転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第504話 魔都総合武術大会、二日目 (2)

選手控室、昨日までそれなりに人のいたそこも今は自分一人。ジミーはこれから始まる戦いに沸き立つ気持ちを鎮めるかのように、椅子に座り静かに目を閉じる。

 

「ジミー選手、お願いします」

係員の声に目を開け、スッと立ち上がる。気負いはない、その身は自然、あるがままを受け入れ対処するのみ。

 

“ガチャッ”

扉を開け、魔道ランプの明かりに照らされた廊下を係員の後に続く。

廊下の先、闘技舞台のある会場は陽の光に照らされ、ジミーはその眩しさに思わず目を細める。

 

“““““ウワ~~~~~~~~”””””

続いて聞こえる会場からの大歓声、魔都総合コロシアムに詰め掛けた数万という観客の視線がこれから始まる自身の戦いに注がれていると思うと、ブルブルと身体の芯に震えが走る。

 

「おいおい、事ここに至ってビビってんのか?暗黒大陸巡りをしていた武勇者様がよ」

闘技舞台の上から掛けられた声、それはこれから戦おうとする相手、獣人族最強種族の一角、黄虎族の戦士ブルーノのもの。

 

「久し振りだな、ブルーノ。俺はお前と違って田舎者なんでな、あまり多くの者の注目を浴びる事に慣れていないんだよ。

メルルーシェさんに聞いたよ、この一年、相当に頑張っていたらしいじゃないか。元々才能があったところに執念と呼ぶべき努力が加わり別物のように強くなった、ゼノビア邸の筆頭は間違いなくお前だってな」

「ハンッ、当たり前だろうが。俺を誰だと思っている、黄虎族のブルーノ様だぞ?世間じゃ黄虎族は獣人最強種の一角とか言ってるがそれは正確じゃない、正しくは暗黒大陸最強種族が黄虎族なんだよ。

その事をこの俺様が証明してやる、黄虎族最強のブルーノ様がな」

 

ブルーノはそう言い鋭い視線をジミーに浴びせる。

“このひりつく様な殺気、ブルーノの奴、本気で強くなったんだな”

だがジミーにとってそれは喜び、強敵を求め暗黒大陸を彷徨(さまよ)う武勇者にとって自身を討たんと挑む相手がいることは、幸福以外の何ものでもない。

ぶつかり合い高め合う、それが武勇者という生き方なのだから。

 

「ケッ、相変わらずイカレタ野郎だ。だがその余裕がいつまでももつと思うなよ」

ブルーノは不機嫌そうに視線を切ると、試合開始位置に向かい下がって行く。ジミーはそんなブルーノの態度に不思議そうに首を捻るも、自身が獰猛な笑みを浮かべていた事には気付きもしない。

 

闘技舞台上で対峙する二人。互いに発する殺気と覇気が、徐々に会場全体に伝播する。観客は口を噤み、戦士たちの動きに目を凝らす。

 

「はじめ!!」

審判の掛け声、走り出したのは両者同時であった。

 

“ガギンッ”

打ち合わされた大剣と木刀、体格に勝るブルーノが全身の力を乗せ振り下ろした一撃を、同様に全身の力を乗せたジミーの一振りが抑え込む。

 

“バッ、ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ”

互いに弾ける様に後方へと下がった刹那、激しい連撃で打ち合う両者。火花散る戦いとはこうした物だと言わんばかりの猛攻に、観客のテンションが一気に盛り上がる。

 

「クックックッ、やるじゃねえかジミー。武勇者様は伊達じゃねえってか?だったらこっちも上げて行くぜ!」

“ブォンブォンブォン、バゴーンッ、ドガドガドガドガ”

 

その大きな身体からは想像しえない俊敏な動き、ジミーが振るう木刀の軌道を逸らし、大振りの一撃で強引に隙を作ってからの連撃。()しものジミーも防戦一方になる、そう思われた。

 

「対魔境剣術<行雲流水円>」

“カンカンカンカンカンカンカンカン”

それは流れる清流の如く、空を行く雲の様に、型に囚われず淀みのないその流れは、全ての攻撃を受け流す。

 

「クソッ、この化け物が!!<黄虎重撃>」

ブルーノが黄虎族特有のしなやかさで宙を舞う。それは一見敵に隙を見せる行為、だがその動作から繰り出される技の破壊力は絶大。

 

「その覚悟、受けて立つ!<霊亀尾閃>」

対してジミーは身体を大きく沈め、ブルーノに背を向けるかのように大きく身を捻り力を込める。

 

「「ウォーーーーーーーー!!!!」」

“ドッゴーーーーーーーン”

激しくぶつかり合う両者の意地と意地、そして・・・。

 

“ドガンッ、ドブハッ!!”

打ち勝ったのはジミー、渾身の力で弾き返されたブルーノは大きく飛び去り、闘技舞台に力強く叩きつけられる。

 

“ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ”

大きく息を乱すも、ゆっくりと立ち上がるジミー、対して木刀による衝撃を全身に喰らい、身を動かす事もままならないブルーノ。

 

“この俺様が負ける?あの下等な普人族如きに?そんな事、許される訳ねえだろうが!!”

 

「ハハハハ、畜生、遊びはここ迄って事かよ。癪だが認めてやるよ、ジミー、手前は強い。このブルーノ様の力をもってしても勝てない程にな。

だからよ、奥の手を使ってやるよ。ここから先、止まると思うなよ?」

 

“ブォッ”

突如仰向けに倒れるブルーノの身体から漆黒の魔力が溢れ出す。それはブルーノの身体を包み込み、彼の姿を黒き獣へと変貌させる。

 

「“お~~っと、ブルーノ選手、その身体を漆黒の虎へと変化させたぞ~!!メルルーシェ様、これは一体どういった事なんでしょうか?”」

「“はい、これは一部の獣人のみが使えると言われる“獣化”と呼ばれる力だと思われます。

獣人族はその身に魔獣の力を取り込んだ種族と言われています。そして先祖である魔獣に近しいほど大きな力を発揮するとも。

そうした意味で有尾獣人たちは大きな力を発揮する事が出来ると言われています。ですが極稀に先祖の力そのものを発揮する事の出来る者が現れるんです。それが“獣化”でありブルーノ選手の姿なのです。

過去には獣狼族の英雄が“獣化”の力を使い、フログ草原域の獣人種族を統一したという記録が残っています”」

 

“グォーーーーーーーー!!”

ブルーノの上げる激しい咆哮がコロシアムに轟く。その身から溢れる強大な魔力と覇気、それは通常の魔獣には決して見ることの出来ない“獣化”した者ならではの力。

 

“シュタンッシュタンッシュタンッシュタンッ”

漆黒の巨体が走る、それは黒き弾丸、稲妻のような動きで標的を翻弄する。

 

“ズダンッズダンッズダンッズダンッ”

その体当たりは全ての防御を貫き、獲物に確実なダメージを蓄積させる。

 

多くの観客が思う、あの厄災には誰も勝てないと。それは彼我の開き、Sランクの魔物には誰も勝つ事が出来ない様に、目の前に突如現れた超常の化け物に勝てる者など存在しないのだと。

 

だがそんなある種の恐れがコロシアムを支配する中、ジミーは密かに口角を引き上げる。

“あぁ、懐かしい”と。

 

ジミーの故郷オーランド王国辺境にはある魔物が棲んでいた。その名は大福、デカスライムとも呼ばれたその魔物は、ジミーたちマルセル村の子供にとって良い修行相手であり絶対的な壁であった。

そしてそれはジミーたち子供たちばかりでなく、村の最強格と呼ばれる父ヘンリーや剣の指導者であるボビー師匠にとっても大きな壁として立ち塞がる様な強者であった。

その強者である大福と同じくマルセル村の守護獣と呼ばれる地這龍の様な緑と黄色、そんな三体相手に大立ち回りを繰り広げるマルセル村の最強ケビンお兄ちゃん。

冬の草原に鳴り響く激しい打撃音、巨大魔獣の襲撃と緊張感を持って集まった草原で見せ付けられた頂上の戦い。

 

“俺はケビンお兄ちゃんにどれくらい近付けたんだろうか”

 

“シュタンッドガンッ、シュピンッドゴンッ”

ジミーは思う、あの時の大福の速さはこんな物ではなかったと。

あの時の緑と黄色の打撃の重さはこんな物ではなかったと。

 

「<鬼打ち>!!」

“ドゴーーーン”

 

迫る弾丸に対しカウンターで柄打ちを放ったジミー。思わぬ反撃に自身の乗せた攻撃の勢いをそのまま身体に打ち込まれ、弾き飛ばされるブルーノ。

 

「ブルーノ、確かにお前は強くなった。その動き、その技、どれをとっても一流だったよ。

だが一つ、その新たに手に入れた力はまだまだだったようだな。

練度不足、力に振り回されて制御が甘い。いくら強大な力であろうとそれを使いこなせなければ格下に負ける事もある。

そんな暗黒大陸の常識も忘れちまったのか?

彼我の差は歴然、それがどうした?お前は俺が何者か忘れたのか?

俺はジミー、武勇者だ。明らかな強敵に笑いながら挑む狂人、それが武勇者。

さあ来い、最強。お前のその力、俺に喰らわせろ!!」(ニチャ~)

 

“グォーーーーーーーー!!”

“ブォーーーーー”

 

それは怒りか、恐れか。叫び声にも似た咆哮を上げた厄災から、強大な漆黒の魔力が吹き上がる。

その身は大きく膨れ上がり、確実な死となってジミーに迫る。

 

「この世は夢、全ては(まぼろし)。実体はなく、それは流れる力の塊が見せる一抹の幻影。

<龍王一閃“鬼切り”>」

ジミーの放った一振り、それは音を置き去りにした静寂の世界を作り出す。

 

“パリンッ”

何かが弾け飛ぶ、そして世界に色と音が帰って来る。

 

“ドサッ”

 

“““““ウォーーーーーーーーーー!!”””””

闘技舞台に倒れ伏すブルーノ、コロシアムに割れんばかりの歓声が響く。

 

「勝者、ジミー選手!!」

審判の手がジミーに向けられ、ジミーはゆっくりと残身を解いていく。

 

「フゥ~、ブルーノの奴、強くなってたな。次やり合ったらどうなることか、本当に楽しみで仕方がない」

ジミーはこれからも成長を続けるだろう好敵手の存在に、緩む口角を押さえられないのであった。

 

―――――――――

 

「クッ、あの馬鹿虎、何でこんな所で負けてるのよ!!周囲を圧倒出来る程の力、獣人族の特性を最大限に引き出すように調整した“万魔の腕輪”を使用した者が負ける?あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ない、あれは本人の能力を何十倍にも引き上げる魔導アクセサリー、こんな事があっていいはずがない、私の完璧な計算が~!!

この事態、エカテリーナ様に一体どう報告すれば」

 

そこは関係者特別観覧席の一つ、先程まで行われていた準々決勝第四戦を見守っていた女性が、その結果に激しく動揺し取り乱す。

 

「セリカ主任、何か報告する事はあるかしら?」

その声はそんな混乱に陥る女性の背後から掛けられた。

 

「エ、エカテリーナ様、これは、その・・・」

セリカ主任と呼ばれた女性は、急な上司の登場に言葉を詰まらせ身を震わせる。目の前にいる者はサキュバス族の長にして魔導の頂点。魔術軍、魔導軍、魔兵器軍を統べる魔王軍四天王魔導将“妖艶のエカテリーナ”。

 

「フフフ、そんなに怯えなくてもいいわよ。何もあなたを処断する為に足を運んだわけじゃないんだから。

魔王様は“万魔の腕輪”の成果に大変満足なさっておられたわ。魔王軍騎士兵団の新兵程度しか力を持たぬ者を、僅か一年で副官クラスまで引き上げたことは評価に値するとのお言葉よ。

以降も研究を進め量産体制に入る様にと仰られていたわ、おめでとう」

 

エカテリーナからの予期せぬ言葉に一瞬呆けた顔を見せるセリカ主任。

 

「ありがとうございます、エカテリーナ様。このセリカ、魔王アブソリュート様の為に誠心誠意研究に邁進いたしたいと思います!」

席を立ち大きく礼をするセリカ主任に満足そうに頷くエカテリーナ。

 

「では早速研究に入りなさい。暫くは魔導研究所から帰れないわよ、覚悟しなさい」

「はい、望むところです。では失礼します」

 

エカテリーナに一礼をしその場を下がるセリカ主任。

 

「フフフ、若い子は単純で扱いやすいわね。

それにへたにうろつかれると困るのよね~、使える子はちゃんと確保しておかないと。

終末の始まり、そんな事はどうでもいいんだけど、誰もいない荒野で支配者面するってのもね。どの道御方様には誰も逆らえないんだし、勝ち馬に乗るのは当然、精々いい夢見させてもらわないと。

さて、私も準備準備、忙しくなるわよ~♪」

 

魔都総合武術大会の裏で蠢く思惑、その始まりは、刻一刻と迫っているのであった。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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