転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第508話 魔都総合武術大会、二日目 (6)

「“ある者は欲した、己こそが最強であるという証を。

ある者は欲した、その手に掴み取れる地位と名声を。

ある者は欲した、自身に相応しいだけの財産を。

その思い、理由こそ違えど全ての者たちが目指した遥かなる頂。

魔都総合武術大会、その勝利者が今ここに。

 

龍人族“常勝無敗のバンドリア”、武勇者“千剣のジミー”

数ある戦いを勝ち抜いた両者の魂が、熱い火花を散らす時!!

決勝戦、バンドリア選手対ジミー選手、それぞれの入場だ~~~!!”」

 

“““““ウォーーーーーーーーーー!!”””””

観客の魂の叫びが、コロシアムを揺らす。

これは御前試合、魔国の長・魔王アブソリュートの見守る中、二人の(おとこ)が闘技舞台へと昇る。

 

「よう、ジミー、随分と御機嫌みたいじゃねえか」

「あぁ、バンドリア。聞いたよ、魔都の闘技場では暴れまくってたそうじゃないか。“常勝無敗のバンドリア”、話を聞いた時はもっと早く魔都に来るべきだったと後悔したくらいだよ」

 

「ハハハ、そいつは残念だったな。でもジミーの事だ、鬼人族の里でも暴れまくったんだろう?」

「まぁな。鬼人族忍びの里、下忍・上忍・御屋形様、守護獣の霊亀様を含め皆まとめてぶっ飛ばしてやったよ。あれは楽しかったな~」

 

「ブフォッ、お前そんな事してたのかよ、相変わらず狂ってるな~。

でもまぁ武勇者なんて大なり小なりそんなもんだよな。強い敵と戦えれば他はどうでもいい、嫌いじゃないぜ、その考え方。

魔王軍四天王には空将“豪炎のジークバルト”っていう龍人族の英雄がいてよ、俺もいつかあの人みてえになりたいと思っていたんだがよ。

でもなんか違うんだわ、俺は一軍を率いる将じゃなく一介の武人として頂きを目指している方が性に合うっていうかよ。

 

ジミー、お前に負けてからの数カ月、目茶苦茶ムカつくが悪くなかったぜ。言ってたよな、俺は弱いと、自分の事を理解しようとしない本能に従う事すら怠った愚か者だと。

確かにそうだ、龍人族最強と褒めそやされ誰にも負ける事はないと驕り高ぶっていた。そして“豪炎のジークバルト”に憧れながら自分では敵わないと思っていた。

おかしいよな、龍人族最強ならたとえ相手が魔王軍四天王であろうと勝てると豪語しないでどうするってんだよ。所詮俺はお山の大将でしかなかったって事だ。

 

ジミー、俺はこの戦いが終わったら武勇者になって暗黒大陸中を巡るつもりだ。戦って戦って戦って、名実ともに最強の男として君臨してやる。

その旅の最初の獲物はジミー、お前だ。手前だけはぜってえぶっ飛ばす!!」

 

「ハッ、言うじゃねえか。だったら俺も宣言しよう、俺はこの世界を旅する冒険者になる。そして数多くの冒険の中で研鑽を積み剣の道の頂に立つ。

その旅の最初の獲物はバンドリア、お前だ」(ニチャ~)

 

“ゴウンッ”

両者の発する激しい覇気が、闘技舞台を包み込む。

審判の手が上がり、互いの緊張がピークに達する。

 

「はじめ!!」

それはほぼ同時であった。まるで示し合わせたかのように舞台中央に走り込んだ二人。

 

“ドゴーーーン、ドゴンッ、ドゴンッ、ドゴンッ、ドゴンッ、ドゴーーーン”

ジミーもバンドリアも、これまでのような手数による勝負ではない、一撃一撃が掠っただけでも致命傷になる様な必殺の一振り。

剛と剛、力と力、意地と意地。

それは嘗て龍人族の集落で行われた拳による戦いの焼き直し。

回避も牽制もいらない、持てる力の全てを賭けて互いの魂をぶつけ合う。

 

“““““ウォーーーーーーーーーー!!”””””

「「「「「バンドリア、バンドリア、バンドリア、バンドリア」」」」」

「「「「「ジミー、ジミー、ジミー、ジミー」」」」」

 

観客は立ち上がり力の限り声援を送る。それは二人の戦いの熱が、自身の魂に火をつけたから。

嘗て暗黒大陸に渡って来た先祖たち。エイジアン大陸に居場所を失った彼らは凶暴な魔物蔓延る暗黒大陸で命を賭け戦い、仲間と家族を守り、そうやって今日まで命を繋いできた。

自分達の身体に流れる血は、エイジアン大陸から逃げて来た逃亡者の血などではない。この大地で戦って戦って戦い抜いた、偉大なる戦士たちの血であると。

 

技巧を凝らした技の応酬もいいだろう、戦略・戦術を凝らした戦いもいいだろう、種族の特性を生かし、奇想天外な戦いを行うのもいいだろう。

だが最後に残るのは単純明快、力と力のぶつかり合い!

 

「アッハッハッハッ、やっぱりジミーだ、そう簡単にどうこう出来る相手じゃねえわな。

止めだ止め、やっぱり武器を持った戦いは俺の戦いじゃねえ。俺は俺の道を行く、手前は手前の道を行け!!」

“ドックンッ、ドックンッ、ドックンッ、ドックンッ”

 

突如手に持つ武器を闘技舞台下に放り投げたバンドリア、だがそれは決して勝負を諦めた訳ではない。観客の耳にまで届くバンドリアの鼓動の音が、彼の決意を物語る。

 

「“我が名はバンドリア、龍人族の戦士にしてドラゴンの末裔。我は我が血に命令す、その真なる姿を我に齎せ。

我が名はバンドリア、ドラゴンの戦士なり”」

 

それは“真言”、己の魂に訴えかける絶対の誓い。バンドリアの誓い、それは闘争への思い、何者にも負けぬという己の信念。

 

“ゴボッ、ゴボゴボゴボゴボ”

そしてバンドリアの思いは形となる。その身に流れるドラゴンの血は、魂の叫びに応えるかのようにバンドリアの肉体を変貌させる。

 

“ガァァァァァァァァァァァァァ”

それはドラゴン、身の丈五メートルはあろうという肉体は、巨人族ドーバンをも超える迫力を以ってジミーを威圧する。

 

「クックックックックッ、アッハッハッハッハッ。バンドリア、やっぱりお前こそ最高の戦士だよ。

俺はずっと夢見ていたんだ、遥かな昔、ドラゴンに挑んだ男たち、彼らと同じ舞台に立ちたいと。

だが今の自分は決してその高みには立てていない、それは今もなお立ちはだかり続ける大きな壁が教えてくれる。俺はそんな自身を打ち破りたくてこの暗黒大陸にやって来た。

 

この大陸は素晴らしい、多くの戦いと多くの出会いが様々な成長を与えてくれた。

そしてバンドリア、お前はそんな俺の夢の欠片を叶えてくれた。

お前はドラゴンの戦士、ならば俺は剣士ジミーとして、全力を以って応えよう。

“我が命ここにあり、我は我が肉体の主にして真理。今存在の全てを解放せん”、<覇魔混合>、対魔境剣術<金剛無双・明鏡止水>発動!!」

“ゴウンッ”

 

ぶつかり合う覇気と覇気、魔力と魔力、激しい力の濁流がコロシアムの全てを押し流す。

 

「武勇者ジミー、己の全てを賭して、推して参る!!」

“グッガァァァァァァァァァァァァァ”

 

“ドガドガドガドガ、ズゴッ、ドガドガドガドガ、ズドンッドガドガドガドガ”

目にもとまらぬ大迫力の攻防、バンドリアの拳と尻尾による砲弾もかくやと言う重爆攻撃は、堅牢に何重もの魔法により守られた闘技舞台の石畳を激しい破壊音と共に吹き飛ばす。

だがジミーはそんな死地にありながら獰猛な笑みを浮かべ、向けられた攻撃の全てを時に躱し時に受け流し、川面の木の葉のごとく回避する。

そしてわずかな隙を見つけては体格差をものともしない打ち込みを行い、その巨体を切り崩しに行く。

 

「アハハハハハ、流石バンドリア、呪いを受け弱体化した霊亀なんかとは比べ物にならん。その力を完全に制御しきっているからこそのドラゴン化、ただ強大な力を手に入れただけのブルーノとはものが違うという事。最高だ、最高だぞバンドリア。

もっとだ、もっと俺に喰らわせろ!!」

“グッガァァァァァァァァァァァァァ”

 

“ズドーーーン”

“グホッ”

遂にバンドリアの拳がジミーを捉える。ジミーは飛びそうになる意識を必死に堪え、癒しの覇気でその身を回復させる。

 

「ウォーーーーーーー!!」

“ブオンッ”

“ドゴーーーーン”

 

透かさず振るわれたバンドリアの尻尾、ジミーはそれを待っていたとばかりに渾身の振り抜きで吹き飛ばす。

 

“ギヤァーーーーォ”

ジミーの一撃はバンドリアの尻尾を切り裂き、舞台の下へと飛ばして行った。だが直後振るわれたバンドリア渾身の拳が、ジミーの側面を捉える。

 

“ドゴーーーーン”

“グホッ、ベキベキベキベキ”

激しい打撃音と共に聞こえる複数の骨が砕け散る音。ジミーは錐揉(きりも)み状に吹き飛ばされ、崩壊した闘技舞台に叩き付けられる。

 

“グホッ、ドボドボ”

口から飛び出す大量の血液、自身の内が大きく傷付いている事は言われずとも分かっている。

 

「ハハハ、バンドリアの奴、強くなり過ぎだろうが。

ここまでやられるのは久しぶりだよ、これで死んだらケビンお兄ちゃんに怒られるかな。ミッシェルちゃんに会えなくなるのは寂しいよな、ヘンリーお父さんは黙って見送ってくれそうだけど。

メアリーお母さんは・・・“ブルブルブル”、駄目だ、絶対に死ねない。

それじゃ最後のあがきと行きますか」

 

ジミーはふら付きながらも木刀を杖代わりに何とか立ち上がると、歪む視界にバンドリアを見据える。

 

「バンドリア、お前は強い、本当にな。だからこれが最後のあがき、俺の残りの全て、手前にぶつけてやるよ。

“我が心、ここにあらず。我が身体すでに無。故に空。

我は剣、我が目指す頂は理不尽の彼方”」

 

ジミーは思う、“このバンドリアよりも遥かに強い戦闘状態の大福に勝つケビンお兄ちゃんって一体。やはりケビンお兄ちゃんは理不尽な存在だ”と。

 

“ガァァァァァァァァァァァァァ”

舞台上のジミーが満身創痍である事は誰の目にも明らかであった。

だがバンドリアの拳は立ち上がった獲物を決して逃がしはしない。情けをかける事、それは戦士に対する侮辱以外の何ものでもないという事を知るが故に。

戦場で立ち上がる事、それは戦意を示す行為。ならばやることは一つ、全力で叩き潰すのみ。

迫る拳、ジミーの命運が尽きようとした、まさにその時。

 

「<龍王一閃“鬼切り”>」

“バシュン”

 

龍が駆ける。瞬きの瞬間、一体の龍がドラゴンを貫き、天高く舞い上がる。

 

“ドシャーン”

崩れ去る巨体、闘技舞台の上では、一人の人物が木刀を振り抜いた姿勢で佇んでいる。

 

「勝者、ジミー選手!!」

“““““ウォーーーーーー!!”””””

 

あまりに壮絶な戦い、あまりに意外な結末。魔都総合コロシアムに詰め掛けた観客たちは、立ち上がり声を張り上げ、勝者の栄光を称える。

ジミーは収納の腕輪からハイポーションを取り出すと、震える手で蓋を開け、一気に飲み干した。

すると身体全体が淡く光を帯び、全身から鳴りまくっていた痛みの警鐘が、引く波の様に消えていくのだった。

 

ジミーは数回掌を握ったり開いたりすると、「よし」と声をだしてから、バンドリアの下に歩を進める。

 

「よう、バンドリア。未だ意識があるとは流石だな」

「・・・・・・」

声を掛けられたバンドリアは、悔しげに視線をジミーに向ける。

 

「そう睨むなよ。俺の一振りはバンドリアの芯を貫いた、正直生きてるだけでも驚きの状態なんだぞ?

でだ、バンドリアに特製のポーションをと思ってな。

龍人族の戦士が誰かの手で運ばれて行くってのもちょっとな。最強の種族は、たとえ敗北しようとも颯爽と去っていくってもんだろう?」

 

そう言うとジミーは収納の腕輪から七色に輝くポーション瓶を取り出し、膝を曲げる。

 

「!?」

「ハハハハハ、怖くない怖くない。す~ぐ楽になるからな~」(ニヤ~)

 

得体のしれないポーションに焦るも、ピクリとも動かない身体ではそれを拒む事すら出来ない。そんなバンドリアの心を知ってか知らでか、悪そうな笑みを浮かべながらポーションを口の中に注ぎ入れるジミー。

その効果は直ぐに現れた。ポーションを口に含んだパンドリアの身体は全体に光を帯びるや見る見るうちに縮んで行き、尻尾の生えた元の状態に戻ったのである。

 

「グッ、余計な事をしやがって。大体なんださっきのポーションは、得体のしれないものを飲ませるんじゃねえ!!」

「お~、バンドリアちゃんは元気ですね~。流石は龍人族、回復力も半端ないって事ですか。

でもまぁ今日はもう勘弁してくれ、正直俺は限界だ」

 

「クックックッ、ダセーな普人族。まぁいい、今の俺は気分がいいからな、勘弁しておいてやるよ」

バンドリアはそう言うやガバッと起き上がり、制止する救護員を無視して出口に向かい歩きだす。

 

「ジミー、もっと強くなれよ。獲物は強ければ強い方がいい、武勇者とはそうした者なんだろう?」

「クククッ、そんなセリフが言えればお前も立派な武勇者だよ。狂人の世界へようこそ、次はもっと余裕で倒して見せるさ」

 

交わす視線、自然と口角が引き上がる。

 

「観客に手ぐらい振ってやれよな、それが勝者の務めだ。あばよ」

バンドリアは振り返らない、その意識は既に次なる戦いに向けられる。

ジミーはそんな強敵()の後ろ姿を見送ると、大きく手を振り観客の声援に応える。戦いの余韻と掴み取った勝利を噛み締めながら。

 

――――――――

 

“パンッパンッパンッパン”

魔都総合武術大会魔王観覧席から勝負の行方を見守っていた魔王アブソリュートは、戦いを終えた勝利者に賞賛の拍手を送る。

 

「剣将ゼノビア、大会の勝者を魔王城へ。賞金並びに副賞の授与は謁見の間にて執り行う。ドルイド、晩餐会の準備は済んでいるか?」

「はい、魔王様。全て恙無く」

 

「では行け、新たなる英雄を迎え入れるのだ」

「「「「ハッ、全ては魔王様の御心のままに」」」」

 

一礼の後その場を下がるゼノビア、その後ろ姿を残りの三将が冷たい目で見送る。

 

「その様な顔はするな、あれはこれまでよく働いてくれた。ただ不要分子はいらぬ、それだけの事」

“ブワッ”

魔王アブソリュートの身体から漆黒の闇が漏れる。それは魔力が具現化したような、質量を持った暗黒のナニカ。

 

「新たな手駒は決まった、今宵終わりが始まる。

時は今、各自行動に移れ」

「「「ハッ、御方様の御心のままに」」」

 

蠱毒は成った、捧げられる贄は決した。魔王アブソリュートは眼下で未だ観客に喜びを伝える贄の姿に、浅くほくそ笑むのだった。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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