“カツンッ、カツンッ、カツンッ”
重厚な造りの石畳の廊下を、威厳ある雰囲気を纏った甲冑姿の者が歩む。
前を行く執事が足を止める。そこは重々しい造りの扉の前。
執事が扉脇に下がり、その場を守る屈強な二人の兵士が、ゆっくりと扉を押し開いて行く。
“ギギギギギギッ”
開かれた先に広がっていたもの、そこは荘厳な造りの謁見の間。
その場に集まる者たちは一様に視線を送り、甲冑姿の者の一挙手一投足に意識を向ける。
「魔都総合武術大会優勝者、武勇者ジミー様、お入りになります」
係の者の声が謁見の間に響く。名を呼ばれた者、武勇者ジミーは一歩また一歩と確りとした歩みで、部屋の中央に敷かれた赤い絨毯の上を進んで行く。
部屋の最奥、数段上がった壇上には一人の人物が玉座に座り、そんな武勇者ジミーの姿を見下ろす。
“タンッ、タンッ、タンッ、タンッ、タンッ”
壇上まで数メートルという地点で武勇者ジミーは足を止め、片膝を突き頭を垂れる。
「武勇者ジミー、この度の戦い誠に見事であった。その勝利を祝し、金貨二十万枚を与えるものとする。
また副賞として“剣王の甲冑”、“勝者の
壇上から掛けられた声に脇に控えていた係の者が紫色の布地の上にロングソードを乗せ、恭しい態度で武勇者ジミーに近づいて行く。
武勇者ジミーは立ち上がりロングソードを受け取ると、音も無く剣を引き抜き天に向け大きく掲げる。
白銀に輝く美しい刀身、それは紛れもなく総ミスリル製のもの。会場の者たちはその妖しい輝きに息をのみ、拍手を以って栄光を称えるのだった。
「武勇者ジミーよ、以降その名を“シルバリアン”と改め、我が剣として、魔王軍の将となり我に仕えよ」
「ハハッ、この“シルバリアン”、御方様に絶対の忠誠を」
剣を鞘に納め再び片膝を突き忠誠を露にする“シルバリアン”。
その場に居合わせた剣将“絶剣のゼノビア”と副官であるメルルーシェは、ジミーの予想外の行動に唖然とし、動きを固める。
「皆の者、今ここに新たなる我が臣下が生まれた。これは我が世界を正しい姿に生まれ変わらせる戦いの始まりに過ぎない。
この世界は本日この時を以って終わりを迎える。
新たなる世界は我が下に作られる。創造には破壊が、栄光には絶望が。全ての絶望は我が力となってこの世を覆い尽くす。
終わりの始まり、世界を絶望と恐怖に染め上げるのだ!!」
「「「「「オォーーーーーーーー!!」」」」」
支配者の宣言、それは世界に向けての大侵攻の開始を告げるもの。だがそれは嘗てその者が行おうとしていたものとは
「なっ、魔王アブソリュート様、それは一体。全世界に向けて戦いを挑みその悉くを滅ぼすなどと、そのような事を行えば魔国の民はこの先全世界の敵として、女老人赤子を含め最後の一人に至るまで執拗に狙われ続けてしまいます。
此度の侵攻ももとはと言えば魔国の力を示し各国を交渉の席に付かせる為のもの。
なにとぞご再考を!!」
剣将ゼノビアは普段の無条件に魔王アブソリュートに付き従う盲目的な態度からは一変、膝を突き発言の撤回を求める。
それは今の宣言が嘗て魔王アブソリュートから聞かされていたものとは真逆のものであり、魔国の安寧を心から求める敬愛すべき主のものとは決して思えないものであったからである。
「ゼノビアよ、その方はよく仕えてくれた。長年傍にあり、この“魔王アブソリュート”の成長に大きく貢献して来た事は誰の目にも明らか。その献身、評価に値する」
「ま、魔王様。そのような勿体なきお言葉、このゼノビア、生涯の誉れとして・・・」
「これまで本当にご苦労であった、後の事は新たなる剣将“シルバリアン”に任せ、絶望を抱えて眠れ。
その魂から生まれる闇の力は我をさらに強くする。これより魔都の全ての民は我が贄として生涯を終えるのだ。その手立てもすべて整った。
光栄に思うがいい、ゼノビアよ。これから貴様らは永劫の時を我の為に捧げ続けることになるのだからな」
“魔王アブソリュート”の視線が傍に控える魔導将エカテリーナに向けられる。エカテリーナは妖艶な微笑みを浮かべると、何かの合図を送るかのようにスッと右手を掲げる。
「エカテリーナ、貴様一体何を!?」
「ゼノビアちゃん、ごめんなさい?私ってば負けると決まった勝負はしない主義なの。
いま魔都全域に大結界を張らせてもらったわ。これで何をどうやってもこの地から逃れることは出来なくなった、それは魔力も同じ。人々の恐怖、怒り、絶望、恨みから生まれた濃厚な闇属性魔力はここ魔王城に集められ、全て“魔王アブソリュート”に注がれる。“魔王アブソリュート”は全ての闇属性魔力を集積する回収装置。そして全ての闇属性魔力は強力な破壊の力として“魔王アブソリュート”に還元される。
この流れはもう誰にも止めることは出来ない、世界の終わりは既に決定されてしまっているのよ」
エカテリーナの言葉に、何を言われているのか理解出来ず狼狽するゼノビア。
「クックックックッ、剣将“絶剣のゼノビア”ともあろうものが無様だの。もっともそんな風だからこそ貴様は切られたのだがな?
これから始まるは我が不死の軍団の宴、ここ魔都は我らアンデッドの母なる大地となるのだ。
未来永劫消える事のない永遠に呪われた大地、これほど愉快な事はないわ。カッカッカッカッカッ」
「貴様ら、それでも魔国の将か、臣民無くして何が将か!!
ジーグバルト、お前はこのような事を放置すると言うのか。魔王様を諫めるのも臣下の務めではないのか!!」
「はぁ?寝ぼけたこと言ってるなよ、ゼノビア。俺がいつアブソリュートの下に就いたよ。俺は常にアブソリュートを倒す為だけにこの場にいたっての。もっとも今はどうでもいいけどな。
今の俺は自身の力を思う存分振るえればそれでいい。世界が敵なんざ燃えるじゃねえか」
空将“豪炎のジーグバルト”は拳《こぶし》を打ち付け、獰猛な笑みを浮かべる。
「クッ、メルルーシェ、この場は一度“バサッ”「キャー」貴様ら、メルルーシェに何をするか!!」
それはその場を警護していた警備の兵による袈裟斬りの一振り。
急ぎ駆け寄ろうとするゼノビア、だが。
「シルバリアン」
「ハッ、“御方様”」
“シュンッ”
ゼノビアがシルバリアンの横を通り過ぎようとした瞬間、まさにその一瞬であった。
“スーーーーッ、カチンッ”
ゆっくりと鞘に仕舞われる剣。
“ボトッ”
床に落ち音を立てる何か。
「えっ!?」
“バシュッ”
噴き出す鮮血、それは自身の左腕があった場所、そして。
“クッ、ドサッ”
崩れ落ちる膝、見れば腹部が赤く染まっているのが分かる。
「シルバリアン、見事だ。誰ぞその不要物を片付けよ」
「「ハッ」」
警備の兵士が動き出そうとした、その時であった。
“ブーーワッ”
突如シルバリアンの影が大きく伸び、ゼノビアとメルルーシェをその中に飲み込んだのである。
「
魔将ドルイドが放った無数のダークランスが影を襲う。だが影は突如姿を消し、その場には床に突き立つダークランスだけが残る。
「・・・そこだ」
“スパンッ”
“ガヒュンッ”
撃ち放たれたシルバリアンの一振り、それは剣撃となって離れた位置にいる何者かを切り裂いた。
「ブラックウルフ、いや、フェンリルか?もしやシャドーウルフとの間に生まれた特殊固体」
その場に現れたもの、それは漆黒の体毛を持つフェンリルの姿。
“パーーーッ”
突如床に光の魔法陣が現れる。黒きフェンリルはその魔法陣に潜り込むようにして姿を消すのだった。
「クッ、何者かに計画が漏れていた?武勇者ジミーに監視の目を潜り込ませていたという事か。
光る魔法陣、エルフの者どもが動いている?しかし暗黒の森にその様な動きは・・・」
「狼狽えるな、今更誰が何をしようとも何も変わらん。既に事態は始まったのだ。
ゼノビアが生き延びたとてどうという事があろうか。
終末の鐘を鳴らせ、世界に破壊と混乱を、その全てが我が力となる。
世界を我が手に」
「「「「「ハッ、全ては“御方様”の思し召しのままに」」」」」
終わりの始まり、この世は全てを闇で染める混沌の波に飲み込まれようとしているのであった。
――――――――――
・暗黒大陸で行われる魔都総合武術大会にジミーが出場すると、太郎より<業務連絡>が入る。
・マルセル村の皆さんと楽しく観戦、二日間に渡り大会を楽しむ。バンドリア選手最高!!クルン選手は夢の塊♪
・ジミーと対戦した粘菌がジミーの事を取り込むとか阿呆な事を抜かしてるので、その対処に奔走する。カビは根から枯らさないと駄目なのです。
・宿屋の食堂でマルセル村の皆さんと合流、バンドリア選手とジミーとの戦いの話を聞き、会場で見る事の出来なかった悔しさに涙する。粘菌の馬鹿野郎!!
・太郎から緊急事態発生との<業務連絡>が入り、<出張>召喚を行う。太郎の影空間から負傷したメルルーシェさんと瀕死のゼノビアさんが現れる。⇐(今ココ)
・・・まったく状況が分かりません。取り敢えず専門家を呼びましょう。
「<出張:残月>、状況は<業務連絡>で伝えたとおりだ。至急治療を開始せよ」
「了解、医療支援を開始します」
“ブワッ”
白色の炎が残月を包み込む。姿を変え白いローブに身を包んだ残月は直ぐに治療を開始する。
「こちらの患者は血が流れ過ぎていますね、<キュア>。ご主人様、この方に魔力譲渡は可能ですか?」
「あぁ、問題ない」
「では私がいいと言うまで送り続けてください。<コンスタントリカバリー>」
“ポワーーッ”
血まみれで顔色の悪かったゼノビアの身体を淡い暖色の光が包み込む。それと共に出血は止まり、肌の色に赤みが戻って行く。
「ご主人様はそのまま魔力供給を続けてください。<パーフェクトヒール>」
続いて青紫の光がゼノビアから溢れる。すると失ったはずのゼノビアの左腕が形作られ、徐々に生身の肉体へと姿を変えて行く。
「フゥ~、ご主人様、もう結構です、お疲れ様でした。しばらく状態を見る必要はありますが、命に別状はないかと。
続いてそちらの患者ですが、傷口以外にも強い衝撃で身体全体が歪められているようです。<キュア><パーフェクトヒール>
これで後遺症の心配はないでしょう」
「あぁ、助かった。引き続き影空間の別邸でこちらゼノビアさんの治療を頼みたい」
俺の言葉に「畏まりました」と礼をする残月。俺は残月とゼノビアさんを影空間に「うっ、うぅ、ケビン・・・殿」・・・。
呻くように声を出し、必死に目を開いてこちらに顔を向けるゼノビアさん。
「なんでしょうゼノビアさん、治療ならこの残月が「私はいい、魔王様を、アブソリュート様を・・・。助けてくれ、頼む・・・」」
ゼノビアさんはそれだけを伝えると、意識を失い目を閉じるのでした。
「太郎、何があった」
“グルルル、ガウ、グルルル”
「ジミーが甲冑を着て・・・。ふむ、まるで別人の様だった、そうなんだな?」
“ガウ”
「分かった、取り敢えず太郎はこのまま俺の影に入っていてくれ。どのみち一度<送還>をしないといけない。魔王城の謁見の間についたら<業務連絡>を入れる」
太郎は俺の言葉にコクリと頷くと、ヌルリと影に入って行くのでした。
「ケビン、これは一体・・・」
メルルーシェさんに寄り添い、身体を支えながら言葉を向ける副ギルド長。
「いや、俺にもさっぱり」
俺は取り敢えず宿の外に出て魔王城方面に目を向ける。するとやたら上空を飛ぶレイスの姿が目に映る。
「副ギルド長、武術大会の後って何か催し物でも企画されてたんですか?さっきからやたらレイスが飛び回ってるんですけど」
「いや、そんな話は聞いていないが」
「それと何か大きな結界の様なモノが張られてるんですけど、これって一体?」
「はぁ!?それこそ聞いてないんだが?」
俺は副ギルド長に顔を向け空を指差す。上空は薄っすらと光を帯び、そこに結界が張られている事が見て取れる。
「グゥッ、ウ、ウインダム。逃げて、魔王様が、不死の軍団が魔都住民を。この地は恐怖と絶望にまみれた死地になると・・・」
口を開いたのは床にしゃがみ込んでいたメルルーシェさん、その言葉はこの後に始まる死神による宴の始まりを知らせるものであった。
「副ギルド長、大変です!!魔都各地でアンデッドどもが住民を襲い始めました!
魔都の各街門は魔王軍により封鎖、アンデッド流出の恐れがあるとして誰一人として通す気配がありません。上空も同様、魔都全体を覆うように結界が張られ、誰も外に逃げられなくなっています。
至急ギルドに戻り指示をお願いします!!」
飛び込んできたのはギルドの受付嬢、魔都の状況はこちらの想像を遥かに超え、切迫しているようであった。
「う~ん、よく分からないけど、取り敢えず原因は魔王城にあるって事かな?
副ギルド長、ちょっとジミーの事が気になるんで行ってきますね。女将さん、状況が分からないんで今日の宿泊分の清算をお願い出来ます?」
「あぁ、気にしないでいいよ、行っといで。さっき貰った金貨で釣りが出るくらいだからね。
また魔都に来ることがあったら寄ってちょうだい、旨い料理でもてなしてあげるから」
そう言い女将さんはウインクをして笑顔を向けてくれます。うん、暗黒大陸の女性は格好いいわ~。
「よ~し、それじゃ行こうか。ブー太郎、お前は強制参加ね」
「言うと思いましたよ、ケビンさんの鬼畜!!」
彼らは陽気な雰囲気を変えることなく魔王城に向かって歩を進める。そんな勇気ある者たちの後姿を見送った冒険者ギルド副ギルド長ウインダムは、自身もその職務を果たす為冒険者ギルドへと走り出すのだった。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora