「“さぁ、始まりました魔都総合武術大会。
実況はおなじみ魔狼族のグレイシー、解説は魔王軍騎士兵団副官のメルルーシェ様にお越しいただいております。
メルルーシェ様、よろしくお願いします”」
「“よろしくお願いします”」
「“さて第一ブロックの試合ですが、メルルーシェ様はどの様にご覧になりますか?”」
「“そうですね、やはり注目は優勝候補と目される龍人族の戦士バンドリア選手ではないでしょうか。
彼はこの魔都に来てからも多くの闘技会に参加し、優秀な成績を収めています。魔都において“常勝無敗のバンドリア”と呼ばれるその実力は無視できるものではありません。
この戦い、他の選手が如何にバンドリア選手に喰らい付き、その牙城を切り崩していくのかに掛かっているのではないでしょうか”」
コロシアムに実況解説のアナウンスが鳴り響く。観覧席の観客は、闘技場中央の闘技舞台に上って来た選手たちの姿に、歓声を上げる。
「副ギルド長、この大会って集団による生き残り戦なんですか?
俺って大会の事を何も知らなくって」
俺は円形の闘技舞台に上がって来た複数の選手たちに目をやりながら、後ろの席に座る副ギルド長に声を掛ける。
「あぁ、そうだ。ケビンは魔都総合武術大会を見るのは初めてか?
その様子だとそうみたいだな。
それじゃ簡単に説明するが、この大会は六日間行われる予選会を勝ち上がった者たちによって行われるんだ。
予選会の開催は一日四回、それぞれ四人の予選通過者が選ばれるんだが、必ずしも四人になるとは限らない。
で、予選会初日から三回分ずつで分けた全八ブロックに分かれる形で、本戦初日の戦いが行われる。
当然中には第一ブロック出場のバンドリアのような飛び抜けた強者もいる訳で、そうした者を避けた形で参加する実力者も多くみられる。
他にも互いに協力し合って一人の参加者を二日目の準々決勝に送ろうとする連中やら、様々だな。
この大会ではそうした戦略も別に止められちゃいない、文句があるなら勝てばいいというのが基本方針だからな。
予選会では毎年多数の死傷者が出てな、なるべく死にづらくなるような術式の込められた結界を張ってはいるんだが、武器を持って戦う以上これは致し方がない。
死なないのはアンデット系種族となるが、アイツらは胴体がちぎれても動ける分制約があってな、どう見ても致命傷の状態になった場合は失格とみなされるって感じだ」
お、おう。アンデッド系種族って、そんなん無敵じゃないですか、リアルゾンビアタックじゃないですか。
勝つには胴体吹き飛ばすしかないって、アンデッド系以外の選手が喰らったら即死じゃないですか。
まさに死合い、暗黒大陸の武術大会、怖過ぎです。
“““““ウォ~~~~~~~~!!”””””
「“お~っと、バンドリア選手、試合開始早々物凄い速度で体当たりを繰り出したぞ~!!
舞台上では各選手が逃げ惑う一方、これでは協力し合ってバンドリア選手を迎え撃つ事も出来ませ~ん!!”」
「バンドリア選手、考えましたね。
バンドリア選手は今大会の最有力選手ですから、集団戦では自分対全体といった想定をはじめからして来たのでしょう。
であるのなら一々待ちの姿勢を取るよりも、その身体能力を活かし全力で体当たりする方が安全かつ効率的です。素早く動く高質量の相手を攻撃する事は、熟練の戦士でも難しいですからね。
例えるのならロックタートルがホーンラビットの速さで突進してくるようなもの、避けることも受け止める事も難しいとなれば、その恐ろしさが想像できるでしょう”」
眼下の闘技舞台では、大柄な龍人族が剣を構えた選手たちをその身一つで吹き飛ばしていく。他の選手が剣で切り掛かろうが槍で突こうが、そんなもの関係ないとばかりに突進し全てを吹き飛ばす姿は、まさに圧巻。
だがよくよく目を凝らしてみれば、切り掛かられる瞬間僅かに身体を動かし直撃を避けたり、手先を動かし切っ先を逸らしたり。身体能力のごり押しに見えるそのスタイルは、洗練された技術の上に成り立っている事が見て取れる。
「あのバンドリア選手、相当な手練れですね。目もいいし、動きによどみがない。全体の動きは格闘を主体としたものでしょうが、剣を持たせても相当に強いはず。
武器を持たないのは本人のこだわりか、いずれにしても一角の武人である事には違いありませんね」
俺の言葉に頷く副ギルド長。白とブー太郎はそれぞれ自分が戦うのならどう相手をするのかをシミュレーションしている様子。
やはり実力者の戦いを見るというのは、いい刺激になります。
マルセル村に来る観光客(戦闘狂)もこれくらいの実力があればな~、鬼神や剣鬼が嬉々としてお相手するんだけどな~。
これが暗黒大陸とオーランド王国との差、個人武力においては隔絶した開きがあると言わざるをえません。
「“審判の手が上がった~~、第一ブロックの勝利者はバンドリア選手だ~~~!!”」
「“やはり空将“豪炎のジーグバルト”に次ぐ実力者と噂されるバンドリア選手を止めることは難しかった様ですね。これは明日のバンドリア選手の試合から目が離せません”」
右手をサッと上げ、悠然と舞台を降りて行く龍人族の戦士、超格好いい。
何アレ、完全にヒーローじゃん。バンドリア選手のフィギュアがあったら欲しいんですけど!?
いや~、いいわ~。まさに異世界ファンタジー、これですよこれ。ジェイク君にも見せてあげたい。賢者ユージーンが見たら涙流して喜ぶんじゃないかな、アイツゲーム脳だし。
「“続いては第二ブロックの戦いです!!
メルルーシェ様、この試合の注目選手はどなたになるのでしょうか?”」
「“そうですね、やはり注目は獣狼族のジグルド選手、同じく獣狼族のクルン選手でしょうか。獣狼族は皆さんご存じのように獣人族の最強格と呼ばれる種族です。黄虎族、魔熊族、獣狼族という三大氏族は、私たち獣人族の中では知らないものがいないと言われる程の強さを誇っています。
そんな獣狼族の二人が同じ闘技舞台に立つ、これは注目せざるを得ないでしょう”」
「!?」
それは衝撃、全身に走る電流。
「尻尾があるだと!?」
俺の口から自然と漏れる呟き。そう、眼下の闘技舞台に上がった獣狼族の戦士たちの腰のあたりにゆらゆらと揺れるもの、それは紛れもなき尻尾様!!
「ん?ケビンは知らなかったのか?
さっき解説で言われていた黄虎族、魔熊族、獣狼族の三氏族は共に尻尾のある獣人族となる。他には魔術に長けた多尾狐族が有名だな。
基本的に有尾獣人は高い戦闘力を持つとされている。
そんな獣人族たちの中で有尾獣人でないにもかかわらず頂点に立つゼノビア様は、例外中の例外。あの御方は獣人族の身体能力だけでなく、努力と経験に基づいた強さを持たれた御方だ。現在獣人同士の氏族間争いが少なくなったのも、すべてゼノビア様のお陰と言われているくらいだ」
何故か自慢げにゼノビアさんの事を語る副ギルド長。
そんな事より有尾獣人ですと!?オーランド王国王都にあるぬいぐるみ工房モフモフマミー店主、ポーラ・キムーラ氏と共に作り上げようとしていた夢の存在、それが夢などではなく実在したという事実。
「俺、生きててよかった」
暗黒大陸を治める大陸国家、魔国。そこは夢の国、中の人がいないモフモフ人種が存在するドリームランドでした。
って言うか太郎、こんな重要な報告を送って来ないってどういう事?
<業務連絡:太郎>
“ねぇ太郎、ケモ耳尻尾のある獣人族がいるなんて話、聞いてないんだけど?どういう事?”
<業務連絡:ケビン>
“え?獣人ですか?獣人って何です?
耳が生えてたり尻尾があるのって普通ですよね?ケビンさんだって耳が生えてるし、俺たちみんな尻尾生えてますけど?
えっと、もしかしてですけど、以前報告した草原で部族争いをしていた人たちが獣人って奴だったのかな?尻尾生えてたし”
悲報、太郎さん、獣人って存在が全く分かっていなかった様です。それじゃなんで龍人族の事が報告できたのかと言えば、キャロルとマッシュの姿にそっくりだったからだとか。
あ~、まぁね~。そりゃ畑の従業員と同じ姿の者たちの集落があったら驚くよね。そっか~、獣人族は違和感なく“人”として受け入れちゃってたのか~。
何という盲点、これはちょっと想定できませんでした。
「ケビンさん、始まりましたよ」
そう言葉を掛けて来たのは、長い金色の髪を一つ縛りにした高身長の細マッチョ。
「副ギルド長、もしかしてオーク顔の獣人なんているんですか?」
「あぁ、いるぞ?って言うかそこの男性がそうじゃないのか?
ボア族は獣人族としては珍しい農耕を主とする種族だな。大陸南部に集落を形成しているんじゃなかったか?」
「ブー太郎、どうやらお前はボア族って獣人に見られていたらしいぞ。暗黒大陸では人族の仲間入りなんだと」
「はぁ?マジっすか。って言うか俺を魔国に置いてきぼりにするってのは止めてくださいね?ケビンさんって面白そうだからって理由だけで無茶苦茶するからコワインデスケド。ホンキデオネガイシマス」
ゲッ、ブー太郎の目がマジだ、ここで“ブー太郎、ボア族の里に行くぞ”なんて言ったら聖剣召喚しそうな勢いだわ。
うん、おふざけは良くないよね、自重自重。
「“お~~~っと、獣狼族のジグルド選手とクルン選手が猛然と走り出したぞ~~~!!
速い速い、なんだあの動きは~~!!”」
「“獣狼族の真骨頂はこの速度ですからね。獣人三大氏族は力の魔熊族、速さの獣狼族、両方を兼ね備えた黄虎族と言われています。
速さで敵を翻弄し一気に仕留めて行く、まさに獣狼族の狩りそのものですね”」
“シュタンッシュタンッシュタンッシュタンッ”
“ドガドガドガドガ”
「アッハッハッハッ、遅い遅い遅い、遅過ぎるぞー!!」
「ジグルド、喋ってないでさっさと終わらす。邪魔がいたら勝負にならない」
闘技舞台の上を二つの影が走る、そう表現せざるを得ない程二人の動きは速く、影がすり抜けた後には倒れ伏す選手だけが残される。
「獣人風情が嘗めんじゃねえぞ、<ダブルスラッシュ>」
普人族の選手が放った剣技がその影を捉えんと舞台上を飛ぶ、だが。
「遅過ぎだ、あくびが出るぜ」
「その意見には同意。技自体は速度もあるけど、技に至るまでの予備動作が緩慢過ぎ。より練度を上げる事を推奨する」
その声は技を放った普人族の背後から聞こえるもの。
「なんだと!?“ドゴッ”グフッ」
倒れ伏す男、だがそんな事はこの二人には関係のない事。
「さて、クルン。降参するってんなら見逃してやるぜ?
お前の前にいる俺は獣狼族最強、お前じゃ手も足も出ないだろう?」
「ジグルド、寝言は宿のベットの中で言う。いつまでも最強の称号が自身の物とは思わない方がいい。
時代は常に変化する、その事はジミーが教えてくれた。私は更なる高みを目指す」
吹き抜ける風が両者の髪を揺らす。高まる緊張が、時間を氷の様に押し固める。
““ガァーーーーッ””
それはほぼ同時に上げられた咆哮、動き出した時間は濁流のごとく、激しい攻撃となって敵に襲い掛かる。
“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ”
互いに打ち付けられる拳、それは魂の叫び。避ける暇があれば一発でも多く相手に打ち込む、一手でも多く、一発でも重く。
意地と意地とのぶつかり合い、その息吐く暇もない我慢比べは、全てを出し切った者にこそ栄冠を与える。
“グホッ、ドシャッ”
「勝者、クルン選手!!」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~!!”””””
サッと審判の手が勝利者に向けられる。
会場は割れんばかりの歓声に包まれる。
舞台上にただ一人立つクルンは、荒い息を吐きながらも右腕を上げ、観衆の声援に応える。
魔都総合武術大会は、人々の興奮と熱狂に包み込まれる様に更なる盛り上がりを見せて行くのであった。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora