転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第509話 終末の始まりを告げる者

魔都総合武術大会、魔国最大のお祭りは、ドラゴンと化した龍人族バンドリアを武勇者ジミーが討ち取るという劇的な結末で終わりを迎える事となった。

そしてその激戦を勝ち抜いた勝者、魔国で一番強い者として総合武術大会の歴史に名を刻んだ武勇者ジミーは、魔王軍四天王“絶剣のゼノビア”に案内され、魔王城の来賓室へと赴いていた。

 

「しかしあの状態のバンドリア選手を下すなんて、コロシアムの実況席から見ていましたがいまだに信じられない思いですよ」

来賓室では後から駆け付けた魔王軍騎士兵団副官メルルーシェが、大会での驚きと感動を熱く語る。

 

「そうですね、あの勝負はまさに紙一重でしたから。正直俺自身バンドリアに勝てた事が信じられないと言うか、未だに実感が湧かないと言うか。

だってドラゴンですよ、本物のドラゴンを見た事が無いので何とも言えませんが、ドラゴン化したバンドリアはその片鱗を実感できるほどの化け物でしたから。

そんなドラゴンに三日三晩の戦いを挑んだ剣の勇者様って、絶対狂ってますよ。どんな人生を歩んだらそんな無謀な事が出来るんですか、勇者病<極み>って奴ですか?理解出来ませんっての」

 

そう言い自身の身体を抱きしめる様にして両腕を摩るジミー。総合武術大会が終わり、時間が経つにつれ冷静さが戻ってきたジミーは、先程まで戦っていたドラゴン化したバンドリアの恐ろしさを噛みしめるように身を震わせる。

剣を握り敵に立ち向かうジミーは確かに一流の剣士であり、暗黒大陸中の者が憧れる武勇者である。

だが彼は未だ授けの儀の前の少年であり、辺境の寒村で育った十二歳の男の子ジミーでもあるのだ。

 

優秀な剣の師に師事し、大きな背中の元金級冒険者の父親に育てられ、共に切磋琢磨する理解ある友人に囲まれ、越えられない壁として君臨する魔物やその飼い主である兄の姿を見て育った。

そんなある種恵まれた特殊な環境で育ったとはいえ、実社会にもまれていた訳でもない十二歳の少年が精神的に大人になりきれる訳もなく、総合武術大会の各試合で浴びせられた精神的な重圧は、確実にジミーの心を疲労させていたのである。

 

「ハハハハ、いや、すまん。あまりにもジミー殿が立派であった為に忘れていたが、ジミー殿は授けの儀を前にした少年であったのだったな。

暗黒大陸を回って武者修行をするなど、本来であれば無謀を通り越してただの自殺行為。だがジミー殿はその成果を文句の付けようのない形で示してくれた。

魔都総合武術大会の優勝とはそれ程の偉業、その疲労はポーションなどで癒せるものではない。

表彰式も日を改めて行えればよかったのだが、こればかりは勝利者の義務と思って諦めて欲しい。式典後のパーティーではなるべく私もジミー殿の補佐に回ろう。

メルルーシェ、お前も頼めるか?」

 

ジミーに言葉を掛けたゼノビアはその偉業を褒め称えつつ、ジミーの負担が少しでも軽くなるようにと気を配る。

 

「ハハハハ、ゼノビアさん、メルルーシェさん、お気遣いありがとうございます。

話は変わりますが、その革のチョッキってもしかして」

「あぁ、今日の式典はジミー殿の晴れ舞台だからな。このチョッキに袖を通すにはいい機会だと思ってな。メルルーシェとお揃いだ」

 

見ればそそくさとチョッキを着込みどや顔を向けるメルルーシェの姿。そんな二人の心遣いに、ジミーの表情も自然と笑顔になる。

 

「まぁジミー殿は大会優勝の副賞でもあるあの甲冑を着込まないといけないんですけどね」

そう言いメルルーシェが目を向けた先には、魔国の匠の手によって作られたであろう重厚な全身鎧が飾られている。

 

「俺って速さ重視なんで、こういった動きを阻害するような装備はちょっと。どちらかと言えば軽鎧の方がいいんですが」

「そう言うな、これも優勝者の義務と思って表彰式の間は我慢してくれ。それにその甲冑は魔道具にもなっていて、着用者には着込んでいる事を感じさせない程軽くなると聞いている。

装着も一々着替えるのではなく鎧に触れる事で瞬時に行えるとか。式典でへまをしないように今から着込んで動きを確かめてみてはどうだ?」

 

ゼノビアの言葉に「それもそうですね」と甲冑に手を伸ばすジミー。ジミーが鎧の胸のあたりに手を添えた次の瞬間、淡い光が甲冑とジミーの身体を包み込み、まるで手品の様に一瞬にしてジミーに装着される。

 

「・・・・・」

甲冑を身にまとったジミーは掌を見詰めながら握る開くを繰り返したり、屈伸や軽くジャンプをしてその使用感を確かめる。

 

「ジミー殿、どうかなその装備の付け心地は。はた目からはまるで軽装の服でも着ているかのように軽やかで滑らかな動きに見えるが」

「・・・あぁ、全く問題ない。むしろ生まれ変わったかのように身体が軽く感じる。これならば今まで出来なかったような剣技も使えそうだ」

 

そう言い軽くステップを踏むジミーの姿に瞠目するゼノビア。

その軽やかで鋭い踏み込みは自身には再現できない領域のもの、それを軽々と熟すジミーという少年に戦慄を覚える。彼はこの先どこまで成長していくのかと。

 

“コンコンコン”

「ゼノビア様、メルルーシェ様、皆様がお待ちです。式典が行われます謁見の間までお願いいたします。

武勇者ジミー様は後程お迎えに上がらさせていただきますので、しばらくの間こちらの御部屋でお待ちくださいます様お願いいたします」

 

案内の執事により掛けられた声に、ゼノビアとメルルーシェは部屋を後にする。

 

「それではジミー殿、後ほどな」

「ジミー殿、何も緊張する事はありません。総合武術大会の決勝戦に比べたらなんと言う事もありませんので」

 

「・・・・・」

それぞれに言葉を残しその場を離れる二人。部屋に一人残された甲冑姿のジミーは再び軽く身体を動かしたのち満足そうに頷きを見せると、席に着き静かに執事の呼び掛けを待つのであった。

 

―――――――――

 

「闘技場中央、互いの力の限り石剣と木刀をぶつけ合う両者。それは武器を使った戦いではあった、だがその光景を見る者は幻視したに違いない、拳に己の全てを乗せ殴り合う(おとこ)たちの姿を。

「止めだ止め、やっぱり武器を持った戦いは俺の戦いじゃねえ。俺は俺の道を行く、手前は手前の道を行け!!」

突如そう宣言し自身の石剣を舞台下に投げ捨てたバンドリア選手。

“ドクンッ、ドクンッ”、観客席からでも確かに感じる彼の鼓動。

「“我が名はバンドリア、龍人族の戦士にしてドラゴンの末裔。我は我が血に命令す、その真なる姿を我に齎せ。

我が名はバンドリア、ドラゴンの戦士なり”」

それは龍人族の里に伝わるとされる“真言”という技術。己の肉体と魂に対する明確な意思表明。

“ゴボゴボゴボゴボ”という音を立てみるみる内に巨大化して行くバンドリア選手。目の前で引き起こされる奇跡、その時観客は目撃する事となる。

古の伝説に謳われるドラゴンという存在が真実であるという事を。

バンドリア選手は身の丈五メートを超すドラゴンの姿となってジミーの前に立ち塞がったのであった~~~~!!」

 

「「「「「ウォ~~~~~~~~!!」」」」」

 

宿屋の食堂の一角、多くの料理が並べられるテーブルで席を囲むマルセル村一行と副ギルド長。

やむを得ない事情により武術大会決勝戦を見る事が出来なかったケビン君は、観覧なさっていた皆さんにその時の様子をお聞きしていたんですけどね。

何その光景、某少年漫画の対決シーンもかくやといった胸アツ展開じゃないですか、強敵(てき)と書いて友と読むって奴じゃないですか~!!

ブー太郎先生の身振り手振りを交えた素晴らしい語りに食堂の皆さん方も大興奮、決勝戦の時の光景を思い出したのか一緒になって歓声を上げていらっしゃいます。

って言うか皆さんバンドリア選手が巨大ドラゴンに変身したところをご覧になったと!?

 

「「「「凄い迫力だった、一生の思い出になった!!」」」」

「うぎゃ~~~、なんでだ~~!!なんで俺はその場にいなかったんだ~~~~!!」

 

両手両膝を突き食堂の床に倒れ込む俺氏。もう駄目だ、終わった、何もかもが終わった。

 

「まぁまぁ落ち着け兄弟子。この後バンドリアドラゴンとジミーとの壮絶な戦いが始まるんだが、その様子じゃ話さない方が「聞きます、是非お聞かせください白雲先生!!」・・・相変わらず欲望一直線だな、兄弟子」

瞬時に顔を上げ、椅子に座る白にキラキラした目を向ける俺氏。白が呆れたような視線を送って来ますがそんな事は知った事ではありません。

だって巨大ドラゴンと化したバンドリア選手と武勇者ジミーとのガチンコ対決ですよ?まさに英雄譚の一節、そんな話聞きたいに決まってるじゃないですか!!

 

そして再び始まる講談師ブー太郎先生の講演会、食堂のお客さんたちも食事の手を止め皆聞き入っておられます。

 

「バンドリア選手の拳を受けたジミーは満身創痍、既にいつ倒れてもおかしくないといった状況でも最後の意地とばかりに立ち上がり、うつろな瞳をバンドリア選手に向けながら呟いた。

「バンドリア、お前は強い、本当にな。だからこれが最後のあがき、俺の残りの全て、手前にぶつけてやるよ。

“我が心、ここにあらず。我が身体すでに無。故に空。

我は剣、我が目指す頂は理不尽の彼方”」

ジミーは最早空っぽになった己に言い聞かせるように、絞り出すように、魂の最後の炎を燃やし尽くし必殺の一振りを繰り出した。

「<龍王一閃“鬼切り”>」

その一撃はまさに駆け抜ける龍の如く、バンドリア選手の芯を打ち抜き動きの一切を奪い取る。

“ドシャッ”

倒れ伏した者、かろうじて堪える者。静まりかえった闘技舞台には、勝者が一人佇むのであった~!!」

 

「「「「ウォ~~~~~~、カンパーイ!!」」」」

各テーブルで打ち付けられるカップ。エールの追加注文の声が飛びまくる。

 

「カ~~~~ッ、羨まし~~~。何その最高の試合、どんだけ金貨を積めばそんなものが見れるのよ、歴史に語り継がれる名勝負じゃん、見れなかった俺、この先ずっと後悔するの?それってなんて拷問?」

「「「「「ケビン、ドンマイ!!」」」」」

 

「ギャ~~~!!」

「「「「「アッハッハッハッハッハッ」」」」」

 

頭を抱えもだえ苦しむケビンの様子に、腹を抱え笑い転げるマルセル村一行。そんな彼らの姿に、食堂の他の客たちも楽しげに笑い声を上げる。

 

「アッハッハッハッ、悪い悪い。俺たちが楽しんでる最中ケビンは一人例の粘菌?とやらの対処に当たってたんだったよな。

どうだ、魔都にそいつの痕跡でも見つかったのか?」

副ギルド長ウインダムは落ち込むケビンを慰める様に話題を変える。

 

「あぁ、あれっすか?なんか千人を超える人数に寄生してましたね。(ほとん)どが予備というか休眠状態だったからいいんですけど、幾つかの拠点の連中は頭の中枢までしっかり支配されちゃってて、対処が目茶苦茶面倒でしたよ。

そんで粘菌の本体って言うか司令塔みたいなのがどっかの山の中の遺跡みたいなところにいましてね、そいつを焼却処分して終了です。

 

暗黒大陸には他に反応が無かったんで、これで一応の終了かな?エイジアン大陸に分体が残ってるなんてことになったらどうしようもないですけどね、こればっかりは個人の出来る範疇を越えてますから、それこそ勇者様のお仕事でしょう」

 

「「「「「イヤイヤイヤ、勇者でもそこまで徹底的な対処は出来ないから」」」」」

何故か全員からツッコミを喰らう俺氏。イヤイヤ、それこそ勇者様ならこれくらい余裕でしょう、何と言っても勇者様ですし、ある意味ジェノサイダーだし?

世界各国に呼びかけての殲滅戦はお手の物ではないかと。

俺が一人納得いかないといった表情をする中「やっぱりこいつどうにかしないと駄目だ」的なことを仰る皆さん、解せん。

 

「!?どうした太郎、別にいいけども。<出張:太郎>」

太郎からの突然の<業務連絡>を受け、行き成り<出張>による魔物召喚を行った俺に訝しみの表情を向けるマルセル村一行。

食堂の床に広がる光る魔法陣、急な事態に慌てるその場の人々。

 

“ズズズズズズ”

そして魔法陣の中心からテーブルを押しのけ現れる漆黒の魔獣って太郎、デカいから、小さくなれ小さく!!

 

「あっ、皆さんすみません。こいつ俺の従魔ですんで、危険性はないですから。

女将さん、このお金で皆さんにお酒をふるまってもらえます?あと料理も」

俺は急ぎ収納の腕輪から魔国金貨を十枚取り出すと女将さんに手渡します。効果はてき面、怒鳴り声を上げようとした女将さんは周りのお客さんに指示を飛ばし、テーブルを片し始めるのでした。

 

「で、太郎どうしたのよ?行き成り“緊急事態です、そっちに呼び出してください”だなんて言って」

俺が訝し気に声を掛けると、太郎は自身の影を伸ばし、そして・・・。

 

「はぁ!?メルルーシェ、それにゼノビア様!?一体何が・・・」

驚きに大声を上げる副ギルド長ウインダム。彼の向ける視線の先には床に膝を突き肩を押さえ血を流すメルルーシェさんと、左腕を失い腹部を真っ赤に染めて倒れるゼノビアさんの姿があるのでした。

 




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