転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第496話 転生勇者、転生賢者の旅立ちを見送る

“ドガドガドガ”

夏の風が緑の草原を吹き抜ける。揺れる草花は水面(みなも)のように波立ち、まるで広大な海原のような光景を作り出す。

そんな草原から響く何かの衝突音、それは若者たちの激しい掛け声と共に、周囲一帯へと広がって行く。

 

「アリシアは魔術攻撃を仕掛けつつ奴の注意を引き付けて、マリアーヌは障壁を展開、尻尾攻撃を防いで。

“大いなる神よ、火よ、土よ。我が両手に集まり互いに交じり合え”、大きいの行きます、<火山弾>!!」

 

“ドドドドドドドドドドッ”

撃ち出された力は灼熱に燃える岩石の塊。二つの属性を持つ<火山弾>は、弾かれる事なく敵の頭部を打ち砕く。

 

「アリシア、尻尾来ます!!」

聖女マリアーヌの掛け声に、透かさず後方へ下がる戦士アリシア。

 

“ドガーーン”

横薙ぎに振るわれた尻尾、だがその全ては聖女マリアーヌの魔力障壁により受け止められる。

 

「そこまで。賢者ユージーン、聖女マリアーヌ、戦士アリシア、見事な連携だった。

大福本体ヒドラ三つ首討伐おめでとう。君たちは無事マルセル村の試練を潜り抜けた」

 

“““パチパチパチパチパチパチ”””

祝福の拍手が草原に鳴り響く。

大福本体ヒドラ、それは質量と衝撃を伴った本物の恐怖との戦い。そんな強敵との戦いを制した賢者パーティーの者たちに送られる拍手は、心からの賞賛。

自身がその恐怖を乗り越えて来たジェイクやエミリー、フィリーやディアにとって、僅か一月の間に三つ首にまで到達した賢者パーティーの力は驚愕以外の何ものでもなかった。

 

「賢者ユージーン、聖女マリアーヌ、戦士アリシア、大福本体ヒドラ三つ首討伐、本当におめでとう。

特に賢者ユージーンの成長は目覚ましいものがあったと白雲から聞いている。これから先様々な困難があるかもしれないけど、君たちなら大丈夫。

不安になったらマルセル村での訓練を思い出して欲しい、きっと乗り越えられると思うから」

 

そう言葉を掛けるのはマルセル村の青年、ケビン・ワイルドウッド男爵。

 

「ケビンさん、これまで本当にありがとう。

俺は今までここまで自身を追い込むような訓練なんかしたことが無かった。きっとどうにかなる、そんな甘えが心のどこかにあった。自身に宿った魔法の才能に驕っていた、自分は特別な存在だと思い込んでいたのかもしれない。

でもそれは違ったんだ、俺は世界を知った気でいるだけの勇者病<仮性>患者に過ぎなかったって事をよくよく教えて貰ったよ。

 

白雲先生、白玉師匠、大福師匠、残月師匠、ジェイク君、エミリーちゃん、フィリーちゃん、ディアさん、これまで本当にありがとうございました」

 

そう言い深々と頭を下げる賢者パーティーの面々に、祝福の笑みを向ける周囲の者たち。

 

「頭を上げてくれ、賢者ユージーン。君たちは共に修業した者たち、すでにマルセル村の仲間だ。

そんな君たちに俺からちょっとした贈り物を渡そう」

 

そう言いケビンが収納の腕輪から取り出したもの、それは黒く染められた木製の武器。

 

「戦士アリシアには木剣、聖女マリアーヌには魔法杖、賢者ユージーンには長杖。君たちは自らの力で“魔纏い”を習得した才気溢れる者たち、その力を手に持つ武器に流し込む事も容易だろう。

それらの品は魔力伝導率に大変優れていてね、魔力を流し込むことで非常に優れた武器になるはずだ。

ただ最初の内は少量ずつ、慣れるにしたがってその量を増やしていくといった形で徐々に身体に馴染ませるといい」

 

最初渡された品に戸惑いの表情を見せた賢者パーティーの面々。だが言われた様に軽く魔力を流し込むと、その魔力の通りの良さに目を見開く。

 

「・・・あの、魔お・・ケビン様、これは・・・」

戦士アリシアは額から冷たい汗を流しながら、質問の言葉を口にする。

 

「ん?あぁ、最近ちょっと高級材木を手にする機会があってね、折角だから使わせてもらった。

エルフ族の戦士アリシアにはよく馴染むはずだ、大事に使ってやってくれ。

ジェイク君やエミリーお嬢様たちを見ていれば分かると思うが、たとえ木刀であろうとも魔力で強化すれば岩をも砕くし魔物だって切り裂く。その鋭さは魔力操作次第でいくらでも変えられる。

この一月の間君たちの学んで来た技術はある意味基礎にして奥義、これからも研鑽を欠かさず遥かな高みを目指して欲しい。

その為にはよい道具による訓練も必要だろう。だが道具に頼り過ぎることなく己の技術を磨く事を忘れないで欲しい。

 

それと戦士アリシアの質問の対する答えだが、大正解だ。

対策として目立たない塗装を施してあるからそうそうそれらの品が注目される事もないと思うが、バレたとしてもそれがどうしたと胸を張れるくらいに強くなれ。

マジックバッグに仕舞い込んで隠すのも一つの手だが、一度使い込めばおそらく手放せなくなると思うぞ?

それ程に素晴らしい品に仕上がった自負はあるからな」

 

そういい胸を張るケビン・ワイルドウッド男爵に、“やっぱりこの人は魔王だ!!”と盛大に叫びたい気持ちをグッと堪える戦士アリシア。

 

「シルビア師匠から例の品が出来上がったとの連絡が入っている。既に物はガーネットの手に渡っている。

賢者パーティーの皆には王都にあるベルツシュタイン伯爵邸までの護衛依頼を頼みたい。これはホーンラビット伯爵家よりの正式な依頼となる。

また王都に到着以降はベルツシュタイン伯爵閣下の指示に従って欲しい。内容が内容だけにしばらく時間が掛かるとは思うが、確実に国王陛下の下に渡ることを約束しよう。

我がホーンラビット伯爵家は既にそれ程の力を示しているのでな。

 

はい、と言う訳で難しい話はここまで。出発は明日になるからその前に今渡した長杖と魔法杖、それと木剣の簡単な使い方の説明をするよ~。<広域多重結界>

賢者ユージーン、その長杖を構えて草原の向こう側にファイヤーボールを撃ってもらえる?」

 

突然言葉を崩しラフな雰囲気になるケビンに、周囲の者一同が“あぁ、飽きちゃったんだな”と思う中、賢者ユージーンが言われた通り長杖を構える。

 

「<ファイヤーボール>」

“バシュッ、チュッドーーーーーーーン”

障壁にぶつかり盛大な爆発を引き起こす火属性()()魔法<ファイヤーボール>。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

「うん、あんなもんかな。それじゃ聖女マリアーヌはあの焼け焦げた草原に向かって<ヒール>を唱えてくれる?」

 

聖女マリアーヌは半ば放心状態になりながらも、言われたように魔法杖を構え、「<ヒール>」と魔法名を唱える。

“パ~~~~~ッ、ワサワサワサ”

 

すると焼け焦げた地面には、短いながらも若葉を伸ばした草たちが顔を見せる。

 

「流石に根まで焼かれちゃった草は戻らないけどね、思ったよりも効果があるでしょう?ちょっとした<エリアヒール>並みの威力にはなってると思うよ。

それじゃ最後に戦士アリシア、武技スキルで<スラッシュ>ってのがあるでしょ?ちょっとやってみようか」

 

“スッ、「<スラッシュ>」ズバシュンッ”

毒を食らわば皿まで。ほとんどヤケクソ気味に放たれた戦士アリシアの<スラッシュ>は、大きな飛ぶ斬撃を作り出し、草原の障壁目掛けて飛んで行くのであった。

 

「これってそれぞれの戦闘スタイルに合わせて形を整えてあるだけで要は木製武器だから、魔法杖にもなれば杖にもなるし、剣にもなる。戦士アリシアは相手と対峙しながら魔術を使う触媒にもなるし、聖女マリアーヌは接近してきた敵を魔法杖に纏った魔力の(やいば)で切り裂く事も出来る。

要は発想と工夫、俺は三人の活躍を期待しているよ」

 

そう言い悪戯が成功した子供のように笑うケビンに、乾いた笑いしか浮かばない一同なのでありました。

 

――――――――

 

「それではホーンラビット伯爵閣下、行って参ります。リンダ、後の事は任せます」

 

翌日早朝、畑仕事を終えた俺たちは、ホーンラビット伯爵家新本邸の前に集まり、ユージーンさんたち賢者パーティーの見送りを行っていた。

 

「ホーンラビット伯爵閣下、何から何まで本当にありがとうございました。俺たちはこのマルセル村で教わった教えを胸に、これから世界を旅する冒険者として頑張って行きたいと思います」

 

これまでの前世の記憶に振り回されていたユージーンさんはもういない。今回のエリクサー騒動を最後に本当の意味で世界に羽ばたく事を決心した賢者パーティーの三人。

王都での用件が済んだ後どこへ行くのかって聞いたら、冒険者の国セルベア冒険王国に向かうと言っていた。

あの国ってどんな国だったっけ?全く覚えてないや。って言うか本編に絡んでたっけ?名前だけは何とか知ってるから、魔王襲来関連で絡んだとか?

どっちにしてもゲームのストーリー絡みの行動じゃないことは確かだろう。多分だけどゲームじゃ出来なかった行動をしてみたいとか言う事なんだろうか?

うん、まだまだ完全にゲームから離れられてる訳じゃないのね。これって“三つ子の魂百まで”って奴なのかな?いつかこの世界の人間ユージーンとして地に足の着いた生活が出来る事をお祈り申し上げます。

 

でもゲームとか関係なく地に足の付かない生活をしているケビンお兄ちゃんって一体。

勇者病<仮性>重症患者ケビンお兄ちゃん、その深淵は果たしてどれほどのものなのか。

昨日なんか木製武器を渡された賢者パーティーが魂飛んでたもんな~。よく一晩で復活したよな、ユージーンさんたち本当に強くなったよ、精神的に。

 

あの武器ってボビー師匠やヘンリー師匠が使ってる物と同等レベルの品だよね?王都のオークションで白金貨が飛び交う品だよね?

太っ腹というかなんと言うか、相変わらずケビンお兄ちゃんはケビンお兄ちゃんだったという事で。

 

「ジェイク君、色々とありがとう。白雲先生の修行で身も心もボロボロになった俺が今こうして笑っていられるのは共にあの地獄を過ごしたジェイク君の励ましがあったからだと思う。

これはそんなジェイク君に言うのはあれだけど、決して挫けないで。これから先、ジェイク君には様々な困難が待ち受けてると思う。でも君なら必ず乗り越えられると思う。

ジェイク君は俺の知るどのキャラクターよりも強く逞しかった。

俺なんかが余計な手出しをする必要が無いと思えるほどにね。

俺はこの世界に生まれたユージーンとして仲間と共に精一杯生きて行く、世界の事をよろしくお願いします」

 

それはユージーンさんなりの宣言。この世界の一人の人間として生きて行く事の誓い、そして自身の思いを託す願い。

 

「うん、ユージーンさんの言葉はよく分からないけど言いたい事は何となくわかるよ。

俺も世界を股に掛ける冒険者としていずれ旅立つつもりだし、そうしたらいつかどこかの国でまた会えるかもしれないしね。

それと世界の事は俺がどうこうしなくてもどうにかなると思うよ?

この村にはそれを片手間に行えそうな人物がごろごろいるしね、その筆頭が一番(たち)が悪いんだけど」

 

俺はそう言いケビンお兄ちゃんの方に目を向けます。ユージーンさんは同じくケビンお兄ちゃんに目を向け、乾いた笑いを浮かべながら「あんな無茶苦茶な存在がいたら、運営にクレームが殺到だろうな」と呟くのでした。

 

“ガチャガチャガチャ”

幌馬車は進む、護衛対象のガーネットさんを乗せ、一路王都バルセンに向かって。

御者台には賢者ユージーンが座り、荷台には聖女マリアーヌとやや強面の女剣士アリシアさんがガーネットさんを挟んで座り込む。

アリシアさん、エルフの顔を隠し、歴戦の女剣士を装う事にしたそうです。そして何故か銀級冒険者カードもお持ちでした。

蛇の道は蛇、色々と裏ルートがあるとの事。詳しくは聞かないでおきましょう。

 

「行っちゃったね」

「あぁ、俺たちもいずれああやって世界に旅立っていくんだな。

ジミーの奴は既に旅立ってるんだけどね。

でもあいつ今頃どうしてるんだろう、修行そっちのけでモテモテハーレムを築いていたら後が怖いんだけど」

 

俺は暗黒大陸に渡った親友の事を思い出し、祈るような思いで不安を口にする。天然ジゴロジミー、絶対無自覚に女の子を引っ掛けまくってると思うんだよな~。

 

「大丈夫じゃないかな?ジミー君ってヘンリー師匠の性格をまるっと引き継いでる様な修羅だし、きれいな女性よりも強い敵って感じだし。

それにケビンお兄ちゃんみたいに押しに弱いヘタレじゃないし?

パトリシアお姉ちゃんが言ってたよ、「遂に私は難攻不落の城を落とした!!」って。右手を高らかに掲げながら「我が生涯に一片の悔いなし」とかなんとか。

なんかやり切ったって顔をしてた」

 

「えっ、パトリシアお嬢様、遂にケビンお兄ちゃんを捕まえたの?散々のらりくらりと誤魔化してたのに、とうとう追い込まれちゃったんだ~。

ケビンお兄ちゃんて不思議なくらい自己評価が低いから、相手から迫られると嫌って言えないんだよね。

でもそうなるとお嫁さんが三人になるの?パトリシアお嬢様とアナさんとケイトさん。ケビンお兄ちゃん大丈夫?俺だったら無理なんだけど、ハーレムなんて物語の世界だから楽しめるんであって、実際問題気苦労で胃薬を常備する羽目になるんじゃないの?

ホーンラビット伯爵閣下はその点凄いと思うんだけど」

 

「そうだよね、ジェイク君にハーレムは無理だよね。大丈夫、ジェイク君はエミリーが守ってあげる。エミリーにお任せだよ♪」

そう言いにこやかな笑顔を向けるエミリーに、「お願いします、エミリーさん」と頭を下げる俺なのでした。

 

そんな俺たちの光景を見ながら、ケビンお兄ちゃんと白雲さんが「「アレって絶対エミリーちゃんに調教されちゃってるよな」」と話しているとは露知らずに。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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