転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第518話 剣客のお兄ちゃん、後処理に奔走する

いや~、参った参った。

ホーンラビット伯爵閣下、愚痴る愚痴る。

どうも、辺境の剣客のお兄ちゃん、ケビン・ワイルドウッドです。

 

暗黒大陸を支配する大陸国家魔国で行われた魔都総合武術大会、凄かったですね~。マルセル村に“剣鬼を出せ~、この俺様がぶっ飛ばしてやる!!”とか言ってやって来る自称最強冒険者たちとはモノが違いました。

全てが高レベル、一緒に見に行った白も賢者師弟もブー太郎も大満足。武人同士の戦いとはこうでないといけませんよね。

まぁ中には粘菌生物みたいなイレギュラーもいましたけど、概ね満足の行く大会となりました。

決勝戦を見れなかった事が心残りでなりませんが!!カビ野郎、二度と復活してくるな、とっとと来世に行きやがれ!!

 

ただ問題がね~、なんか魔王様が暴走しちゃいまして。魔都の人々を生贄に自身を大幅強化するって、意味が分かんない。国のトップとしてあり得ない程の暴挙と思いきや、魔王様、堕天使に憑り付かれて意識を乗っ取られてるんだもん。

その辺の対処がまぁ大変でしたよ、本当に。

 

魔王軍の大侵攻なんて世界的な大事件ですからね、報告されたホーンラビット伯爵閣下としたら堪ったもんじゃなかったでしょうけど、ジミーが帰って来ている事や今後の事を考えると全く報告しない訳にも行かないかなと。堕天使の事や白やブー太郎たちが四天王を倒しちゃったなんて言う詳しい内容はぼかしつつ、「騒ぎは起きたけど今は危険度が下がってるので当面は大丈夫ですよ」とお話ししたんですけどね。

 

「・・・ケビン君。瀕死のゼノビアさんを助けたんだよね」

「そうですね、残月の話では相当に危険な状態だったみたいです。何とかなってよかったです」

 

「ケビン君、魔王城に行ったんだよね」

「はい。ジミーが心配でしたから。ダンジョン産の精神耐性と魅了耐性の付いた腕輪を渡してあったんですけど、甲冑に取り込まれて支配されちゃうとは思いませんでした。

想像の斜め上、粘菌生物と言い呪いの甲冑と言い、暗黒大陸ってとんでもないと思いましたよ」

 

「ケビン君が魔王様に憑りついた何かを祓って、正気を取り戻したって事なのかな?」

「正確には憑りついた何かにとってより美味しそうに見える餌を用意したって事ですかね。

霊木を使って造り上げた魔導人形トライデント、その何かにとっては相当に魅力的に映っていたと思いますよ?

要は人型をした魔法の杖みたいなものですから。魔力増幅効果が半端ないですから。魔王様から離れて魔導人形に憑りついたところで封印、何とか処分する事が出来ました。

草原の化け物や顔無しの時もそうですけど、本当に運が良かったとしか言えませんからね、二度とこういう事に巻き込まれたくないですよ」

 

「それで魔王軍の侵攻はなくなったと見ていいってのは・・・」

「首都である魔都が大混乱状態ですから。正気を取り戻した魔王様は当面そちらの対処に当たらないといけませんし、何かに与していた派閥の処理といった問題もありますし。魔国の方針転換やら魔王軍の再編やらで侵攻どころじゃないと思いますよ?

それにこの件で魔王軍は大幅に力を落とすはずですから、国内の反魔王勢力が鎌首をもたげるはずです。魔国は力こそ正義といった風潮がありますからね」

 

ちゃんと安心できるようにお話ししたはずなのになぜかジト目を向けられる俺氏、とっても理不尽。

ホーンラビット伯爵閣下と執事長ザルバさん、二人そろって大きなため息って失礼じゃね?

この話が他所にバレたらって当然他所には話しませんよ?ホーンラビット伯爵閣下にお話ししたのだって、今後魔国から何らかの接触があった場合の保険ですし。

「ケビン君は勇者様なのかな?」ってそんな訳ないじゃないですか、勇者様はジェイク君ですっての。俺はただの雇われ男爵です。

 

その後もやれパトリシアお嬢様が妙に浮かれてしょうがないだの、ケイトの態度が俺とザルバさんだとあからさまに違うだとかですね。

えっと、俺は魔国の情勢について報告しに来たのになんで父親の愚痴まで聞かないといけないのでしょう。

話の内容が内容だっただけに、日常の愚痴でも話さないと精神的に持たない?そうですか、分かりました。

そんな感じで時折「ウガ~、この理不尽が~!!」と叫び出す両者を(なだ)めながら、お話を聞き続ける事になったのでした。

でもこれって娘の結婚相手に聞かせる内容じゃないと思うのは俺だけじゃないと思うんだけど、まぁマルセル村だから仕方がないのかな?

 

そんなこんなでご領主様に対する報告を終えた俺は遅くなりつつも家に帰ったんですけどね。

 

「ケビン、ごめんなさい。“角無しホーンラビットの香草焼き”はミッシェルがみんな食べちゃったの。いまビッグワームの夏野菜スープを作ってるからちょっと待っててね」

待っていたのは非情な現実。ウガ~、俺の香草焼きが~!!

 

「ケビ、ごめんちゃい」

グッ、しゅんとした顔で俯くミッシェルちゃん相手に怒る訳にも行かない。その本心が“ケビン、あの香草焼きは最高であったぞ。鼻孔を刺激する豊かな風味、口いっぱいに広がるホーンラビット肉の肉汁。

ジミーお兄ちゃんの帰村と言う事で出された特別な料理と聞く、本当に素晴らしい一品であった”であったとしても。

 

「ごめん、ケビンお兄ちゃん。俺がちゃんと見ていればよかったんだけど、久々の家族との食事に俺も嬉しくなっちゃってつい。ちょっと会わないうちにミッシェルちゃんがこんなに可愛らしく成長してたものだからさ」

そう言い申し訳なさそうに頭を下げるジミー。まぁジミーからしたら久々の家族の団らん、大好きな妹の可愛らしい姿を見たらテンション爆上がりでしょうよ。

母メアリーはそんなジミーの姿にご満悦、父ヘンリーは元々ミッシェルちゃん第一主義だから言うまでもないし、この結果は当然って事ですね。

 

「いいよいいよ、気にしなくて。それよりもジミーにちょっと話があったんだわ、悪いんだけど少し付き合ってくれる?」

俺は母メアリーに断りを入れると、ジミーと一緒に夜の草原までお散歩としゃれこむのでした。

 

—――――――――――

 

「どうしたのケビンお兄ちゃん、こんな時刻に草原に行くだなんて」

足下を照らす魔道ランプの明かり、すっかり暗くなった草原には人の気配どころか魔物の気配もありません。

 

「まぁ別に俺は暗くてもいいんだけど、野営中に魔獣に襲われる事なんかしょっちゅうだったし」

そう言いながら収納の腕輪から木刀を取り出すジミー。

 

「って何を取り出してるんだお前は。違うからな、別に手合わせをしたくて呼び出したわけじゃないからな?

って言うかちょっと前にやり合ったばかりだろうが、あの時は本気で死ぬかと思ったぞ。少しは自重しろ、自重!!」

 

ジミーが「え~、ケビンお兄ちゃんに自重とか言われても」などと失礼な事を言っていますが、お兄ちゃんは本気です。マジで勘弁してください。

 

「太郎の<業務連絡>で聞いたんだが、鬼人族の集落で大きな亀の魔物をテイムしたんだって?ちょっとその確認をな。

俺が言うのもなんだけど、あまり大きな魔物を持ち込むとホーンラビット伯爵閣下に怒られるからな?

それとシルバリアンの事なんだが、ジミーは従魔契約を結んでないだろう?これはエミリーちゃんに聞いたんだけど、テイムスキルがなくとも従魔契約を結ぶと従魔の考えていることが何となく分かるというか、意思の疎通がし易くなるらしい。

シルバリアンは普通に話が出来るから必要ないと言えばそうなんだが、剣技を身に付ける場合感覚的なものを意思として感じ取れる事は相当に有効な手段だと思ってな」

 

俺の言葉に「あぁ、それで夜の草原に。了解だよケビンお兄ちゃん」と応えるジミー。

 

「<オープン:シルバリアン>」

ジミーの呼び掛けに左手に嵌めた指輪が光る。夜の草原に指輪から伸びた光は一カ所で収束し、一つの存在を形作る。

 

「シルバリアン、呼び出してすまない。少し用があってってシルバリアン!?お前どうしたんだその格好は」

俺の驚きの声が暗闇の草原に響く。魔道ランプに照らされた先には何故かボロボロになったシルバリアンの姿が・・・。

 

“グッ、これはケビン殿。再びこうしてお会いしたという事は、御方様は負けたという事ですか。

御方様の下を離れた私が言うのもなんですが、あの御方様に勝利する人物が現れるとは。ケビン殿はとんでもない御方ですな”

シルバリアンはそう言い大きくへこんだ鎧を押さえながら立ち上がろうとする。

 

「あぁ、無理しなくていいから。って言うか俺とやり合った時よりも重症ってどうしたのさ、いくらなんでもそんな状態じゃなかったよね?」

 

俺の困惑をよそに、シルバリアンは何という事もない様に言葉を返す。

 

“これは霊亀殿との模擬戦での負傷ですね。ジミー殿に従魔の指輪に招待していただいたのですが、既に中に入られていた御方がおられまして。

お話をしたところ霊亀殿は呪いにより自我を失っていたところをジミー殿に助けられたとか。

霊薬により身体の傷は癒えたものの全盛時の状態を取り戻すのに訓練が必要との事でした。

そこで私がお相手を申し出たのですが、霊亀殿が御強くてですね、中身のない私では太刀打ちできずこのような姿に。

幸い指輪の中の空間は自動的に傷が癒える様ですので回復し次第手合わせを願っていたという次第です”

 

・・・シルバリアン、めっちゃ武人でした。って言うか亀さんそんなに強いの?ジミーってばよく勝てたな。

 

「ケビンお兄ちゃん、それじゃ霊亀を呼び出すね。<オープン:霊亀>」

ジミーの指輪から伸びる光が夜の草原に伸びる。伸びるって大きくない?えっと、魔境の亀さんでもここまで大きくないんですけど?ロックタートルとかそう言った部類じゃなかったのかな?

 

“ジミー殿、久しいな。すまぬが未だ全盛時の力は取り戻せてはいない、ジミー殿との再戦は今暫く待っていて欲しい”

 

見上げる巨体、ゴツゴツとした体表、頑丈そうな甲羅、大地を踏みしめる巨大な四肢。竜の如き頭部を伸ばし、凶悪な尻尾が大気を切り裂く。

 

「待て待て待て待て、ジミー、お前なんて物を拾って来ちゃったの!!

これマジで駄目な奴だから、一国の軍隊が総力戦を仕掛ける対象だから!!」

思わず頭を抱える俺氏、こんなのガーディンさんと変わらんやん、マルセル村に置いておける対象じゃないじゃん!!

 

“ん?ジミー殿、そこの者は?”

「あぁ、こっちは俺のお兄ちゃんでケビン。俺が目標とする絶対的な壁と言うか理不尽?未だに勝てる気がしない相手かな」

 

“ふむ、それにしては醸し出す雰囲気が。これはジミー殿の様に己を隠していると言った事か。

人族でもそうした事を行う者はあまり見たことがない、本当にジミー殿の周りは油断ならない者ばかりなのだな”

 

そう言い何か頷いている霊亀さん。あの、俺なんか辺境の田舎男爵ですんで、ジミーたち修羅のお仲間に入れないでいただけると助かります。

 

「それは置いておくとして、霊亀さん、ちょっとその大きさはマルセル村だと困っちゃうんですよね。霊亀さんは縮小の魔法とか使えたりしますか?」

“いや、そう言った魔法は初めて聞く。これまでの生活で己を小さくするといった発想を持った事はないので、どうやればいいのか見当もつかないが”

 

野生の魔物は力こそ全て、大きい事は力に繋がる。ゴミ屋敷のドラゴンが縮小化の魔法を編み出した時周りの仲間に馬鹿にされたって言ってたもんな~、知らなくて当然ですね。

 

「それじゃ申し訳ないんですけど憶えて貰っていいですかね?今の巨体だと何かと不自由ですので」

“ふむ、必要と言うのなら覚えるしかあるまい。我は敗者であるからな、勝者の都合には極力合わせよう”

 

霊亀さんは話の分かる御仁の様です、素直に言う事を聞いてくれるようでとても助かります。

 

「それじゃちょっと指導してくれる御方の下に送りますんで、俺の影空間の中でお待ちください」

俺はそう言うと影を伸ばし霊亀さんを影空間へと送るのでした。途中霊亀さんが“これは!?グッ、身動きが出来ん!!”と焦り声を上げていましたが、中は暗いだけで比較的過ごしやすいですからご安心ください。

 

「それじゃシルバリアンとジミーの従魔契約をって二人ともどうしたの?」

こちらにジト目を向けるジミーと何か言いたげなシルバリアン。

 

「“やっぱりケビン殿(ケビンお兄ちゃん)が一番理不尽だと思う」”

何故か二人から理不尽認定される俺氏、納得できないんですけど!?

 

その後無事ジミーはシルバリアンと従魔契約を結び、細かい剣技の感覚を教わることが出来る様になりました。何と言ってもシルバリアンは技のデパートですからね、ジミーにとってこれほど頼もしい相棒はいないでしょう。

霊亀さんは食事の後最強生物の下に送り届け縮小魔法の伝授を依頼。

霊亀さん、最強生物に目茶苦茶ビビっておられました。

それと最強生物曰く、霊亀さんは知り合いの眷属らしいです。何でも昔暗黒大陸に住んでいたお仲間で、眷属を作る応用で龍人族を作り出した御仁なんだとか。このところ連絡を取ってないからどうしているのかは分からないとの話でした。

最強生物の知り合いの眷属をジミーが連れ帰って来る、本当に世間って狭いですね。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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