転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第506話 魔都総合武術大会、二日目 (4)

「クックックックックッ、アッハッハッハッハッ、凄い凄い、よくそこに気が付いたね、普通相手の呼吸なんかに目が行かないよ?

しかもこの僕について来れるってのも最高、どんな身体能力をしてるんだい君は。

ドルイドから参戦依頼を受けた時は正直だるかったけど、どうしてどうして、巨人族ドーバンと言い君と言い、中々に楽しませてくれるじゃない。

よし、決めた。追加報酬は君の身体を貰う事にしよう。

なに、君は中々良い身体をしているからね、ちゃんと使ってあげるから安心して。

アハハハ、本当どこでどんな出会いがあるのかなんて分からないよね」

 

そう言い歪んだ笑みを浮かべるダレリアン。

だが観客席の多くの者たちは、ダレリアンが何を言ってるのか理解出来ず、ただ呆然と事の推移を見詰める。

 

「・・・あぁ、そういう事ですか。昔ケビンお兄ちゃんから聞いた事があります、依り代を求める化け物の話。

俺が子供の頃、自らをリッチエンペラーと名乗る化け物に襲われそうになった事があるんですよ。その化け物は追い掛けて来た賢者様に封印されたって聞きましたが、そいつの狙いが新しい依り代、子供の頃の俺だったそうです。

ダレリアンさんの中の人も、そういった類のものなんですか?」

 

「クックックックッ、アッハッハッハッハ、本当に凄いよ君は。まさか初見でそこまで見抜くとは、これまでそんな人物には会った事がないよ。

技の切れ、身体能力、そしてその頭脳、完璧だよ君は。

ジミーって言ったかな?最初は君もコレクションの一体に加えようと思っていたけど気持ちが変わったよ、君はメインに添えてあげる。

僕はね、()()()()()の力を十全に使う事が出来るんだよ。リッチたちみたいに取り付いて依り代にするのとは違って、完全に君のまま僕になる。しかもメンテナンスも完璧、君は永遠に老いる事もなく死ぬこともない、お互いにとってこれ以上ない関係だと思わない?

なに、意識が途切れるのはほんの一瞬、君が僕を受け入れてくれるというのなら一切の痛みを与えない事を約束するよ?」

 

ダレリアンの提案、それは自身の新たな入れ物になれというもの。ジミーはジミーとして生きる、そこに他者の意識の介添えを自覚する事はない。

齎される恩恵は永遠の若さと命、寿命の恐怖からは解放され、心置きなく研鑽に励めるというもの。

これはダレリアンの中の者にとっては破格の提案である。ジミーをメインに添えるという事は、実質的にジミーが不死者になることを意味するのだから。

 

「ハァ~、ダレリアンさん、いえ、“中の人”と呼んだ方がいいですかね。

俺は“中の人”がアンデッドであろうがそれとは違う何者かであろうが正直どうでもいいんですよ。

ただ己を高めたい、強い者と戦いたい、その為なら他の事はあまり気にしない。武勇者とはそうしたどこか頭のおかしな連中の事ですから。

 

でもあなたは違う、ダレリアンさんは正しく武勇者であったのかもしれませんが、中身のあなたはそうではなかった。

あなたが真に武勇者であったのならダレリアンさんを抜けて俺に移ろうなどとは思わない、ダレリアンさんの身体を駆使し、俺との戦いを楽しんだはずだ。であったのなら俺は何も言わないし関わろうとも思わない、強者は多ければ多い方がいい。

 

だがお前は駄目だ。強者の身体を手に入れながらも強者になり切れなかった未熟者、己を磨き更なる高みを目指す事を端から諦めた弱者。

そんな者を棲まわすほど、俺の身体は安くない」

 

「ハッ、こちらが下手に出ていれば生意気な。まぁいい、どうせお前の身体も記憶も僕のものになる。これほど素晴らしい出会いも滅多にないからね、気分がいいから許してあげるよ。

でも君は素直にいう事を聞きそうもないし、少しばかり痛い思いをするのは諦めてね?

大丈夫、どんなケガでもちゃんと修復して使ってあげるから。僕は自分の持ち物を大事にする方だからね」

 

“スパンッ、ダダダダダダダダダダダダダダダダッ”

それは目にも止まらぬ速さの連撃、先程までの激しい攻防がまるで遊びだったと言わんばかりの瞬速の動き。

 

「アッハッハッハッ、如何した如何した、大口を叩いた割りには防戦一方じゃないか。そんな事じゃ制限を外したダレリアンに簡単に負けちゃうよ?“シュパンッ”

えっ?」

 

“ドサッ”

それは刹那、瞬きよりも早く振るわれた一振りは、ダレリアンの身体を上下に切り裂き、その動きを完全に停止させる。

 

「う~わ、本当に凄いね。それっていつだか鬼人族の者が言っていた“居合切り”って奴?あまりの速度に気付いた時には切られてるって話だったけど、アレって誇張でもなんでもなく本当だったんだね。

でも残念、君も気が付いてると思うけど、僕はこれくらいじゃ止まらないよ?」

“ズボッ”

 

その光景は異様の一言であった。切り裂かれたダレリアンの胴体と下半身から白い何かが伸び、互いに絡み合う様にして元の身体を取り戻したのである。

 

「アハハハ、いや~、死んだ死んだ。これだけあっさりと殺されたのは久しぶりだよ。本当に君って凄いよね、花丸あげちゃう。

それじゃ続きと“スパスパスパスパスパスパッ”」

“ドシャドシャドシャドシャ”

 

瞬間ジミーの身体がブレたかと思うや、複数の塊に切り刻まれたダレリアンがその場に崩れ落ちる。

だがそれもつかの間、再び白い何かが全体を包み、元の身体に戻るダレリアン。

 

「もう、せっかちだな~。そんなんじゃ女の子にもてないぞ?

まぁ気の済むまで挑戦するのはいい事だけどね、その方が絶望も大きいし?

これまで培った自信が音を立てて崩れていく、ダレリアンも最初は頑張ってたんだけどね、あの絶望感に満たされた表情は最高だったよ」

 

「そうか、ダレリアンは最後まで諦めなかったんだな。絶望するまで挑戦した、ならばダレリアンも本望だろうさ。

決して突き崩せない壁に挑み続けることは苦しい、先の見えない戦い程魂を削るものは無いからな。そういう意味ではお前は最高で最悪の敵と言えるだろう。

そんなお前に俺なりの答えを送ろう。<千剣乱舞“乱散万華”>」

 

“バババババババババババババババババババババババババババババババババババババ”

それは瞬速の更に先、神速とでも呼ぶべき剣技。とめどなく振るわれる木刀はダレリアンの身体を文字通り千万の肉片に変え、飛び散る白い花となった何かは、闘技舞台に咲き乱れる。

 

“フフフフフ、アハハハハ、いや~、ここまで徹底的に殺されたのって初めてかも、なんかこう執念のようなものを感じちゃうよね。

どう、満足した?満足しちゃった?

俺ってつえ~とか思っちゃったりしてたのかな?

 

でも残念、まだまだ終わってないんですね~。僕はこれくらいじゃ終わらない、ほらほら、もっと頑張らないと~♪”

 

それは心に直接響く声音、コロシアムの観客たちは目の前の信じられない状況に思考が追い付かず、声もなく額から冷たい汗を流す。

 

「フゥ~~~、そうだな。確かにお前の言う通り、今の俺の剣技ではお前の領域には届かない様だ。存在どころか魂までも切り裂く剣技、いつかその領域まで辿り着きたいと心底思ったよ。

審判に聞きたい、大会規則的にこの勝負は俺の負けか?それとも勝ちか?」

 

「えっ、はい。ダレリアン選手は不定形生物、不死属性の持ち主であると考えられます。その為大会規定上アンデッド種族と同等とみなされ、ジミー選手の横薙ぎにより胴体が切られた段階でジミー選手の勝利となっています」

不意に投げ掛けられた質問に一瞬戸惑いを見せるも、気丈に答えを返す審判。

 

「そういう事だダレリアン、そこから先の戦いは完全に俺とお前の私闘、俺の身体を狙うお前を俺が切り刻んだだけの事。

これは試合でもなんでもない、互いの尊厳を掛けた命の奪い合いって事だ」

“え~、そこまで難しく考えなくてもいいのにね~。ジミーは僕の新しい“着替え”、大事に使ってあげるから安心しなよ。

じゃあちょっとの間お別れだね、直ぐに自分の意識に戻るから安心して、決勝戦も頑張ってね”

 

何かがそう告げるや白い塊がジミー目掛け襲い掛かる。

 

「そうだな、ここでお別れだ。<収納>」

“パッ”

 

ジミーの呟き、姿を消す白い何か。

 

「審判、ダレリアン選手のご遺体はどうしたらいい?もっとも肉片の塊となってしまってはいるのだが」

「は、はい。係りの者に申し付けていただければ、後はこちらで対処いたしますので。

勝者、ジミー選手!!」

 

告げられた勝敗、だがコロシアムの観客たちは何がどうなっているのか全く判断が付かず、一人控室に戻って行くジミーの後ろ姿を、ただ見守る事しか出来ないのであった。

 

――――――――

 

「うん、なんかとんでもない相手だったね。寄生型の粘体生物?エイジアン大陸だったら完全に討伐対象の魔物扱いなんだろうけど、流石はレイスやスケルトンが街中で働く暗黒大陸、懐が広いよね~」

「はぁ?イヤイヤイヤ、ありゃ完全に化け物だろう、対戦相手に寄生しようとしちゃ駄目だろう」

 

俺の言葉に否定の返事を向ける副ギルド長。でも魅了の力を持つサキュバスやリッチエンペラーみたいな人物が魔王様の側で四天王なんかしてらっしゃるんですけど?

だったらあんな化け物でも市民権を持ってるのかなって。

 

「確か昔Sランク指定を受けた化け物に、さっきの奴みたいな粘体生物がいたはずだ。いつの間にか指定解除されてたから魔王軍が主体となって討伐したと思ってたんだが、どうやら違っていたらしい。

何らかの取引を行って取り込んでいた?あの化け物を討伐する難しさと被害を考えれば、それも致し方が無かったのかもしれないが・・・」

 

腕組みをし眉根を寄せる副ギルド長。魔国国民の安寧を願う冒険者ギルド上層部の者としては複雑な気持ちなんだろう。

 

「ところで一つ気になったんだが、最後ジミーは一体何をしたんだ?急に化け物の姿が消えてしまったんだが」

「あぁ、あれは恐らく収納の魔道具を使ったんじゃないんですか?」

 

俺の答えにキョトンとした顔になる副ギルド長。

 

「イヤイヤイヤ、収納の魔道具って、<収納>は生き物を仕舞う事が出来ないだろうが」

そう、収納の魔道具には生物を仕舞う事が出来ない。これはこの世界の者にとっての常識。

 

「えぇ、でも植物や食品は仕舞う事が出来ますよね。例えば雑菌だらけの腐りかけの肉でも<収納>は可能、但し収納された生き物は死んでしまう。薬草を採取して収納した後土に植えてもそのまま枯れてしまうし、切り花を一度収納してから花瓶に差しても、水を吸い上げる事なく枯れてしまう。今回ジミーはそれを利用したんです。

ジミーが収納したのはダレリアン選手の遺体だったんだとおもいます。

細切れにした御遺体はあの粘体の中にまんべんなく混ざり合った、そしてそれは食べ物に広がったカビのように共に収納の中に収まった。粘体は菌類ですからね、キノコやカビと一緒で収納可能、でも収納した途端死んじゃうんですが。

あの粘体もまさかこんなやり方で殺されるとは思ってなかったでしょうね、流石ジミーです」

 

俺の言葉に目を見開いたまま固まる副ギルド長、「まさかこんなやり方が」と呟いておられます。

俺はそんな副ギルド長をよそに席を立つ。

 

「白、ちょっと野暮用が出来た。なるべく早く終わらすが閉会しても俺が帰って来なかったら先に宿屋に帰っておいてくれ。

副ギルド長、色々お世話になりました、お陰で大変楽しく武術大会を観覧する事が出来ました。またいつかお会い出来ましたらその時は食事でもご一緒しましょう」

そう言い部屋を出る俺に慌てた素振りを見せる副ギルド長。

 

「ケビン、一体どこへ行くっていうんだ。お前の事はゼノビア様からくれぐれも面倒を見る様にと頼まれているんだよ、ちょっと待て!」

「あぁ、副ギルド長、今の兄弟子を止めようとしても無駄だぞ?

兄弟子はああ見えて過保護だからな、弟のジミーの命が狙われているってのにそれを見過ごす訳がない。

あのカビも馬鹿だよな~、大人しく武術大会を楽しむだけだったらこんな事にはならなかったって言うのに、よりによって兄弟子の弟ジミーを標的にしちまうんだもんな」

 

「何を言って、あの粘体はジミーが始末したんじゃ・・・」

「副ギルド長、甘い甘い。あの手の奴がこの事態を想定しない訳がない。試合中ジミーも言ってたけど、あの粘体は武勇者でもなんでもない。武勇者は粘体が入り込んでいたダレリアン選手であって、粘体には自らの命を賭けて戦いに挑む気概なんかこれっぽっちもありはしなかった。

そう言う奴は大概逃げ口を用意してるんだよ。

それがどういったものかまでは分からないが、兄弟子はそれを潰しに行ったんだと思うぞ?

まぁ後は兄弟子に任せておけばいいんじゃないのか?」

 

白雲の言葉に動きの止まる副ギルド長。

“こいつらは一体どこまで事態を見通しているんだ”

メルルーシェが“大人しくしていてくれ”と懇願し、魔王軍四天王ゼノビア様が面倒を見るようにと真剣な顔で頼んでくる人物たち。

副ギルド長ウインダムは全身に鳥肌が立つのを感じ、その身をブルブルと震わせるのであった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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