魔都の夜が明ける。
夜遅くまで騒ぎベッドに潜っていた者も、結局一晩中飲み食いしていた猛者も、皆が興奮とワクワクを抑えられないといった表情で続々と魔都総合コロシアムへと集まって来る。
そんな大会会場前で思う、“関係者入り口からの入場って目茶苦茶楽なんですけど!?”と。
どうも、辺境からのお上りさん、ケビン・ワイルドウッドです。
今日は大会二日目、初日は副ギルド長の連絡不足により人々でごった返す一般席入場口で朝の山手線通勤ラッシュを体験する羽目になった我らマルセル村一行。本日は正規の入り口である関係者入り口からのVIP待遇により、係員のお姉さんの案内の下大変スムーズに観覧席に到着。ブー太郎・白・賢者師弟もニッコリといった様子で試合開始を待っているところでございます。
関係者入り口ならもしかしたらバンドリア選手に握手して貰えるかもなんていう淡い期待もあったんですけどね、その辺は厳重な警備の下準々決勝進出選手との接触は一切断たれているんだとか。
警備に当たっている魔王軍騎士兵団の皆様方、目がマジなんだもん。ちょっと聞いてみただけじゃんね、そんなに睨まんといて下さい、本当にすみませんでした!!
「よう、ケビン、聞いたぞ。お前試合前のバンドリア選手に握手を求めようとしていたらしいじゃないか。
チケットを用意した関係で、警備主任に俺まで注意されちまったじゃねえか。気持ちは分からんでもないが試合前の選手はみんな気が立ってるんだ、その辺気を付けろよ?」
朝一で引率の先生(副ギルド長)に注意される俺氏、在りし日の記憶にある修学旅行を思い出します。
「それとメルルーシェから伝言だ、「お願いですから大人しくしていてください」だそうだ。
さっき関係者席の所で顔を合わせたから声を掛けてな、ケビンの話をしたら目茶苦茶焦ってたんだが?ゼノビア様から真剣な顔でケビンの面倒を頼まれたんだが?
お前らマジで何をしたんだ?」
「いや、だから昨日も言ったじゃないですか、村祭りに顔を出したお二人と手合わせをしたって。
でも嬉しいじゃないですか、しっかり覚えていてくれたんですね。
なんか思っていたよりも有名人だったんで、完全に忘れられてると思ってましたよ」
そう言い笑う俺に、訝しみの眼差しを向ける副ギルド長。いや、マジで俺お二方にちょっかい出してないですから、冤罪ですよ?
“““““ウォ~~~~~~~~!!”””””
コロシアムの観覧席から観客の大きな声援が飛ぶ。中央の闘技舞台には二人の人物が姿を見せる。
「“さぁ始まりました魔都総合武術大会二日目準々決勝、実況は
メルルーシェ様、よろしくお願いいたします”」
「“よろしくお願いします”」
「“本日第一試合は昨日圧倒的な力を見せてくれた龍人族のバンドリア選手と獣狼族のクルン選手です。双方ともにその身体能力は暗黒大陸屈指、中々予想の難しい試合となっております”」
「“そうですね、龍人族と言えば巨人族と並んで暗黒大陸の最強格と呼ばれる種族ですからね。対するクルン選手も獣狼族という獣人三大氏族の一角、この試合、単純な種族差ではなく個人武力が問われる戦いになるのではないでしょうか”」
「“流石は魔王軍騎士兵団の参謀と名高いメルルーシェ様、素晴らしい分析です。
お~っと、審判の手が上がったぞ~。合図と共に試合開始です!!”」
「さて、本日最初の相手は獣人族か。素早さが売りの獣狼族、あまり相性のいい相手とは言えないがこんな所で負ける訳にはいかないんでな、始めから全力で行かせてもらおう」
「力と耐久力の龍人族、確かに相性は最悪。だが私もここで負ける訳にはいかない。
私の獲物はあくまでジミー、彼と戦うには決勝に上ることが最低条件!」
「ほう、貴様もジミーと縁がある者か。ならば余計負ける訳にはいかないな、アイツは俺の獲物だ」
「ん?お前もジミーの
すまん、てっきりお前はオスだと思っていた。やはり種族が違うと男女の見分けは難しい」
「阿呆か~~~~!!何で俺がそんなものを欲しがらなきゃいけないんだ!俺は男だ~~~~!!」
「!?男同士で・・・・。
それはその・・・頑張ってとしか・・・。
ここは暗黒大陸、人の趣味に口を出すのも無粋というもの」
「違~~~~~~う!!手前だけは絶対ぶっ飛ばす!!」
「ふむ、照れ隠しか。その気持ちは分かる、私もジミーの前だと中々素直になれない」(ポッ)
「はじめ!!」
告げられる審判の試合開始の合図。途端先程までのどこか弛緩した雰囲気が、殺気満ち溢れた緊張へと変化する。
「ウォ~~~~~~~!!」
先に動いたのはバンドリア、その巨体からは想像も出来ない程の速度でクルンに迫る。
だがクルンは獣人族最速と言われる獣狼族、瞬時に反応し身を躱すどころかバンドリアの背後を取り攻撃を仕掛ける。
「そう来ると思ったよ、獣人族最速!!」
だがそれはバンドリアの想定の範囲内、まるで背後に目があるかのごとく、尻尾による横薙ぎがクルンを襲う。
「私もそう来ると思っていた」
だがその攻撃は分かっていたとばかりに尻尾を躱すクルン。クルンは勢いもそのままに隙だらけの右足を切りつける。
だが・・・
“ガキンッ、シュル”
「ハッ、俺に傷を付けるには踏み込みが足りなかった様だな。龍人族に刃物は利かねぇ、知らなかったのか?」
「その話は有名、だけどここ迄のものとは予想できなかった。でも次は切る!!」
“ブオンッ”
バンドリアにより振るわれた拳が、クルンの顔面を掠める。
「クソッ、勘のいい」
「やはり暗黒大陸最強種族、生半可じゃ届かない」
“ガキンガキンガキンガキンガキン”
怒涛の如くバンドリアから振るわれる拳、その悉くをダガーにより受け流すクルン。
“シュタンシュタンッ、シュタッタッタッタッタッタッタッタッ”
バンドリアの攻撃を翻弄する様に、あざ笑うかのように、闘技舞台上を縦横無尽に走り回るクルン。そんなクルンの動きに、いつの間にかバンドリアの足も止まる。
「そこだ!!」
“ブォンッ”
だが遂にバンドリアの一撃がクルンを捉える。放たれた尻尾は突っ込んで来ようとするクルンの身体を正確に打ち抜かんとした。しかし・・・
「残念、それは残像」
そこにクルンの姿はなかった。討ち取ったと思ったクルンは既に身を躱し、バンドリアのすぐ脇にまで迫っていたのである。
「貰った」
“ザクッ”
鋭い踏み込みと共に振り抜かれたダガーは深くバンドリアの脇腹を捉え、闘技舞台に鮮血がぶち撒かれる。
「お見事、だが予想通りだ」
“バゴンッ”
振り降ろされたバンドリアの拳、バンドリアの身体を切り裂いた際の一瞬の抵抗と深い踏み込みがクルンにわずかな隙を作り、その瞬間を待っていたと言わんばかりの打撃がクルンの身体を捉えたのである。
“““““ウォ~~~~~~~~!!”””””
審判の手がバンドリアに向け上げられ、勝利者の名が告げられる。
観客の割れんばかりの声援が、コロシアムを揺らす。人々の熱狂が、激しい死闘を繰り広げた両者の勇姿を称える。
「クッ、無念。ジミーの
「要らねえわ、そんなもん!!っておい、聞いてんのかよ!!」
試合に勝って勝負に負ける。バンドリアはこの胸に宿る苛立ちは次の相手にぶつけてやると、空に向かって雄たけびを上げるのであった。
――――――――――
“““““ウォ~~~~~~~~!!”””””
コロシアムに観客の歓声が響く。
勝負は水物、予期せぬ番狂わせは人々の興奮と熱狂を呼び、熱気となって会場を包み込む。
「兄弟子、あのデッカイの負けちまったな」
「あぁ、あれは予想外だわ。対戦相手の武勇者ダレリアン、思い切ったよな~。
やった事は第一試合のクルン選手と同じなんだけど、玉砕覚悟の踏み込みでドーバン選手の懐に入り込んでからの右足切断。脅威の回復力で復活されないように蹴りで右足を蹴り飛ばすっていう徹底ぶり。
反撃が来る事を予想し咄嗟に身を躱したと思ったら、振り下ろされた左腕も切断。流れるような動きは見事の一言、あれじゃドーバン選手もどうにもならんわな。
大型魔獣狩りのお手本を見せられてるのかと思ったわ」
第三試合、武勇者ダレリアンと巨人族ドーバンの戦いは、当初体格に勝るドーバン有利と思われていた。
だが蓋を開けてみればさにあらず、経験と実力を伴ったダレリアンの冷静な判断と蛮勇とも言うべき決断により状況は一変、片足片腕を失ったドーバンの首筋に剣を添える形でダレリアンの勝利が決まったのであった。
派手な大技が繰り出されるような試合ではないものの、その一手一手が一瞬の隙も許さぬ頂上の攻防に、目の肥えた魔都の人々は歓喜し声援を上げる。
「暗黒大陸ってこんな戦士ばっかりなんかね。って言うかあの二人だったら精霊砲を浴びても鼻歌交じりで攻め込んで来るんじゃね?
ゼノビアさんって偵察目的でオーランド王国に来たんだよね?
魔国が攻め込んで来たら、エイジアン大陸の国々なんか直ぐに攻め落とされちゃうんじゃないの?」
ケビンの懸念、それは魔国の大侵攻。ヨークシャー森林国とバルカン帝国の戦争にちょっかいを掛けてバルカン帝国の戦力を大幅に削った魔国が、このまま何もしないなどという事があり得るのだろうか。
「あ~、そうなったらオーランド王国王家が何か言って来るんじゃないのか?ホーンラビット伯爵家に対する戦争協力要請は確実だろうし。
無視するにしてもヨークシャー森林国との関係もあるしな、そうなったらグロリア辺境伯家辺りからも協力要請が来るんじゃないのか?」
「う~わ、面倒くさ。これってゼノビアさん辺りに掛け合って、ヨークシャー森林国と魔国との間で不戦条約でも結んで貰った方がいいのかね。
バルカン帝国と魔国との争いには一切干渉しないって方向で」
「それなら何とかなるんじゃないのか?ヨークシャー森林国としては大っ嫌いなバルカン帝国よりも様々な食材に溢れた魔国と交易した方が利益があるだろうし、バルカン帝国の脅威が減るなら否やはないと思うぞ」
目の前で繰り広げられる強者同士の戦い、その凄まじい光景に魔国の底力を感じ、今後の対応について話し合う俺と白雲。
「はぁ?ちょっと待って、えっとケビン様は実はお国のお偉い立場の方であらせられるのでしょうか?確かオーランド王国から来られたと仰っていたかと」
そんな俺たちの様子に途端姿勢を正し、妙な敬語で話し掛けてくる副ギルド長。
俺と白は互いに目を合わせ、思いっきり笑うのであった。
「アハハハ、あ~お腹痛い。そんな訳ないじゃないですか、大体国の重鎮がこんな少人数で暗黒大陸に乗り込む訳ないでしょうに。
もしかして副ギルド長って勇者物語に憧れて“最強の戦士に、俺はなる!!”とかやっちゃってた口ですか?所謂勇者病的な。
って魔国で勇者病やってたら魔王軍に捕縛されちゃうんじゃない?
実際の魔王様がおられるんだし」
「イヤイヤ兄弟子、いくら勇者病だからって行き成り魔王様に突貫かまさないだろうが。それって単なる不穏分子だからな?
一族郎党処刑されちゃう奴だから、親どころか周辺住民が止めるから。
大体暗黒大陸には強力な魔物がゴロゴロいるんだし、みんなそっちに突っ込んで行くんじゃないのか?武勇者なんて言葉があるくらいだし」
白の言葉になる程と頷く俺氏。ところ変われば考え方も変わる。魔王討伐に思いを馳せるよりも身近な脅威に立ち向かう。そういう意味ではオーランド王国がいかに安全で平和な国だったのかが分かるというもの。
「イヤイヤ、そうじゃなくてだな。さっきの話、魔国の侵攻がどうとかゼノビア様がどうとか。会話の内容が国家規模の防衛についてだったんだが?」
「あぁ、それはうちの村が最果ての辺境だからですかね。大森林に最も近い村、マルセル村。自然と様々な事情で逃げ出した訳ありが集まって来る最後の地になっちゃってるんですよ。
その中には元商人やら元貴族、国の官僚や貴族令嬢なんかもゴロゴロといましてね、そんな大人たちの話を聞いて育った村の子供はみんなこんな感じに。
危機意識って大事ですよね~」
そう答える俺に何故か呆れた表情になる副ギルド長、解せん。
「ケビン、妄想を膨らまして遊んでるんじゃないの。そろそろジミーの試合が始まるわよ」
シルビアさんの言葉にハッとする俺たち。
いかんいかん、ジミーのいいところを見逃すところだった。
対戦相手は獣人三大氏族の一角、黄虎族の青年。(尻尾付き、これ重要)
これは期待出来ますぞ♪
急に前を向き姿勢を正す俺の姿に「もしかしてケビンは勇者病<仮性>なのか?それにしてはあの強さ、だが<極み>とも思えないし・・・」などとぶつくさ呟く副ギルド長。
正解は勇者病<仮性>重症患者です。
そんな心配性の副ギルド長の姿にどこかホーンラビット伯爵と同類の匂いを感じ、「これ自家製の生活薬です」と言ってそっと胃薬を手渡す俺なのでした。
本日一話目です。