転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第493話 辺境の剣客、鬼人族の里を訪れる

時は少々遡る。それはジェイクとエミリーが授けの儀で勇者と聖女の職を授かり、その報告の為にホーンラビット伯爵とケビンが王都に向かい旅立った頃。

暗黒大陸においてはジミーが龍人族の里での修行を終え、次なる目的地に向かい太郎の背に跨り森林地帯を突き進んでいた。

 

「太郎、先ずは南へ。情報によれば鬼人族はデイレン連山の麓に暮らす民族だとか。デイレン連山付近に着いたら人里を探し、詳しい情報を集めて行こう」

 

ここ暗黒大陸において詳しい地図というものは存在しない。それは暗黒大陸自体強力な魔物跋扈する特級危険地帯であり、村や都市がいつ消えてもおかしくないという事情もあるが、暗黒大陸に住む者たちは基本エイジアン大陸から逃れて来た者たちであり、自分たちの居場所が特定される事を嫌うからであった。

だがそんな暗黒大陸を百年の月日を掛け統一し、一つの国とした者がいた。それが現在の魔国国王である魔王アブソリュートである。

そんなアブソリュートの働き掛けもあり正確ではないもののどの民族がどの地域に住んでいるのかといった情報は纏められ、地図らしきもの、民族分布図といったものは作られてはいる。

それは冒険者ギルドに行く事で閲覧できるため、冒険者たちはその情報を基に数々の依頼を熟しているのであった。

 

その気配は森を移動して三日目に感じる事が出来た。場所はデイレン連山が見え始めるかどうかといった地点、太郎の足であれば後一日もあれば目的地に到着するであろうと言った場所。

 

「どうも付けられている、これは監視されていると言った感じか?

太郎、相手との接触を図る。身体を小さくして待機してくれ」

 

ジミーの言葉に大型犬サイズに大きさを変える太郎。

ジミーは収納の腕輪から愛用の木刀を取り出すと、腰脇に持ち、膝を曲げ構えを取る。

 

「魔剣術、<衝波一閃>」

“バババッ”

それは抜刀術にも似た剣技、振り抜かれた木刀は魔力の(やいば)を生み、目標目掛け(くう)を飛ぶ。

 

“ガサガサガサ”

木々の合間に響く物音、飛び込んだ斬撃によりその正体を晒した者たちが、直刀を構え姿を現す。

 

「さて、いかような理由で俺を追い回すのか。

正体を隠す黒ずくめの装束、特徴的な刀と呼ばれる刃物、そして何よりその額に伸びる角。

鬼人族の者たちとお見受けするが如何に」

 

「如何にも。我らは鬼人族の忍びの里の者。貴殿こそいかような理由で我らの領域に足を踏み入れたのか」

 

互いの間に流れる緊張、鬼人族の戦士たちの直刀を握る手に力が入る。

 

「俺の名はジミー、武勇者である。デイレン連山の麓にシノビと呼ばれる人々が暮らす鬼人族の里があると伺い参った次第。

是非とも一手ご指南願いたい」

そう言い木刀を腰脇に戻し、深々と礼をするジミー。その姿に戦士たちの間から若干の安堵の息が漏れる。

 

武勇者、それは己を高め武の道に生きる者たち。その行動理念は“ただ強くなりたい”、その一点。

たとえそれが銀貨一枚の仕事であろうとも、その場所に心躍らせるような強敵が待っているのなら、喜び勇んで地獄に飛び込むような者たち、それが武勇者なのである。

彼らにとって地位や名声、ましてや金銭などどうでもよい。眠りたければ地面に横になればいい、腹が空けば魔物を倒して喰らえばいい。

欲するのは己の戦闘欲求を満たしてくれる敵、それも自身が負けるかもしれない程の強敵であれば尚素晴らしい。

敵を倒し、敵を喰らう。それはただ己が目指す頂に上るために。

 

黒ずくめの者たちは刀を納め礼で返す。それは武勇者がこの強大な魔物蔓延る暗黒大陸において一角の剣客として認められている証左。

彼らの無私の献身が、多くの民を救い、多大な成果を残してきたが故に。

 

「これは知らぬ事とは言え失礼した。武勇者殿が我が里の話を聞き尋ねられたという事は、我が里が強者に認められたと同義。

里長(さとおさ)に報告し、武勇者殿の滞在許可を確認するとしよう。御同道をお願い出来るかな」

「是非も無し、よろしく頼む」

 

ジミーの言葉に音もなくその場を離れる鬼人族の戦士たち。ジミーはそんな彼らの技量の高さに深い笑みを浮かべ、彼らが去って行った気配を追い掛ける様に森林地帯を駆け抜けていくのだった。

 

―――――――

 

「才蔵、首尾はどうなっておるか」

「ハッ、“呪縛呪操の呪詛”は確実に霊亀の身体に染み渡っているものかと。あとはその御霊を刈り取る事で“口寄せの呪獣”が完成します」

 

板の間の簡素な部屋で配下の報告を聞いていた壮年の男性は、順調に進む計画に口角を上げる。

 

「して、巫女の一族の生き残りはどうしている?」

「はい。里の外縁警備の為、下忍長と共に出掛けております。霊亀の贄としては些か分不相応ではありますが、途中までを里の上忍に行わせ最後の仕上げを任せるのであれば何の支障もないかと。

霊亀討伐における呪詛返しは巫女が一身に引き受けますので、“口寄せの呪獣”は何の憂いもなく使用できるものかと」

 

「クックックックックッ、邪魔な巫女の一族を始末して十年、いよいよ我らがこの暗黒大陸に力を示す時が来たか。

才蔵、お主にも存分に働いて貰う。期待しているぞ?」

「ハッ、お任せを」

 

“シュパッ”

音もなくその場から消える才蔵に、相変わらず良い腕をしていると満足げに口元を緩める男性。

 

「失礼いたします。御屋形様、ご報告がございます」

それは廊下から聞こえる声。御屋形様と呼ばれた男性は、「構わん、入れ」と言葉を掛け入室を促す。

 

「ハッ、失礼いたします。ご報告申し上げます。

先程里の外縁部の森に侵入者の気配があり、確認に向かったところジミーと名乗る武勇者である事が判明いたしました。

武勇者ジミーは里での武術修行を望んでおりますが、いかが取り計らいましょうか?」

 

「ほう、武勇者であるか」

武勇者、それはどの様な魔物相手にもひるまず立ち向かうある種の狂人。

御屋形様と呼ばれた男性は考える、この者は使えるのではないか?と。

 

「よし、分かった。儂が直接会って話を聞こう。

その者の実力如何では里の滞在と修行を認めよう」

「ハッ、ではその様に取り計らいます」

報告者は直ぐにその場を下がり、御屋形様と武勇者ジミーとの謁見準備を行いに向かう。

その場に残った男性は、“何とも都合がいい物だ”と苦笑交じりに部屋を後にするのだった。

 

―――――――

 

“カンッ、カンカンカンカンッ”

訓練場に響く打撃音。撃ち合う木刀は、その激しい戦いを彩る様に戦闘のメロディーを奏でる。

 

「火遁<爆炎弾>」

手元で何やらハンドサインのような事を行っていた者が、まるで魔法の<ファイヤーボール>のような物を作り出す。だがその数はただの<ファイヤーボール>とは大きく違い、次々と撃ち出される火球が目標目掛け襲い掛かる。

 

「水遁<水壁>」

だがその全ては突如出現した水の壁に吸い込まれ、敢え無く消滅していく。

技の間に生まれたわずかな隙、それを見逃す程相手は甘くない。

 

「火遁<炎槍「させない」“ドカッ”・・・」

“ドサッ”

 

「そこまで。勝者、ジミー」

審判を務めていた者から告げられる判定。

 

「ありがとうございました。和葉、立てるか?」

ジミーから伸ばされた右手、地面に倒れていた者は悔し気に表情を歪めながらも、その手を取り立ち上がる。

 

「何故だ、何故こうもジミーに負けるのだ!

私はこれでも里の十指に入る実力者なんだぞ!」

「イヤイヤイヤ、それって下忍の中ではじゃん、上忍を含めたら五十番くらいじゃん」

 

呆れ交じりに応えるジミーに、「そんな現実を突き付けるな~!!」と叫び声を上げる和葉。

 

「いや、実際ジミーの成長速度はすさまじいからな?普通に上忍様方に勝つって意味が分からないからな?」

口を挟んで来たのは審判を務めていた下忍長。結果から見ればジミーの圧勝に見えるこの勝負も、下忍長から見れば脅威的な事であったからである。

和葉の実力は決して低くない。実力的には下忍隊をまとめる下忍長の一人に数えられてもおかしくない実力を有している。

だがそんな和葉をして相手にもならない程の実力を、里に来て僅か三月で身に付けたジミーが異常なのだ。

 

「ジミー殿、和葉、御屋形様がお呼びだ。会議の間に向かってくれ」

それは不意の呼び出し、御屋形様とは日頃顔を合わせる事の無い忍びの里のトップであり、部外者であるジミーは里に来た初日に顔を合わせて以来の事であった。

 

「武勇者ジミー殿、よくぞ参った。これより先はこの忍びの里の醜聞ともなる話故他言無用に願いたい」

会議の間には忍びの里の重鎮である上忍が集まり、これから語られる話が忍びの里にとっても非常に重要な内容である事を物語っていた。

 

「これは今から十年ほど前の事になる。我が里には古くから守護聖獣と呼ばれる霊亀を祀り崇める風習があった。

この霊亀はこの里が出来る遥か以前よりデイレン連山に棲み、周囲一帯を縄張りとしていた魔獣であった。力ある魔獣は霊亀を恐れ近寄らず、故にこの忍びの里は長い年月平和な暮らしを維持し、繁栄を遂げる事が出来た。

だがその霊亀が突如牙を剝いた。犠牲になったのは代々霊亀を祀る巫女を務めていた一族の者たち、そこの和葉の肉親たちであった。

 

狂った霊亀の牙はこの忍びの里にも向かうところであった、だがそれを押し止め、デイレン連山に封じ込めたのもまた彼らであった」

 

御屋形様の言葉に俯き、悔し気に歯を食いしばる和葉。ジミーはそんな和葉の様子に目を向けるも、御屋形様に話の続きを促した。

 

「霊亀は強大な力を持つ魔獣だ、その力を押し止め続ける事など出来ようはずもない。それは巫女の一族が命懸けで張った結界であっても同じ事、この十年、よくぞその役目を果たしてくれたと言ってもいい。

そして先日、デイレン連山の結界が遂にその役目を終えた。我々は再びあの魔獣に立ち向かわねばならない。

武勇者ジミー殿、どうか力を貸して欲しい」

 

そう言い頭を下げる御屋形様。上忍である重鎮たちも一様に頭を垂れる。

 

「御屋形様、そして皆様方、頭をお上げください。私ジミーは武勇者です。そこに強大な敵がいるというのなら立ち向かう、それが武勇者、私に否やはありません。

ただ私はその霊亀をしりません。それがどういった魔獣であるのかも知らない。

事が里の存亡にかかわる以上、無策に戦いに挑むは無謀を通り越して害悪でしかない。これは外部の者に話す事の出来ない事であるとは承知の上でお教え願いたい。霊亀という魔獣がどう言った存在であるのかを」

 

そこに強大な敵がいる、ならば挑まずして何が武勇者か。

だがその為に里の者を危険に晒すなど下の下、確実な勝利を得る為の策を弄するは必定。

ジミーはその場に集まった上忍たちの話をよくよく聞き、絶対の覚悟を持って事に当たるのであった。

 

―――――――

 

それはいつの事であっただろう。

 

“おっ、中々良い型の亀じゃん。こいつなら実験に持ってこいかな?

眷属作製による新たな種族の創造、く~、燃えるよね。

やっぱり形を以って受け継がれてこそのロマンだよね、一代限りの最強ってのも捨てがたいんだけど、そんなの誰だってやるじゃん?

丁度いい塩梅ってのが難しいんだよ。

そこで亀君にはその調整に付き合っていただこうかと。直ぐに殺したりはしないから、これは丁度いいってところの見極めだから”

 

掛けられた声は、日々を安穏と過ごすだけだった私の生活を激変させるものであった。

 

“う~ん、この亀さんでこの程度って事になると、脆弱な人族だったら百分の一程度?その辺は何回かやってみてって感じかな。

でも無理やりは良くないしね、一応拒否権は設けないと恨まれちゃうからね。

じゃあね亀さん、ご協力ありがとうございました。

一応眷属って事にはなっちゃうけど、自由に生活してくれて構わないから。

僕は君に干渉なんかしないからね、バイバイ~♪”

 

今でもはっきり覚えているその言葉、私は強大な存在により力を与えられ、永の生を得る事となった。

 

あれからどれ程の月日が経ったのか、森の魔獣に襲われる事もなく、日々のんびりと生を送る。

気が向けば草を食み、水を飲む。強大な存在により変化した身体は、水や食料がなくとも支障なく生きていけるものとなったが、日々の変化、娯楽としての食事は楽しいものであった。

 

「霊亀様、どうか我々にこの地に住まう許可をいただけないでしょうか?」

それはこの地にやって来た小さき者たち。私は特に多くを必要としている訳ではない。住みたければ好きにすればいい。

私は小さき者の願いを受け入れ、彼らは森に里を築いた。

 

「霊亀様、一体何を!?」

それは突然の事であった。身体が、心が、その自由を奪われて行く感覚。湧き起こる殺意、衝動的に小さき者を踏み潰し、多くを殺戮していく自分。

分からない、何が起きているのか、どうして自分は暴れているのか。

私は巣に引き籠り他者との接触を断つ事とした。

相手がいなければあの訳の分からない衝動が起きる事もない。

 

そうして巣に引き籠もってどれくらいの月日が経ったか。近頃は物を考えるのも困難になって来た。

このまま私は死んでしまうのか、それもまた運命なのか。

 

あの者が現れたのは、私がそんな事を思い始めた頃であった。

 




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