転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第511話 終末の始まりを告げる者 (3)

「「「キャーーーー!!」」」

「「「ヴォーーーーーーー!!」」」

 

魔都のあちこちから聞こえる喧騒、それは武術大会の余韻を味わう人々の興奮した騒めきから悲鳴へと変わる。

逃げ惑う者、剣を持ち立ち向かう者。

襲い来るは虚ろなる存在、アンデッド。

 

「この骸骨野郎が、わらわらとしつけぇんだよ!!骨なら骨らしく土に還りやがれ」

“ガシャンッ”

 

ロングソードを叩きつけらればらばらに砕け散るスケルトンたち、踏み潰された白い破片が路上に広がる。だが・・・。

 

「クソッ、また復活して来やがった。だから夜のアンデッドは始末に負えねえんだよ。「うゎ~~、クソッ」どうした!?

チッ、レイスだと、次から次へと」

 

魔国の者は皆精強である。強大な魔物蔓延る暗黒大陸において、守られるだけの弱者が生き残れるほどこの国は甘くない。

だが相手が尽きる事の無い命の持ち主であったら、倒しても倒しても直ぐに復活して来てしまう様な者たちだとしたら。

奪われて行く体力、生命力、削られる精神。

最初は魔都住民の方が優勢であるだろう、だが時間が過ぎて行けば。

焦る心、先の見えない戦い、常に死の恐怖に怯え追い詰められ続けて行く事の重圧。

なぜ自分がこんな目に遭わなければならないのか、このやるせない怒りを、恐怖を、絶望を。そんな思いが住民たちの心を支配し、負の感情を増幅させる。

 

「アッハッハッハッ、これよこれ、これこそ理想的な世界。血塗られ恐怖に怯える人々、もっとよ、もっとその表情を見せて頂戴。

熟成された負の感情がたっぷり詰まった血は、濃厚で味わい深いのよね。

ドルイド様最高、これまでお仕えして来て本当によかったわ~」

 

“ドガーーーン、ドゴーーーン”

スケルトンやゾンビを指揮し人々を襲わせるバンパイアやリッチキングと呼ばれる者たちが、闇の魔法を使い街を破壊する。

これまでひた隠しにし抑えていた欲求が一気に解き放たれるとき、それは強い破壊衝動となって魔都を飲み込んで行く。

夜を迎えた魔都を覆い尽くす不死の軍団、まさに彼らは悪夢そのものであった。

 

「うわ~、派手にやってるね~。あっちこっちで魔法がバンバン撃たれるわ、剣士は武技を飛ばすわ。潰しても潰しても尽きる事の無いサンドバッグが現れたら、ただでさえ暴れたくてウズウズしていた魔都の住民が止まらなくなっちゃうっての。

朝まで続くフェスティバル、今夜は眠れないって奴?」

 

「ケビン、なにのんきな事言ってるの。これって朝までどころか数十日から数カ月は続く勢いよ?

魔都を覆う結界だけど、結界内から人を逃がさないだけじゃなくて、外からの余計なもの、例えば日の光なんかを入れない効果もあるみたいだし。簡単に言えばアンデッドたちの攻撃は昼間だろうが結界が無くならない限り止まらないって事。結構よく出来た術式が組み込まれているみたいね」

 

大賢者シルビアの指摘に思わず“ウゲッ”と口から変な声が漏れる。

マジ物の殲滅作戦か何かですか?これ程の規模って事は、魔王軍が動いてる事は確実ですよね。魔王様はいったい何を考えてるんだか。

まぁ実際に会ってみればはっきりするとは思うんですけどね。

 

「兄弟子、魔王城が見えて来たんだが、なんか変じゃないか?全体的におどろおどろしいと言うか・・・」

「あぁ、あれは恐らく魔都を覆う結界内の闇属性魔力が、魔王城を中心として集められているからじゃないでしょうか?

あの魔王城自体、闇属性魔力を集積するある種の装置だったみたいですね。昔から闇属性魔力を回収してその力を利用しようという研究は様々な国で行われていたんですよ。ただその結果大規模な魔力災害を起こしてアンデッド蔓延るフィールド型ダンジョンが発生したりと問題も多く、私が生きていた頃には既にどの国も研究自体を禁止していたはずなんですが。

ここは暗黒大陸ですし、逃げ延びて密かに研究を続けていた者がいたのかもしれませんね」

 

賢者イザベルが白雲の疑問に答えを示す。闇属性魔力の回収を行う魔王城、一部の天使により産み出されたイレギュラーなシステム魔王である魔王アブソリュート。魔王アブソリュートは自身が闇属性魔力回収装置だという事を知っている?

嫌だわ~、なんか陰謀の臭いがプンプンじゃないですか~。

粘菌の件と言い、ゼノビアさんの件と言い、厄介事てんこ盛り?

俺はげんなりとした気分になりながら、襲い来るアンデッドどもをスルーして思惑渦巻く魔王城へと歩を進めるのでした。

 

―――――――――

 

「魔王陛下にご報告申し上げます。魔王城内を隈なく捜索いたしましたが、元剣将ゼノビアの行方は未だ判明しておりません。

おそらくですが魔都市街地に隠れたものかと思われます」

 

魔王城謁見の間に突如現れたシャドーウルフの能力を持ったフェンリルの変異種、武勇者ジミーの影に潜んでいた事から組織だった者たちの介入が疑われ、城内の一斉捜索が行われた。

だがフェンリルの姿はおろか、瀕死であるはずの元剣将ゼノビアの姿すら見つける事が出来なかったのである。

 

「御方様、これはやはりドルン氏族の者たちの介入ではないかと。

頭領であるザギラは個人武力はもとより周辺氏族をまとめ上げる程に組織運営に長けた人物。武術大会で負けたとはいえ、いえ、自身を下したからこそ武勇者ジミーに目を付け仕込みを行っていたと考えるのが妥当かと」

「ふむ、中々にして普人族も侮れないという事か。

だが幾ら諜報を仕込んでいたとはいえ既に事は成った。今この時も魔都中で生まれた負の感情が闇属性魔力を作り出し、その全てが魔王城に集まって来ている。

“魔王アブソリュート”の魂に蓄積された百年分の闇属性魔力、そこに新たなる力を加える事で我は完全なる姿を取り戻す。

この流れを止めることは最早不可能、世界の終わりを止めることは何者にも叶わない」

 

魔王城謁見の間、その玉座に座り魔都中から集まる闇属性魔力を一身に受ける魔王アブソリュート。その身から溢れる深き闇は、たとえ高位冒険者と呼ばれる者たちであろうとも触れるだけで死を招くほど、濃密で危険なものへと変質していたのである。

 

死を齎すもの、そう呼んでも差し支えない程の存在へと変わった魔王アブソリュート、そしてその配下である魔王四天王が揃う謁見の間。

 

「うん、ここが全ての元凶って事でいいのかな?」

 

そんな誰しもが恐れを(いだ)く様な状況で響く場違いな声に、その場の者たちの視線が向けられる。

 

「いや~、魔王城って広い広い、しかもそこいら中におっかない兵士さんが立ってるものだから、迷った迷った」

「貴様は一体何奴、この場を魔王様の御前と知っての狼藉か!!」

魔王軍四天王魔将ドルイドが眼窩の奥の光を強くし、声を荒げる。

 

「あっ、ちゃんと魔王様の所に辿り着いてたんだね。ほとんど魔力頼りでうろついてただけだからね、ちゃんと来れてよかったよ。

それで僕が何者かだったね、<業務連絡:太郎>“皆を連れて来てくれる?”<送還:太郎>」

 

ナニカが言葉を呟いた途端、床に現れる光輝く魔法陣。その中心からニュルリと姿を見せる漆黒の魔獣、更に魔獣の影が伸び、その中から複数の者たちが姿を現すのだった。

 

「その黒いフェンリルは、貴様は武勇者ジミーに諜報を仕込ませていたドルン氏族の者!」

「ドルン氏族?えっと、それって誰の事?僕たちは全く関係ないんだけど。

魔王アブソリュート様は僕の事を知ってると思ってたんだけど、ゼノビアさんからの報告で聞いてなかった?あの人生真面目だから絶対報告していると思うんだけどな。

それともあれかな、“御方様”は魔王アブソリュートと記憶を共有していても、意識までは同調出来ていなかったって事なのかな?」

 

ナニカの言葉にその場の緊張が高まり、周囲の空気が固まる。魔王アブソリュートから放たれる殺気は、それだけで相手の意識を奪いかねないほど強くなる。

 

「ほう、この魔王城に乗り込む胆力、その情報収集能力。ただのネズミではないという事か。

非常に興味深くはあるが、間が悪かったな」

「御方様、この場は俺に任せてはいただけないでしょうか。

空将ジーグバルト、今回の件ではまったくいい所がありませんでしたから」

 

そう言い前に出るのは龍人族の巨漢、身の丈三メートルはあろうというドラゴニュートであった。

 

「ふむ、ジーグバルトか。よかろう。ただお前が暴れるにはこの場は狭すぎよう」

“パチンッ”

 

魔王アブソリュートが指を鳴らす。すると突然空間が広がり、闘技舞台の倍近い広さの部屋に変わる。

 

「空間拡張魔法、便利というか器用というか。流石は魔王様の中の人?それじゃ一つ「兄弟子、ここは俺にやらせてもらってもいいか?」・・・白、あのトカゲの相手がしたいの?」

 

口を挟んだのはラビット格闘術皆伝白雲であった。

 

「悪いな兄弟子、そいつ、“豪炎のジーグバルト”だろう?ジミーが戦った龍人族のバンドリアが目標としていたっていう龍人族の最強。そんな相手と戦えるなんて機会、この先ないかもしれないからな」

 

そう言い獰猛な笑みを浮かべる白雲。魔都総合武術大会決勝戦、バンドリアとジミーとの戦いは白雲の魂に火を付けていた。白雲はこれまでそのうずく心をグッと我慢していたのである。

 

「ハンッ、俺は全員纏めて相手をしてもいいんだけどな。それとそのフェンリル、シルバリアンに切られたってのに平気な顔をしていやがる。普通はビビるもんだぜ、相当ざっくり切られてたからな?

って事はだ、そいつにとってあの程度はビビる程でもないって事なんだろう?

嬉しいじゃねえか、最近じゃ全力で戦えるほどの歯ごたえのある奴がめっきりいなくなっちまってつまらなかったんだよ」(ニヤリ)

 

ジーグバルトは両手を打ち鳴らしながら前に出る。白雲はそんなジーグバルトに対しても気負う事なく、自然体と言った様子で歩を進める。

 

“バッ”

先に動いたのはジーグバルトであった。その大きな身体を前傾に倒したかと思うや脅威的な脚力で一気に接近し、全体重を乗せた拳を振り下ろす。

 

“スルッ、ドゴーーーン”

だが白雲はその拳に手を添える様にして受け流すや、力を逸らされ重心の崩れたジーグバルトの胸部に肘打ちを叩き込むのだった。

 

「グフッ、チビの癖にやるじゃねえか。フェンリルとやり合う前にまずは手前をいたぶって楽しもうと思ったが気が変わった。全力で叩き潰してやる」

「あぁ、そうしてくれ。こっちも(ぬる)い戦いは勘弁なんでな」

 

「ぬかせーーーーー!!」

“ズバッズバッズバッズバッズバッズバッズバッズバッ”

 

その巨体からは想像も出来ない程のスピードの乗った拳による猛攻、その一撃一撃がレッサードラゴンですら消し飛ぶ様な威力に、大気が揺れ風切り音が唸りを上げる。

 

「チッ、ちょこまかとずばしっこいチビが!!」

だが白雲はそのどれをも回避し、決定打を打ち込ませない。

 

「そろそろこっちも行くぞ?ラビット格闘術<破撃>」

“ズバズドーーーン”

 

その動きは刹那、白雲は撃ち込まれる拳撃に合わせ蹴りを撃ち放ち側面から破壊、勢いもそのままに身体を回転させ、ジーグバルトの顔面を横薙ぎに蹴り飛ばしたのである。

轟音を立て吹き飛ぶジーグバルト、白雲は残身を取り反撃の一手に備える。

 

「クックックッ、チビが調子に乗ってんじゃねえぞ?

光栄に思えよ、手前らに俺様の真の姿を見せてやるんだからよ」

“ブワッ”

 

突如ジーグバルトの全身から溢れ出す強大な闇属性魔力、それはとめどなく膨らみ、ジーグバルトを異なる存在へと作り変える。

 

“グガァーーーーーーーーーー!!”

空間に響く絶対者の咆哮。それは畏れそのもの、単身で国を亡ぼすと言われる超常の存在。

 

“畏れ敬い、そして滅びよ。貴様らのような下等種が我に仇なす事の愚かさをその身に刻め”

 

漆黒の身体を持つ二十メートルはあろうかという巨大なドラゴンは、侵入者たちを見下ろし彼らの死を宣告する。

 

「・・・小さいな。まだ子供のドラゴンと言ったところか」

「ねぇブー太郎、ブー太郎の所のシャロンってもう少し大きくなかったっけ?」

「そうですね、頭一つ分以上は大きいんじゃないでしょうか。最近ダンマスに頼んで運動用の広い階層を作って貰ったんですよ。

グラスウルフ隊と一緒にダンジョンモンスターを追い掛けて走り回ってますね」

 

だが侵入者たちは恐怖に怯えるどころか、緊張感もなく場違いな雰囲気を作り出す。

 

“・・・愚かな、彼我の差も理解出来ないと見える。

まぁ良い、興味も失せた。消えろ”

 

“グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”

瞬間灼熱の炎が世界を染める。ドラゴンブレス、その理不尽な力が振るわれた時、この世の全ては塵となって消え失せる。

 

それはいつまで続いたのか。豪炎が周囲を燃やし尽くし、何もかもが消え失せた。そんな状況を作り出したドラゴンが興味なさげに視線を逸らした、その時だった。

 

「三枚は破られると思ったんだがな。二枚目で止まるって、ガーディンさんの足元にも及ばないドラゴンって一体・・・。

ラビット格闘術<飛燕乱脚>」

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド”

 

それは飛び交う燕のごとく、中空に足場を作り、蹴り跳ぶ事で縦横無尽に駆ける白雲の動きを捉えることは不可能。

なす術もなく振るわれた白雲の蹴りは、ドラゴン化したジーグバルトの肉体をもってしても耐えきれるものではなく。

 

“ズダーーーン”

床を揺らし倒れ込むドラゴン。その傍らでは鬼人族の青年白雲が満足気な笑みを浮かべ、「まずは一勝」と呟くのであった。

 




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