転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第502話 魔都総合武術大会、一日目 (3)

「「「「「カンパ~イ」」」」」

掲げられる祝杯、ざわめく店内では多くの者たちがそれぞれの席で(さかずき)を打ち合い、思い思いの感想を語り合う。

 

「いや~、しかし壮観だったよね、魔都総合武術大会。初日の集団戦だけでもかなり満足できたんだけど、明日はその勝者たちによる勝ち上がり戦なんだろう?

もうワクワクが止まらないよね。

俺の一押しは何と言ってもバンドリア選手、あの戦闘センスは魅せてくれると思うんだわ。対戦相手の獣狼族クルン選手も捨てがたいんだけど、彼女は別枠だからな~。

ケモ耳尻尾の獣狼族の方々にはぜひマルセル村に来ていただきたい!!

“ポンポコ山のお店屋さん”の従業員としてだな」

 

「落ち着け兄弟子、楽しかったのは分かるが興奮し過ぎだ。

大体普通は頑張った弟の話題で盛り上がるところだろうが、なんでそこで趣味に走る。兄弟子らしいって言えば兄弟子らしいけどな」

 

武術大会の興奮冷めやらぬといった人々は街に繰り出し、飲み、騒ぎ、時には喧嘩をしながら胸に宿った熱い思いを発散し合う。

それは魔都の片隅にある宿屋の食堂でも同じ事、多くの客がテーブルを囲み、店は大いに盛り上がっていた。

 

「はいよ、グレートボアの煮込みにサンダーバードの油揚げだよ。お客さん方、私が言うのもなんだけど豪勢だね~。

メニューに掲げておいてなんだけど、これって宿屋の食堂で頼むような料理じゃないからね?久々の注文にうちの人が張り切る張り切る、「俺の包丁が火を噴くぜ!!」とか訳の分からないことを言いながら唸り声を上げて作ってるよ。

他の皿も出来上がり次第持ってくるからね」

「女将さん、ありがとうございます。それとエールのお代わりもお願いします」

 

「毎度あり~」と元気な返事を残し下がって行く女将さん。

俺はそんなおかみさんの後姿に目をやりつつ、“あの背中の蝙蝠翼に包容力の塊の様な身体付き。まさかファンタジーの定番サキュバス族の御方だと!?宿屋のご主人は勇者様か何かなのか!?”と一人妄想を膨らませる。

 

もうね、魔国の首都ってだけあって、多種族多民族が凄いの。だって鬼人族の白やオークのブー太郎、果ては霊体状態のシルビアさんやイザベルさんに対しても誰もツッコミ入れないのよ?

 

「鬼人族?確か大陸中央の森林地帯にそんな種族がいたわね。そっちの男性はボア族ね、それで後ろの二人が魂魄種と。

あぁ、魔国ではレイスやリッチ、英霊なんかをひっくるめて魂魄種って呼んでるのよ。一々種族分けするにしても見分けが付きづらいじゃない?

魔王軍の不死軍団に所属していないって方は珍しいけど、それなりにいるの。索敵にレイスを使役しているテイマーも結構いるしね」

 

宿で宿泊受付をした時に言われた女将さんの言葉にはびっくりしたもんな~。女将さんは客商売の関係で種族を見抜く事が出来るみたいなことを言ってたけど、アレってサキュバスの種族特性じゃね?獲物(性的に)を見抜く目は必須だろうし。

この宿も冒険者ギルドの紹介だし、元冒険者だったり?実は相当な実力者とみた。

 

「でもジミー君の戦いは見ごたえがありましたね。あの身体強化を行った女性選手の動きも素晴らしかったですが、最後に残った男性選手の覇気は相当でしたよ?」

「そうね、あれくらいの強さならボビーも満足するんじゃないかしら。大会参加選手全体の動きや強さも申し分ないし、この話を聞かせたら来年は参加するって言い始めるかもよ?」

 

イザベルさんとシルビアさんも大会のレベルの高さに満足なさった御様子。お二方には若者軍団に渡した収納の腕輪やらエリクサーの作製やらでお世話になりっぱなしですからね、これで少しは恩を返せたのならいいんですが。

それにしても“ボビー”ですか。シルビアさん、ボビー師匠との仲を順調に育まれている様で何よりです。

 

「それはそうとケビン、“トライデント”の動作実験の方はどうだったの?」

「それについては基本的に問題ないかと。行動に関してもうまく制御機構が働いているようです。

ただ音声会話が出来ない分他者に意思を伝える事が難しいようですが、その辺は筆談で対応可能ですので何とかなるのではないかと。

今後は経験を積ませることで自己学習させることが重要ですかね。残月によれば、魔力結晶同士の連結による情報伝達は問題なく作動しているとの事ですので」

 

俺はシルビアさんにトライデントの様子を語りながら、市街地での稼働実験が上手く行った事に顔をほころばせる。

 

「はいよ、オーク肉の厚焼きお待たせ。付け合わせのマッシュサラダは各自で小皿によそっておくれ」

 

“ドンドンドンドン”

女将さんが次々に運び込む料理、各皿から立ち昇る食欲を誘う匂いに、フォークを持つ手が止まらない。

 

「白、このオーク肉あげるからマッシュサラダ取ってくれない?」

「ん?どうしたブー太郎、肉料理ばかりで胃がもたれたとかか?

そういえばブー太郎って“木の実拾い”って呼ばれてたんだっけか。

肉より野菜の方が好きだったんだよな」

 

そう言いブー太郎にマッシュサラダをよそった皿を手渡す白。

 

「イヤイヤイヤ、俺オークだから、この厚焼き肉、俺の同族だから。戦いに敗れた同族が食されること自体に思うところはないけど、流石に同族は食べないからね?

ボアを食べるのとは話が違うのよ?」

 

「「「「・・・あ~、そう言えばそうだった。ごめん、すっかり忘れてたよ、ボア族のブー太郎」」」」

「だ~か~ら~、違~~う!!」

 

騒がしい食堂の一時、魔都の盛り上がりは、深夜遅くまで続いて行くのであった。

 

――――――――

 

「「「「「ジミー様、本戦二日目進出、おめでとうございます」」」」」

王都ゼノビア邸では、ジミーの準々決勝進出を祝ってちょっとした祝宴が開かれていた。

 

「いや、しかし正直驚きました。ジミー殿の対戦相手であったケチュア選手は魔都でも名の知れた冒険者で魔都総合武術大会本戦進出の常連ですし、ザギラ選手は北部ドルン氏族の若き頭領。

ドルン氏族の強さは魔王軍の一軍団に匹敵すると噂されるほどの猛者ぞろい、その長を真っ正面から戦って打ち負かすとは。

龍人族の拳闘大会で優勝した実力は伊達ではないといったところでしょうか」

 

テーブルを囲むメルルーシェは手放しでジミーの戦いを称賛する。闘技舞台におけるザギラ選手側の策謀は、見るに明らかなものであった。だがジミーはその全てを正面から打ち砕き、ザギラ選手との戦いに挑んだ。

技と技、力と力のぶつかり合いは会場を大いに沸かせ、見る者に興奮と感動を与えるものであった。

 

「確かにザギラさんは強かったですね。ケチュアさんの速さと力の合わさった攻撃も凄まじいものがありましたけど、ザギラさんの一撃一撃には重みというか強い信念の様なものを感じました。

自らの思いを力に変える、言うのは簡単ですけど、実際に使いこなすのは難しい。

ザギラさんからは何て言うか、英雄の素質とでも言うべき何かを感じましたよ」

 

ジミーは今日の戦いを思い出し、自然口元を緩める。そして打ち込まれた攻撃の一撃一撃が、経験として自身の力に変わって行くのを実感する。

 

「そうですか。確かにザギラ選手の強さは例年の大会であれば決勝に上ってもおかしくない程のモノがありましたからね。

でも最後、何か言葉を交わしていたみたいだったんですけど、あれは一体・・・」

「う~ん、俺もよく分からなかったんですけど、「油断するな、魔将の悪意は全てを滅ぼす」とかなんとか。

まぁ油断しないに越したことはないんですけど、何かがあるのか。

ザギラさんがこの大会に勝ち上がろうとした目的が何だったのか俺には皆目見当も付きませんが、その辺りに何か関係しているのでしょうか」

 

「「・・・・・」」

メルルーシェとジミーの間に沈黙が流れる。

 

「ところでブルーノの奴はどうしてるんです?第八ブロックの準々決勝進出って聞いたからてっきり祝勝会に来ると思ったんですけど」

「あぁ、ブルーノは明日の対戦相手とは慣れ合いたくないって言って他の者と街に繰り出しました。

屋敷の一部の者はいまだに去年の事を根に持っているんですよね。まぁそのお陰でメキメキと腕を上げて行ったっていうのも事実なんで、ゼノビア様からは見守るだけにとどめる様言われているんですが」

 

ジミーはメルルーシェの言葉に自身の行動を振り返る。

“あ~、あの時は暗黒大陸に到着したって事で浮かれてたからな~”

過去のハッチャケが自身に帰って来る。ジミーは苦笑いを浮かべながらも、“強い対戦相手になってくれたんならむしろ良かったのでは?”と心の中で自己弁護に走るのであった。

 

――――――――

 

「「「「ブルーノさん、準々決勝進出、おめでとうございます」」」」

「おう、ありがとうよ。お前たちも頑張っていたのにな。まぁ飲め、今日は俺の奢りだ」

 

「「「「ありがとうございます、ごちになります」」」」

 

高級感漂う酒場の一角、準々決勝進出を果たしたブルーノと惜しくも敗れてしまった仲間たちは、グラスを片手に明日の戦いに思いを馳せる。

 

「あら、ブルーノさんご機嫌ね。準々決勝進出おめでとう、明日の戦い、期待しているわよ」

そんな彼らに声を掛けたのは、妖艶な色気漂う女性。

 

「あぁ、あんたか。いつも楽しませてもらっている、それに明日はあんたに貰ったこのリングが力を発揮する番だ」

ブルーノはそう言うと、右手首に嵌めた漆黒のリングを軽く叩く。

 

「フフフ、そうしてくれると助かるわ。ブルーノさんが活躍すればするほど私の評価も高くなる。あなたは名声を、私は実績を。

互いにとって益のある話ですもの、今日は十分楽しんで明日の戦いに備えて頂戴。ブルーノさんの戦い、観客席から応援させていただくわ」

女性はそう言うと店の奥へと下がって行く。

 

「ブルーノさん、いいんですか?あんな事を言わせておいて」

「ん?あぁ、気にするな。魔導軍の研究者だか何だか知らねえが、俺にとって役に立つうちは付き合ってやるさ。

何と言ってもこの魔道具の力は絶大だからな、精々使い潰してやる迄よ。

まずはジミーの奴を叩き潰して、魔都に黄虎族であるこのブルーノ様の実力を知らしめてやる。そしていずれはゼノビア様を討ち倒し、魔王軍騎士兵団を手中に収め魔王四天王として君臨するのよ。

お前たちもその時は俺様の手足として働いて貰うからな」

 

「「「畏まりました、ブルーノさん。いえ、“絶剣のブルーノ”様」」」

「アッハッハッハッハッ」

 

若者は笑う、明日の栄光を夢見て。全ては自身を中心に回り出した、そう確信を深めながら。

 

――――――――――

 

「以上が準々決勝進出者の詳細となります」

「ふむ、今回の大会は中々の実力者が揃ったといったところか。

ゼノビア、報告ご苦労。引き続き明日の会場警備も頼んだぞ、下がってよい」

 

「ハッ、魔王様の御心に沿う様全力で事に当たらさせていただきます」

 

魔王城会議の間、本日行われた魔都総合武術大会の報告を受け取った魔王アブソリュートは、報告者である剣将ゼノビアの労を労いその場を下がらせると、報告書に目を向ける。

 

「エカテリーナ、ドルイド、“蠱毒”の進捗具合はどうか」

「はい、()()()。“万魔の腕輪”は使用者に馴染んでいる様子、制御の方は問題ないかと。

状況によっては限界を超える可能性がありますがそれはそれ、良い実験結果が得られるものと思います」

 

「ふむ、対戦相手はジミーという武勇者であったか。駒が勝てばよし、追い込められ駒が限界を超えるもよし、武勇者が駒を上回ればそれもまたよし。

より強き者が残れば、それだけこちらにとって益となろう。

ドルイドの方はどうだ」

「はい、今しがた()()()が口にされたジミーによりドルン氏族のザギラが敗れましたからな。奴を大会に引き摺り出す為に弄した苦労が無駄になったと嘆けばいいのか、あのザギラを破る様な者が大会に参加していた事に喜べばいいのか。

いずれにしろ贄に相応しい者が集まっていることは確か、“シルバリアン”もさぞ喜ぶ事でしょう」

 

「そうだな。当初はゼノビアでも致し方がないと思っていたところではあったが、ドルイドの提案が功を奏した形となった訳だ。

贄にはより強力な素体が必要、“シルバリアン”の調整はドルイドに任せよう」

「はい、お任せください、()()()

 

魔王アブソリュートは席を立つと、窓辺に立ち眼下の魔都を見下ろす。

 

「待つ事百年、遂に準備は整った」

“ブワッ”

 

魔王から溢れ出す濃厚過ぎる闇の魔力、それは魔王の身体を包み込み、まるで違う存在の姿を形作る。

 

『終末の始まりは訪れた。この地に蔓延る蛆虫どもよ、今こそ貴様らを根絶やしにし、我が正しき世界を取り戻そうぞ。

魔将ドルイド、空将ジーグバルト、魔導将エカテリーナ。

我が力を授ける、各々の目的の為、世界を粛正せよ!!』

「「「ハッ、()()()の御心《みこころ》のままに」」」

 

思惑は蠢く、それぞれの目的のままに。魔都の闇はその全てを包み込み、人々を次の舞台へと(いざな)うのであった。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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