転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第50話 転生勇者、村の剣聖に認められる

静まり返った訓練場、刺す様な緊張が辺りを支配する。

 

“ジャッ”

俺は無言で飛び出す。

敵の気を引き付ける時や自らを鼓舞せんとする場合は大声を出す事もあるだろうが、それは相手に自らの存在を知らしめる行為。相手の呼吸の合間を縫うような高度な戦術が要求されるこの場で、それは悪手。

敵は絶対的な格上、我らは挑戦者、力業が通用するような甘い相手ではない。

 

“ガシン、ガキン、バッ”

刹那の攻防、相手は格上、俺の踏み込みに合わせて飛び出したエミリーによる追撃も流れるような動きで受け流す。だがそんな事はすでに織り込み済みだ。

 

「無魔法剣術二の型、“土石流”!」

“ドガドガドガドガドガドガドガドガ!”

全てはこの避け様のない連撃に繋げる為の布石、そして。

 

“パンパンッ”

「一本、勝負あり。勝者、チビッ子軍団」

「「「ワァ~~~~!!」」」

広がる声援、打ち鳴らされる拍手、俺たちは遂にやったのだ。子供たちは修練の末、村の守護神ボビー師匠(魔纏い無しのハンデ付き)に一撃を入れる事に成功したのだった。

 

「うむ、見事である。ジミー、ジェイク、エミリー、お主らの連携、敵を引き付けてからの奇襲、全てにおいて非の打ち所がない素晴らしい攻撃であった。この試験をもってお主らを村の剣士と認めよう。

以降ホーンラビット討伐の重要な戦力として参加する事を認める。ドレイク村長代理、よろしいですかな?」

 

「はい、ジミー君、ジェイク君、エミリーちゃん、大変すばらしい戦いでした。

皆さんは“下町の剣聖”と謳われたボビー師匠に一撃を与えた、これは誇っていい事なんですよ?少なくともこれまでボビー師匠に教えを受けた若者が師匠に一本を入れた事など一度も無かったのですから。

これほどの腕なら安心してホーンラビットの間引きをお任せできるでしょう。ただ相手は魔物、何が起こるか分かりません。狩りの際は十分気を付ける事、約束してくれますか?」

 

「「「はい、ありがとうございます、ボビー師匠、ドレイク村長代理」」」

姿勢を正し、深々と礼をする俺たち。そんな俺たちの姿を優しい笑みで見守る村の大人たち。

そう、これは村の春のお祭りの余興、これから始まる農繁期を前に無事に冬を乗り越えたことを祝うお祭りでの一場面なのであった。

 

毎年この時期に行われる春のお祭りだが、今年はとっても豪華。なんと言ってもビッグワームの干し肉と乾燥野菜のお陰で、ドレイク村長代理の大容量マジックバッグの中の食糧が節約出来た事が大きい。春一番にホーンラビットの干し肉が食べれるなんて夢のようである。

ボビー師匠にもお褒めの言葉を頂いたし、今年は春から縁起が良くないか?なんか行ける気がする!

隣を見るとこちらに頷きを返すジミーとエミリー、思いは一つ、この調子で宿敵デカスライムの大福もズタンズタンのギッタンギッタンにしてやる!!

「「「応ー!!」」」

高らかに手を揚げ、決意を新たにするチビッ子軍団なのでした。

 

 

「何かうちの子強過ぎないか?」

今日は春祭りの日、今年も無事冬を乗り切り生き残った事を祝うと共に、作物の豊作を祈願する大切な日。場所はボビー師匠の訓練場、以前は健康広場など無かったため、村の中でも広く人の集まれるここが毎年祭りの会場になっている。

訓練場の魔の森側には簡単な祭壇が作られ、ドレイク村長代理の音頭の下、森から魔物が溢れない様に、村に厄災が降りかからない様にと祈りを捧げる。

例年であればこの後簡単な食事をして解散の流れになっていたのだが、ビッグワーム農法を始めたお陰で昨年から村の食糧事情が劇的に改善、料理や酒が振る舞われる本格的な“祭り”へと発展した。

ドレイク村長代理の“春の挨拶から生き残れてよかったねっていう言葉を無くす”という強い思いが実現した結果である。

 

以前村のお年寄りに聞いた話では、ドレイク村長代理が村長職に就くまでは凍死や餓死は珍しい事ではなかったとか。その話を聞いた時には当時すでにでっぷりと太っていた村長代理にどれほど感謝した事か。自分が辺境の寒村生活を嘗めていたことを痛感させられた思い出である。

それでも寒村であることには変わらず、冬場の食糧事情は厳しいものであった。

 

「お父さん、見ててくれた?僕たち遂にボビー師匠に一撃入れる事が出来たよ。ボビー師匠がお前たちはもう一人前だって言ってくれたんだ、凄く嬉しかった。

まだまだ教わりたい事は沢山あるけど、これからは村の一員として頑張るね」

そう言い笑顔を向ける息子ジェイク。以前は気が付かなかったが、すっかり肉付きが良く精悍になった今の姿を見ると、やはり食べ物が足りていなかったのだろう。

 

冒険者に成り立ての奴にはよくガリガリのチビや貧乏そうな格好をした奴が目に付く。元々町暮らしだった俺はそんな彼らをどこか馬鹿にした風に見ていたが、実際辺境の村に住んでみてわかる、彼らは必至に生き抜いてあの場所に辿り着いただけだったのだと。どんな汚れ仕事も積極的に行う彼らは、ただ生き残る事に必死だっただけなのだと。

当時一度だけヘンリーの奴と本気で喧嘩した事があったが、奴が言っていた“生きる事を嘗めるな”という言葉の意味を、このマルセル村に来て初めて理解出来たのだと思う。

 

この笑顔の息子を見て思う、彼はこれからどこまでも強く大きく世界に羽ばたいていくのだと。彼は辺境の厳しさも、己の力の無さも、魔物の強さも知っている。

彼の赤い髪をくしゃくしゃっと撫でる。すると何かくすぐったいような嬉しそうな表情で笑う彼。俺はこの子の父親として今後何をしてやれるのだろう。

 

「トーマス、大丈夫よ、あなたは立派に父親の役目を果たしているわ。だってこの子がこんなにもいい子に育っているんですもの、もっと自信を持っていいのよ?」

隣の妻マリアにそう諭される。母は強し、惚れた弱み、俺は一生コイツに頭が上がらないな。

 

「良いかジェイク、さっきドレイク村長代理も言っていたが、ボビー師匠は現役冒険者時代“下町の剣聖”と呼ばれるほどの剣の達人だったんだ。ボビー師匠の授かった職業はありふれた剣士というものだったが、あの人は努力と創意工夫で白金級冒険者にまで上り詰めた凄い人なんだ。事実剣聖の職業持ちと互角に渡り合う剣技の持ち主なんだよ。そんな人物に認められたことは誇っていい事なんだぞ?

 

まぁ、ボビー師匠自身はそんな肩書きが煩わしくってこんな辺境に引き籠ってしまったけど、その教えを受けたお前たちが弱いなんて事は決してないんだ、これからも胸を張って精進しなさい」

 

「うん、分かった、いつかスライムやビッグワームにも負けない立派な冒険者になって見せるよ!あ、エミリーが呼んでるから僕行って来るね、お父さんありがとう!」

そう言い笑顔で走り去っていくジェイク。

 

「えっと、何でそこでスライムやビッグワーム?お~い、ジェイクく~ん、お父さんの話伝わってる?君たちはもの凄く強いんだよ?現役時代のお父さんでも負けちゃうくらい強いと思うよ?なんか目標が目茶苦茶低いんですけど?」

 

「トーマス、それは仕方が無いわよ、あの子たちの言うスライムやビッグワームってケビン君の所の子たちだから」

「あ~、ダンジョンボスたちの事ね」

 

若かりし頃に向かった事のあるダンジョン都市、そこのダンジョンボスよりも遥かに強いケビン君の魔物たち。あれに勝つ気なのか~。

そう言えば前にボビー師匠が大福に完敗してたっけな~、あの時のボビー師匠の黄昏た顔は一生忘れられないだろうな~

下町の剣聖と謳われた元白金級冒険者ボビー師匠、そのボビー師匠の教えを受けダンジョンボスよりも強い魔物たちに日々鍛え上げられている子供たち。彼らは一体どこまで行くんだろうか。

三人で元気にはしゃぐ子供たちを、何か眩しいものでも見るかのように目を細めながら見詰める父トーマス。

 

「ねぇトーマス、何か格好付けてるところ悪いんだけど、何でもありだったらこの村の最強はケビン君らしいわよ?」

あ、うん、知ってる。でもその事は言わないで、考えない様にしてるんだから。

男の繊細な心を平気で叩き潰す妻マリア、女性には決して勝てない。世界の真理を改めて思い知らされた父トーマスなのでありました。

 

 

―――――――――――――――

 

ちびっ子たちめっちゃ強い。

えっ?君たち今何歳だっけ?今年九歳になる?そっか~、まだまだ伸び盛りなんだ~、凄いな~。

・・・えっとどこの特殊部隊?ボビー師匠は一体何を目指してるの?ここの訓練場って村を出る子供たちが世間に出ても困らない様にってのが目的だったよね?最強の戦士を育成する養成所じゃないよね?俺の認識間違ってないよね?

ボビー師匠は魔纏いを使わないって言うハンデを背負ってる?イヤイヤイヤ、十分マジだったじゃないですか、やる気満々だったじゃないですか。

あのボビー師匠から一本を取るって、よっぽどよ?普段どれだけ修練を積んでいるんだか。

 

はっ?全部俺のせい?

何で?俺チビッ子の剣術に係わってないんだけど?

大福や緑や黄色に何を仕込んだ?それこそ仕込んでないっての、普段一緒に遊んでいるだけだし、そりゃまぁチビッ子の特訓の助けに成ればって相手になって貰ってるけど、俺っちノータッチよ?それで強くなったのなら子供たちの努力の賜物よ?

本当に凄いチビッ子たちだ事。

感心するやら呆れるやら、完全に白旗状態のケビンなのでありました。

 

「ケビンや、祭りの余興じゃ、ちょっと手合わせ願おうかの」

そう言いこちらにやって来たのは赤ら顔をしたボビー師匠。

 

「師匠、お酒を飲まれての急激な運動は身体に悪いですよ?ここはゆっくりと祭りを楽しんでください」

 

「ハハハ、分かっておるわい、じゃから余興と言っておろう。ほれ、この木刀を取らんか。それとあの背中から生える腕は禁止な、あと偽魔力ボールやらなんやらの魔法も禁止とするぞ、なに、チョイとした制約じゃ、お主は強過ぎるからの。これでこないだみたいにはいかんぞ、ズタンズタンのギッタンギッタンじゃ~!!」

「待てクソ爺~!制約付けるのは格上のあんただろうが~!なんで俺が制約されにゃいかんのよ、早い早い、そんなの受け流せるか阿呆~!」

 

「ワッハッハッハ、やはりやりおるではないか。何度言っても訓練場に顔を出さんからどうしたものかと思っていたが、これならば問題はないかの~。

だが毎回言うがなんじゃその剣の使い方は、それでは棍棒と変わらんではないか。お主の剣には“切る”と言う思いが一切乗っておらん、そんなんでは立派な冒険者に成れんと何度言わせるんじゃ!」

 

「こっちも何度言わせるんだよ、俺は生涯村人なの!冒険者にも剣士にもならないの、副業は薬師と食器職人なの!いい加減にせんかこの酔っぱらい爺~!!」

 

ケビン少年の雰囲気が変わる、それは彼がこの酔っぱらいを叩きのめす決心をした合図でもあった。

「対魔境剣術“明鏡止水”“金剛無双”発動!」

 

瞬間、彼は流れる流星となった。

元騎士長グルゴビッチは思った、どうすればあの領域まで達する事が出来るのかと。

森の賢者アナスタシアは思った、ケビン君の引き出しは深淵ですか?と。

父ヘンリーは思った、今度手合わせをして貰おうと。

そしてボビー老人は思った、“この歳になってこれほどの好敵手と出会えるとは、楽しくて堪らんわい。次こそ絶対勝つ!”

 

“ドドドドドドドドドドドドド、ドッカーン”

吹き飛ぶ老人、だがその顔は満足げに笑っていたと言う。

 

「・・・だ~、やり過ぎた~!」

俺は急ぎ酔っぱらい爺さんを魔力の腕で回収、カバンに忍ばせてあったポーション水(黄色作製)を意識を失ったボビー老人に飲ませ、家のベッドに放り込むのであった。

翌日元気になったボビー師匠が畑に再戦を申し込んできたが、緑と黄色に撃退して貰った事は言うまでもない。二度とやるか~!




本日二話目です。
四月ってなんか気持ち的にソワソワしません?
何故なんだろう。
いってらっしゃい。
by@aozora
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