転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第514話 終末の始まりを告げる者 (6)

崩壊した魔王城謁見の間、対峙するかのように立ち昇る二柱の闇属性魔力。玉座から立ち上がり見下ろすように視線を向ける魔王アブソリュート、その先には蠢く闇の塊を纏う漆黒のナニカ。

その魔力はまるで質量を持ったかのように実体として存在し、周囲を侵食する。

 

「クックックックッ、アッハッハッハッ。これは何という僥倖(ぎょうこう)、まさかこれほどの素体が自ら我が前にやって来ようとは。

この“魔王アブソリュート”はそれなりの逸材ではあった。魔王の種を植え付けて百年、時を掛け育て上げた魔王の種は大きく枝葉を伸ばし、我が依り代としてふさわしい大樹へと成長した。

こ奴もまさか自身の力が我が依り代として育てあげられる為に我より与えられたものとは思ってもみなかったであろうがな?」

 

魔王アブソリュートは口元を大きく歪ませ、愉快そうに声をあげる。

 

“君は一体何を言っているんだい?この僕を前にして少々混乱しちゃったのかな?

だったら少し悪い事をしちゃったかもね、僕もまさか本気の姿を見せる事になるとは思っていなかったからさ。

でもそれは君が悪いんだよ?大事な弟にあんな悪戯を仕掛けるんだもん”

 

その声は心に直接響く声音(こわね)、高位存在と呼ばれるものたちが使うコミュニケーション手段。

 

「ほう、念話とは、益々以って素晴らしい。まさに我が依り代としてふさわしいではないか。この様な出会いがあるというのならこの百年は無駄ではなかったというもの」

“ズオンッ”

 

空間が(きし)む、強大な力を持つ者の顕現に世界が悲鳴を上げる。

その者はいずこから現れたのか、魔王アブソリュートという存在が稚児に感じられる程の隔絶した存在。

 

“ブワサッ”

広げられた大きな翼、それは漆黒に染まった力の象徴。美しくも鋭い眼差しは、獰猛な猛禽類のように目の前のナニカを見据える。

 

“まさか、そんな馬鹿な。なぜこんな場所にこのような存在が・・・”

ナニカから洩れる動揺したかのような呟き。

 

「ククククッ、アッハッハッハッ、この御方こそ我らが付き従いし絶対者様。貴様らはいつから我らが魔王アブソリュートなどという紛い物に付き従うと思っていたのだ?

この世の全ては御方様のもの、我が宿願、エイジアン大陸の人類滅亡は御方様の望まれる確定的な未来。

貴様がいくら地上の者として隔絶した力を持っていたとしても、御方様の前では塵に等しいのだ!!」

 

終焉魔法の術式崩壊による大爆発に巻き込まれ、バラバラに吹き飛ばされたまま床に散乱していた魔将ドルイドの頭骸骨が高らかに笑う。それはまるで盤上に大逆転の手札を出したプレーヤーの様に。

 

“地上の者、大地を這う下賤なる者。褒めてやろう、貴様は我が満足しうる資質を示してみせた。

その力、我が素体とするに相応しいもの。特別に我の一部となる事を許そう、我に選ばれた事を光栄に思うがいい”

 

“な、この僕が、そんな!?何でこんな所に堕天使が・・・”

ナニカの闇が、より強大で濃厚な闇の魔力に飲み込まれる。それは存在の違い、地上人と天上人との覆す事の出来ぬ絶対的な壁。

 

“ズワァーーーーーー”

“クソッ、クッ、ウワーーーーーー”

広がる闇、魔王城謁見の間は絶対者の強大で濃厚な魔力に支配される。それはまるで新たなる命が生まれる前の母体の様に、自らに相応しい姿に変わろうとする繭の様に。

 

「クックックックッ、アッハッハッハッ、素晴らしい、素晴らしいぞ。

全身に行き渡る力、これまでの素体など比較にならぬ快適さ、まるで自身の存在が何倍にも増幅された様な、それでいて淀みなく制御されている様な。

この様な体験は初めてだ、この様な力、天界でもどれ程の者が持ち得ようか。これは、これではまるで・・・」

 

闇が収束する、そこには新たな身体を得てその力の素晴らしさに酔いしれる絶対者。強大な闇の力を持った絶対者の顕現、それは世界の終わりの始まりを決定付けるものであった。

 

「あぁ、うん、気に入ってくれたんなら良かったよ。それじゃ不要になった“魔王アブソリュート”はこっちで回収させてもらうね」

 

ズブズブと沈む様にその場から消える魔王アブソリュート。

気の抜けた様な場にそぐわぬ声が、歓喜に震える絶対者に向け掛けられる。

 

「な、貴様は。なぜ貴様がそこにいる!?貴様は我が一部として我に飲み込まれたのではなかったのか!?」

そこにいた者は先程取り込んだはずの素体。予期せぬ事態の発生に、絶対者の発する驚愕の声が謁見の間に響き渡る。

 

「ハハハ、びっくりした?びっくりするよね?

それじゃ答え合わせの前に用事を一つ。<友達生成>」

“ブワ~~~~~~~~~~~~~~~~~”

 

それは閃光、絶対者の身体から発せられた世界を染め上げる光の洪水。

その光の暴力は謁見の間のみならず魔都上空を埋め尽くし、宙を舞うレイスやリッチがその波の中に溶けていくかのように、悲鳴を上げながら消失して行く。

 

どれくらいの時が過ぎたのか、嵐のような発光は次第に小さくなり、謁見の間に静寂が戻る。

 

「トライデント、でいいのかな?」

ナニカが小さく問い掛ける。

 

「はい、マスター。複合生活支援機構トライデント、高魔力伝達素体との完全同調を確認。神力循環器と魔力結晶回路の融合により新たに神力結晶の生成に成功、それにより魔力アストラル体の完全掌握に成功いたしました」

その場に佇む執事服姿の男性は、自身の状態を報告するや慇懃に礼をする。

 

「そう、それじゃ取り込んだ堕天使はトライデントの制御下に置かれているって事でいいのかな?」

「はい。分かり易く言えば私の身体の一部となっているといったところでしょうか。データにある生活支援機構N401、生体ユニット名残月の中に内包される“放浪の聖女”に近しい状態であるかと。

堕天使の場合は魔力アストラル体をそのまま取り込んだ形ではありますが」

 

トライデントの話に暫し考えを巡らせたナニカは、ジッとトライデントを見詰め言葉を向ける。

 

「この事態は想定していたものの中でも最悪の部類のものだ。

魔王アブソリュートの誕生については天界の者の関与があったことは明らか、その事は本部長様の調査により既に判明している。

だがそこに堕天使まで関与しているとは予測出来なかった。

トライデントを使い堕天使の封印を行う事は全くの思い付きであり、成功するかどうかは完全な賭けであった。目的は時間稼ぎと他の者を依り代に出来なくする事であったからな。

現在の状況は最善であるともいえる。

 

トライデント、お前にはいくつかの選択肢がある。このまま堕天使を封印し続ける道、堕天使の一部として機能する道、そしてそれ以外の道。

前者の二つを選んだ場合、その扱いは天界の本部長様にお任せする事になる。堕天使は地上世界における脅威以外の何ものでもない、天上界には自我を持ったまま堕天した者たちの生活する部署というものが存在していると聞いている、トライデントはそこで生活する事となるだろう。

そしてそれ以外の道は・・・」

 

ナニカはそこまで語り終えると言葉を詰まらせる。それは提案するのも馬鹿馬鹿しいほどの限りなく不可能な道であり、いくつもの奇跡が積み重なってはじめて見る事の出来る僅かな希望。

 

「マスター、よろしいでしょうか」

トライデントは取り込んだ堕天使が齎した冷たくも美しい面立ちを向け、口を開く。

 

「生活支援機構として生み出された私の存在意義は、マスターとなる者の生活全般を支え仕えること。

しかし私たちは設計者の意図とは関係なく、その汎用性から兵器として精霊砲の制御装置に組み込まれていました。

マスターはそんな私たちに人に仕える機会を与えて下さった。

世界樹の枝と言う最高の魔力伝達素材で身体を作り、神力循環器と魔力結晶回路という組み合わせにより複合生活支援機構トライデントとして生み出して下さった。

動きのつたない私を根気よく指導し、学習させて下さったのもマスターだった。生涯お傍でお仕えしたい、それは私トライデントの明確な使命として記憶回路に刻まれた。

 

この身に堕天使を封じた事に対し思う事はありません。マスターがそれを必要と判断したのなら、マスターのお役に立てたのならそれに勝る喜びはありませんから。

ただ、願わくばこのままマスターのお傍で仕えたい、その可能性がゼロではないのならその方法を試して欲しい。

その結果この身が尽きようともそれは本望、私は最後まで前を向けていた、そういう事なのでしょうから」

 

トライデントの決意、それは仕える者としての矜持を示す事。

 

“フゥ~~”

ナニカが大きく息を漏らす、身を鎮め、心を落ち着けて言葉を発する。

 

「わかった。正直この先何が起こるのかは俺でも予測が出来ない。

別れは言わない、また会おう、トライデント。

堕天使を出してくれ」

「畏まりましたマスター。戦闘支援に移行します」

 

“ブォッ”

漆黒の炎がトライデントの身体を包み込む。

“バサッ”

広げられた二枚の翼、禍々しい黒き炎が消えた時、そこにはこの世の全てに破壊と混沌を齎す堕ちし者が姿を現す。

 

「貴様、我に一体何をした。我が身体はどうなってしまったというのだ」

鋭い眼光を向け詰問する堕天使。

 

「やぁ、さっき振りだね。その様子じゃすっかり身体は馴染んだようだね。

どうだい?他人の身体を操るのではなく自身の身体を取り戻した感想は。

依り代は所詮依り代、仮初の肉体じゃ感じる事の出来なかった充足感があるとは思わないかい?」

 

堕天使はナニカの言葉に自身の手を見詰める。それは遥かな昔に失ってしまった自身の肉体、天上世界にあった頃の古い記憶。

 

「これは完全に僕の想像、妄想と言ってもいい程の憶測。

君は遥かな昔、この暗黒大陸と呼ばれる地に多くの国が栄えていた時代にこの地を担当していた天使だったんじゃないかな?

女神様は世界を創造し、大地を造り、生き物を育まれた。多くの生き物が栄える世界、だがそこに突如魔力が噴出した。おそらくだけど魔力は世界創造にも関わった力が形を変えたもの、魔力は創られた世界の形を変え、魔物蔓延る現在の世界となった。

 

生き物たちは魔力に適応進化し生き残りを図った。結果生まれたのが魔物であり魔獣。そんな環境にあって、人はその身に魔力を宿し様々な形に変わって行った。

それがエルフであり鬼人族であり、龍人族であり獣人族であり普人族であった。

普人族ってのは恐らくもとの人類に一番近しい、変化の度合いが乏しい者たちの総称なんだろうね。でもそんな彼らも確り変化はしている、その証拠に普人族も大なり小なり魔力を取り込み己が力として利用しているからね。

 

でも魔物たちに比べれば種族として遥かに弱い。

この世界の発展を望む女神様としてはそれを看過する事は出来ない、そうして生まれたのがスキルというシステム。要は魔力制御術式って事なんだけどね。

地上人たちはよく神聖魔法は素晴らしく人の身では再現できないなんて言ってるけど、それは大きな思い違いだと思うよ?

自分達が何気に使っているスキル、それこそ鑑定スキルや収納スキルなんて、どうやったら再現出来るのか全く分からないもの。そんなの神聖魔法以外の何ものでもないよね?」

 

ナニカの言葉、それはこの世の真実の一端。正確ではないにしても地上の者が知っていようもない内容の話。

 

「ちょっと話が逸れたね。つまり地上人たちは常に女神様に見守られ文明を発展させて来たって話だね。そしてその裏では君たち天使が手を貸して来た。

環境を整え人々が生きやすい状況を作る、これって物凄く大変な事だからね。人々を見守り、人々を愛し、女神様の御意思の(もと)地上人たちを導いてきた天使たち。

でも人類は馬鹿だからね~、そんな女神様や天使たちの思いなんかこれっぽっちも分かっちゃいない。自らの欲望のまま全てを破壊する。

人に寄り添い愛したからこそ、激しい絶望と苦悩の果てに堕天する天使たち。

それはとても大変な事、自我を保ち堕天を果たす者はごくわずか、そのほとんどは堕天の過程で命を落とすか魔物に身をやつすか。

君は恐らく後者、力ある魔物となった者なんだろうね。

 

本来であれば人に仇なす存在として討伐されるところだった、だがそんな君を利用しようとした者がいた。

天上人は地上人を導く高貴なる者であり、地上人は天上人を、我らを敬うべきであると考える者たち。天上界において貴族風を吹かせていた上級天使と呼ばれる者とその子弟たち。

彼らはこう考えた、地上人には試練が必要だと。真に女神を敬い、天使を敬う敬虔なる者だけが生き残るべきであると。

粛清が必要である、淘汰が必要である、この世界は生まれ変わらなければならないと。

 

そしてその駒として選ばれたのが君であり魔王アブソリュート。システム魔王の存在はこれまでも多くの問題を引き起こして来たからね~。

ゴブリンエンペラーの侵攻、イビルトレントの大厄災。“喰らいし者”、巨大化したスライムによって滅ぼされた国ってのもあったよね。

でもこれって見方を変えれば人類粛正に有効な兵器でもあるんだよね。

そして君は人類に絶望した堕天使、利害の一致って奴だね。

ただでさえ強力な魔王に堕天使が入り込む、どれ程の被害が出たのか、人類の八割が滅んだとしても何ら不思議じゃなかったかもね。ただそこまで行く前に天界からの横槍が入っただろうけど。

“地上の事象は基本不干渉”を基本方針とする天界も人類に滅んで欲しい訳じゃないからね。

人類の発展は女神様の御意思、この点は変わらない、けど介入が行われるまでに結構な時間は掛かったと思うよ?当然の様に上級天使たちの妨害があるだろうからね」

 

ナニカはそう言うと“どう、合ってる?”とばかりに首を傾げ、おどけてみせるのであった。




本日二話目です。
いってらっしゃい
by@aozora
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