転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第490話 辺境男爵、旅立ちの儀の終了を報告する

「はい、ではこちらが薬師ギルドの正規会員ギルドカードとなります。ケビン・ワイルドウッド男爵様の今後のご活躍をお祈りしております」

「どうもありがとう。師匠ミランダ様の教えを胸に、精進していきたいと思う」

 

グロリア辺境伯領の領都グルセリアにある薬師ギルドグルセリア支部。無事に旅立ちの儀を終えた俺氏、早速とばかりに薬師ギルド正規会員への更新手続きにですね。

既にポーションは提出済みですからね、後は旅立ちの儀が終わった事を証明する教会発行の鑑定書を提出するだけなんですね~。

各ギルド提出用の簡易鑑定書は鑑定士様にサクサクっと作って貰いましたしね、何の憂いもありませんともさ。

 

えっ、あの後特に問題なかったのか?

ある訳ないじゃないですか。メルビン司祭様にはお気持ちをお包みいたしましたし、鑑定士や書士は秘密厳守ですし?

一応御心づけをお渡しする事で後の事をお願いしておきましたけど、こればかりはね~。

騒動にならない事を祈るしかないと言いますか。騒ぐ奴はどこにでもいるからな~、対症療法的に事に当たるしかないっていうね。

 

懸念としては二つ。俺の情報を知った教会勢力と王家の動向。

教会には普人族以外の存在を疎ましく思う勢力が一定数存在しますから。エルフ族のほとんどが授けの儀を受けていない一番の理由がそこなんですけどね。

そんな連中にとって他種族、それも種族変化を起こした普人族なんて言ったら嫌悪の対象になっても不思議じゃない。

中には研究対象として見る輩がいるかもしれないですしね。

女神様信仰の教会勢力は各国で分れているとはいえ、大きな枠組みとしては一つの勢力ですからね。過去、女神様のご意向を笠に好き勝手して天使様方の大粛清を受けて以降、各国に教皇を置き、それぞれが独立した組織として活動する事になったとか。

大粛清前には教皇の命令とか言って世界各国の聖女を一か所に集めて、寄進の多寡で聖女派遣を決めていたって事もやっていたらしいですからね。

聖女は強制的に教会所属にされていたって事もあったらしいですし、そりゃ女神様激おこですわ。

 

でもいまだに教会独自の武力集団“異端審問会”なるものがあったりするんですね~。

基本的には女神様の方針に反する特定職業や特定スキル所有者の強制労働及び隷属強要などの取り締まりを行っているんですけどね、他にも色々と。

呪術系犯罪者集団の撲滅やら魔王出現の監視やら、女神様の世界をお守りするという名目のもとに信念を燃え上がらせちゃっているとかなんとか。

 

・・・うちは違うからな!犯罪者組織でも魔王でもないからな!!

でもまぁホーンラビット伯爵家は目立ち過ぎましたから。粗探しに余念のないお貴族様方なら、俺の種族問題をボルグ教国の異端審問会にご注進とかしそうなんだよな~。

オーランド王国内に関しては聖水布の一件もあるんで教皇様も無碍にはしないと思うけど、念の為メルビン司祭様にお願いしたって訳です。

 

それと王家ですけどね、ホーンラビット伯爵家を疎ましく思っている人間は当然多いはず、俺なんか直接喧嘩を売ってますしね。

ベルツシュタイン伯爵閣下辺りは「やっぱりね」くらいの反応だと思うけど、他がどう動くか。

大福の多頭ヒドラの件やまるで地龍みたいな緑や黄色、グラスウルフ隊やホーンラビットたちの話はガーネットたちから詳細が伝わってるだろうし、魔の森に棲むブー太郎やクマ親子の件もあるしね。

それら全てを使役する種族<人>のケビン君、覇気と魔力で王家にすら脅しをかける無頼漢。

・・・うん、魔王認定待ったなしだね。オークの魔王様の再来だね。

 

普人族は自分たちにとって不利益となる者を悪と断じて排斥する。

エルフたちを苛烈とも呼べる戦いで守り続けたダークエルフしかり、弱者を守り続けたオークの戦士然り。

ダークエルフは冒険者ギルドの討伐対象となり、オークの戦士は魔王として剣の勇者に討伐されるに至った。

では辺境の田舎男爵は?

 

“勇者の誕生、これは世界の敵、魔王の出現を予見してのものなのでは?

女神様のご意思の下、辺境の魔王を討伐するのだ~!!”

そんな事を言い出す王族や貴族がいてもおかしくない。

マルセル村は魔王領扱いされ、村人は皆魔王幹部?

“お前たちは魔王に騙されていたのだ、我が旗のもと剣を取れ、さもなくば魔王配下の者とみなすが如何に!”

などという事を言い出す奴も。

 

いずれにしても、勇者ジェイクを筆頭にした勇者軍が攻め込んでくる未来は確定的?

そうさせない為にベルツシュタイン伯爵閣下に丸投げするんですが。

 

まぁ攻め込まれたところでどうという事もないんですけどね、こと魔王って扱いになると世界中から阿呆が志を胸にやって来るからな~。

正直面倒。

そうなったら御神木様にお願いしてホーンラビット伯爵領全域を結界で覆っちゃう?アマネ様の所みたいに大きく囲っちゃえばバレないバレない。

自己領域にお引越って手もあるけど、あっちはな~、完全に別世界だから。流石に気が引けます。

 

・・・作っちゃう?偽魔王城。魔境の深淵、例の聖域洞窟を改造してですね、いかにも魔王城って感じの場所をですね~。

そんでもって魔王城までの誘導路を作っておけば無問題、マルセル村は魔王城に最も近い村とかなんとか。

観光の新たな名所?にはならないか~。

まぁそんな事にならないのが一番なんですが。

 

教会での旅立ちの儀は鑑定騒ぎの後粛々と執り行われ、シスター様に豪華な布地に包まれたお気持ち(男爵家価格)をお渡しし終了。

皆様方に見送られつつ(キラービー蜂蜜入りの小壺を配った事が効いてます)、薬師ギルドに向かい正規会員への更新手続きを行って現在といったところです。

 

薬師ギルドでは種族云々は言われなかったですね、鑑定書もパッと内容を確認して直ぐに返却してもらいましたし。

その辺はお貴族様パワーって奴ですかね。

 

「ザルバさん、ケイト、お待たせしました。

それじゃすぐにマルセル村に向かいます。ケイトと俺の鑑定結果については、ホーンラビット伯爵閣下にご報告しながら確認しましょうか」

 

俺の言葉に頷きで応える両者。俺は二人を乗せた馬車を裏路地から影空間に仕舞い、そのままマルセル村に飛んで帰るのでした。

 

―――――――

 

「ホーンラビット伯爵閣下。騎士ケビン並びに執事ザルバ、ケイトの三名、無事に旅立ちの儀を終了し帰村いたしました」

 

物が減り、執務机と整理棚だけが置かれた閑散とした執務室で書類作業を行っていたホーンラビット伯爵閣下に帰村報告を行う俺たち旅立ちの儀一行、そんな俺たちに「やっぱりケビン君の移動方法はとんでもないよね」と独り言を呟くホーンラビット伯爵閣下。

現在ホーンラビット伯爵家はお引越しの真っ最中なんですね~。

村門から入ってしばらく進んだ場所、元村長宅である村役場の側に建設していたホーンラビット伯爵家本邸が遂に完成いたしまして、メイド様方総出で引っ越し作業を行っているところなのでございます。

 

本来なら村人も手を貸さないといけないのですが、現在マルセル村は夏の収穫期、皆さん忙し過ぎてそれどころじゃないんですね~。

ですので我が家から特殊使用人部隊“月光”が合流、マジックバッグをフルに活用しての人海戦術で、作業に当たっていると言う訳なのでございます。

 

「ザルバ、ご苦労様。ケビン君、ケイトちゃん、旅立ちの儀の無事な終了、おめでとう。

君たちはこれから一人前の大人として扱われる事となる。

全ては自己責任となり、自身の判断で物事を決めなければならないという事だね。

私はホーンラビット伯爵領の領主として、君たちをマルセル村の責任ある大人の一人とすることを歓迎しよう。

 

今は見ての通り引越しの最中でね、物もなく閑散としていて申し訳ないが、詳しい報告を聞きたい」

 

ホーンラビット伯爵閣下の祝いの言葉を聞いた俺は、「それでしたら」と収納の腕輪から品の良い長テーブルと揃いの椅子を四脚取り出しセットすると、小皿に盛り付けた各種クッキーと聖茶を注ぎ入れたティーカップを各人の席の前に並べて行くのでした。

 

「・・・ケビン君、今日は旅立ちの儀に行ってきたんだよね?

特に何事もなく終了して戻って来たんじゃなかったのかな?

お茶とクッキーが必要な事態という事なのかな?」

「ハハハ、何を仰いますか。教会での旅立ちの儀は恙無(つつがな)く終了いたしましたよ?

こちらが私の鑑定結果となります。どうぞお確かめください」

 

俺はそう言い懐から封筒を取り出し、ホーンラビット伯爵閣下に差し出します。そんな俺の様子に、ザルバさんも「こちら、ケイトの鑑定結果となります」と言って、ケイトの鑑定書が入った封筒を差し出すのでした。

 

<鑑定書>

名前 ケイト・フロンティア

年齢 十五歳

種族 普人族

職業 闇魔導師

スキル

魔力支配(New) 飢餓耐性 歌唱 杖術(New) 魔闘術(New)

魔法適性

称号

理不尽の思い人

 

「うん、ケイトちゃんは学園で相当に頑張ったようだね。これまでなかった武術系スキルが二つも増えている。

これは大森林に最も近いと言われるマルセル村ではぜひとも持っていたいスキルだからね。

それとこの<魔力支配>は所謂統合系スキルと言う奴かな?

確か以前は沢山の魔法系スキルがあったと思うんだけど」

 

「ん。鑑定士の方がとても驚いていた。<魔力支配>はとても珍しいスキル、統合前のスキルと統合後のスキルを見れた事は非常に貴重な情報とか言っていた。

前の私のスキルに何が加わった事でこの統合系スキルが発現したのか、研究が進めば統合系スキルの解明に一歩近づけるとか何とか。

そして私はケビン(理不尽)の思い人」

 

ホーンラビット伯爵の言葉に胸を張って応えるケイト。まぁ答えは<無詠唱>なんですけどね、ここは黙っておくのが吉でしょう。

それと称号の理不尽を“ケビン”と訳すのは止めよう。そこは言わぬが花って事で。

 

「ハハハハ、そうか~、ケビン君(理不尽)の思いは称号になっちゃうくらいのものなんだね、おめでとう。

それでケビン君の方だね」

 

そう言い俺の鑑定書に目を移すホーンラビット伯爵閣下。

うわ~、このお方も一緒になって人の事を。いいもんいいもん、俺の称号欄は隠しちゃってるからバレないもん。

 

<鑑定書>

名前 ケビン・ワイルドウッド

年齢 十五歳

種族 人

職業 田舎者(辺境)

スキル

棒 自然人 田舎暮らし(*)自己診断

魔法適性 無し

 

称号 

辺境の勇者病仮性患者(*)

 

加護

食料神の加護

 

「うん、相変わらず何故このステータスなのかがよく分からない鑑定結果だね。あれだけ魔法をバンバン使えるのに魔力適性はないし、魔法スキルもないし。

変わったところといえばこの<食料神の加護>かな?加護持ちはとても貴重だからね。

 

ケイトちゃんには加護が無かったみたいだけど、それが普通だから気にしちゃいけないよ?

ケビン君の場合、ビッグワーム干し肉やビッグワーム農法、ホーンラビット牧場や甘木樹園、近い所ではコッコ飼育場とマルセル村の食糧改革に取り組み続けてるからね。

その結果マルセル村ばかりかグロリア辺境伯領、北西部南西部貴族連合の各領地の食糧事情が急速に改善し始めている。

この功績は非常に大きいんだよ、食料神様の加護を授けられても何ら不思議はないんだ。

 

でも本当にどうしてこのステータスでケビン君はケビン君出来るんだろうね~」

 

そう言い腕組みをされるホーンラビット伯爵閣下。

 

「あぁ、それは複合スキル<田舎暮らし>のお陰ですかね。

<詳細鑑定>によりこの複合スキルには・田舎暮らし(魔法)・田舎暮らし(戦闘)・田舎暮らし(生産)・田舎暮らし(生活)が含まれている事が分かりました。

そうした所謂隠れスキルが何らかの影響を与えているものかと」

 

俺の言葉に「ほう、なるほど」と納得されるホーンラビット伯爵閣下。

 

「それでは以上を持ちまして旅立ちの儀の報告を終わらせていただきま「すまないケビン君。少々気になったんだが、行きの行程と帰りの行程で掛った時間が相当に違ったみたいなんだが、あれは何かあったのかな?」・・・」

うん、ザルバさんの疑いの眼差しが辛い。

 

「えっと、行きは途中ミルガルのゾイル工房に立ち寄って注文していた剣を受け取っていたため少々遅くなったと言いますか、それでも十分早く領都に到着できたと思っていたのですが」

そう言い剣帯に下げていたショートソードを取り外す俺氏。

ホーンラビット伯爵閣下は「失礼するよ」と言いその剣を鞘から引き抜きます。

それは刀身が青み掛かった武骨な一振り。これまでのゾイル工房の刀剣類の様な妖しい魅力はないものの、何故かその美しさに心惹かれる、そんな剣。

 

「守護剣“セイバー”、あらゆる厄災から全てを守り抜く、そんな思いが込められた一振りです」

俺はホーンラビット伯爵閣下から剣を受け取ると、再び剣帯に吊るしその場を「ケビン、一つ聞きたい。どうやって人間辞めたの?」

 

「って辞めてないから、俺ちゃんと人だから」

「ん、“人”。でも普人族違う、これって種族進化?

ケビンって魔物だった?」

 

「違うから~~~~。せめて「魂の位が上がったの?」とか言って。

「エルフとハイエルフの違いみたいなもの?」とか、もう少し言い様がね?

んで結論から言えばよく分かりません。魔力量が馬鹿みたいに増えた影響か、いろんなやらかしの結果かその両方か。

人に言えるものから言えないものまで、原因の心当たりは多種多様にございますのでなんとも。

少なくとも魔物ではございません、“人”です」

 

「ん。よく分からないって事が分かった、つまりいつも通り、何の問題もない」

そう言い口を閉じるケイト。流石ケイト、物事の本質が分かっておられる。

ホーンラビット伯爵閣下とザルバさんは・・・聖茶のお代わりですか、直ぐにお入れします。

 

「あ、ケイト。パトリシアお嬢様から婚姻の申し込みがあった。

アナさんとケイトの二人と秋に結婚するって話をしたら慌てちゃったみたいで急にね。

ケイトがマルセル村に帰ってきたら話し合いを持つって事にしておいたけど、どうする?

ケイトとアナさんが嫌だって言うんならはっきりお断りしてもいいと思ってるんだけど」

「ん、そこはケビンがどう思っているかって・・・ごめん。ケビンはそういった感情が分からない人種だった。

了解、師匠とパトリシアお嬢様の三人でよくよく話し合ってみる。ケビンはその決定に従うって事でいい?」

 

「グッ、酷い言われようだけど否定できない。ケイトさんにはお手数をお掛けします」

「ん。ケビンはすべて私に任せるがいい。私はケビンの妻、ケイト・ワイルドウッド」

そういい胸を張ってドヤ顔をするケイトさん。ケイトさん、後の事、よろしくお願いします。

俺はパトリシアお嬢様の事をケイトにお願いし、未だぶつくさ言っているホーンラビット伯爵家の偉い人たちの対処に当たるのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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