「いや~、本当にありがとうございました。お陰で私たちの里も救われました。こちらは依頼報告書でございます、ブラックウルフの群れ討伐依頼の完了、確かに確認させて頂きました。
大したものではございませんがお料理のご用意がございます、是非召し上がって行ってください」
「これはありがたい。いくら武勇者とは言え偶にはうまい飯も食いたいからな。流石に魔物の肉に塩を振りかけただけの炙り焼きだけでは飽きが来る。
里長殿のお気持ち、ありがたく受け取らせてもらう」
深い森に囲まれた集落、そこはこの暗黒大陸における危険地帯。だがそんな場所にも人は集まり、暮らしを営む。
襲い来る魔物に立ち向かい、畑を耕し、森の恵みを享受する。
だが何事にも限度がある、ブラックウルフの群れの脅威は里の存亡にかかわる一大事。
そんな危機に駆け付けてくれた勇気ある救いの手、尚且つその脅威を取り除いてくれた者を遇さない者などいるのだろうか。
集落の物は皆一様に笑顔で武勇者の勇気を称え、感謝の目を向ける。
武勇者はそんな者たちの気持ちに笑顔で応えながら、フォークに刺した料理を口に運「はいそこまで~、危ない危ない、本当に駄目だよ?ここは暗黒大陸なんだから、ちょっとした油断が命取りなんだからね?
いくら依頼が上手く行ったからってやたらなものを口にしちゃうってのはね~、世の中には危険感知に引っ掛からない毒なんて山ほどあるんだからね?
という訳で<浄炎>」
“ブォッ”
突如燃え上がるフォークに刺さった料理、その白色の炎はテーブルに並べられたすべての皿の上で燃え盛り、幻想的な光景を作り出す。
「なっ、貴様は一体!?」
咄嗟に席を立ち声のした方に身体を向ける。その手に既に抜き放った剣を握る辺りは、一角の剣客と言ったところか。
「あ~、食事中ごめんね、直ぐに終わるから。集落の皆さんは、この場に集まってる方で全部かな?そっちの里長さんのご家族はガッツリやられちゃってるけど、他はそこまででもないのかな?
それじゃ皆さん、おやすみなさい」
“バタバタバタバタ”
何者かの合図と共にその場に倒れ込む集落の者たち。
「貴様~!!「<影縛り>」!?」
突然の事態に咄嗟に原因であろう何者かに切り掛かろうとした武勇者は、自身の身体が身動き一つ出来ない事に驚きの表情を浮かべる。
「はいはい、ちょっと待ってね~。<広域浄炎浄化><広域治癒:エキストラヒール>」
“ボワァ~~~~~~”
集落の者たちの身体を白い炎が包み込む。そして彼らはバタバタと身を揺らしたかと思うと、そのまま動かなくなる。
すると今度は黄金色に輝く光が身体を包み、やがて穏やかな表情となって寝息を立て始める。
「これで良しと。ごめんね、何の説明もなく放置しちゃって。
えっと簡単に言うとこの集落の人たちって全員寄生生物に思考を乗っ取られてたんだよね、僕はその対処に動いてたって訳。
ただこれって行動が全く自然だから見た目区別が付かないんだよね、だからいくら説明しても理解出来ないって奴。
強引に事を進めたことは謝るけど、一応命の恩人だって事は忘れないでね?その料理も寄生生物に侵されてたんだから。
あと周辺の魔物も支配下にあったみたいだったんで、そっちは完全に討伐しちゃったから。辺りに被害はないと思うよ?
ただこの村を実質的に守っていたのもその寄生生物なんだよね、今後どうするのかは里長さんが目覚めたら聞いてみてくれる?寄生されている最中の行動は確り記憶に残っているみたいなんだけど、妙な感覚になってると思うから。
それじゃ僕はこれで、まだ仕事が残ってるんだよね」
そう言い何者かはまるで初めから誰もいなかったかのように姿を消す。
あとに残された武勇者は、構えた剣もそのままに額から流れる冷や汗を拭う事も出来ないのであった。
―――――――
あ~~~~、忙しい。マジでふざけんなよ粘体生物!!お前どんだけ寄生しまくってやがるんじゃい!
魔都総合コロシアムでジミーと死闘を演じた武勇者ダレリアン選手、だがそれは不定形の粘体生物に寄生された仮の姿だったってどこのSF映画?
なんか試合開始当初の意識はダレリアン選手のものだったみたいだけど、途中から中の人が顔を出しちゃうんだもんな~。スゲーいい試合だったのに邪魔するんじゃねえっての、“引っ込んでろ中の人”ってこういう時に使う言葉だよ、全く。
でもってそいつが白い粘体生物だったって言うね、古代超科学文明の遺産?スライムより意味不明なんですけど?
まぁそれはいいんだけど、案の定ジミーに向かって“お前の身体寄越せ”だもんな~。人に取り付いて普段着感覚で取っ替え引っ替えするって、意味解んない。
よくラノベや漫画で身体の中にとんでも存在が入り込んだり身体が乗っ取られたりってのがあるけど、アレってどうなんだろうか?
自分は自分として意識しているけど、それは果たして本当に自分なのか?いつでも停止されちゃう思考型ソフトウエア、いつの間にか考えや記憶が歪められていても気付く事も出来ない。
魅了や催眠による支配もそうだけど、自己を奪われるってのはね~。
聖茶で魔獣(人科)を強制的に改心・洗脳している俺がどうこう言える立場じゃないとは思うけど、気に食わないって思っちゃうのは仕方がない。
でもまぁそれがよそ様の事ならわざわざ首を突っ込む事でもなかったんですけどね、あの粘菌、言うに事欠いてジミーを狙うんだもん。これはほっとく訳にはいかんでしょう。
あの手のタイプはしつこいからな~。(例:草原の化け物・暗殺者ギルドの頭目“顔無し”)
そう言う訳で闘技舞台で戦っていた粘菌の魔力波長を頼りに暗黒大陸中に探知を掛けたんですけどね?各地に点在するする、拠点の様な場所から個人まで、人数で言えば千人超えてるでやんの。
そのほとんどが軽い寄生、いざという時の為のストックみたいなもの。状態もほとんど休眠中といった感じだったんで、内視鏡による腫瘍除去手術のごとく<浄炎>と<ハイヒール>でサクッと処理。(治癒魔法は残月に教わりました、俺って全属性行けますんで)
各拠点はさっきの集落みたいに被害者を増やす為の感染基地だったみたいで、ガッツリ入り込まれている人なんかが数名おられまして、確りと浄化処理を行わせて頂きました。
で、今俺がどこにいるのかと言いますと、先程の集落にほど近い山の中、石造りの遺跡のような場所の更に奥のですね・・・。
「う~わ、なんかびっしりこびり付いてるじゃないですか。ある意味古代神殿って感じ?祀られてるのは白い粘菌だけど」
“ハハハハ、正解。ここは古代の神殿で間違いないよ。もっとも僕を封印する為の神殿だけどね。
初めましてって言った方がいいのかな?各地で僕の端末を壊しまくってたのは君の組織って事でいいんだよね?
皆が同じ格好ってのもあるんだけど、そのフード、認識阻害効果があるのか顔が見えなくてね、誰が誰だか分らないんだよ”
何処からともなく心に響く声、これは念話。
「あぁ、すまないね。やってる事が周囲から見たら無差別襲撃だからさ、あまり堂々と行動できなかったんだよ。
一応暗黒大陸だとこの場所が最後かな?エイジアン大陸やどこかの島なんかに潜まれちゃってる場合はもうどうしようもないけど、粗方処分したし当面は問題ないと思うんだけど」
“そうだね、何をどうやって僕の場所を特定したのかは分からないけど、完全に追い込まれちゃったかな。
昔と違って上手くやっていたつもりだったんだけどな~。人々を争わせて遊んだりもしなかったし、どちらかと言えば恩恵の方が大きかったと思うんだけど?”
「あぁ、身体の修復や病気の除去、周辺魔物の排除だよね。
いや、大したものだと思うよ、この死が身近な暗黒大陸において、君と共存できたならどれ程生活し易かったか。
それを選択する人々が出ても僕は否定しなかったかな」
“だったら・・・”
「でもね、君は収集癖があるじゃない?ただ生き残る事だけを考えて大人しくしている事が出来なかった、人々の行動を追体験するだけじゃ満足できなかった、神の如き存在になろうとした。
そして何より、弟のジミーに寄生しようとした」
“グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”
それは荒れ狂う大河、突如津波のように溢れ出した強靭で強大な闇属性魔力がこの空間どころか周囲一帯の山々をも包み込む。
“アッ、アッ、アッ、アッ、御方様、あなた様とは魔将ドルイドを通じ協定を結んだはず。魔王軍に協力する事で私の存在は・・・”
「フフッ、残念だったね。僕はその“御方様”とやらとは別の存在、ただの弟思いのお兄ちゃんだよ?
君みたいな奴はしつこいからな~。でも僕は鬼じゃないからね、ちゃんと女神様の
“ブォーーーーー”
漆黒の闇の中を白き炎が吹き荒れる。森の木々、山の岩陰、地下水脈、領域内の全てを完全に覆い尽くし、穢れの一切を消し去って行く。
“アッ、アッ、アッ、僕は、ぼくは、ボクハ・・・”
「さて、これで終了。ってもう試合終わっちゃうじゃん、後は帰るだけじゃん、バンドリア選手とジミーとの死闘が~~~!!
粘菌の馬鹿やろ~~~~~~~~!!」
闇属性魔力の塊が消え去り清浄化された山の中に、青年の叫び声が木霊する。沈む夕日に照らされた青年の後ろ姿は、その若さにそぐわない程の哀愁が漂っているのでした。
―――――――――――
「「「「「かんぱ~い!!」」」」」
喧騒漂う宿屋の食堂、多くの者がエールを片手に楽し気な声を上げる。
「しかし凄かったな、バンドリアとジミーの戦い。まさに死闘、一瞬の隙も許さない攻防って、ジミーの奴何処まで強くなったんだよ。
両者とも大技なんかもあっただろうに、そんなものを繰り出そうものならその隙に仕留められちまうって程のぎりぎりの戦い。力と速さと技術と経験、その全てを煮詰めた様な戦いだったもんな、こっち迄身体が疼いて仕方がなかったぜ。って事でブー太郎、この後食後の運動でもしないか?武器は木剣で」
「嫌ですよ、白さん夢中になると我を忘れるじゃないですか。自分が意味が分からないほど強くなったって自覚を持ってください、ボビー師匠に剣技で圧勝ってどんだけですか、俺なんかギリギリの紙一重だったんですからね」
「そうね、白の事はボビーも手放しで褒めてたわよ、「努力を怠らない天才ほど始末に負えないものはない」とか言って。
でもなんか凄く嬉しそうだったし、また勝負してくれると助かるわ。
それとブー太郎、あなた最近村に顔を出さなさすぎじゃないの?農閑期に入ったら特訓だってヘンリーさんとボビーが言ってたわよ」
「マジですか、勘弁してくださいよ。俺は森のお店屋さんの店長って立場で十分満足してるんですから。
ケビンさんじゃないけどのんびり畑を耕してれば幸せなんですから」
「「「ブー太郎、諦めろ」」」
「なんでだ~~~~~!!」
続く笑い声、運ばれる料理とエール、大皿から立ち昇る旨そうな匂いが、ことさら楽しい気持ちにさせてくれる。
「お客さんお待たせ、大皿の料理は各々でよそってちょうだい。あら、今日はあの楽しい坊やはいないのかしら?」
「あぁ、ケビンさんならまだ仕事が終わってないんじゃないですか?直に戻ると思いますけど」
「そうなの?折角武術大会を見に来たって言うのに、仕事だなんて残念ね。ってあなたウインダムじゃない、冒険者ギルドの副ギルド長がこんな所で何やってるのよ、それこそ仕事はどうしたのよ、仕事は」
「よう、ナタリア。宿屋が繁盛している様で何よりだ。旦那ともうまく行ってるみたいだし、元同僚としては嬉しい限りだよ。
で、仕事は今も継続中だ。この連中のお守をゼノビア様から言い付かってな、ギルド長には話を通してある。
だからこの通り、エールで我慢してるだろう?」
そう言いさり気にお代わりの注文をする副ギルド長。
「はぁ?ゼノビア様からの依頼って、あなた達ってば実はすごい方々だったりなさるのですか?」
「ブフォッ、女将さん、言葉使いがおかしいですよ?
それと俺たちは別に偉くも凄くもないですから。しいて言えば今ここにいない兄弟子の実の弟が、武術大会で活躍したジミーです」
「え~~~~~、あのジミー様の!?
爽やかな王子様でありながら獰猛な内面を併せ持つ究極のイケメン、サキュバス族を視線で孕ませる男ジミー様の御兄様って・・・。
全然似てなくない?
それにどちらかと言えばジミー様の弟がケビンの坊やのような」
「「「「「ブフォッ、アッハッハッハッハッハッ、女将さん、それ言わないであげて、本人目茶苦茶気にしてるから!!」」」」」
堪らず噴き出す一同、皆腹を抱え笑いだす。
「悪かったな、弟みたいなお兄ちゃんで。俺だってな、エイジアン大陸に戻れば青年扱いして貰えるんじゃい。暗黒大陸の連中が大き過ぎるんだ~~~~!!」
そんな騒がしいテーブルにひょっこり顔を出した話題の人物に、「あっと、お客様にお料理をお出ししないと、忙しい忙しい」と言ってそそくさと姿を消す宿の女将。
「ジィーーーーーーー」
「「「「「すみませんでした、調子に乗ってました!!」」」」」
ケビンの視線に一斉に頭を下げるマルセル村一同。
ケビンは大きなため息をついてからテーブルに着くと、見る事の出来なかった決勝戦の様子について話を聞くのでした。
本日一話目です。