「グローク王宮剣技<武炎斬>」
炎を纏ったロングソードから繰り出される灼熱の斬撃。
「鬼神流剣術<大瀑布>」
上段から叩き付けられる打ち下ろしの連撃がケビンを襲う。
「千剣乱舞“胡蝶の舞”」
宙を舞う蝶の様な美しい剣筋が、目前の全てを切り刻まんと踊る。
“ズガンッ、ズガガガガガガガガ、ガキンッガキンッガキンッガキンッ”
どれ程の研鑽を積めば辿り着けるのかと言う洗練された剣技の数々、だがその全ては目の前の漆黒のコートを羽織ったナニカによって防がれる。
「うん、中々器用だよね。それぞれの剣技剣術には下地となる身体があり、積み重ね築き上げられてきた型がある。
強力ではあるものの一つの技を極める事に人生を費やし、他のものに手を出す余裕などないのが普通。剣士とは己の信じた道を取捨選択しながら進むもの。
そして君はそうした強者たちの全てを引き継いでいるといった事なのかな?
強き者に憑りつき支配し、その全てを吸収し新たなる宿主を探す。
後継者問題に悩む達人辺りに喜ばれそうな能力だよね、受けてみた感じ、それぞれの剣技も完全に使い熟せているみたいだし」
そう言い繰り出される技の全てを平然と受け流す目の前のナニカに、これまで感じた事の無い焦りにも似た感情を覚えるシルバリアン。
「貴様、一体何者だ。我が剣をまるで歯牙にもかけぬその余裕、有り得ん、有り得んぞ!!」
“シュタンシュタンシュタンッ、キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッ”
繰り返される打ち合い、振るう
「<未来予測>、もしくは<予知>。いずれにしても高いレベルでのスキルの運用とそれを有効化する為の身体操作。
ネタが分かればなんという事もない、それすらも超える剣を振るうのみ。
“万軍滅殺<砂嵐>”」
それは嘗て砂漠の国の武神と謳われた者が、万の兵をたった一人で打ち破ったとされる国落としの剣。その者の姿を視認する事が不可能な速度で振るわれる剣は砂嵐の如く、敵を飲み込み肉片へと変える。
“ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ”
激しく飛ぶ火花、マシンガンもかくやと言う斬撃は確実に敵を仕留める、その筈であった。
「うん、まぁこんなもんだろうね。分かってはいたけど、本当に残念だよね。
君の正体も大体わかったよ、君の本体はその甲冑そのもの、リビングアーマーと言ったところかな?
おそらくは相当な名工の品だったんだろうね、多くの戦場を巡り多くの血を吸い、何百年何千年と時を経て自我を得るに至った、元々魔道具の一種として作られていたのかもしれないけどね。
リビングアーマー自体はアンデッド系魔物として有名だし魔国では普通に活躍しているのかもしれないけど、君程確りとした意思を持ち剣の道に生きようとする者なんて他にはいないんじゃないのかな?誰が君を見出したのかは知らないけど、大したものだと思うよ。
神の武器、インテリジェンスウェポン、聖剣、聖鎧、そうしたものに匹敵する武具。素直に称賛の声を送ろう。
ただね・・・」
“ゴウンッ”
突如吹き上がる闇属性魔力、そのあまりの力に知らず知らず後退るシルバリアン。
「貴様は武術を舐めてるのか?剣技剣術にしろ、一人一人の身体に合った型がありその為の研鑽。達人と呼ばれる者が死ぬ間際まで自らの技を高めんと鍛錬を怠らぬ様に、絶え間ない修行の果てにはじめて頂は姿を現す。
貴様はその長き生で一体何を見て来た、何を感じて来た。
貴様の身に宿る技は収集家の飾りか?貴様は体感してきたはずだ、繰り出してきたはずだ。
その技の意味、動き一つ一つの繋がりを。
その鎧に包まれた者、武勇者ジミーは確かに優秀な肉体の持ち主であろう。だがそのジミーの身体に合わせ、馴染ませた状態での剣技を貴様は使えていたのか?
“身に付けてこその剣技”、その言葉の意味を真に理解出来ているのか?
そして今一つ、貴様は一体なんだ。武具であり身を守る鎧ではないのか?
武具とは主体となる人あってのもの、道具たる貴様が主体である人を振り回してどうするというのか。
人を支えより以上の力を発揮できる様にする事こそが、その身の本懐ではないのか。
貴様を鍛え造り上げし匠は、そう望んだのではないのか?
貴様と言う存在はただ単に甲冑に憑りついた武人の残渣の集合体などではない、一つの存在、意志ある武具として確立しているのだ。
“シルバリアン”、貴様は一体何物であろうとするのか」
シルバリアンはナニカの言葉に動きを止める。ただ強くなることを求められ造られし存在、御方様に見いだされ御方様の為だけにあることが自身の在り様だと思っていた。
「ふむ、こればかりは幾ら言葉で言っても伝わらないか。
何故僕がこうもイラついているのか、君も体感してみるといいよ。
“ジミー、いつまで寝てるんだ、いい加減に起きろ。メアリーお母さんに言いつけるぞ?”」
ナニカが発した言葉、それは直接魂を揺さぶり、眠れる存在を目覚めさせる。
「あっ、ごめんケビンおにいちゃん直ぐに起きるからメアリーお母さんには言わないで。
ってあれ、ここってどこ?確か俺は暗黒大陸にいて魔都総合武術大会に出て優勝して、魔王城での式典に招かれたんじゃ・・・」
“!?”
シルバリアンは驚愕する、これまで取り込んだ者の多くはそのまま眠りに就く様に自身と一体になっていた。そうして溶け合い、その技術の全てを受け継いできた。そうして積み上げられて来たものの全てが現在のシルバリアンを形作って来た。
その中で自我を取り戻し目覚めた者など一人としていなかったからである。
「おはようジミー状況は分かってないみたいだけど、ここが暗黒大陸で魔王城だってのは間違いないよ。
で、ジミーは今の今までその甲冑に意識を乗っ取られておりました。
駄目じゃん、油断し過ぎ。
でもそれを言ったら俺もなんだけどね、魅了耐性と精神耐性の腕輪を渡してあるから大丈夫とか思ってたんだけど、取り込むようにして憑りつかれちゃったらダンジョン産の魔道具でも対抗できないって言うね、こんなん分んないっての。
ダレリアン選手に寄生していた粘菌もそうだけど、暗黒大陸ってヤバ過ぎ。
想定の遥か上でございました。
でもまぁ全く効果が無かったって訳でもないみたいだね、こうして呼び掛ける事で主導権を取り戻す事が出来たんだし。メアリーお母さんが怖かったってだけなのかもしれないけど。
じゃあ続きと行こうか。現在ジミー君はシルバリアンと名乗って魔王様の配下として俺たちと対峙しています。相手をしてたのは俺だね。
でも暗黒大陸で修行をしていた話を太郎経由で聞いていた俺からするとなんか微妙?憑りつかれちゃってるから仕方がないと言いますか、操作してた甲冑がジミーの身体に慣れていないと言いますか。
さてジミー君、君はどうする?」
ナニカの問い掛けにスッと剣を構えるジミー。
「そんなことは決まっている。武勇者とは強き敵を求め暗黒大陸を彷徨う狂人。目の前に強者がいる、自身はその者と対峙している、それだけ分かれば十分。
武勇者ジミー、推して参る!!」
“シュタンッ、ガギンガギンガギンガギンガギンッ”
鋭い踏み込みからの連撃がナニカを襲う。
「火遁“火炎弾”」
“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドン”
魔法とは異なる法術による攻撃が、ナニカを焼き尽くす。
「“我が命ここにあり、我は我が肉体の主にして真理。今存在の全てを解放せん”<千剣乱舞“胡蝶の舞”>」
“シュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピ”
“キンキンキンキンキンキンキンキン”
「“我が心、ここにあらず。我が身体すでに無。故に空。
我は剣、我が目指す頂は理不尽の彼方”<龍王一閃“鬼切り”>」
“ズバシュ、バキャンッ”
舞い飛ぶ蝶の如き流麗な動き、己の全てを賭けた必殺の一振り。
ナニカはその悉くを防ぎ切る。
「ハハハハ、やっぱりケビンお兄ちゃんはケビンお兄ちゃんだよ、その理不尽っぷりは相変わらずだね。まったく嬉しくて仕方がないよ」(ニチャ~)
「待て待て待て待て、ジミー、ちょっと落ち着け。お前マジじゃんか、お兄ちゃんこんなナイフ一本なのよ、ジミーの動きさっきまでと全然違うから、魔力隠してるから読みにくい上に突然軌道が変わるから危ないったらありゃしないっての。お前暗黒大陸でどんだけ修羅場を潜り抜けて来たのよ、太郎の報告からじゃここまでのものだって思わなかったんですけど!?武術大会の時より殺気マシマシなんですけど!!」
「そりゃそうだよ、総合武術大会は技と技、力と力の比べ合いだよ?
殺し合いじゃないんだから殺気なんてぶつけないっての。
でも理不尽相手にそんな事言ってられないし?殺すくらいでようやく小指が掛かるくらい?滅ぼすつもりで対等?いや、それじゃ足りない、消滅させるくらいじゃないと。
本当に最高だよね、ケビンおにいちゃんって」(カハ~)
眼光が妖しく光り、口から何かが漏れるジミー。その背後にハッキリと見えるサムズアップする鬼神の姿。
「ジミー!!お前何かとんでもないものが憑いてるから、お祓いに行け、お祓いに!!」
“ズバンズバンズバンズバンズバンズバン”
「馬鹿野郎ーーーーー!!死ぬわボケー--!!」
“シュタンシュタンシュタンシュタンシュタンシュタン”
咄嗟の回避を行ったナニカは、手に持つナイフを収納の腕輪に仕舞い、紺色の棍棒を取り出し言葉を紡ぐ。
「我は<棒>にして<自然人>。
始まりがあれば終わりがある、ただあるがまま。
巡る、巡る、ただそのままに、移り行く季節の様に。
<円舞送還>」
それは誰しもの目を惹き付ける様な流麗の美。まるで時が止まったかのように全てのものがゆっくりと動く中、その者だけが優雅に美しく舞い踊る。
“スーーーーッ、ズドーーーーーーーン”
棍棒を振り抜いた姿勢で残身を取るナニカ。視線の先には吹き飛び仰向けの状態で身動き一つできないジミーの姿。
「どうだ、シルバリアン。これがお前が憑りついた男、ジミーの真の実力。本当勘弁して、本気で死ぬかと思ったから。
でも今の戦い、君が武具として、力ある甲冑として手を貸していたのなら、この場に転がっていたのは僕の方だったのかもしれないね。
それでどうする?このままジミーに憑りついて人生を支配するというのなら、僕はお兄ちゃんとして君を処分しないといけないんだけど。
自ら離れるというのなら、見逃してもいいかな?ここは暗黒大陸、君のような存在を必要とする者もいるだろうからね」
「・・・・・・」
棍棒を構え言葉を掛けるナニカ、シルバリアンはその問い掛けにしばし沈黙する。
“強き者よ、我は自らの本分を見失っていた、そう言う事か?”
「う~ん、どうだろう。普通リビングアーマーと呼ばれる魔物は甲冑だけで中身は空っぽだからね。
君の場合依り代となる人を取り込むことでより素早く滑らかな動きを実現していた事も事実、より強き者となろうとする魔物の本能としては決して間違いとは言えないかな?
ただ武具として生まれた以上、その身に望まれていた役割はおのずと決まって来る。
君は既に個としての存在、その在り様は君自身が決めるべき問題。僕の提案はあくまで提案、君が望むものがあるのならその道を模索するのもまた自由なんじゃないのかな?」
“・・・我はこの者の武具として共にありたいと思う。
この者の武にかける思い、頂に至らんとする在り様はとても心地よく胸躍るものがある。
都合のいいことを言っている事は分かっている。我の言葉は恩義ある主を裏切り、自分勝手に生きようというもの。
憑りつき意識を奪っていた者が何を言っているのかと言われればそれまでの事。許されないのであれば素直に身を引き、御方様の判断に身を任せようと思う”
ナニカはシルバリアンの言葉に小さく頷いてから口を開く。
「ジミー、そう言う事だけどどうする?この甲冑、お前と頂を目指したいんだってさ」
プルプルと震えながらゆっくり上げられる右腕、その拳は親指を立てジミーの意思を示す。
「ハイハイ、喋るのもきついのね。それじゃ頭の中で<ホーム:シルバリアン>って唱えてみ?」
“パ~~ッ”
ナニカの助言に従ったのか、ジミーの身体が光り出し、着込んでいた甲冑が手に持つ剣と共に姿を消す。ジミーは急ぎ収納の腕輪からハイポーションを取り出すと、ゴクゴクと飲み干すのだった。
「さてと。あとは君だけになっちゃったね、魔王アブソリュート。いや、その身に憑りつく御方様?」
「フッフッフッフッ、ハッハッハッハッ、世界の再誕を前に良き余興であったぞ?侵入者。
貴様らのその勝ち誇った顔が絶望に染まるところを見れるかと思うと、笑いが止まらんわ」
“グウォーーーーーーーー”
魔王アブソリュートを中心に吹き上がる闇属性魔力の柱、それは百年の時を掛けて作り上げられた闇属性魔力回収装置である魔王アブソリュートの真なる力、暗黒大陸の頂点にして絶対的恐怖の姿。
「あぁ、凄い凄い、それが君の自信の根源だったんだね。
白、ブー太郎、シルビアさん、イザベルさん、太郎。影空間の屋敷で待機していてくれる?ちょっとここから先はまずそうだからね。
ジミー、本当に強くなったね、お兄ちゃんは誇らしいよ。でもこの先はまだまだ早いかな?いつかジミーもこの場所に立つ事があるかもしれないけど、その時はお兄ちゃんの言葉を思い出してね」
「ケ・・・ビン・・お兄・・・ちゃん・・・・」
必死に顔を上げ、ケビンに声を掛けようとするジミー。ケビンはコートのフードを取り顔を見せると、優しい笑みをジミーに向ける。
「ブー太郎、ジミーの事を頼む」
“ズオッ”
ケビンの足下から影が伸びる。それはまるで生き物のようにジミーたちを包み込むと、全てを飲み込み消し去ってしまう。
「憂いは取り除かれた」
ケビンは収納の腕輪からとある品を取り出す。それは漆黒の仮面、ケビンはその仮面を顔に装着すると、再びフードを被る。
“ドウンッ”
立ち昇る闇属性魔力の柱、それは目の前の魔王を凌駕し、誰が絶対者であるのかを分からせるほどのもの。
“君は間違いを犯した。世界を敵に回す、この世を滅ぼす、そんな事はどうでもいい。
君の間違いは僕の弟ジミーを巻き込んでしまった事。
巡り会わせと言われれば仕方のない事なのかもしれないけど、だったらこの結末も仕方のない事だよね。
君の野望もここまでかな?”
漆黒の闇から魂に響く声音。顕現した闇の化身の手が、いま魔王アブソリュートに迫ろうとしているのであった。
本日一話目です。