「ここに来るのは一年ぶりか。ゼノビアさんたちは元気にしているかな」
そこは魔都中心街にほど近い一軒の屋敷、魔都総合コロシアムでの魔都総合武術大会予選会を無事通過したジミーは、辻魔狼車に乗りこの場所にやって来ていた。
「貴様、何者だ。ここを魔王軍四天王“絶剣のゼノビア”様の御屋敷と知っての訪れであろうな?」
魔狼車を降り久方ぶりに見る屋敷の様子に正門前で感慨に浸っているジミーに対し、訝し気な視線を向け誰何する門兵。
「あぁ、これは失礼。俺の名はジミー、武勇者だ。
以前この御屋敷で世話になっていたものでな、メルルーシェ様にお取次ぎ願えないだろうか?
魔都に戻ってきた際は必ず顔を出すようにと申し付かっていたのでな」
そう言うジミーの言葉に未だ不審がるも、確認を怠ることは門兵としてあり得ない行為。また相手は武勇者と名乗っている、武勇者とは強者の証であり、そうした者を魔王軍騎士兵団の参謀であるメルルーシェ様が抱え込んでいても何ら不思議はない。
門兵が急ぎ屋敷内に連絡を入れると幸いジミーの事を覚えていた屋敷執事と連絡が取れ、執事による人物確認の後、ジミーは無事に屋敷内へ入る事が出来たのであった。
「ジミー殿、お久し振りです。何かすっかり雰囲気が変わられて。こう野性味が増したと言いますか凄みが増したと言いますか、武勇者として相当に武功を積まれたことが一目で分かりますよ。
魔都にもいくつか報告が上がって来ています、七部族棟梁パルム一族族長エルデン・パルム殿、フログ草原域獣狼族族長フーガ殿、マンジャローグ山の龍人族里長テール殿。それぞれが名の知れた有力者であるにもかかわらず、皆ジミー殿を褒め称える言葉を贈って来ております。
しかし龍人族の拳闘大会で勝利を収めるって、ジミー殿は一体何をやってるんですか。あの里にはバンドリアという魔都でも名の知れた強者がいたはずなんですが?空将“豪炎のジーグバルト”に次ぐ実力者と噂される程の人物だったと思うのですが?
ジミー殿は剣術の修行に来られたのではなかったのですか?」
そう言いこめかみを揉むメルルーシェに、「いや~、色々ありまして」と頭を掻きながら言葉を返すジミー。
「まぁいいです、無事に戻って来てくれたのならそれで。ケビン殿にもよくよく頼まれていましたので、心配していたんですよ。
それでこの時期に帰って来たという事は、ジミー殿も魔都総合武術大会に参加されるという事でしょうか?」
「はい、既に受け付けは済ませて来ました。予選会も無事突破しましたので」
ジミーはそう言い懐から本選参加証を取り出しメルルーシェに手渡す。
「はぁ、まぁジミー殿であれば予選通過くらい当然でしょうが、こうもあっさり本選参加証を見せられると自分の中の常識が。
この屋敷の者も数多く参加していますが、予選を無事通過した者は数名なんですよ?それを一発通過って、本当にマルセル村の方々は無茶苦茶ですね」
魔都総合武術大会は魔国の者にとっての憧れ、暗黒大陸中から腕に覚えのある者たちが集まり己が技量を競い合う一大イベント。
予選通過どころか予備審査を突破できる者ですら稀であり、何年掛かっても本選に出場出来ないというのが普通なのである。
「ところで龍人族のバンドリアがどうしているのかって知っていますか?
アイツ大分前に魔都入りしたと聞いてるんですが」
「あぁ、バンドリアさんでしたら闘技会に参加していると聞いています。この魔都ではほぼ毎日のように闘技会が開かれていますからね、特に武術大会が近付くと大会参加者が腕試しとして闘技会に参戦されるんですよ。
連戦連勝、今回の大会の優勝者最有力候補と目されています。
他にも獣狼族のジグルド、クルン、巨人族のドーバン、武勇者シルフィード、ダレリアンといった有名どころが続々と集まって来ています。
今大会はこれまでになく白熱するのではと評判で、魔都中が大いに盛り上がっているんですよ」
メルルーシェの言葉にそんなものがあったのかと目を見開くジミー。
それならば自分も参加せねばと意気込むも、「残念ながら明日からは武術大会直前ですので闘技会は開催されませんよ?」との知らせにガックリと落ち込むジミーなのでありました。
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「うん、来たね~、暗黒大陸の中心地、魔都。普人族、獣人族、龍人族にあれはリビングデッド?なんか凄いな、魔都。流石は魔王様が治める国だけあるわ」
「ブホッ、兄弟子、あっちでオーガがオークと酒飲んでるぞ?その隣にオーガ並みにガタイのいい普人族がいるんだが、あれがテイマーなのか?
暗黒大陸のテイマーヤバくないか?」
エイジアン大陸からはじめて魔都を訪れた者は一様に思う事がある、“この地は一体どうなっているのだ”と。
人種の坩堝という言葉がある。様々な国の様々な民族が集まる地、商業ギルド総本部の置かれるドルメキアン商業国や冒険者ギルド総本部のあるセルベア冒険王国などは比較的そう言った傾向が見られる土地であろうか。
だが魔都は多種多様な民族ばかりでなく、種族からして違う者たちが共に暮らす異形の地。
交通には魔狼車やロックタートル貨物車が使われ、空の便としてワイバーンやグリフォンが飛び交う。人型魔獣であるオークやオーガ、リザードマンが買い物をし、テイマーと共に談笑する。
スケルトンの兵士が衛兵として巡回し、赤目に牙を生やした上官が指示を出す。
「へ~、アレって死霊術じゃないわね。あのスケルトンたち、種族として確立してるみたいよ?野生のスケルトンを引き入れたって事かしら、だとすると相当高位の死霊か何かが上司にいるって事?
以前ケビンが言っていたリッチエンペラークラスが魔王軍に加わっているって事は確実ね」
魔国の首都、魔都。そこは人種と魔物が混在するこの世界の新たな形なのであった。
「って言うかケビンさん、何で俺までこんな所にいるんですか。ここって暗黒大陸じゃないですか、超危険地帯じゃないですか。
俺畑の収穫で忙しいんすけど?」
そんな魔都の一角で完全なお上りさんといった風に陽気な会話をする一つの集団。
どうも、エイジアン大陸の田舎者、マルセル村のケビン・ワイルドウッドです。
やってまいりました暗黒大陸、スゲーな暗黒大陸。暗黒大陸の様子は太郎からの<業務連絡>である程度知ってはいたんだけど、聞くのと見るのとでは大違いと言いますか、ちょっと想像の埒外?
これ、エイジアン大陸の人間が見たら発狂するんじゃね?教会関係者辺りなら“女神様に対する背信行為だ~”とか言って十字軍よろしく攻め込んで来たりしない?
でもやってる事って規模が大きいだけのマルセル村なんだよな~。
ヤバいな~、うちも攻め込まれちゃうのかな~。いざとなったら御神木様に第二結界領域でも張ってもらって、マルセル村に対して害意を持つ者の侵入を阻害して貰うってのもいいかもね。
俺でも出来そうだけど、その辺は要実験かな?
「ん?いやだって、ここって魔国じゃん?魔国と言えば魔王様じゃん?
魔王様と言えば勇者、だったら勇者ブー太郎様の出番かと」
「うわ~、この人鬼畜だよ、嫌ですからね俺。
なんですか皆さん、その子供のようなワクワクとした目は。勇者対魔王の決戦が見たいって、どう考えても犯罪者じゃないですか、これだけ安定した国にちょっかい掛けるって、悪者以外の何ものでもないじゃないですか、ただの暗殺者じゃないですか!!」
うん、流石勇者ブー太郎、その本質をよく理解していらっしゃる。
そうなんですよね~、魔王城に攻め込む勇者パーティーって単なるテロリスト集団なんですよね~。
“私たちは神の意志を伝える戦士である、これは聖戦である”
在りし日の記憶にもそんな連中の話(実話)があったな~、民族の解放やら何やら。そんで訳の分からないところを爆発させたり?注目を浴びれば世界の人々が我々の正当な話を聞いてくれるって、爆発事件起こしている段階で駄目じゃんって思ったもん。
その点勇者様方は戦争している相手の本拠地に突っ込むだけだから特殊作戦部隊扱い?でも勇者物語でオークの魔王様と戦った剣の勇者様の行為って、完全な殺戮だよね?
やっぱ国家権力って怖いわ~。
「まぁまぁ、そんなに怒らない怒らない。今回は単純にジミーの活躍を見に来ただけだから。本当ならジェイク君たちも連れて来てあげたいところだけど、流石に暗黒大陸に連れ出すのはね~。
その点白やブー太郎は何の心配もないし?賢者様方はエリクサー作製のお礼ですかね、異国の文化に触れることは知識欲の塊であるお二方にとって、良い刺激になるかと」
「そうね、私はエイジアン大陸から出た事が無いからすごく楽しみよ?」
「私もそうですね、魔法の勇者様は主にエイジアン大陸西方地域を旅されていましたんで、暗黒大陸の事はほとんど知らないんですよ」
大賢者シルビアさん、賢者イザベルさん共に初めての暗黒大陸にワクワクなさっておられるご様子。
「まぁなんにしてもお金が必要です。ここは外国、オーランド王国通貨は使えませんからね。
という訳で冒険者ギルドに行きましょうか。太郎の報告だとギルド会員じゃなくても魔物の素材買取はしてくれているみたいですんで」
俺はそう言うと道行く人に冒険者ギルドの場所を聞きながら、皆を連れて魔物素材の換金に向かうのでした。
「え~~~~、大会チケットってもう手に入らないんですか~!?」
冒険者ギルドで魔物素材(魔境産)を大量に持ち込んだ俺氏、解体所に案内してくれた受付嬢と査定を行う解体所職員さん方に盛大に驚かれつつ、受け付けロビーで大人しく査定結果が出るのを待っていたんですけどね。
「はい、魔都総合武術大会は毎年大変人気を博している大会でして、観覧チケットの入手がとても困難と言われているんですよ。私も残念ながら抽選に外れてしまって当日は仕事なんです。
当選していたら休みを取って見に行くつもりだったんですけどね」
そう言い大きなため息を漏らす受付嬢に、これ以上何も言えなくなる俺氏。
「それと会場周辺で「チケットあるよ~」とか言ってる人間は全部詐欺ですから、大会期間中は暗黒大陸中から多くの観光客がやって来るんで、こうした詐欺行為が後を絶たないんですよ。
買ったはいいけど美術館の入館チケットだったり去年の大会チケットだったり。
衛兵も取り締まりを強化してはいるんですが、一向になくならないんです」
ハハハ、もう乾いた笑いしか出ません。因みにいつでも便利な暗殺者ギルドについて聞いてみたら、暗黒大陸に暗殺者ギルドはないんだそうです。
文句があるなら自己解決、修羅の国の住人に暗殺者など不要って事ですね、分かります。
犯罪者は普通にいるものの、へたに組織立って目立つ活動をすると、腕試しとか言って武勇者に叩き潰されちゃうんだとか。
そう言えばジミーも武勇者とかになって各地の紛争に首を突っ込んでたな~。(遠い目)
「分かりました、では買取りだけ「オイオイオイ、どこのどいつだよサンダーディアなんて大物を持ち込んだ命知らずは」・・・あちらは?」
「はい、ウチの副ギルド長のウインダムになります。副ギルド長、サンダーディアはこちらのケビン様が買取りに持ち込まれた品です」
受付嬢の言葉に、喜色を浮かべながらやって来る副ギルド長。なんか嫌な予感がビンビンなんですけど?
「ほほ~、あんたがあのサンダーディアを。外傷がなく頭部の一撃、中々良い腕をしているじゃねえか。
ところでそんなお前さんに頼みたい仕事が「俺はギルド会員じゃないんですみませんが」・・・報酬は弾む「今回の買取で結構稼ぎましたんで」・・・他にはそうだな。武術大会の観覧「そこのところ詳しく!!」お、おう。
冒険者ギルドは魔都における主要組織だからな、当然武術大会にも関係者観覧席が用意されている。そこでこの依頼を受けてくれたら「五席です。大会期間中の観覧席を五席用意してくれたら引き受けましょう」そ、そうか。引き受けてくれるならありがたい。
相手は大型のレッサードラゴン、確認されているだけで十体。レビアンヌ森林地帯で魔力だまりの反応が確認されてな、そこで大量発生しているらしい。
依頼内容はレビアンヌ森林地帯の凶暴化した魔獣の駆除、具体的には周辺のレッサードラゴンの駆除となる。期限は二十日だが、大会が始まるのは三日後だしな。最悪来年分の観覧席チケットを「受付嬢さん、場所の確認を宜しいでしょうか?魔都の北に真っ直ぐ行ったところですね。
ジーニス村が最寄りの集落なんですか、分かりました。
白、査定結果を聞いたらすべて買取りで、買取報酬はお前が受け取っておいてくれ」・・・って行っちまったよ」
副ギルド長ウインダムは嵐のように去って行った青年に、呆れ気味に肩を竦める。
「副ギルド長、いいんですか?ジーニス村までだって馬車で三日は掛かるんですよ?これって完全に詐欺の手口じゃないですか」
「馬~鹿、何処が詐欺だ何処が。俺は討伐条件と期限を提示し、向こうはそれを承知で引き受けた。何もおかしなことは言ってないだろうが。
場所だってきっちり確認して出掛けたんだ、互いに問題ないって事だろう?
ただ討伐に時間が掛かっちまうのは致し方がないって話だ、まぁ俺も鬼じゃないからな、来年分のチケットはちゃんと確保してやるさ。今回の依頼は魔王軍からのものだからな、それぐらいの融通は利くってもんだ」
そう言い副ギルド長執務室に戻って行くウインダム。だが彼は知らない、自身が依頼した相手がただの優秀な冒険者などではないという事を。
その日の夕方、きっちり依頼を熟したケビンが、四十八体の大型レッサードラゴンと六十二体の大型ブラックウルフを持ち込み「ついでに魔力溜まりも消しておきましたんで」と報告してくるという事を。
魔都総合武術大会観覧チケット五席を用意する為に、大会関係者に頭を下げまくらなければならなくなるという事を。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora