言えば補助神様方と同等かそれよりも上なのよ!
ケビンが名付けなんてしちゃったものだから世界樹が明確に世界に認められたの、その瞬間天界中が大きな揺れに見舞われたほどにね。
もう天界は大騒ぎよ、急ぎ原因の究明が行われて、上位者権限のもと世界樹の結界内の様子が確認されたわ。
そうしたらドラゴンの塒の掃除をする地上人が観測されたのよ!
光り輝く聖獣は空を舞うわ、地上人と合体して世界樹の剪定作業を始めるわ、聖霊樹と神聖樹の分体を呼び出して世界樹と一緒にお茶会を始めるわ、軽い調子で名付けを行うわ。
本気で勘弁して!!」
そう言いガックリと項垂れるあなた様。
そっか~、大騒ぎになっちゃってたのか~。って事は今回の顕現は正式な業務だったと。
通りで頭に響く念話じゃなくて、地上人に聞き取りやすい音声会話を行ってる訳だわ。毎回こうしてくれると助かるんだけどな~。
その点本部長様は気遣いが出来る素晴らしい御方です事。
「だから口で話せ~~!!それが嫌なら念話しろ~!!
それと今回私が音声で会話しているのは、ケビンが念話遮断の結界を張る可能性が高いからよ!
あなた夢枕通信を行おうとしたら結界で防いだでしょうが、あれ以来一切繋がらないんですけど!」
「あ~、そう言えばそんな事もありましたね~。だって寝ている最中に念話されたらね~、普通切るでしょう?だって眠いし」
「だ~か~ら~よ~!!
音声会話ならちゃんと聞くでしょうが、余計な事を考えていてもこっちには筒抜けなんだから。
地上の事象には基本不干渉、この方針自体は変わらないから今回の件でケビンをとやかく言うのは筋違いってのも分かってるけど、一言言わせて。
私の休日を返せ~!!今日まで休みなしってふざけるな~!!連勤いつまで続くんだ、この理不尽が~!!」
う~わ、あなた様、相当溜まっていらっしゃる。
上の事象は分かりませんが、相当な騒ぎになったってのは確かなんでしょう。わざとではないとは言え多くの人たちに御迷惑を掛けてしまい本当に申し訳ない。
俺は何とも言えない気持ちになりながらも、深々と頭を下げるのでした。
「まぁすでに起きてしまった事をこれ以上とやかく言っても仕方がないし、こっちもこっちで仕事に移らせてもらうわ。
前にも話したけど特異点ケビン・ワイルドウッドは要監視対象になってるの。担当の天使、“放浪の聖女”があなたの行動を逐一チェックしているわ。
今回の事態も世界樹の大結界に入ってしまって観測できなくなったあなたのことを監視していた彼女がいたからこそ、早期の原因究明にこぎつける事が出来たのよ。
私の仕事はケビンの状態の確認。どうせケビンの事だから「変な称号は見たくないでござる」とか言って<自己診断>スキルでの確認なんかしてないんでしょう?」
あなた様の言葉に思わずそっぽを向く俺氏。
だって~、称号は<辺境の勇者病仮性患者>という素晴らしい表題のお陰でバレないし?
スキルが増えても職業<田舎者>(辺境)のお陰で複合スキル<田舎暮らし>の中に統合されちゃうし?
バレないんだったら見なくってもね~。
「ハァ~、まぁいいわ。取り敢えず確認させてもらうから。
<管理者権限:ステータスオープン:モニター表示>」
“ブォン”
時の停止した大聖堂に浮かび上がる巨大なステータス画面。
俺は“そう言えばこの後の鑑定って<詳細人物鑑定>なんじゃん、嫌だわ~”とか思いつつ、中空に浮かぶ自身のステータスに目を向ける。
名前 ケビン・ワイルドウッド
年齢 十五歳
種族 人
職業 田舎者(辺境)
スキル
棒 自然人 田舎暮らし(*) 自己診断
魔法適性 無し
称号
辺境の勇者病仮性患者(*)
加護
食料神の加護
スキル詳細
<田舎暮らし>
・田舎暮らし(魔法)・・・魔力支配、影魔法、全属性魔法、生活魔法(+特殊生活魔法<創龍招来>)(New)、重力魔法、儀式魔法、幻影魔法
・田舎暮らし(戦闘)・・・刀術、体術、斧術、弓術、槍術、盾術、索敵、身体支配、空走術、ラビット格闘術(中伝)⇒(奥伝)(New)、空間把握、龍の全身鎧、浮遊、覇王の威圧、根性、ナイフ召喚、大声、引率、夜間自己再生
・田舎暮らし(生産)・・・調薬術、鍛冶、錬金術、魔道具作成、農業全般、ポーション生成、糸生成、糸操作
・田舎暮らし(生活)・・・解体、調理、清掃、建築、生存術、魔物の雇用主、送り
称号詳細
<辺境の勇者病仮性患者>
魔物の親友 食のチャレンジャー 通貨を創りし者 新薬を創りし者 生活魔法を創りし者 魔力を理解せし者 小さな賢者 大森林の住人 導く者 進化を促せし者 呪いを解きし者 厄災の討伐者 発明家 魔物を飼育せし者 辺境の隠者 森の聖者 闇に潜む者 交渉人 魂の救済者 干し肉の勇者 風神速脚 鉄壁の門番 魔境を訪れし者 恐怖を乗り越えし者 ダンジョンマスターの友 ダンジョンの盟友 天然の魔王 影の英雄 魔境の深淵に至りし者 特殊進化魔物を造りし者 聖域を造りし者 召喚術を創りし者 堕天を食い止めし者 ドラゴン亜種との契約者 精霊女王との契約者 神聖樹との契約者 神性存在を誕生させし者 ダンジョンとの契約者 伝説級装備の製作者 聖人 救世主 傍観者 聖霊樹に名を付けし者 万軍の防壁 兎仙人の友 勇者を導きし者 フェンリル種との契約者 天魔神鳥との契約者 天界に届きし者 大特異点 女神の注目 増殖の魔王討伐者(New) 冥府の使者(New) 世界樹に名を付けし者(New) 理不尽(New) 混沌の魔王(New)
「「・・・・」」
「<鑑定:特殊生活魔法<創龍招来>:名付け>」
<特殊生活魔法<創龍招来>>
龍を呼ぶ、龍が飛ぶ。その様は人の心を強く引き付ける。
<名付け>
名前を付ける事が出来る。存在値の違いを選ばない。
「・・・さて、仕事も終わった事だし私は帰るわね」
「そうですね、お疲れ様でしたってちょっと待って、お願い。
なんか種族が、種族が~~~!!
普人族の“普”と“族”が行方不明なんですけど~~~!!(?)が消えたのはいいんだけど、ステータスさんが諦めちゃったんですけど~~~!!」
俺はあなた様にしがみ付いて懇願します。お願い、僕を助けて?
あなた様はそんな憐れな地上人を慈愛の籠った瞳で見詰め、「勝手に話を捏造するな~!!ウルウルした瞳で見上げられても、ステータスの観測結果は変わらないから、今まで普人族って観測されてた方がおかしいから、“ケビン族”にならなかっただけよかったと思いなさい!」・・・現実は甘くなかった様でございます。
「はぁ、仕方がないっすね、ここは一つ引き籠りになるって事で。異端審問会に掛けられでもしたら堪ったものじゃないですもんね」
「ん?そんな事もないんじゃない?
ケビンが普人族じゃないって分かった方が納得する人たちが多いと思うわよ?
あなた少しは自分の行いを自覚しなさいね、あなたの普通は目茶苦茶非常識なんですから。
それと忘れている様だから言っておくけど、神の加護が付いてる者は教会から迫害される事はないからね。神の加護は女神様の意志、それを害する者は天界より粛正されるってのは常識だから。
加護持ちが殺人なんかの犯罪を犯したり加護があるからと周りの者を害する場合は加護が取り上げられるけど、そうでない場合はその者が神の認める者っていう証明になるのよ。
つまりケビンが教会勢力より害される心配はないって事。
オーランド王国がどう動くかは分からないけど、しばらく様子を見るくらいでいいんじゃないの?」
・・・目から鱗とはまさにこの事。実は私《わたくし》、食料神様からのお墨付きの事をすっかり忘れておりました。
凄いな神の加護、過去の教会勢力に対する天使の粛正ってよっぽどだったのね。
「ブフッ、でもケビン、遂にステータスにも<理不尽>って認められちゃったのね。しかも<混沌の魔王>って。
なんかピッタリ過ぎてツッコミも入れられないんですけど?
それじゃ扉は貰っていくわね、オープンする時は教えて頂戴」
そう言い扉を収納してから光の粒子となって消えていくあなた様・・・。
黒鴉先生、あなた様の痕跡を全部吸っちゃって!!
俺は急ぎ収納の腕輪から魔剣黒鴉を取り出し、神気やらなにやらの痕跡を消し去るのでした。
って言うか公式<理不尽>ってなんなのよ!俺は魔王じゃないっての~~~!!
俺は女神様像の前に跪き祈りを捧げつつ、行き場のない感情にただ身もだえるのでした。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora